寝ても覚めても頭の上でギラギラと
あの世界の空は異常だった
幼い頃、キルトシーツの中の闇にすらビビっていた俺だが
ありゃ無えな、と笑った事だろう
たまには夜も必要さ
そう、たまには



Black Night





「今日という今日こそは、文句云ってやるんだから!」
「パティ、ちゃんと飲みこんでから喋るのよ」
「んん、んぐ」
まだ冷めきってないチキンソテーを飲みこんで、ちょっと喉が焼けた。
ビリビリする口内を冷やす様に、ザワークラウトにフォークを伸ばす。
「そもそも、文句も何も無いでしょうパティ。きっとお仕事が忙しいのよ、それに遅くにお邪魔したら悪いわ」
「数日空けてるなら尚更よお母さん、私が数日行かなかっただけでどーなっちゃうか、見た事無いでしょ!?」
「そりゃあ…無いわよ」
可笑しそうに笑うお母さんに、私は必死でアピールする。
何の為のアピールなのか、だんだんよく分からなくなってきたけど。
「んも本当に凄いんだから!デスクの上はピザの空き箱だらけ!読み散らかした雑誌が床に数冊落ちてたり…酷い時なんて電話の受話器が外れて、ぶらんぶらんしてるのよ!」
「ダンテさんもたまには休みたいのよ」
「たまじゃないってば!週休六日とかザラなんだから!」
急いでかき込んで、流しに食器を運んでから外出の支度をする。
マドラスチェックのマフラー、もう必要無いからって返品されちゃった。
私だって、気に入ってたからこうして使えるのは嬉しいけど…なんか残念。
「似合ってたのに」って云っても、ヤシロは首を傾げてそれっきり。きっと、私が何云ってるのか解かってないのね。
隣に居たダンテも、ヘラヘラしてるだけで肝心なトコは通訳してくれないし。
こうして鏡の前でマフラーを巻いてると、思い出しちゃって更に沸々してきちゃう。
「行ってきまーす」
「本当に真っ暗になる前には帰るのよ」
「分かってるって」
晩御飯の後の外出を、お母さんは心配していた。でも今の私を止める事は無理よ。
学校行って、クラブ活動して、帰宅して晩御飯で。だから遅くなっちゃったのは仕方が無い。
一昨日、昨日と出向いてやったのに、施錠すらしてない事務所はがらんどうとしてて。
(最近、私が遊びに行ってもちっとも相手してくれないんだから)
デビルメイクライの環境維持は私がしてたから、これまではそれなりに歓迎してくれたんだけど。
実は最近、数日空けてから行っても綺麗だ。
そう、多分ヤシロだ。居候させてる弱みにつけこまれて、掃除させられてるんだ。
ううん、違う。せざるを得ない状況なんだわきっと。
いくら住まわせて貰ってるからって、ピザ箱に埋もれたくは無いもんね。
「かーわいそっ」
思わず呟いて、くくくと肩が揺れちゃった。
そんな可哀想な居候君の愚痴でも聴いてあげて、ついでのついでにダンテの色んな事訊いちゃおう。
なんて考えながら、四つ目の角を曲がる。
本当は曲がらず、そのまま真っ直ぐ進んで更に大きな通りに出てから方向転換するのだけど。
(だって、こっちの方が早いんだもん)
細い裏路地は、開店準備中のパブの気配だけで。厨房窓からの光が、木漏れ日みたいに石畳を照らしてる。
酒瓶のコンテナを倒さない様に、狭い通路を掻い潜り……もう少し歩いて行くと、景観が開けた。
それでもさっきの通りよりは窮屈で、薄暗い。
大通りに比べると、この通りは数時間先を進んでいるみたいな感覚に陥る。
でもそれは暮れ時だけ。早朝は多分逆で、太陽を感じるのが遅れるのだ。
「ミャウ」
「あっ」
目の前を横切る黒猫に、気を取られる。
そうそう、人間よりも野良猫の方が多い通りかもしれない。
本当はお母さんには、明るい通りを使いなさいと云われている。
でも、このショートカットを使えば何と十分以上も短縮出来るのだから、使わない手は無い。
「ふふ〜」
野良猫相手にはしゃぐガキんちょな姿を見られまいと、普段は一瞥くれるだけの私だけど。
人が少ないのが都合良くて、思わずその影を追う。
だって、ちょっぴり珍しい。セルリアンブルーの瞳をした仔はよく見るけど、今の仔はエメラルドの色をしていた。
周囲の空気も薄暗いから、ぼうっと光っていて。気付くと、足がその光を追っていた。
「待って、もうちょっと顔見せてってばあ」
小さな影を追って、ショウウインドウも無い建物の間を駆けた。
歩道の切れ目、曲がり角。黒猫はカクンと鋭角にターンしたけど、私は勢い余って立ち止まるしか出来なくて。
しかも路面に出た瞬間、視界が突然真っ白になった。
「きゃっ!?」
光だ。こんなにも近いのに熱を感じないから、ピンと来なかったけど。
「な、なになに?」
照らしてくるそれは、黒猫の曲がった方からのもの。
煌々と光る二つ眼が、私の全身を浮かび上がらせている。猫の眼にしては大き過ぎるから、立ち竦むまま確認した。
指の隙間からもっとよく見る……眩し過ぎて最初は判らなかったけど、どうやらそれは車のライト。
見ている間にするすると、私の足下に光のビームが落されて。ようやく辺りが薄暗さを取り戻す。
改めて車を見れば、車体のカラーも真っ黒だ。その真っ黒のシルエットが開いて、中から人影が降りてきた。
「怪我はないかな」
男の人だ、とりあえず声で判断。だってこの人、帽子から靴まで同じく真っ黒で。
「う、うん」
「一応路面を走っていたつもりだがね」
「…ごめんなさい、私夢中になってて」
責めてる口調じゃないのが救いだ。だって今のは私の飛び出しで、万が一轢かれていても悪いのは私だし。
でも、違和感を感じる。直前まで光も感じなかったし、エンジン音だって…
「すまなかったね」
「ううん、こっちが悪いわ」
「残念ながら、黒猫はもう見えないよ」
それを聞いて、ほんのり頬が熱くなった。何よ、バレてたんじゃない。
理由を隠すのが馬鹿らしくなって、ガッカリしながら笑っちゃった。
「そっちの謝罪?可笑しいの!」
「ああいうのは袋小路に追い込まないと駄目さ」
「お兄さんもよくやるの?」
「まあね、猫相手では無いけれど」
チラリと覗く髪も、見下ろしてくる眼も、やっぱり黒。
この薄暗い通りじゃ、この人の事も避けられないかもしれない。
ぶつかって初めて気付くんじゃないか、というくらいに空気に融け込んでる。
「でもお兄さん、こんな狭いのによく車で通る気になるね」
「腕には自信が有るからね、君が飛び出しても止まれたろう?」
「う……まあ、そうね」
黒塗りのそれは、最近流行りのスポーツカーとは逆のレトロな風貌。
軽くフロントガラスを覗き込んで、やっぱり違和感。
ガラスに映り込む私が首を捻ると、その背後を黒い影が覆う。
「ハンドルかい」
「あっ!そうだそれで…」
ヒントを貰ってようやく気付いた、この車は右ハンドル。
珍しい、というか初めて見たかも。
黒猫から海外規格の車に興味が傾いて、思わず今度はサイドから観察する。
「古っぽいのに、エンジン煩くないのね」
「静か過ぎるのも危険と解かったので、次からはもう少しだけ音を出させようかな」
「……どーいう事?」
振り返っても、お兄さんは笑ってるだけで説明してくれない。
じっとその顔を見る……何だか、その笑いもニコニコとかガハハって感じじゃなくて。
煩くない、この車みたいな。
「小さな御嬢さんはそろそろ家に帰った方が良いのでは?特にこの界隈は暗いだろう」
「私、行く所があって」
「もう到着するのかい」
「ううん、もうちょっと歩く。でも、これでも結構なショートカットよ」
「だからこの路を通った?」
指摘されて、またヘコみそうよ。
「…まあ、そういうコト。お母さんには内緒だけど」
「いけないね、親の居るうちはある程度従っておくべきさ」
「ある程度なら、このくらい許されるよね?」
「自己責任さ。何かが起こった際、それを親の所為には出来ないねえ」
「大丈夫、都合悪い時は全部アッチの所為にしてるから」
「先方?この後向かう先かい」
「そ、私デビルメイクライに行くの」
ちゃんと眼を見て云ったけど、お兄さんの表情は名称に反応してない。
やっぱり知らないのかな、海外から来たばかりとか?
…ううん、あの店の知名度なんて知れてるって事か。
「デビルメイクライ…」
「そ!知ってる?下品なピンクネオンが看板の何でも屋」
「奇遇だね、僕も其処に用事が有るから」
「ホント!?お、お客さんだったのね」
まさかの返事に私が何故かはしゃいでる。これはミスリードは許されないわ…
