ヨヨギ公園の悪魔



「妖精の国、たぁ云い難いな」
鉄筋にまみれたその空間を見て、鼻で笑う。
頭のイカレた妖精悪魔共が、一帯を取り囲い徘徊する。
そこに奴等の本来の意思は感じられない。
確か以前もアイツは此処で散々飛ばされていた。
何度も同じ場所を通る辺り、結構抜けている。
“お前は落とし穴に何度でもハマるタイプだな?”
そう云った記憶が、薄っすらと残っている。
(やっぱ、相違無いみたいだな)
高台の梯子すら使わず駆け上がり、その頂点から見下ろす。
案の定、飛ばされて参っている様子の人修羅が見えた。
「フ、ちったぁ頭を使えよアイツ…」
先程から同じ様なルートを辿る人修羅に、思わず失笑。
ホルスターから、アイボリーを抜き取り
人修羅の方面へと照準を合わせる。
「下手に動くなよ?」
聞こえる筈も無い忠告をした後、ひたすらに連射する。
人修羅の動きが止まり、こちらを振り返る動作を見せたが
彼の周囲を渡された資材や鉄筋が、一面を蔽い粉塵を巻上げ妨げた。
続けて連射し、鉄筋を次々と落としていく。
轟音が響き渡る公園内に、砂埃が落ち着く頃
「これで視界良好だろ?」
アイボリーを納めて俺は独り呟く、と。
「随分荒々しい」
その背後からの声に、笑い返す。
「一直線に鉄筋が無きゃ流石に解るだろ」
「お優しい事で」
「見ててまだるっこしいんだよ」
云いつつ振り返れば、黒ずくめの少年。
相変わらず不敵な奴。
(流石同業者)
ニヤリと笑いが零れる。
「此処から鉄筋が破壊出来るなんて、どんな銃です」
そいつの疑問に、アイボリーに手を掛けて挑発した。
「喰らってみるか?」
「鉛弾は好かないので」
「偏食は母親に怒られるぜ?」
「母は居ません」
「俺と同じじゃねえか」
そのままゆっくりとアイボリーを携え、相手へ向けたが
そいつは動じる事無く佇む。
「余裕じゃないか」
「いいえ、でも慌てた所で解決に成りませんから」
「利口だな…だが、それなら何故俺を尾けた?」
「勿論、一方的に負ける可能性は高くないからです」
その言葉と同時に、その黒いマントから反射して光る得物。
俺はアイボリーを容赦無くブッ放す。
思ったよりも早い動きに、迫ってくるその姿を確認して
空いた手でリベリオンを握る。
「!」
途端その指先から、背にかけてを熱風が叩きつけてくる。
上空に跳躍すれば、足下を灼熱が轟々と覆い尽していた。
その燃え上がる地に向けてアイボリーを連射する。
軌道の逸れた身体が、高台の端へと落下していく。
「そこか?犬っコロ!」
宙返りし、先刻自身の居た後方を見れば
ひょろ長い犬の顔をした悪魔が、炎のカスを吐いていた。
それに向かって数発放つ。
すれば、宙に躍る悪魔。
銃弾に躍る身体が、手応えとして視覚に映る。
しかし、悠長にしてはいられない。
「セコイ真似しやがる」
「用意周到と云って下さい」
燃え上がる一帯の足場を点々と跳躍し、斬りかかって来るサマナー。
俺の文句を気にも留めずに、刀を煌かせる。
リベリオンでそれを払い、刀身を折るつもりで叩きつけてやったが
意外な事にその刀は軋む音すら立てなかった。
「どんな名刀だそりゃ」
ヒュウ、と口笛を吹き問えば
サマナーはギラつく眼で答える。
「結構血を吸わせましたからね…っ」
「へぇ…おれの剣と、どっちが多く吸ってるか、な!」
力でごり押しして、向こうへと吹き飛ばす。
燃え立つ地に転がるサマナーに、追い討ちエボニーを撃ち込む。
確実に一発見舞ってやるつもりで、精度の高いエボニーにした。
その一撃はサマナーの肩に当たった様で
焔の揺らめく地面に赤い斑点が残る。
だがしかし、撃たれ続けるハズも無く
サマナーは即座に立ち上がり、光を撒き散らす。
(召喚か?)
少し構えて様子を見れば、辺りを薄っすらと暗く陰らすソレ。
「ハデじゃないか!」
戦いにおいて、賑やかなのは好きだ。
瞬時に現れたその、巨大な蜘蛛に飛び乗るサマナー。
「振り抜け!!」
