静まり返る空間
此処には、ただ二人
悪魔召喚師と
中途半端な悪魔
使役する側
される側
そう、そこにそれ以外の関係は無い
今から始まる遊戯は…
途中で降りる事など不可能
喰い合いに勝つ為に使役するのだ
喰い合いに勝つ為に喰わせるのだ
届かぬ様で届いている
カグツチが煌々と、血肉を沸かせる
使役印
「よく来てくれた…」
「来させたも同然だろ」
その侮蔑混じりの声に、僕は妙に満足していた。
ゆっくりと、彼に近付いていく。
警戒して、拳に力を込める様を見た。
「どうだった?指には金色が在った?」
僕の声に、その拳が握り直される。
「…在った」
「そう」
「…光っていた、あの時と同じように…」
今の君の眼の様に?
そう聞いてやりたいのを抑えて、続きを待つ。
「俺にマガタマを呑ませた、あの小さい手がしていた…金色っ!」
震えながら、その拳を床に叩き付けた人修羅。
床にめり込むその拳が、仄かに赤く光る。
「何故」
ぼそり、と地の底から這う様な声音。
「何故俺だったんだ…」
この世の全てを憎むかの如く、穿った床を指で掴む。
「何故俺に呑ませた!!何故俺がっ!!」
床を殴り、まるで駄々っ子の様なその姿。
怒りに任せて魔力を滲ませる。
僕は彼に更に寄り、ホルスターから抜いた銃を向けた。
「煩い」
一発、その振り下ろされていた拳に見舞う。
「は、っああっ」
それでも、振り下ろしきって床を砕いた拳。
弾丸の埋まった肌から、斑紋が紅く光る。
水路を水が伝う様に。
「床に恨みでもあるのか君は」
「っは…っ…はぁ…」
「今から肌を荒れさせる事はしないでくれ給え」
「は…っ」
「触り心地が悪かったなら、酷くするよ?」
僕のその言葉に、奮わせた拳を開いた彼。
僕を下から睨みつける…それこそが正しく金色。
相変わらず、とても良い眼だった。
「解ったのなら、大人しくしてくれよ…」
少し屈み、彼の手の甲に指を重ねた。
一瞬ビクリとした彼を気にせず、僕はその甲に打たれた楔を抉り出す。
「ひぎっ…」
「中に在るままだと邪魔だろう」
「自分で…」
「僕の弾だからね」
クスクスと、哂いながら抉っている僕を見る彼
その眼が語る。
“確信犯”と。
「ねえ、使役されるにおいて…知っておきたい事は在る?」
「…本当に」
「なんだい?」
「本当に、あんた…何でも使役出来るんだろうな」
「フフ、君と僕の働き次第、かな…」
「どっちが降りても、破滅…ってか」
「その通り」
彼の眼が、悔恨にも野望にも滾っている。
その姿…人と悪魔の狭間で、いつまでも揺れている。
僕の追い求めていたモノの形。
僕を殺すと云う、それが…
僕に縋るしか無い…ボルテクスという迷宮。
そう…これは脱出の為の共謀。
内緒の話。
命懸けの口約束。
「深い所まで刻み込むよ」
そう、彼は管に入らぬ。
もはや呪いと云っても相違無い手段で、この内に契約を結ぶ。
先刻の…眼から入るのとは訳が違う。
彼の首筋に指を置く。
震えが見事に伝わってくる。
俗っぽい発想が浮かんでは消えたが、一応確認したかった。
「ねえ、あの男とはどの辺りまで致したの?」
その僕の発言が気に喰わなかったのか、弾かれた様に此方に顔を向けた人修羅。
「触られただけだっ!!」
「接吻は?」
「…っ…さ……れた」
あの男、と云っただけで認識しているのだ
どうやらあのターミナルに居た男以外に経験すら無さそうだ。