週休を減らさなきゃ、あのグータラ男の為にも。
「でも反対方向に走ってたよね?」
「今向かおうとしていた訳では無いのでね…」
「あーあれでしょ、ダンテが日時も指定しないで「適当に来い、居なかったら後日来い」とか云ったんでしょ?あの人すっごくルーズだから!」
おっといけない、ダンテの評判を下げる発言をさっそくしちゃった。
でもお兄さんは納得の相槌もしないで、ただクスリと笑った。
「大丈夫、僕も予約はしていないからね」
「えっ、この後絶対居るか分からないよ?最近留守がちなんだもんあそこ」
「それなのに君は行くのかい?」
「ま、まあ……ほ、ほらっ、散歩ついでに」
「……宜しければ、送って差し上げましょうか御嬢様?」
「えっ」
運転席…じゃなかった、助手席のドアを開いて私を見つめるお兄さん。
一気に令嬢気分になった私。本当なら、高笑いしつつそのシートにふんぞりかえって座りたいところだけど…
「それは悪いよ」
「警戒している?」
うーん、直球ね……親切心を蹴る様な気がして、ちょっと申し訳無いからやんわり断ったんだけど。
オトナの対応を蹴られて、どうしたら良いか悩みどころだわ。
でもこの人には、何だか見抜かれてる気がしないでも無いから…正直に伝えるのがベストかも。
「そうよ、知らない人についてっちゃいけないって。これは親以外にも教わるもんね」
「それは確かに警戒すべき事項だね。しかし僕にはペドフィリアの気も無ければ、シリアルキラーの気も無い。そして金銭面の苦労も無い」
「私をどうこうする理由が無い、って事?じゃあ訊くけど、なんで送ってくれるの?」
「因みに、慈善活動も趣味では無い」
「あははっ、ホントに分かんないよそれじゃ」
「何、道案内ついでに話でも聞かせて貰おうと思ってね」
正直、凄く迷っている。道じゃなくて、選択肢ね。
車に乗りたい気持ちは強いけど、この正直者のお兄さんが何者なのかよく分からないし。
雑用を依頼するただのお客さんなら問題無いけど、悪魔絡みだとしたら…ちょっと危険な気もする。
「車への好奇心は有る様子だね、良ければ座るだけ座ってみるかい」
ふわっとなびいた黒いマント、ドアから手を放したお兄さんはカツカツとヒールを鳴らして遠ざかった。
「えいっ、って押し込む事も出来ない距離ね」
「だろう?所有物に好奇心を示され、自慢の心が疼かぬほど悟りを開けておらぬ身でね」
「結構俗っぽいんだ」
シートの手触りはベルベットの様な、それでいて滑らかな革の様な。
不思議な質感に二度三度、掌をぺたぺた押し付けてからチラリとサイドミラーを見た。
写り込む黒い影、あのお兄さんは遠く離れた位置でまだ待機してる。
「へえ、凄い!ダンテの乗ってた車より内装もキレイ」
以前ダンテに乗せられた真っ赤な車、見た目ばっかり派手で品も無くて。
吹き抜ける風も、ほどほどが一番だって思い知らされた。あの車、屋根も無いから潮風が髪に纏わりついてしょうがないの。
そういえばダンテって、運転のライセンスを持ってたのかしら…?
(今更だった、危ない危ない…悪魔じゃなくて事故って死ぬ所だったかも)
背中がぞわーっとして、妙な半笑いが零れちゃった。
「ねえお兄さん、この車って何処の国の物なの?」
遠くのお兄さんに問い掛ければ、その場から動かずに哂って答えた。
「“the nether world”」
「え?どういう事?云ってる意味解からない」
下界?冥土?何かのジョークかしら。
「ダンテも偶に遠回しなジョーク飛ばしてくるのよ、お兄さんのよりもうちょっと単純で下品だけど」
「へえ、応酬でもしてみたいね」
「止めときなってば!依頼した内容が面倒臭いものだと、ソレごとジョークにされちゃうんだから」
気になっていた右ハンドルに軽く触れて、本当に左右が違うだけなんだー…と、好奇心を埋めた。
フロントガラス越しに見る街路は、普段と別世界の様で……
って、ううんやっぱり、何か違う。
目を凝らすと、さっきまで居た石畳の上に…ふわふわ浮く光球とか、脚の長い影とか。
フロントガラスの埃とか光の反射じゃなくって…蠢いてる。
「お気に召したかい?」
「うん」
「良く“視える”だろう?ま、視え過ぎて情報量が多いから、時折人間に気付き辛いけれど」
サイドミラーに映る影がさっきよりも近い気がするけど、気にしないで助手席に腰を下ろした。
本当は下車するつもりだったんだけど…座り心地、凄く良い。
「安心し給え、無傷でデビルメイクライに送ってあげるよ」
サイドミラーに誰も映っていない、いつの間にか隣の運転席から聴こえる声。
ふわっと薫るお香が、頭をじんわりいい気分にしてくれる…そんなカンジ。
「到着まで、世間話でも頼むよ御嬢さん」
黒いグローブをはめたお兄さんの横顔を見る、口元がチェシャ猫みたくニタァと笑った。
見とれていると、シュルシュルと音がして…私の胴をきっちり固定するシートベルト。
「全自動なの、凄いね」
「フフ…ハイテクノロジーだろう?」
「でもこの車、なんだか…」
生きてるみたい、と云おうとしてやめた。
なんかバカっぽくて、ダンテの飛ばすジョークみたいだったから。
「ベルト、きつかったら教えてくれ給え」
「んー…大丈夫」
「其処から吸魔して動く車だからね。主に吸い上げるのは、運転手のベルトだけれど」
「キューマ?」
「ほら、前を御覧。道案内も宜しく」
云われて前を向けば、ゆったり流れ出す景色。
驚く程に音が無くて、これじゃあ接近にも気付けない筈だわ…と、独りで納得してた。
「最近デビルメイクライに、居候など居らぬかい?」
グローブがハンドルを握り直す度に、小さく鳴く。
髪の毛だけじゃなくて、指先まで真っ黒なんだなあ…と、ぼんやりした頭が思う。
「…お兄さんと同じ、真っ黒い髪だよ」
「へえ、指先まで黒かったりするのかい?」
「いつも素手よ」
「素手だろうと、黒い時も有るのだろう?」
初めて見た時、そういえば…黒い紋様が身体のあちこちに渡ってた。
私を追いかけてきて、マフラーを掴んだ指にも見えた黒。
「でもお兄さんのグローブほど…全部真っ黒じゃないわよ」
「知っているさ、ブラックニッケルのリングを填めている様な指だね。しかし、ツノだけは全体が真っ黒だろう?」
「そうそう、あそこだけ全部真っ黒………あ、そこの交差点は右…」
指示通りにハンドルを切るお兄さん、景色が開けて夜空が見え隠れ。
明るい時間には目立たない月に、カラスの飛ぶシルエット。
「あんな眼の色」
「知っているさ」
「んもう、じゃあ云わなくても良いよね、私より知ってるんじゃないの?」
「確認作業さ、パティ嬢。それに君も少女の例に漏れず、甘いお菓子と噂話が大好きだろう?」
「ストロベリーサンデーとかね」
「道案内の御礼に、後で御馳走してあげる」
「ホント?やったあ…」
そういえば、何の為にデビルメイクライに向かってたっけ。
ま、いいや。私はいつも依頼なんかしないし、ダンテの散らかしたピザの空き箱をカウントして…
多ければ多いほど、バカにしてやるんだから…このグータラ男、って。
「あー、でも…最近事務所キレイだもんなあ…」
思わず声に出して呟いちゃったけど、お兄さんは追及してこない。
すると、それはそれでウズウズし出す。甘いお菓子も無いし可愛いカフェでも無いけど、どうしてか口が弾む。
「あのね聴いて頂戴、最近ダンテってば私が世話してあげなくても暮らせる様になっちゃったの」
「へえ、男を奪られて御立腹とはマセているね」
「違うってば、あの居候が甘やかし過ぎるからいけないのよ!私がもっと、ダンテをこう躾ながら…!」
「知っているかい?そういうのを通い妻と云うのだよ」
「だーかーらっ……そんなんじゃないってば!そうそう、だってね――」
なんで、こんな見ず知らずの人に愚痴ってるんだろう…
でも気分が良い。ノってるのよ、車に、じゃなくって。
少し押せば、チクチクと棘が刺さって返ってくるから、それを抜く為に更に押すと……今度は違う棘。
無理矢理問い質されないから、出し渋る事すら忘れてしまうのかしら。
こうして分析出来ているくせに、どうして口がペラペラと伝え続けるのかしら。
(でも、イイ気分…)
お香の匂いと、吸い付く様なシートの座り心地と、走行の眠気を誘う揺れ。
ガラス越しの普段の路も、夢の中みたいに意味不明な生き物が闊歩してる。
(それとも、これ…夢かなあ)
だとしたら、ストロベリーサンデーは無しかあ…と、妙にがっかりした。