『掴まっておれ!ライドウ!』
巨大蜘蛛は云われるとおりに、その鋭利な脚先を
俺に向けて振り下ろしてきた。
迸る衝撃が、細かい裂傷を肌に作る。
当然俺の身体なので、それらは瞬時に塞がっていく。
一定以上の深さでも無ければ、瞬く間に治癒する。
我ながらこれはやっかいな身体ではないか、と思う。
数回に亘り繰り出されるその蜘蛛の脚に
横っ飛びしつつ隙を窺う。
だが、足下の揺れに別の要素を感じる。
(次の一撃で崩れるか…)
そう思っていた矢先、蜘蛛の脚が俺に向かって振り下ろされた。
それをギリギリで避けた瞬間に、がくりと視界が動く。
燃えながら、足場がうねり出す。
衝撃に耐え切れずに、いよいよ高台が崩落し始めたのだった。
「お前も充分荒いじゃないか!」
笑いながら俺は、その重力に従い落ちゆく瓦礫を足場に
共に落ちている蜘蛛の頭上まで移る。
銃を抜くサマナーに、リベリオンを叩きつける。
てっきりそいつの肉を抉ると思っていたが、リベリオンの刃先は
サマナーが上げさせた蜘蛛の脚で受け止められていた。
飛び散る蜘蛛の体液が、俺の頬を濡らす。
「仲魔遣いも荒いなァ!?」
云ってやれば、哂うサマナー。
俺は一旦飛び退き、ようやく地上に降り立つ。
大量の瓦礫が、高い位置まで砂塵を巻き上げて互いの姿を眩ます。
(…何処だ)
これに紛れぬ手は無いハズ…俺ならそうする。
リベリオンを肩に担ぎ、空いた手にアイボリーを握る。
暫くして、ほんの…ほんの微量な空気の振動が、俺の肌を撫ぜた。
振り返り、リベリオンをやや下側に向け大きく
だが素早く振りぬく。
「ぐうッ」
軽い悲鳴。
その剣圧と、見事にヒットしたサマナーの身体で
辺りの砂埃が掻き分けられ、視界が開ける。
「BINGO!」
まさに大当たりってやつだ。
俺は嬉々として、その斬り付けられたサマナーに
地を蹴り駆け寄った。
もう一撃、振りぬいたリベリオンを両の手に持ち直し
そのまま上から振り下ろす。
「ふ…っ」
「力じゃ人間に負けると思っていないが?」
刀で食い止めているが、それを無理矢理押していく。
体勢を戻しきる前に、そう持ち込まれたサマナーは
片膝を付いて、震える刀身で何とか受け止めている
といった感じだ。
「人間にしちゃ力の使い方は上手いがな」
「お褒めに与り光栄です」
この状況下で嫌味のひとつも吐ける辺りが、人間らしくないが。
「確かに、お前は強いぜ、クズノハ」
俺はそう云い、両手で握っていたリベリオンを片手に持ち替える。
しかし入れる力はほぼ変わらず、その事実にサマナーが強張った。
「ま、そう云うこった」
その空けた手にアイボリーを携え、銃口をサマナーに向けた。
即座に顔を背けるサマナー。
銃声と共に、その白い頬に赤い裂傷が奔る。
この位置では鼓膜が破れたのでは無いかと思ったが
どうやらこいつの身体は、常人より頑丈らしい。
だが、至近距離での発砲で流石に身体を崩すサマナー。
俺はそれに乗じて押し倒し、ブーツソールで刀身を地に縫いとめた。
刃の横からされては、切れ味もクソも無いだろう。
「そこの蜘蛛ちゃんも、引っ込んでな!」
エボニーを更に引き抜き、二丁で交互に連射する。
未だ薄っすら立ち昇る砂塵の向こう側に。
『狩人めが…!!』
バッ、と掃われた砂の幕が、巨大な蜘蛛の姿を見せた。
だがそれは、俺の愛銃の鉛を沢山肌で喰った状態。
俺に向け振り上げた脚は、無意味な方向に逸れて崩れ落ちた。
「ハッ、悪魔はおネンネしてな!」
それを見届け、ホルスターにエボニー&アイボリーを回し納める。
「さて、どうしたもんかね」
リベリオンの刃先を、組み伏せたサマナーに添わせる。
「…」
黙って、見上げてくる葛葉ライドウ。
その眼に恐怖が無いのが、異様だった。
「ヤシロの方がまだ普通の反応するぜ?お前一体どういう神経してんだ?デビルサマナー」
「…そんなに強くて、何故彼を思うようにしないのですか?」