あとヤクシニーに翻弄された程度だろう。
「そう」
云い終わるや否や、僕はその怒りに震えた彼の唇に咬み付いた。
「は…ぐっ」
急な動きに、眼を見開いた人修羅が小さく呼吸を漏らした。
動かぬ舌を、探って舐める。
赤く染まった手で、僕を押し退けようとしてくる…が。
その手を逆に掴み、弾丸で開いた穴を指で抉る。
「〜っう!!」
ビクビクと指先を動かして、眼を忙しくまばたかせる彼。
塞がりかけていた穴を開くその行為に、呼吸が荒くなっている。
その息を呑み込む様に…僕は唇を外す事はしない。
「うぅ!うううっ!!」
もがく彼は、捕られた手を振るいながらも
脚をばたつかせる。
その脚に、僕は脚を絡めて押し倒した。
もんどりうって、床に二人して傾れ込む。
穿った床が背中に痛いのか、彼は更に暴れて脚で蹴る。
その背に無理矢理指を入れて、互いに床に横向きに転がった。
「っはあッ!!〜ッ、ごぼっ、ごほ…ッ!!」
その反動で、唇が離れて彼が呼吸を再開する。
咽て、背を丸めている。
そんな彼の指を掴んだまま
僕は俯かせた顔を覗き込む様に、頭を動かした。
「今まで一番多く接吻したのは誰?」
「げはっ…はぁっ…っは………か……母さん、だろ」
「どうだか」
その、彼の中の砦と思われる存在。
彼の意地と甘えが見え隠れする発言を、哂って流した。
「君の胎の底に呪いをかける…」
「は…っ…、ま…まじない…?」
「いいや、のろい…と云うが正しいかもね」
使役契約と云う名の鎖に繋がれるのは君だけでは無い。
同時に繋がれるのは…
僕。
「もう覚悟は出来ているのだろう?」
「お…いっ、待てよ」
僕の脚を、蹴る様にして声を張り上げた人修羅。
「あんた、全ての悪魔とこうやって契約してんのか」
「いいや、しかし君は管にも入らぬ上…逃げれぬ様に強い印を結びたいからね」
「はん、怪しいもんだな…」
まるで下種を見るかの如く、薄く嗤った表情で僕を見返してきた。
「悪趣味なあんたの事だ…ただ、こういう事がしたいだけじゃあないのか…」
僕に反骨しての、強がりだったのか。
彼はわざわざその様な話題を出す風ではない。
そんなにまで、認めたく無いのか…自ら赴いた事を。
(墓穴…相変わらず浅はかな奴)
癪に障ったので、僕は笑顔で返してやった…
「そうだね」
「え…っ」
「君、悲鳴は好みだし、その反抗的な視線も駆り立てるものがある…」
「な、何云ってんだあんた」
「柔い肉ばかりで飽いていたところだし、趣向を変えてみるのも一興…だろう?」
「な、お、おい!俺はそんな趣味」
「馬鹿だな、僕とて衆道の気は無い」
「だったら何故!!」
慌てて、血走った眼で僕を押し退ける彼…
僕はゆるゆると立ち上がり、慄く彼を見下ろし…
その熱に、冷水を被せる。
「その心に深く刻めば、僕の存在は君の中で強くこぞむだろう?」
「は…」
「君を懐柔して肌を開かんとするこの僕を…主人とする君のこれからは…さぞかし鬱屈とするだろうな」
「あ…」
「だが、此処で僕を殺してみ給え…君の今回の苦しみは、無意味に終わり…次の君へと継がれる…ただそれだけの事」
「悪魔っ!!」
褒め言葉
「どうせ結ばれるのなら、愉しむべきだろう?」
「ひっ」
「刀傷より痛かろうね…」
その、心を抉るのは、僕の身体。
この先の罪を共に歩む、主人である僕の…
「嫌なら眼を瞑ってい給え」
せめてもの情けに、助言の如く伝えた。