「…で、お前はノコノコと車に乗っちまった事について、反省してんのか?」
「そりゃあ…ちょーっとばかしウカツだったかなあ、と思ってるけど」
ソファにふんぞり返っているパティ、そのモーションに反省のしおらしさは微塵も無い。
こんな夜中に来て、事務所のドアを開けるなり「車で送ってもらっちゃった、お嬢様みたいでしょ」とか抜かしやがる。
パティの家に車は無い、怪しいもんだからその出所を訊けば…驚きの内容だ。
小さな来客の為に茶を用意していたヤシロが、手を滑らせてポットごと落とした位のバッドニュース。
「でも、こうしてちゃーんと送ってくれたわよ?無傷で」
「お前が手ぇ出すまでも無い貧相なガキだからだ」
「失礼ね!そういう問題じゃなくって……って、どうしてダンテ達はそんな顔するの?そんなに悪い人なの?」
「確かにクズノハって名乗ったんだろ?その男」
忘れたくても忘れられねえ、その名前。
人違いなんて事は無さそうだ。全身黒づくめの東洋人、角ばった帽子とモミアゲ、マントコート…
神出鬼没、ニヤニヤしたあの哂い。
「アイツ、替えのマントは持ってたみたいだなあ、ヤシロ?」
割れたポットの破片を箒で掻き集めるヤシロの背中が、一瞬止まる。
先日…レディに寄越されたという依頼主のマント、あれも間違い無くクズノハの物だろう。
「良かったじゃねえか、まだこの辺に滞在してるみたいだぜ」
「…嬉しい事なんて、ひとつも」
「ま、そうだな、そのまま帰っちまったみたいだしな」
デスクから脚を降ろして、ミリタリーブーツで床をギシギシ云わせる。
雑穀の入っていたジュートの袋を広げ、破片を突っ込んでいるヤシロの背中……そう、背中ばかりでこっちを見もしねえ。
今、どんな顔をしているのか…見てみたくなって、華奢な其処に軽く抱き着く。
「お前の事、もう諦めてくれたのかもな?」
「……だったら、助かるんですけどね」
ヤシロが袋の口を結ぶと、穀物の匂いも消えた。鼻腔を擽るのが、ヤシロだけのものになる。
一番強く匂いを感じる項に鼻をすり寄せてみれば、コイツの背に合わせて屈めた腰がちっとばかし窮屈だった。
強張っている身体、今度はその胴に腕を回す。
「な…に、ふざけてるんだダンテ」
「身体は拭いたぜ?水滴がフローリングに残る…ってお前が嫌そうな顔するから、最近ちゃんと拭いてからこっちに来るだろ俺」
シャワー上がりにトップスは着ないので、ヤシロの背中に押し付けている胸は生肌だ。
宣言通り拭いてあるので、ヤシロのパーカを湿らせる事は無い。
「…お客さん、居るだろ。それに、そういうの…苦手だ」
小さな声で、内緒話の様に呟くヤシロ。
俺の腕を上から掴んで、片腕ずつ開かせて剥がしていく。
「クズノハが迎えに来なくて、拗ねてるのかと思ってな」
そう云ってやれば、腕の中で震えた。俺は続いて目の前の、真っ赤になった耳に軽くキッスしてやる。
すると、振り解いてから睨んできた……流石にパティの手前、悪魔化はしていない。
「そんなの来なくていい、あいつは俺の邪魔ばかりするから」
「そうか?だってお前、目的の為にアイツの悪魔になったんだろ?」
「……都合が悪くなって…だから、もう契約を破棄したい」
「そうそう破棄っつったら丁度良い、二階の廊下にゴロゴロ転がってるブツが有ったろ?」
「あの大量の箱?」
唐突に切り出した俺を、少し訝しんでいる眼だ。
それでもすぐに話が通じる、廊下の障害物を余程邪魔に思っていたんだろう。
「そう、アレ全部弾の箱でな…ああ、弾ってのはアレだ、エボニーとアイボリーの」
「棄て易く纏めておけば良いのか?」
「実は、まだ中に弾残ってるまま放置してるのが多分有るんでな。中身残ってたらそれ抜いといてくれるか?」
「…確認してから放れば良いのに」
「ハハ、悪ィな。ピザと違って腐らねえもんだからな」
溜息と共に、ジュート袋を掴んで階段に向かうヤシロ。
その脚が少し急いて見えるのは気のせいじゃない、多分此処から逃げたかったんだろう。
昇って行く姿…赤いままの耳を軽く撫でるのが、最後にチラリと目に入った。
「お熱いこと」
呆れ声のしたソファを、俺は振り返る。
脚をぶらぶらさせて、ジロジロと見てくるガキの視線、別に痛くも痒くも無ぇ。
「お前もハグして欲しいか?」
「遠慮しとくわ、暑苦しい」
「俺も遠慮するぜ、お前硬そうだし。それにな、仕事の時の恰好よりは涼しげだろ?」
「着てた方がマシだってば、肌色の面積減らしてよ」
改めて淹れて貰った茶を啜っている…毎度世話焼きなガキ。
それでも最近は、ヤシロに仕事を取られて暇を持て余している様子だ。
家で大人しく母親と過ごして居れば良いのに、どうやら蛇が出るまで藪を突つつくのが好きらしい。
「お前も二階で弾、見たかったか?」
「どーして私が弾なんて見なきゃいけないのよ、油臭いしつまんないし」
「興味有るかと思ってな」
俺は再び椅子に座り、調整中だったエボニーとアイボリーを撫でつつ問う。
命中精度の高い黒…連射性に優れた白…
「な、そういうの大好きだろ。お前の撃ってくる弾丸…弾けば程度は判るぜ?エグい細工しやがって、只のコルトじゃねえだろアレ?」
「ちょっと勝手に妙な話を進めないでよ、おまけに意味分からないし!ジョークって万人に通じないと、寒いだけだと思うけど?」
「何処を弄れば殺傷力が向上するか、頭に叩き込んであるんだろ?悪魔相手となりゃ、本気出さないと死んじまうもんなぁ…“人間”は」
パティのぶらぶらしていた脚が、揃ってピタリと止まる。
横目にじっと俺を見つめた後、腹を抱えてゲラゲラ笑い出し、ソファにひっくり返っていた。
「ちょっと、ダンテ、あは、あははっ!何真面目な顔してるのよっ、あは、おかしぃ」
「さっきはよく我慢したな?あれでも結構ベタベタしたんだが…キスは唇にした方が良かったか?」
「だってヤシロといちゃついてるのはいつもの事じゃないの、一方的だけど」
「割って入ってくるかと踏んでたんだがな…あれじゃ俺の嫌われ損じゃねえかよ、ビンボー籤だぜ全く」
エボニーの黒光りを、照明に翳してから差し向ける。
ソファで転がり回っていたパティが、俺の向ける銃口を凝視しながら起き上がった。
「何してんのよ…」
「いい加減タネ明かししな、クズノハ」
「はぁ?どうして私がクズノハなのよ、さっき話したじゃん。あの人、事務所に寄らずそのまま帰って往ったって。何…化けてるとか云っちゃう訳?」
「悪魔の力を拝借すりゃそんなの朝飯前だろ」
「バッカみたい、そもそも私がクズノハなら、わざわざ話題に出さないわよ?自分の事」
まさか撃たまいと思っているな?その無邪気な笑顔は、確かにパティだ…
「お前はそういう奴だ、クズノハ……その「まさか」って虚を突く、そういうのが十八番だろ?」
「まだ云ってるし、あははっ!そんなに疑ってるなら撃ってみたら?損害賠償請求したいから、頭と心臓は止めて欲しいけど」
呆れた、と云うかの様に肩を竦ませるパティ…の偽者。
そう、偽者だ。今の台詞で確信した俺は、エボニーの安全装置を解除した。