その疑問に、俺は軽く笑った。
「俺が強かろうが、あいつが創世するんだ、そんなの関係は無い」
「あの、車椅子の老人…」
「ああ、アイツな」
リベリオンの柄を握り直し、サマナーの脚元に刃先を持っていく。
「俺、アイツにだけは攻撃が通らねぇんだよ」
「…どういう」
「さあな?違う次元の悪魔だし、ヒエラルキーってやつじゃないか」
もうそんなのとっくに試したさ。
あの堕天使、俺の攻撃が通りゃしねえ。
まあ、向こうから俺に干渉する事もままならぬらしいが。
「お陰でヤシロは自身で何とかするしかなくなったのさ」
リベリオンの切っ先を、脚の筋に沿ってなぞらせていく。
「俺が半分悪魔ってのは知っているらしいな」
「ええ」
「悪魔ってのは残酷なもんだぜ?ま、人間も考える事ぁ残酷だが…実行に軽々しく移せるのは悪魔の特権だな」
「へえ、だったら見せて下さいよ?」
この期に及んでその減らず口に、俺の心がざわついた。
久々に、変な高揚を覚える。
「ヤシロは場合によっちゃ俺が仕留めるが…その獲物をあまりいたぶってくれるなよ?」
ジリジリと、切っ先をその脚に呑ませていく。
黒い布地が、色濃く湿る。
錆のような香りが鼻孔を衝くと、そわりと魔力が胎動した。
最近では体感する事も無かった、狩りの感触。
久々に仕事をしている様だった。
「別に、止めろと云えば止めてやるが?」
見下ろし、そう告げる。
するとサマナーは口の端を吊り上げ、云った。
「Don't fuck with me!」
いきなりそいつの口から吐かれた地元のスラングに
一瞬何者と対峙しているのかすら忘れた。
此処がボルテクスという事すら、頭から吹っ飛んだ。
「流暢じゃねえか、ジャップが一丁前に」
お返しにこっちも侮辱する単語を吐く。
更に、刃先を突き立てる。
加えて空いた脚を胎に乗せれば
ブーツの泥が、サマナーの学生服と思わしき服に付着する。
「ヤシロは…お前の玩具でも何でも無いんだよ…」
「貴方の玩具でも無いと思いますが?」
「うっせえな」
ブーツのソールで、頬の裂傷をぐずぐずと抉る。
流石に眉を顰め、食い縛るサマナーを見て
自然と笑みが滲む。
「お前がヤシロに似たような事するのは、分からんでも無いが…駄目だ。これはR指定だからな」
「…僕も、指定にかかりそうな齢、なんですけどね」
息を浅く吐くサマナーの、その台詞に少し驚く。
そういやこいつ、戦ってて忘がちだったが…
ブーツをそのまま額にずらし、帽子のつばを蹴る。
ぱさりと帽子が掃われ、サマナーの顔がカグツチの光に曝された。
「確かに…ガキだな」
帽子で陰っていた相貌は、いざ眼にすれば思っていたよりは幼い。
いや、ヤシロに比べればかなり大人びているが。
(全く、何故俺の周りにはネロやらヤシロやらガキばっかり…)
そんな事を思いつつ、サマナーの脚からリベリオンを引き抜いた。
「っ…」
肉の裂ける感触に、サマナーの顔が歪む。
「お前がヤシロをどうしたいのか知らんが、俺はあいつ本人から依頼されてんだよ、殺せってな」
「それは、前の彼でしょう」
「同一人物だ」
「クク…貴方が一番、違いを感じている癖に」
嘲笑うかの様に、指摘される。
その哂いが、酷く残虐な方へと駆り立てる。
「あいつを使役したがるお前よりは幾分マシってもんさ!」
その首を、締め上げる。
柄を握る指を、踏み躙り、指をばらけさせ
刀を取り落とすまでソールで抉った。
それを確認すると、落ちた刀を蹴り遠方へと放る。
辺りの瓦礫に当たって、渇いた音が響いた。
そしてサマナーをそのまま絞め上げ、頭上へと持ち上げる。
両手を、俺のその締める手に持ってくるサマナー。
その痙攣する指先だけが、人間らしい。
「最後にもう一度聞こう、止めて欲しいか?」
「…く…ふ、くくくッ」
何故こいつは哂っているんだ。
悪魔でも人間でも、どちらの感覚でも理解不能だ。
「やれやれ、人間は狩らない主義なんだがな」
指先に更に力を入れる。