しかし、視えぬ程…鋭敏になる可能性を、教えるつもりは無かった。
「どうしたい?良くなりたい?吐き出してからして欲しい?」
哂ってたたみ掛ける僕に、彼は混乱しながら後ずさる。
殺してはいけない、今此処で僕の気を変えさせるべきで無い。
しかし、これから犯されんとする精神は、崩落しつつあるのだ。
「やだ、嫌だイヤだっ!何故こんな方法しかっ!」
「説明したろう」
「なんで俺ばっかり!!」
「さあ?」
そんなの考えるまでもない。
強大な畏怖すべき力が…柔くて薄い肉に詰まっているから…だ。
それを喰い破って、浴びたい有象無象共が君を襲うのだ。
そう
僕みたいな。
「もう触るな!余計な事しないでくれっ!この変態野郎!!」
叫び散らす煩い人修羅に、革靴を鳴らして寄る。
「触らずにどうして懐柔出来ようか?君は想像力が無いのか?」
嘲笑えば、君はその眼を僕に向ける。
そう、それで良い。
その眼から、沢山の僕を呑み下せば良いのだ。
どんな情だろうが、君を染め上げる一端を担えば良い。
その爪先から天辺までをね…
僕への憎悪とマグネタイトで満たすのだ…
触れれば弾けるくらいに、ひたひたと満たすのだよ。
僕の生で、僕の精で。
「ひ、卑怯者…」
もう、そんな言葉しか発せれぬのか。
彼は部屋の端に追い詰められて、その壁に伝う様に立ち上がる。
あの辺りでは、ゴウトに悲鳴が聞こえそうだったが
大事な話は大体済んでいたし、それに…
彼の悲鳴なら、聞き慣れているだろう。
(まあ、今回は色が入ると思うがね)
暗い笑みが、僕の欲を発露させている筈。
それを見て、人修羅は僕から離れようとするのだ。
「ねえ、功刀君…」
壁と僕に挟まれて、人修羅は震えていた。
僕を見上げて、拳を振り上げた、が…
「…う、う…っ」
「上出来」
僕の顔…寸で、止まっていた。
恐らく、もう道を決めたのだ…
それを理解しながらも、動く身体。
彼の中は、混沌としていた。
「好きにしてしまって良い?」
ホルスターから取り出した銃を、彼の薄く開いていた唇に突っ込む。
「ふぐうぅッ」
「ふふ…僕のが咥えたかったらそう進言して?」
しかし、僕としては銃器が彼の口を出入りする方が興奮する。
死の境界線と隣り合わせのそれを咥え込む姿程、興奮するものは無い。
自分の身体に興味など無い、僕は喰らう事にしか興味は無いのだ。
そうして愛銃の筒を突っ込ませたまま、彼の胸に指を撫ぞらせる。
「うう〜ぅっ、う…」
拒絶したいのに、どう動いたら良いのか分からぬ君が哀れで
僕は哂いが零れて仕方が無かった。
「薄い肉…」
馬鹿にして、その斑紋に紛れた突起を摘む。
「あ、ぐ…っ…」
銃から、ガチガチと震えが来た。
いや、食い縛っている…が正しいか?
「よくもこんな破廉恥な格好で闊歩できるね君…」
「は…」
「ふふっ、悪魔なら着衣は必要無いかな?」
「ん!んんんッ!?」
銃で篭もった叫びを無視して、空いた手をその唯一の着衣に忍ばせる。
下着の感触を通り越して、その肉を触る。
「…っ」
居た堪れなくなったか、彼はぎゅっと眼を瞑った。
それを確認して、僕は指先で彼の萎縮したそれを掴む。
強張る彼、だが声は漏らさぬ。
「改めて自己紹介しようか」
突然の僕の発案に取り合う余裕も無いだろう。
一応結ぶのだから…必要だろうかと思い、僕は続けた。
例えば、婚姻するのに互いを知らぬ者など普通は居ないだろう?