「ミスったな、クズノハ」

依頼通り、急所は外した。至近距離からの銃撃を避けきれる筈もなく、パティもどきはソファの上で軽くバウンドした。
腿辺りを狙ったので、スカートに穴が開いているが…繊維の焼け焦げた穴とは違う。
魔力の揺らぎって奴だ、空いた穴からじわじわと拡がっていく黒。
夕暮れ雲の隙間から、闇が垣間見えるそれに近い光景。
「確かに昔のパティならさっきみたいに云うかもな。アイツは自分の強運を自覚してるし、アツくなり易いからな」
念の為に向けたままの銃口、その先にパティの姿は無い。
今見えているのは、ソファに凭れるまま俺を睨む“野郎”だけだ。
「……クク…余計な事を云いましたか?僕」
「お前にゃピンと来ないかもしれねえが、教えてやるよ。今のパティには母親が居る。命を賭ける様な事、ジョークでも云わねえぜ」
大事な存在が出来た瞬間から、自身も大事にする、そういうモンだろう。
守りに徹する、それはチキンでも何でも無い、牙が抜かれた訳でも無い。大事な物の為に、いざとなりゃ戦える。
天秤にかけていって、大事な存在の次に重いのが自分ってだけだ。
「思い切りが悪くなる…足を引っ張るだけだとお前は哂いそうだが…そういう奴が居た方が幸せだぜ?」
「へえ…貴方は居るとでも」
「俺は、親父の護った物を護る、悪い心地でもねえしな」
「人間を護ると?だからデビルハンターに?」
「ま、そういうこった」
「それならば、半分悪魔のアレは該当しないという事になる」
「そりゃお前の主観だろ?俺からすりゃアイツは人間みたいなモンだ」
鼻腔を擽る鉄錆の様な、ワインの様な匂い。ボトムの腿辺りを濃く染めるクズノハ、絶賛失血中だ。
45口径だってのに、悲鳴のひとつも上げなかった。こいつ、やっぱりイカレてやがる。
俺の攻撃で奴の擬態は解けたが、それでも既に得物の柄を握っていた。
「パティは何処にやった?」
「オボログルマでドライブ中ですよ…何、心配には及びません…率先して第三者に危害を加える趣味は無いので」
「必要なら、やるって事だな?」
「家に辿り着く事も無く、神隠しに遭った…という話は、何処の国でも珍しくも無いでしょう、フフ」
何処までが本気か、イマイチそれが判らねえ…このデビルサマナー。
しかしパティの奴、本当に車に釣られて乗ったんじゃないだろうな、お子様め。
「お前は何しに来た?ヤシロを連れ戻しにか?」
「おや、正直に云えば寄越してくれるのですか」
しばし睨み合い、俺は何となく気付いてふっかけてみた。
単なるボイコットな訳無い、ヤシロはバラバラになって俺に“お届け”されたのだから。
クズノハライドウが、あそこまでヤシロを傷付けるとは思えない。
人修羅としての治癒が働く範囲でしか、バラさない筈だ。
しかもヤシロのあの態度……どうやらこれは裏が有る。
「……ハハッ、お前アレだな、今回蚊帳の外だったんだろ」
「外だろうと内だろうと、アレは僕の使役悪魔。契約も切れておりませんのでね、返して貰うまで」
「何だぁ?あのジジイ…ルシファーの手引きか?」
「さあ?如何でしょうね。そんな事は人修羅に訊けば良い」
ビンゴ、コイツも何も知らないと見た。
だから慌てて追って来たって所か…残念ながらプレゼントの箱を開封したのは、俺だった訳だが。
「そうだよなぁ?アイツが堕天使とグルになってるとしたら、お前にとってはかなりヤバイ。何か手を打たねえと、エネルギーを吸われ続けるだけ…」
「心配御無用、いつでも契約破棄は可能ですからね」
「しかしお前は簡単にアイツを切れない、折角ボルテクスで弱みにつけこんで従えた人修羅を…手放せば二度と得られないからだ」
「へえ…断言します?」
「ああ、ハッキリ云ってやるぜ?アイツがシラフなら、お前の悪魔になんざなりゃしなかったろうさ。精神虚弱な所を突いた、お前がよっぽど悪魔さ」
「しかし貴方は、人修羅がシラフに戻る前に殺害しようとしましたね。気が動転し、訳も分からぬまま死に逝く人修羅の方が…都合が良かったから」
手負いで不利な状況だってのに、挑発してきやがる。
貼り付いた様なその哂いは、一体何処で習った?
「本当性格悪ぃなお前」
「アレが降りて来たら、先刻接吻されていた耳を削ぎ落としてやりましょうかね」
「おお、怖ぇ怖ぇ。此処でこれ以上血を流されても掃除が大変なもんでね、お引き取り願おうか?デビルサマナークズノハ」
「僕が死ねば、パティ嬢には冥府へとドライブコースを変更して頂く事になりましょう」
「…人間の致命傷ってのは、どの程度だったっけなあ?」
首を傾げると同時に、エボニーの引き金を引いた。
さっきは右足の腿を狙ったので、今度は左足の腿にしてみた。
すると、クズノハも既に擬態を解いただけあって、まんまとやられてくれはしない。
一発目は喰らってくれたが、それ以降の弾はソファにボスボスと埋まっていくだけに終わる。
俺も事務所のソファを蜂の巣にする趣味は無いので、片手にアイボリーも構えて椅子から飛び降りる。
「止めとけよ、人間に負ける俺だと思うのか?」
「此方の目的は貴方の始末では無い」
マントを翻し、銀色の胸元を掠めるクズノハの指。
目に見えているキツイ蛍光色は、あのサマナーの姿によく映える。
「ボイコットした犬の様子を見に来た、それだけ」
ヨヨギ公園の工事現場で以前見た、デカい蜘蛛を呼び寄せたクズノハ。
ソイツの脚が一本、ソファに喰い込みガスリと音を立てる。
「おいおい、それ以上穴増やしてくれるなよ」
アイボリーを連射しつつ、少しだけ間合いを取った。
案の定、蜘蛛の糸が俺目掛けて放たれ、撃ち出した弾は包まれ無効化されていく。
「ヒュウ、前より反応速いじゃねえか」
『舐めるな小童めが!今回は問屋が卸さんわい!』
蜘蛛に任せて、その隙にヤシロをどうこうしようって魂胆かもしれないが…虫一匹で足止めされる俺と思うな?
バッサリやればワケ無い、あの糸がどれだけ粘着質でも構わない。
繭みたいになったリベリオンごと、蜘蛛の頭をブチ抜いてやれば良いだけだ。
俺は片足を壁際に一歩寄せ、掛けてある武器に語りかける。戦いの準備をしろ、と――
「ツチグモ!あれを奪え!」
張り上げられるクズノハの声は普段より少しだけ高い調子で、一気に空間を通った。
即座に腕を伸ばしたが、リベリオンの柄に指先が一瞬触れるに終わった。
しゅるしゅると糸に巻き、引き寄せた剣をジロジロ眺める蜘蛛。
『ふむぅ…なにやら煩いぞ、この獲物』
「ヘイヘイ蜘蛛ちゃん、それはお前の獲物じゃなくて俺の得物なんだよ、とっとと返しな」
あの蜘蛛の手元でブツクサ云ってるらしいリベリオン。
攫われた事に関してじゃねえな、多分俺をマヌケと叱咤しているだけだ。
「残念ながらお応え出来ませんね、ダンテ」
「だろうな、まぁ構わねえがな。俺はヌードでだって戦えるぜ?丸腰と思うなよ」
「そうですね、武器も此方が預かっている事ですし。丸裸となってソッチの柄を握っておけば宜しいのでは?」
万人向けのジョーク云々とかぬかしやがったのは、何処のどいつだったか。
洗練された立ち振る舞いの癖にこのガキ、相変わらず品性下劣なスラングを連発する。
「さてと…ふざけるのもいい加減にしろクズノハ」
少し詰め寄れば、蜘蛛が天井と床に向かって同時に糸を吹き付け、俺の前に壁を作った。
魔人化もせず素手で触れると面倒そうだ、潜れる隙間も無い。
「白いモンびゅるびゅる際限無く吐きやがって、お前等が掃除しろよ」
「銃も剣も、貴方のはやたらと重量が有って大柄だ。フフ…股のソレも大きいだけですかね?」
剣に関しては、兄貴の使っていた閻魔刀とクズノハの武器が似た形をしているので、若干イラっとキた。
良いぜ、まんまと乗ってやろうかお前の口車に。パティの事は棚上げだ、俺もドライブに付き合ってやる。
「別に俺は大艦巨砲主義でもねえし、フニャってもねえ。ヤシロも云ってたぜ?「ダンテのはゴツくて跨ってもグラつかない、すげー興奮する」ってな」
「云ってない!!」
割り込んできた怒号に、俺もクズノハもいちいち驚かない。
そりゃそうだ、これだけ大騒ぎして二階から降りて来ない筈が無い。
階段の踊り場辺りで、様子を窺っていたのだろう。
「遅かったなヤシロ、とっくにショウは始ってるぜ?」
「今の流れであの台詞を出すのは誤解を招くだろ!俺はダンテのバイクにああ云ったんだ!」
「良いじゃねえかよ、多分同じ事云うぜお前」
糸の壁越しに笑えば、頬を真っ赤にして俺を睨むヤシロ。
ああ、ありゃ結構本気で怒ってるな。後で機嫌直す為に、何してやろうか。
「へえ、君この短期間でもう跨ったのかい?」
「ち、違う!あんた絶対違う解釈してるだろ!俺はそういう趣味じゃな――」
怒鳴りつつクズノハに迫るヤシロの足下を、蜘蛛の糸が絡まった。
買い与えた薄手のジーンズが、みるみる糸車の様になる。
「Sun of a bitch!」
そう唱え、ヤシロの目の前まで跳躍したクズノハ。
よりによってそのスラングを選ぶとは、やはりイイ性格をした男だ。
辛うじてビッチとだけ耳に入ったか、ヤシロは憤慨した様子で下肢を捩りクズノハから後ずさる。
「先日は橋でひと暴れしたそうじゃないか、戦闘生活からの逃亡を試みたい訳では無さそうだね」
クズノハは、ヤシロの横に位置する様にカツカツとヒールを鳴らして接近していく。