「ダンテ!!」

その声に、弾かれた様に其方を見る。
サマナーも、視線だけで同じ方を見た。
タトゥー姿の少年悪魔。
見慣れたあの姿が、そこに居る。
「…ヤシロ」
「ダンテは、デビルハンターだろ…?そいつは悪魔みたいな野郎だけど、一応人間だ」
サマナーを見て、一瞬眉を顰めたヤシロ。
「なあ、ダンテ、俺を殺すんだろ?だったらさ、そんな奴放っておいて…追って来いよ」
引きつった笑いを浮かべて、そう続けるヤシロ。
挑発のつもりか。
「そんな奴殺して、肩書きに傷付けて良いのか?」
お前、このサマナーを庇っているのか?
いずれにせよ、俺はヤシロの為に、という名目で
既に前回殺しているだろ、人間を。
色々な思いが脳裏を過ぎったが、今はあえて振り払った。
「じゃあ、鬼ゴッコ再開といくか?」
そう云う俺に、身体を強張らせるヤシロ。
魔力がその姿に漲る。
「10カウントで…スタートだ!」
ニヤリとして叫べば、途端に踵を返して走り出すヤシロ。
俺は手を弛め、サマナーの耳元で云う。
「じゃあなクズノハ、お前…少し俺の兄貴に似てるぜ」
そのまま瓦礫の山に放り、投げ棄てた。


すぐに追いついてしまうので、俺は少し抑えて走った。
背は見えているので、見失う事は無い。
扉に入るヤシロを見届けて、俺は何となく嫌な予感がした。
ココ、見覚えがあったんだが…
思いながらも、そのまま続いて入る。
「おい!なんだその男は!!」
入るなり自分に投げられた言葉。
見れば、対岸に居るのは…マネカタ。
確か、サカハギ…とかいったっけか。
傍を見れば、人修羅ヤシロ。
「ダンテ、とりあえず俺を殺すのは、この人を何とかしてからにしてくれよ」
「お、お前…」
確信犯、というヤツか…
俺は体よく利用されてしまった、という事だ。
「な?」
「…しょうがない奴だ、本当!」
背のリベリオンを回し構え、俺は前回を懐かしんでいた。
勿論そんな事は誰にも云えないが。