それと同じ…
「僕は葛葉の里にて襲名の儀を経た後、十四代目の葛葉ライドウと成った…」
真面目に語りつつ、僕の片手は酷く淫猥だ。
「“何故”など考えた事は無いに等しい…それが、僕の星だったと思い生きてきた」
「っふ、あ、ふ…っ」
「悪魔は皆、素直だ…欲望にね」
「ふ〜っ…ふぅうッ!うぅ!」
背後の壁を、爪で引っ掻く人修羅。
ちら、と見れば…顔は赤く、眼は潤んでいた。
僕の指まで、銃から伝ってきた唾液で濡れそぼる。
眼下の斑紋が、光る度に涙に見えた。
「そんな表情も出来たのだね」
「うう…うぐっ!」
「僕はデビルサマナーで良かったと、今思っているよ」
「がはぁっ!!っ…っ」
銃をぐぽりと引き抜いて、ホルスターにしまう。
しとどに濡れたそれは、ホルスターを湿らせていく。
「呑んで良い?」
「!」
「良いよね?どうなの?ねえ功刀君?」
ずるりと、着衣を下着と一緒に剥いた。
流石に勃ち上がったソレは、外気に曝されてヒクついた。
「必要無いだろっ!!」
慌てて叫んだ彼の怒声を無視して、舌でひと舐めした。
「ひっ!!」
初めてだろう、その刺激が彼の悲鳴を紡ぎ出す。
「精には魔力が無い訳無いからね…折角なので頂くよ」
「てめぇッ…」
「食い千切られたくなかったら、黙って出せ」
鋭く言い放った僕の声音に、ビクリとした様子。
それを確認した際には、既に僕は咥え込んでいた。
慣れたものだ。
彼の大して立派でもないソレは尚更…楽である。
「お、かしい…っ」
人修羅は、両の手で顔を覆った。
「おかしいおかしいおかしいっ!!!!」
振りかぶって、仰け反る。
「は…あっ、あっ、あっ」
段々と、艶めいてきた声。
戦っている時や甚振っている時の悲鳴と、どちらが高揚する?
…意外と…
「や、だ…!?嘘だ!!いや…っ…イヤだぁ…あっ、あっああ〜ッ!!!!」
こちらが強いかもしれない。
溢れる熱。
生臭い魔力を舌に感じて、僕はほくそ笑む。
嚥下するその喉に、縋りつく様に残る残滓。
「ふぅん…熱い…」
少し指にかかったそれを、僕はぺろりと舌で掬い舐めた。
苦味と同時に、ピリっと奔る魔力。
流石に血の方が濃いが、これも悪く無い。
「ふ…ふぅうう…えっ」
放心して、壁にずりずりと背を滑らせていく人修羅。
顔は手で覆ったまま、嗚咽していた。
肩を震わせて、その姿は凶悪な力を秘めた悪魔にはとても見えない。
「功刀君、そんなに恥ずかしかったの?」
わざと、声に出して問い詰める。
指の隙間から覗く眼が、僕に向いた。
「クク…生娘のつもりかい?」
嘲笑すれば、その眼が強く光った。
「覚えてろ…葛葉…ライドウ…」
ぼそりと呟かれた言葉は、甘美な種となって僕の中に落ちる。
そう、それで良い。
それが正しい。
「ねえ、君の自己紹介は?」
人修羅を、無理矢理壁から引き剥がして
部屋の中央へ放った。
脚に絡む着衣が彼の自由を奪って、彼はそのまま地べたにくしゃりと崩れる。
「歳は?学生だろう?家族は?」
その崩れた彼の両手首を掴み、動きを封じた。
顔を曝す羽目になる人修羅は、すぐ横を向いた。
僕はそれが気に喰わなくて、一度放した片手を使って頬を引っ叩いた。
こちらを向く様に、しっかり反対から。
「…」
「…」
何故か互いに、悲鳴も笑いも上げず。
まるで予定調和。
だが、その組み敷いている人修羅の表情は
間違い無く僕を揺さぶっていた。
金色の強い光から…雫が流れていた。
別に彼の涙を見るのは初めてでは無いのに。
打たれた頬を赤くして、僕を泣きながら見上げるその顔は
憎しみと困惑と…僕を探るような何かが潜んでいた。
(どうしてだ)
鼓動が撥ねる。
苦しい。
痛い、心の臓が…軋む…!