俺に完全に背を向ける事の無い足取りで、刀を構えつつという警戒っぷりだ。
「突然消えられては困るのだよ、解かっている?契約を結んでいる限り、此方への負荷が多少なりとも有るのでね…割が合わない」
得物の切っ先を、黒いタトゥーの奔る細首に突き付けたクズノハが云う。
緩やかに擬態を解除したヤシロは、無意識に目の前の男からMAGを得ていた。
そう、それが今クズノハの云った負荷という奴だろう。ヤシロの悪魔としての器がデカい分、命の残量を削られているのだ。
ヤシロが人修羅として、サマナーの役に立っているかどうかは、別問題で。
離れていようが、契約関係ってのは暗闇の中の蜘蛛の糸だ。視えていないだけで、確実に繋がっている。
「知るかよ…俺の用事だ、あんたが余計な手出しさえしなけりゃ、終わる」
「これは抜け駆けに等しい行為では無いのかい?同じ舞台上で僕を出し抜くならともかく、部外者を利用して単独で悲願達成かい。君も随分と狡猾になったものだ…フフ」
ヤシロの眼が、一瞬俺を恨めしそうに見つめてきた。
助けてくれ、と訴える眼だろうか?だが俺は、糸のコッチ側で黙っていた。
一度はレディに連れられ、赴いたお前だろう?真意はどうなんだ…本当のトコ、デビルサマナーの下に帰りたいんじゃないのか?
気を惹きたくて、ワザと迷子になるガキの様な、そんな眼だったりするんじゃないのか?
「あんたを出し抜くつもりは無い、あんたは今回“無関係”なんだ!」
「僕が納得する説明をしてくれ給え」
「全部話せる訳無いだろ!あんただって俺にすべてを云わない癖に!」
脚に絡む糸を燃したヤシロが、喉元を押さえながら横に跳んだ。
刀で斬れた傷口から赤い飛沫が迸って、壁際のジュークボックスを濡らす。
こないだ修理に出したばかりなのに、今度はイカしたペイントかよ。
「堕天使に何か吹き込まれたかい、憐れな奴」
「最終的な判断は俺がする、横槍入れるんじゃねえ!」
「そうかい槍がお好きかい、御希望に応えてあげようか」
刀を手先でクルリと回したクズノハ、その切っ先にMAGを流してリーチを伸ばした。
瞬時に魔力を操る業は、年若い人間にしちゃ恐ろしい出来栄えだ。
「俺を、連れ戻そうって、いうのか」
「さあ、どうだろう、ねえっ」
間髪入れず幾度も突き出される蛍光色の槍を、ギリギリで躱しつつ後ろへ下がっていくヤシロ。
いいや、正確に云えば躱しきれて無い。パーカや肌の裂け目がジワジワ増えているのが、此処からでも判る。
あのまま下がり続ければ、デスクに当た……ほら見ろ、追い詰められた。
腰骨にガツンとデスクの天板がぶつかり、ハッとしたヤシロ。
それと対照的に哂っているであろうクズノハの表情、俺から見えない筈なのにありありと浮かぶ。
が、そのまま胎でもブチ抜かれると思った俺の予測に反して、ヤシロは背面からデスクに乗り上げ攻撃を躱した。
天板上で素早く後転する際、俺の食い散らかしたピザの箱がガサガサと床に落ちる。
「っ、何か付いた!?」
デスクの端にしゃがみつつ構えるヤシロが、頬を指で拭いつつ零した悲鳴。
それを見て思わず笑っちまった。あれは俺がピザ生地の上から退けて、空き箱に放っておいたスライスオリーブだ。
「ハハッ、悪ぃなヤシロ」
笑いながらの謝罪は、アイツの気を更に逆立てる。そんな事知っている。
「好き嫌いするなよっ、くそっ!」
怒鳴るヤシロが指先に摘まんだオリーブを宙に放れば、クズノハが切っ先にそれを突き刺した。
そんな曲芸みたいな動作で槍を弄ぶと、軽く振り返って俺とアイコンタクトをする。
「との事ですが?デビルハンターダンテ」
クズノハはスリーステップ程度で一気に距離を詰めてくるが、俺は慌てて退かない。
ビビってると思われそうで、ムカつくからな。
それに、蜘蛛の糸が壁になっている。これはサマナーにとってもちょっとした障壁だろ?
「ダンテ!」
向こう側でヤシロが叫ぶが、いいや何も心配する事は無いさ。
細い切っ先の軌道は視えている。真っ黒なオリーブが目立って、更に読み易い。
糸壁の隙間を掻い潜って、俺の目の前に突き出された一品。このサマナー、おちょくってやがるな。
「Thank you for serving.」
俺は礼を云いつつ首を捻り、先端のオリーブに齧りついた。
舌先に広がる独特の風味、噛んだソコからじゅわっと染み出る油。
焼こうが漬けようが、俺の眉間に皺を作るとんでもないブツ。
「やっぱ不味ぃな」
俺は咀嚼もほどほどに嚥下し、頬を掠めて戻りゆく切っ先を睨んだ。
クズノハが器用に長い得物を通すその動きは、それこそ糸通しの様で。
奴は再び構えると、MAGを潜ませ槍を刀に変える。
リーチの短くなった刃先をスッと翳し、俺とヤシロを交互に見て哂った。
「此方は美味かな…」
薄っすらと付着した俺の血を、同じくらい赤い舌で舐めたデビルサマナー。
おいおい、悪魔がサマナーの血を舐めるってなら、有りそうなモンだが。
「そりゃどうも、味は親父譲りかね。スパーダの名前出た途端、悪魔には俺が特上品に見えるみたいだからな」
「あまりに強い血は体質を変化させる可能性が有りますのでね。僕は脆弱な人間ですから?これ以上は遠慮しておきますよ」
「へっ、誰がもっとくれてやるっつった」
「しかし人修羅は返して頂きますよ」
「ヤシロに訊いてくれよ。俺は痴話喧嘩を見る為に事務所を貸切にさせてやってる訳じゃない、さっさとケリをつけてくれ」
俺の表現が不快だったのか、遠くでヤシロが吠える。
クズノハはその声にも動じず、刀を指先でクルクル回して哂う。
「功刀君、どこから聴いていたかは知らぬが…パティ嬢を巻き込むのは、君も本意では無いだろう?」
「汚い野郎」
「交渉の下準備さ、それに無理な要求をしているつもりは無いがね。君が元々居た処に戻る…それだけの話」
「俺の本来の場所は、東京の自宅だ。あんたの時代の銀楼閣じゃない」
「居候先から逃げ、此処でも居候している癖にね。本来の場所は、無いに等しい状態だろう?君は人修羅である限り、何処だろうが彷徨い続ける」
「だから俺は今回っ――」
言葉が切れた、今のが台詞の全てとは思えない。
まくしたて、息を荒くしたヤシロが拳を握りしめている。続きを呑み込んで、殺したのか。
「今回、何?」
クズノハの追及にも、無言で睨み返すだけ。奴が相手だから云えないのか…それなら蚊帳の外では無い筈だ。
だとすれば、この場に居る他の奴に聴かれたくないという事だ。
「席を外そうかヤシロ?出入口はコッチに有るからな、蜘蛛の巣に引っ掛からずに俺は退出可能だぜ?」
「違うっ」
弾かれた様に、俺に視線を向けてくる。その眼に焦りと懇願が見え隠れした。
多分、俺がこのまま事務所を出たら、アイツはサマナーに連れられて行くのだと思った。
強制では無く、半強制くらいの勢いで。
「何が違うんだ?そんな顔するなよ、ヤシロ」
ボルテクスで、殺して欲しいと願ったお前も。次のボルテクスで、死にたくないと願ったお前も。
その両方を、俺は知っている。
そして、クズノハの手を取った事も。
「俺は、お前が此処に居る理由説明なんか要らねえ。お前が苦しいなら吐き出す必要は無い。どうしたいかを、そん時そん時で俺にオネダリしてくれりゃイイのさ」
好きに使ってくれたら、それでもう構わない。
どっちのヤシロの願いも叶えてやれなかった俺の、ストレス解消方法。
お前が人間に戻れるなら…魔の路へ堕ちないのなら。
「散々に利用されても構わない、と?」
失笑するクズノハが、マントを肩に払う。
確かに、お前には信じられないだろうな。いや、信じたくない、か?
無償の愛ほど侮辱したくなる。
ボルテクスでやりあった時から、そう顔に書いてあったぜクズノハ?
いつかどこかで見た…“力を欲する奴の眼”をしている。
「ああそうだ、お前と違うぜデビルサマナー。俺はあの時から、1マッカで雇われてんのさ」
「フン…単に執着しているだけでは?」
あまりに小馬鹿にした横顔だったから、その綺麗な鼻っ面をへし折ってやりたくなって。
さっきから乗っていたお前の口車で、派手にスピンしてやる。
「ハハ、よく解かってるじゃないかクズノハ。そうさ、俺は人修羅って悪魔に利用価値を見出す真似はしねえ。ヤシロそのものが好きだ」
ほら見ろ、哂っていた眼が据わった。対照的に、ヤシロの眼は泳ぎ始める。
やっぱり面白い奴等。どうやってボルテクスで組んでたのかを、思わず訊きたくなっちまうくらいに。
そこまで正反対でも、利害が一致さえすれば契約を結べるのか…
それは目的の為なのか?本当にそれだけなのか?
「好き、じゃ温いか……そうだな“愛してる”だ」
ワザとクラッシュしそうな台詞で挑発すれば、ゾワリと空間に映える黒。
コロリと表情を変えるヘマはしてないが、殺気まではマントで隠せないだろ。
誰が執着してるんだかな…
「成程、1魔貨で許したのは、サービスに見せかけた自身の為の配慮ですか」
「本当は金なんて取る気も無かったぜ?だって俺はヤシロの事を――」
「一度で結構!幾度も聴かせるな気色の悪い…!」
声を張るクズノハ、それにヤシロが一瞬ビクリと肩を揺らす。
どうやら声を荒げるのは、相当珍しい事みたいだ。
「それなら悪かったですね、貴方の愛しい悪魔は僕の使役下…未だ契約も切れてはいない。生殺与奪は僕に権限が有る」