…こうして死んでいくサカハギを見るのは、二回目だったが
このマネカタの云っている事は賛同出来なくも無い。
まさに、人間やら悪魔の欲を体言した様な存在だ。
綺麗言ひとつ云わずに死んでいく辺り、潔いか。
「なんでお前、悪魔なのに…くそ…っ」
「…俺は、半分人間だし、貴方みたいな凶暴なやり方は好かないです」
答えるヤシロ、ほぼ前回と同じ。
「そっちのお前も、悪魔なんじゃ…ねえのかよ」
俺に向けられたその台詞に、俺も前回と同じに返す。
「半分は当たりだ」
笑って返す俺に、血反吐を吐いてサカハギは呟く。
「なんだぁ全くよ…人間どころか悪魔まで信用ならねえとは…どんな世界になったって、変わらねぇ…の、か」
前回も思ったが、その最期の言葉に引っ掛かる。
もしかしたら、前世の何かがそうさせているのか、と。
俺にしちゃ浮いた考え方だが。
「しっかし、お前…まさか今回こんな形でそのマネカタと戦うとは思わなかったぞ」
ギリメカラなんて、魔力解放して魔人化した位だ。
何せ物理が効かないのだから。
「少し覗き見て、態勢を整えてから行こうと思って引き返したら…ダンテ達が居たんだ」
「…で、俺を呼び込んだと」
「悪かったよ」
「俺が今からお前を殺すかもしれないのに?」
そう云えば、ヤシロは静かに笑う。
「なら殺す前にさ、色々教えてくれよ、前々回からの俺の事」
「…」
「どんな風に逢ったんだ?性格に違いは在るのか?」
「…」
「ダンテとは、普通に会話してたり…したのか?」
俺は、眼を閉じ息を吐いてから断言した。
「それは云いたくない」
その宣告に、笑顔を消すヤシロ。
「理由を教えてくれよ」
「…お前に云っても、無意味だからな…」
「何だよ、無意味とか…冥土の土産にくらい、良いだ…」

「あのヤシロは、俺の中だけに留めておきたいんだ」

その俺の台詞に、眼を見開く、今回のヤシロ。
その眼の光は、どの彼も同じだったが。
少しよろめく様に、後ずさるヤシロに
俺は手を下す事もせずに、ただ見つめていた。
「そう、か…」
まだ、まだ後ずさる。
「じゃあ、俺は…やっぱり、まだ殺される気にはなれない…!」
そう云い残し、扉を開け放つ。
その背にリベリオンを投げ放ち、突き立てた…
つもりで…閉ざされた扉に、それをした。
額に掌をあてがう。
(どうして、今回も無理なんだ…)
あの姿を見ると、あの静かな笑みを見れば思い出す。
そうすると、意志が揺らぐのだ。
「完遂出来ないとは、これは仕事も来ない訳だな」
そう独り言を云い、扉に刺さったリベリオンを抜き取った…



『ラ、ライドウ…大丈夫かお主』
「ええ、そこまでヤワでは無いですから」
傷口を回復してもらい、服を正す。
あの悪魔狩人、かなり手加減していたな…
それが頓着に思え、少し腹立たしいが。
「それに面白い事も聞けましたし」
『何を聞いた?』
「あの悪魔狩人の攻撃が、僕の依頼主に通用しないという事実です」
『それは意外な…して、どの様に捉える?』
「あの依頼主、余程上の悪魔という事ですよ」
鎌をかけたのだが、これは正解だった…
口元の綻びが抑え切れぬ。
傍のゴウトが、そんな僕を見て呆れている。
そんな毎度の流れに、横切る影。
「…功刀君」
かなり遠方から、駆けて来る彼が見えた。
あの狩人は居ないのだろうか?
場合によっては身を潜めるが、その必要は無さそうだった。
そのまま此方を無視し、違う方面へと通過して行く人修羅。
「泣いているの?」
その背に、そう問う。
ぴたりと止まる彼に、確信を得た。
「悪魔狩人ダンテに、泣かされた?」
くすくすと哂って、そう続ければ
「あんた、いつまでそこに居るんだよ」
そう、背を向けられたまま返してくる。
「なあ功刀君、誰も君を救えはしないんだよ」
僕は言葉で彼の心を穿つ。
「君がもう、痛いほどに解っているだろう?」
「知るか…」
「僕は救うつもりは無いが、責めはしないよ。君という存在に興味があってね…最後まで見ておいてあげるよ?」
少し優しくそう云えば、震える彼。
「葛葉ライドウ…俺はな、絶対完全な悪魔にはならない!」
そう吐き棄てて、風の如く去っていく。
僕はその小さくなっていく後ろ姿を見て
確かな思いを抱いていた。

この葛葉ライドウが、その輪廻を断ち切ってやろう
使役という契約において。

「ふ…くく、あはははっ」

僕の笑いが、バリケードの公園内に響き渡った。



ヨヨギ公園の悪魔・了



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