「戦わせるだけか?へえ、そんなら俺に可愛がるのをさせろよ。どうせ噛み付くようなキッスだとか、上下関係アピールの為のレイプしかしてないんだろ?」
露骨なワードを並べ立てりゃ、遠くでヤシロが唇を開いた。
が、何も云えないのか、発声に発展しないでまた閉じる。
その、痛々しい程に噛んでいる唇を…今は妙に、舐め吸ってやりたい。
血の味と一緒に、真っ赤なマガツヒというアレが俺の舌を刺激しそうな気がする。
「…貴方は酷く甘やかす。とてもではありませんが、アレを任せられませんね」
「お、否定しないなァ?一応普段もセックスはしてんのか…お前がよく云う“ただの手駒”の使役悪魔相手に?」
いよいよ胸元に指が伸びたクズノハ、言葉より先に身体が反応したんだろう。
俺を排除すべき敵なのだと認識し、あの金属管を触っている。
見えた指先には迷いも無く、訓練されたその反応に俺もニヤリとした。
俺はクズノハを、決して嫌っている訳じゃあない。
あの鋭い眼が激情する時、一瞬ヤシロに感じるソレと同じ感情を抱く。
なんとも、形容し難い。語彙の無い俺には、うまく言葉に出来なかったが…
必死な奴の眼をするんだ、両者共。
「いいぜ?蜘蛛の次は何だ、あんま虫ばっかは勘弁してくれよ?害虫だらけの事務所じゃ今より客足が遠退い――」
台詞の途中だが、今度は慌てて避ける俺。
轟音と同時に事務所の扉がバキバキ砕け、黒塗りの車が乗り込んできた。
四輪のせいで、バイクと違って角度がついてタイヤは空回り。
後輪は多分、入口のステップに乗っかったままで、勢いを失っている。
「随分と慌てた客だな、トイレなら今は貸せねえぜ。蜘蛛の巣に引っ掛かっちまう」
「ハァイダンテ、イカした車が有ったから乗って来ちゃった」
いつかと同じ様に、エンジン音が妙に接近してきたもんだから嫌な予感がしてはいたが…
今度はバイクではなく車で突っ込んできやがった、トリッシュめ。
これが気紛れなら流石の俺も呆れるが、助手席を見てニヤリとしちまった。
「変な気配で同じ街路を廻っていたから、思わずバイクで追いかけたら…この子が助手席に」
「ナイスだぜトリッシュ」
「運転士も悪魔だったから、適度に痺れさせてトランクに積んであるわ」
「後部座席にしといてやれよ」
「途中で覚醒されたら襲われるでしょ?それに私、席に荷物積みたくないの、運転が少し荒いから」
「見りゃ判る」
こんな荒くれた運転でも、助手席でぐっすり眠っているパティ。
軽く催眠でもかけられてるな、でもなきゃ相当な鈍感だ。
「あんなに同じ場所ばかり廻ってたら、レディはすぐに退屈しちゃうわよ?もっと良いデートコースを下見しておく事ね」
云いつつ車から出てきたトリッシュが、運転席のドアを閉める。
その衝撃で、さっき突き破られた事務所のドアが完全に崩れ落ちた。
「それは失敬、人通りの多い通りを避ける様に命令しておいたので」
クズノハは、第三者に水を注され、どうやら冷静さを取り戻した様子だ。
俺としては、別にあのまま癇癪起こしてくれたって面白かったのにな。
「煌びやかなショウウインドウの一つも無いんだから、あそこ」
カツカツ、と俺の隣に来て、クズノハを見据えるトリッシュ。
“交渉という名の恐喝”のキーだったパティは、もうこっちに有る。
「ほらヤシロ、これで落ち着いて選択出来るぜ?俺等の事は気にせずそっちの都合だけで決めな」
「落ち着いていられるかよ…っ」
怒鳴るヤシロだが、さっきと違ってビビった気を纏っていない。
クズノハも、俺とトリッシュ相手に暴れる気は無さそうだ。
召喚した蜘蛛に背を預け、全員から間合いを取って、手は刀と銃の合間に置かれている。
何に対しても対応出来る構え方で、そういう所にヤシロとクズノハの差を感じた。
カタギで、突然強大な力を与えられて持て余している奴と…
教育の賜物で、実戦経験の長い奴…
(マガタマ呑まされたのが、クズノハなら良かったのにな)
ふっと思ったが、これはボヤかないでおくか。
なんとなく、ヤシロにも嫌な顔されそうだ。
「どうやら戻る気は無さそうだね」
「…云っただろ、俺にはこっちでやる事が有る…俺の用事だ」
「君には呆れたね…あの堕天使が、愉しめぬ提案をする筈無いだろう。忠告しに来てやったというに…馬鹿な奴め、破滅しても骨だって拾ってやるものか」
ヤシロにそう吐き捨て、クズノハは蜘蛛を管に引っ込めた。
入れ替える様にして召喚した、片脚一本のハンマー悪魔。
蜘蛛よりはスマートだが、あのハンマーが嫌に目につく。
「では御機嫌ようデビルハンターダンテ、その車はあげますよ」
「おいおい要らねえよ、っていうか退かしてけよ。これじゃ商売あがったりだ」
「積載した僕の仲魔は、外にでも転がしておいて欲しいですが……載せていても邪魔でしょう?」
武器を敢えて構えずに、革靴を鳴らして壁際に移動するクズノハ。
俺達が武器も無い人間に、無闇やたらに攻撃する悪魔とは思っていない証拠だ。
巧みなヤツ、人間に片足突っ込んでいる悪魔の心をよく知ってやがる。
そういうプライドを利用して、軽やかに退出するのか。生粋のデビルサマナーめ。
「イッポンダタラ、出口を宜しく」
『Yes, sir!』
妙にハイテンションなその悪魔は、場の空気に合わせてか、そんな言葉で返事する。
と…間髪入れずに手にしたハンマーを、俺の事務所の壁に平気で振り下ろしやがった。
「おいお前等!マジで此処壊す気かよ!」
悪魔らしい早業で、俺のシャウトを掻き消す施工音。
あっという間に、壁だった所に人が通れるサイズの穴が開いた。
「それではダンテ、世話を焼くのは構いませぬが、逆に焼かれぬ様…」
帽子のつばを掴み、軽く礼するクズノハ。
懐に手を突っ込んだので、俺もトリッシュも少し強張る。
何より、向こう側に居るヤシロが一番警戒した訳だが…クズノハは小さいナイフを取り出しただけだ。
悪魔に自身を担がせて、ヒールの脚をぶらりとさせて哂う。
「…功刀君、やっぱり骨くらいは拾ってあげる。人修羅の骨には呪力が期待出来そうだからね……ま、それだけだけど」
云い残し、デカい風穴を潜っていく連中。
ナイフを振り上げたクズノハが、壁を素早く引っ掻いてから背後に放る。
「……うるさい」
捨て置かれたナイフを見つめたまま、ヤシロが呻る。
クズノハがこじ開けた非常口の上には、御丁寧に《EXIT》と彫刻されていた。
刻みつけられたあの男のMAGとかいうケバい光が、それこそ非常灯の様に照らす出口。
其処に飛び込む事もせず、ヤシロは黙ってナイフを拾う。
「あらあら、じゃあこの車は貰っちゃって良いのかしら」
軽くポンポン、とボンネットを叩くトリッシュ。その拍子に今度は車の後部が浮いて、トランクの蓋がパカッと開いた。
「くっそ…風通し良くしやがって」
「またレディに借りれば?どうせアテも無いんでしょう?」
「半分はお前が出せよトリッシュ」
迫る俺をあしらう様にして、助手席からパティを引きずり出している。
呑気な眠り姫は、あのマフラーを相変わらず首にグルグルと巻き付けて。
口元まで覆われていると、どうしたってあの悪魔が脳裏に過る。
「やっぱり催眠ね。でも解除が必要という風でも無いわ…明日の朝には気怠い目覚めが待っている筈よ」
クスリと笑うトリッシュが、パティを抱えながらマフラーを直してやっていた。
「そりゃそうだろ、荒いタクシーで身体を相当打ってる筈だからな。ムチウチやばいぞ多分」
「そうね、じゃ、帰りは貴方が送ってあげなさいな」
「は?」
抱えていたお姫様を俺に押し付けると、金髪を肩から払って片脚を振り上げるトリッシュ。
鋭いヒールで車のフロントを蹴ると、それはひでぇ音を立てながら突き破った穴を拡げつつ外に押し出されていく。
「私、あれに乗って帰るから」
「傷だらけじゃねえか、ってそういう問題じゃねえよおい、待てトリッシュ」
「あら、チューンすれば良い車よ?載せてある悪魔は……どうしようかしらね、使い魔にでも調教しようかしら?」
ご機嫌にケツを振って、退出していく元相方。
颯爽と運転席に乗り込み、ライトを数回パッシングしてから猛スピードでバックして消えていく。
多分、切り返してターンするのが面倒だったんだな。ミラーを確認したのかすら、怪しい。
「トリッシュのヤツ、荒すぎだろ全く」
パティを片腕で抱き支え振り返れば、ナイフを手にしたヤシロがソレをじっと眺めていた。
俺から声を掛ける事もしないで、ただじっと待ってやる。
「……あ、ダンテ」
ようやく口を開いて、ナイフを折り畳むと周囲を見渡す。
「事務所…掃除しないとな」
「掃除だけじゃ足りないの分かってんだろ?さてどうしたもんかな…」
糸壁の前で立ち止まり、フッと吹けば白いソレはゆらゆら揺れた。
頬の汚れを改めて拭いつつ来たヤシロが、俺の向かいに立って唇を差し出す。
一瞬キスの誘いの様に見えて…思わず、パティの顔が振り向かない様に、支える腕に力が籠もる。
「ふぅ…っ」
見事に調整されたファイアブレスが、糸をじりじり焦がし熔かす。
じわじわと拡がっていくその穴が、ヤシロの胸元辺りまで届いたのを確認して。
俺は覗き込む様に屈み込み、唇を尖らせた。
「そ、そんな為に燃したんじゃない…!」
さっと離れて、糸で宙吊りのままだったリベリオンに歩いて行っちまう。
逃げられた俺は、ヤシロの焔で解放されるリベリオンと目が合った。
野郎、また嗤ってやがるな。





「御免なさいダンテさん……だから夜分遅くにお邪魔するのは失礼だって…あんなに云ったのに、この子ったら」
玄関口で、おろおろするパティの母親。
心配より先に謝罪が出て…こりゃ俺達を相当気遣っているな、そう感じる。
「気にすんなよ……ま、親に心配かけるのはじゃじゃ馬の証だがな」
「私がしっかり止めなかったのが悪いんです」
俺の背中でくったり眠る娘を見ながら、溜息を吐く母親。
俺もガキの頃、散々母親の溜息姿を見たモンだ。
兄弟喧嘩ばかりしてたから、五割以上はそれが原因だった気がする。
「俺の世話でも焼き疲れたんだろ、悪いがベッドまではアンタで運んでくれな」
その細い背にパティを乗せてやると、寝息を聴いたか、ようやく母親の横顔に安堵が零れる。
これでさっさとオサラバ…と、踵を返そうとした矢先。
「そういえばダンテさん、ウチに…何かデリバリーのサービス、頼まれました?」
「は?いいや…何も」
「さっき、ストロベリーサンデーが届いて…覚えが無いのです。パティ宛になっていて…料金は支払われているって」
誰だ?パティにわざわざそんなモン贈る奴なんざ……限られている。
「製造元がハッキリしてるなら、喰っても平気だろ」
「ダンテさん、ストロベリーサンデーがお好きなんですって?パティから聞いてます」
「…折角母親と暮らし始めたってのに、何話してんだかなお前は」
背負われるパティの額を軽く指で弾き、その手をヒラヒラとさせて別れの挨拶とした。
今度こそはと、クルリと背を向け離れる。待たせている奴が居るから、玄関で立ち話という訳にもいかねえ。
大股で歩いて行けば、もう人も殆ど無い通りの中…ヤシロがぽつんと突っ立って居て。
俺の姿を見るなり、軽く駆け寄って来た。
「心配してたろ、家族の人」
「そうだな、でもこうして送り届けた。結果オーライってやつだ」
「そういう問題か?」
この深夜だ、家の窓から零れる光も殆ど無い。
点々と灯る街燈と、遠くのハイウェイに流れるテールランプの流動だけが目立つ。
月明かりも、雲間を割く程の力が今宵は無いらしい。
「昔な」
俺の唐突な切り出しに、ヤシロは相槌もしないで一瞬目をこっちに寄越した。
「暗い所が怖くてな」
「…ダンテが?」
「俺にだってガキの頃が有る、可笑しいか?」
「……いや」
「しかし兄貴は、暗くしないと寝れねえもんだから。普段なら平気な俺も、ホラーなテレビやコミックを見ちまった晩にはビビって兄貴に挑んだもんさ」
「ダンテは電気点けたまま寝たかったのか?」
「そういう事だ、で、兄弟戦争の勃発って訳」
両手を軽く上げて肩を竦ませれば、呆れ顔をしつつも小さく笑うヤシロ。
ようやく緊張が解けたか…クズノハと対峙してから、ずっと怖い顔してたもんなお前。
「寝るといえば…今帰って寝ても、相当寒いな」
結局、事務所にはデカイ風穴が二ヶ所。
塞ぐ物も無いし、下手に弄るくらいなら最初からプロに任せて施工してしまいたい。
なんてな、日曜大工が面倒なだけだ。ヤシロの細腕に鋸引かせるのも、気が引ける。
「寒い…のか、ダンテは」
「ああ、今の事務所のソファで寝たら一発で冷えるぜ?」
本当は気にする程でも無い、でも此処は気にしてやるべきなんだろう。
まるで人間の様に、身体を冷やして風邪をひく事を危惧するのさ。
いつかのお前も、人間の頃はそうだったろ?
「あれじゃロクに休めねえし、帰ってから片付けするのも嫌だろ?」
「嫌って云っても…まあ、休むだけなら二階のベッドが有るだろ?俺が今日は椅子で寝るから、ダンテはベッド使えよ」
「お前も入れよ、少しくらい隙間空くだろ」
「はぁ?嫌だ。貴方あのベッドに寝たら、ただでさえ脚はみ出してるじゃないか。無茶苦茶狭いだろ…」
「ほお、よく判るじゃねえか。横着して買ったらさ、微妙に脚が入りきらねえんだよアレ」
「……俺とダンテの身長差考えれば……寝てたら何となく判る」
自分で云っておきながら、拗ねた顔をするヤシロ。
別にチビだとか、云ってないだろ?俺がセンチに換算すりゃほぼ190なんだ、無理も無い。
「うん……そういやお前はネロのボウヤより10は低いな…いや、もっとか?」
「いきなり誰と比較してるんだよ」
結局チビと、遠回しに云っちまった。先の事を考えていて、思わずぽろりと零れたネロの名前。
「クズノハの開けたデカい穴、流石にすぐは塞がらないだろうからな。工事してる間、お前をソイツん所に預けようかと思って」
「は?預ける?…待てよ話が唐突で…」
「工事の音とか煩くて嫌だろ?何心配すんな、俺の知り合いだからな…会話通じなくても問題無いぜ」
「大いに有るだろ…!それに俺はダンテに用事が――」
また其処まで云って、口を閉ざすヤシロ。でも俺は追及しない、誰にも云えないならソレでいい。
俯く黒髪をくしゃりと撫でて、背中を叩いてやる。
「工事の間…って云ったろ?事務所が元通りになりゃ、嫌でも俺とお前の二人きりさ」
「…俺は」
見上げてくる眼が、暗い夜道で一瞬金色になる。目の前で流れるラインは、遠くのテールランプより綺麗に輝る。
「俺は、どうしても人間に戻りたい」
「知ってるさ」
「………なあ、路…違わないか?」
「お、よく気付いたじゃねえか」
パティの家の通りから外れて、来た順路を無視して遡る。
街燈の数が減って石畳を照らすものが無くなり、互いの眼が猫みたいに光る暗がり。
「安宿で悪いがな…安心しな、前に使った時はそんなに埃っぽくも無かったぜ」
俺の視線の先を見て言葉を聞いて、ヤシロは其処が何か理解したのか、少し構える。
「薄暗い路地の宿だから勘違いしてるのかもしれないが、ソッチ専用じゃねえよ」
「まだ何も云ってないだろ」
「隙間風は来るかもしれんが、今の事務所よりマシってもんだろ?」
「そうじゃなくて…」
扉を開け、軽くステップを降りてからベルを鳴らす。
店員が来るまで、ヤシロは俺の背中に隠れる様に佇んで。
「……前、誰と来たんだ」
「俺一人の可能性を考えないのか?」
「一人なら、寝床の確保なんてしないだろ…貴方は」
格子の向こうに影が見え、少しヤニ臭いハゲた店員がキーを差し出してきた。
それを小窓から受け取り、後ろのヤシロを振り返って…俺は意地悪を云う。
「前は女と来た」
嘘は云ってねえ、パティと来た。
以前、事務所に大量の荷物が届いた際。二階まで埋め尽くされちまったから、一番近い此処に泊まる羽目になった。
「へえ、女の人、と」
「可笑しいか?」
その荷物ってのも、パティが慰謝料として余所からふんだくったブツで。
しかも、俺には無縁のヌイグルミやらレースやフリルのゴテゴテ付いた装飾品ばかり…
あの時は、俺が「外泊する」とゴネた。あんなファンシーグッズに囲まれて寝たら、夢の中でお姫様になってそうだろ?
「別に…可笑しくは、無い。だって、ダンテだって男だし、正常だ……ああ、正常…」
階段を昇る俺の背に、革コート越しだってのにチクチク刺さってきやがる視線。
いっそブチ抜いて、この胴を貫通してみろよ。
「ん、でもアイツと泊まりは二回目だったっけなァ」
「…よく会ってるのか」
「ああ、実はしょっちゅうな」
何だかんだと、あのガキと二回もお泊りしている事に失笑しちまう。
不潔・うざったい・デカいから邪魔、と喚き立てられ、俺は二回ともソファ送りだったが。
俺だって、ガキに添い寝する程餓えてねえ。
(じゃあ、コイツに添い寝はどうなんだ)
塗装の所々剥げた扉をいくつか横切り、一番奥の扉で止まる。
ナンバープレートが提げられたキーを挿し込み、捻るまで自問自答を繰り返す。
(パティよりは、ガキじゃない…よな)
「そうか、じゃあ今回は俺で悪かったな」
茶化しながら入室したヤシロ。それを背にしたまま、扉が閉まる音を待つ俺。
(ガキどころか、半分悪魔で……しかも、サマナーに散々…)
ボルテクスの頃から判っていた、お前の身体にあまりに深く刻まれた契約。
文字通り、心血注がれている事なんざ。
「コールガールって云うんだっけ、呼びたかったら呼べばどうだ。その間、俺は外でも散歩するし…」
(それなら犯罪的って訳でも無い……違うか?)
「こんな夜更けだけど、何だったらその“彼女”でも呼べば良いじゃな――」
自問自答がまだ続く、脳内の懺悔室と、さっきのフロントのがダブる。
格子の向こうに「今から抱きます」って云ってる様な、あの感覚だ。
抱く対象が、肉か罪かの違いで。
「…っ、ん、んゥ……ッ」
押し付けたヤシロの背中で、扉がギシギシ啼く。
掴んだ手首に、いつになったら黒い紋様が浮かぶのかと横目に見ていたが。
一向に現れず、人間のまま貪られている。
(コイツ、こんなに唇小さかったか)
水面下で息を吹き込んだ記憶が甦る、ぶくぶくと溺れるコイツを…
ああそういえば、引きずり込んだのは俺だっけな。
(回復の泉で死んだら、蘇生するのか?)
「ぁは、ぐ……ぁ……ぁぶ」
どうでも良い事に思考を逸らさないと、罪悪感に潰されそうだ。
ヤシロに欲情していない…筈だったが、どうしてこんな事してんだ。
(クズノハに喰らった挑発、今更効いてきたか?)
俺だってそこそこ俯いてキスしているのに、ヤシロは爪先立ちで震えている。
その震えが、唇から垂れる唾液をツウ、と奔らせる。
(コイツは…ガキでもねえ、が、やっぱりオトナでもねえか…)
ヌルリと舌を引き抜くと、今度は呼吸に必死で。
よたよたとその場を踏みしめ、俺を押し返してきた。
「…御主人様のキスの方が良かったか?」
訊いた途端、腹に一発。
細い腕からはイメージ出来ない重い一撃に、俺は二歩三歩後ろに追いやられてソファにぶつかる。
そのまま背を預けて、草臥れた中綿の弾力に身を任せながらヤシロを見た。
「最初から変身しときゃ良かったじゃないかよ…それともキッスくらいなら朝飯前か?しかし悪ぃが、此処は朝食付かねえぜ」
唇を手の甲で拭い俺を睨む、その真っ赤な頬には黒いラインが通っている。
殴る時はちゃっかり悪魔になりやがる、小憎たらしいヤツ。
「さっきから…おかしい…っ」
「何がだ?」
「変な冗談多いだろ、今日ダンテ、変だ」
俺は両腕を交差させて頭の下にで枕にし、ブーツのままの脚を組む。
ソファに横たわる姿勢は、このまま睡眠導入出来そうだ。
別に眠くも無かったが、このタイミングは都合が良い。
これで清々と別々の場所で眠れる。ヤシロも今のキスに怒って、寝床の遠慮はしないだろ。
「シャワーは有るぜ、浴びたいなら浴びてこい。で、お前はベッド使いな」
瞼を降ろして、シャットアウトさせる。事務所の修理費をまず考えたが、すぐに別の思考で押し退けられた。
クズノハは…負け惜しみだなんて、云うタイプじゃねえ。
“破滅”という単語が、あれから脳内を黒く塗りつぶしていた。
ヤシロの目的や手段の詳細は知らなくとも、此処まですんなり来てたんだ。
クズノハはクズノハで、あのジジイ…ルシファーから何か聞きつけたのかもしれない。
(危険な賭けでもするつもりか?ヤシロは)
あのサマナーだって、ヤシロを死なせるのは惜しい筈だ。
だから連れ戻しに来たのか…いや、それだけか?
確かに、人修羅に潜在するパワーは魅力的だが、クズノハの生きている間にソレが覚醒するかも分からない。
血肉を注ぎ契約を交わした…クズノハこそ、危険な賭けばかりの人生だろう。
(単純に、ヤシロの事が気に入ってるんだろうな)
それであの仕打ちとか…いじめっ子というヤツか?おいおい…案外ガキなんだな。
ガキ…?それなら、さっきからヤシロをつつきまくって遊んでいる俺は?
(ガキだな…)
だってな、クズノハとヤシロを同時に視界に入れた瞬間、嫌なイメージを浮かべちまったのさ。
サマナーと悪魔だとか、主従関係だとか、そんな事は無関係に…
ヤってるコイツ等の映像が、見た事も無いのに俺の脳内をウロウロしやがって。
「!?……ぉ」
あまりに下世話な妄想が、一瞬に両断される。
やんわりした唇の感触に瞼を即行上げれば、真っ黒…そしてチラリと金の輝き。
「眼、覚めた?」
「まだ寝て無かったぜ俺」
「不意打ちされる気分、分かったか?さっきの仕返しだ」
シャワーはもう浴びたのか、腰タオル一枚のヤシロが強い語気で吐き捨てた。
俺としては、その恰好の方が不意打ちだ。自分でけしかけた癖に、また赤くなってやがるし。
「仕返しってのは、同等か倍返しにするもんだぜ?あんな母親にするみたいなキッスじゃ、逆に眠っちまう」
「誰がそこまでするかよ」
「おい何してる」
細い指が、俺のブーツの紐を解きにかかっている。硬く結んだ玉に苦戦しつつも、片足をすぽりと脱がされて。
「ダンテもシャワー浴びろよ」
「たった一晩だぜ?それに俺は今日、一度浴びてるし」
もう片方も、ズルズルと…
「金出して貰ってるのに…それで貴方をソファに寝かしてると、俺が傲慢みたいで嫌だ」
事務所でベッドを使うのは、毎日ハウスキーパーの真似事してるからチャラって事か。
でもなヤシロ、自分が何云ってるのか解かってるのか?
「さっき…事務所で少し動いたじゃないか、汗ばんだ身体が隣に有るのは嫌なんだ」
「お前なあ…だから俺にも浴びてこい、って?」
ソコが既に傲慢だろ、この悪魔め。
しかもシャワー浴びて、添い寝しろって?
「…そんなだから、クズノハも気が気で無いんだろうな」
「どうしてアイツの名前が出るんだよ」
いよいよ胸元の留め金に指が伸びてきたので、それを軽く払って起き上がる俺。
「ああ、俺の負けだ負け、浴びるからお前は先に寝てろ」
まさか、クズノハにもこんな事して脱がしにかかる…のか?
いやまさかな、だってヤシロはガキなんだ…子供だ、子供。
そう頭に云い聞かせて、まだ濡れている黒髪をわしゃわしゃと撫でてやる。
「また子供扱いして!」と、ここで憤慨して…また腹に一発へヴィなのを見舞ってくれたら良かったのに。
視線を逸らしながら耳まで染めて、そんなコールガール顔負けの仕草で俺に云うんだ…
「本当に…本当にダンテがしたいなら、俺は…構わない、けど」
これは一体どういう拷問だ?俺とお前は半魔だが、バイじゃないだろ?
いや、これがコイツの倍返しか?ってそんなジョーク口にも出せねえ。
何か云え、返せ、沈黙は肯定になりがちだ。
幼い俺がホラーショウにビビッてだんまりしてたら、兄貴が「ふーん、楽しんでるみたいだな」とか勘違いしやがった事を一瞬思い出す。
勝手な解釈されるのが一番ヤバイだろ。歴戦のデビルハンターなら、今こそカウンターを喰らわせるんだ俺。

「……R指定、だからダメだ」

なんだそりゃ、自分で云っといて困惑した。
「…R指定?」
「お前、確か十七だろ?だからダメだ」
「…もう殆ど十八だけど」
黙らせる様に、はねた黒髪の天辺をポンポンと掌で叩く。
「人間に戻らねえと歳も取らずに、ずっと十七なんだろ?だから、キッスの続きはお前の夢が叶ってからな」
更になんだそりゃ、それは完全にノーと云ってないだろ。
じゃあ何だ、ヤシロの夢が叶って人間に戻れたら…それで今みたいな展開になっちまったら…
今度こそ断れないだろ、バカか俺は?まるでヤりたいみたいだろ、こんな先延ばし。
「あー…そのだな…別に人間に戻れたからって、強制してるワケじゃあ――」
「いや、別にそこまでしたい訳じゃないから」
ほら見ろ、バッサリきやがった。
(倍返しどころじゃねえな)
安堵か落胆か、自分でも判断出来ない感情をシャワーに流してから、タオルを巻いてベッドに向かう。
ダブルベッドの半分も埋めずに、ヤシロが寝そべっていた。
くそ…寝間着なんか用意されていない部屋がアダになった、下着一枚でキルトを掛けてやがる…
観念した俺は、その隣に潜り込む。どうして今、クズノハの顔がチラつくんだ。
「お前……あんなジョーク云うもんじゃないぞ」
向けられた背中に諭せば、無言でツノが震えていた。
だって、どこまで本気かも判らないだろ。それにコイツは、クズノハとさっき別れたばかりだ。
一時的なものかもしれないが、多分吹っ切れてない。あの男の顔を見た瞬間、また苦しくなったんだろ?
だからって、俺を使って吹っ切れられても堪らないぜ。
「……回復の…」
半分寝惚けた様な、ぼんやりとした声音が、何の前触れも無く俺に降る。
「回復の泉で、溺死って…出来たのかな」
デジャ・ヴみたいな。さっきの俺と同じ事を考えているその問いに、笑って返そうとした…
が、俺は笑うどころか、ハッと開いた口で呼吸しか出来ずに居た。
「出来るのかな?」って普通訊くだろ…「出来たのかな?」ってのは、過去形だ。
(コイツを泉に引きずり込んだのは…前のボルテクスの時だ)
(なあ、お前…本当にいつのヤシロだ?)
悪魔の心臓なのに、破れそうなくらい動悸しやがる。
胸を掻っ捌いて、煩いこいつを窓から放り投げちまいたい。
「貴方のキスって、いつも不意打ちばかりだ……」
云い残したヤシロは、やがて穏やかな寝息を立て始めた。
逆に俺は、今から眠るなんて気分じゃねえ。
ベッドのサイドスタンドをOFFにして、脳に眠れと暗示をかけるが…ダメだ。
変身したまま寝やがったヤシロが、隣でフワフワ光って仕方が無い。
デビルメイクライのネオンのケバい光と違って、眼を誘う様な神秘的な光。
確かに、こりゃ夜でもなけりゃ目立たない。
「…お前には、真っ黒い夜が御似合いなのかもな」
パティに罹っていた催眠が、たった今、俺に欲しいと強く思った。
生殺しの気分で、石鹸の薫りが混じったヤシロの匂いを感じつつ眼を瞑る。

 「救いなど無い!」

ボルテクスであのサマナーは、自身と俺にそう叫んだ。
それなら、どうして此処までヤシロを追ってきた?
人修羅が居なくたってあのサマナーなら、狭いニホンでサマナーのボスになれそうじゃねえか。

(俺と同じ事してるじゃねえか…傑作だぜ)

違う世界まで、未練がましくケツ追っかけて。
素直に云えず得物を突き立てるのさ、あの華奢な身体に。
お前も救われたいんじゃないのか?照らされる事に慣れ過ぎたか?
互いにプライドがアダになったな「Black Night」



To be continued…
*P.S.*

タイトル出オチで。ダンテ相手に強奪は無理と判断しつつ、一応引き下がるライドウ。
ダンテもライドウに挑発されたりしたり。そして生殺しの矢代…が、一番悪魔ですね。
パティ家に届けられたストロベリーサンデーは、クズノハさんからです。約束は守る男。
ダンテはライドウの名前が「夜」だと知っているのか?という謎ですが、どうでしょうか… 知っていても知らずとも、最後辺りの文章は大差無いので、どちらでも構わないと思って書いてました(ちゃんと設定決めろよ)

タイトル「Black Night」はDeep Purpleの曲。
もうこれはタイトルだけで選んでますね…歌詞もひたすら黒い夜連呼。