「やはり、必要無い…な」
僕は、苦しさを紛らわす為に一層強く
その手首を掴む。
「君のこれからは、僕がどうせ作るのだから」
そう、自己紹介は必要無い。
どうせ僕の悪魔に成る。
僕が呼べばそれが名に成る、僕が与えればそれが人修羅の一部と成る。
彼とて、最期の刻まではそれを諦観している筈なのだから。
「股を開けろ」
下卑た云い方で、彼の内面から苛む。
「葛葉ライドウ…」
まるで死んだ様な人修羅は、その薄く開いた唇から僕の名を呼んだ。
「何」
「あんたは…なんで俺を甚振るのが…そんなに好きなんだ」
突然の質問に、僕は揚々と答える。
「強い君を服従させるのが快感だから」
「俺は、果たして強いのか?こんな事されるがままで…あんた、本当にそれだけ?」
「何が…云いたい」
「俺が強いって幻想を抱いて、その俺で遊びたいのか?」
「…!」
「葛葉ライドウって仕事、そんなに鬱憤溜まるのかよ?…フ、フフッ」
瞬間、沸騰した僕は考えるより先に、拳で人修羅の頬を殴りつけていた。
「ぐ…ぅ…っ、げほっ」
「…」
「ふ、けほっ…フフ…なあ、人修羅とどっちが大変?」
「…さあ?どうだろうね?」
「がっ!!」
もう一発、反対の頬に拳をくれてやる。
既に唇の端から赤く滴っている彼は、ゆっくりと僕に向き直った。
「っは…はぁっ…そ…それとも……“夜”って呼べば優しく、なるのか?」
まるで抉る様なその笑みに、吐き気をもよおした。
まさか僕の名を…この時に呼ぶとは思わなかった。
そして、まさか組み敷かれつつ嫌味を云うとは…
「優しくして欲しいのなら媚びろ」
そう云い、苛立ちと共にもう一発喰らわして
僕は着衣を彼から完全に剥がした。
呻いた人修羅は、身体を折って脚に力を入れていた。
流石に人間の僕に殴られても、それなりに痛いのか…
「愛で僕を絆せると思うなよ…浅ましく求めればそれなりにしてやる」
僕のその言葉に応えるかの様に
人修羅は笑った。
笑って、ぷっと僕に血反吐を吐き掛けた。
熱い…赤い光を帯びた、鉄臭い魔力。
それが頬を伝って、僕の首筋を伝っていく…
「いつかぶっ殺してやる…」
侮蔑の笑顔で云う彼は、既に壊れているのか?
それに笑顔で覆いかぶさる僕と、良い勝負か?
「いつかが来れば良いね」
僕は、嬉しかった。
彼なら…僕に付いて来れる。
僕の闇を呑める。
喰らい付いて、放さないで…
「ひぎぃあああああッッ!!!!」
指で、人修羅の後孔を裂いた。
痛みにのたうつ彼を押さえ込んで、更に指を進めた。
「ぁ、あぐ…う、うげぇっ」
その感触が生理的に致命傷を与えたのか
人修羅は空っぽらしい胃から液を吐いた。
「は……っ、はあ…あっ、気持ち、悪い…気持ち悪いっ!!」
叫ぶ彼に、僕は耳元で囁く。
「もう排泄もしないのだから、専用の孔にでもすれば?」
「っ下種、野郎…」
「淫靡な悪魔も多いよ…君もそれの仲間入りをすれば?と云ったまでだ」
血で、ギシつく滑りを宿した彼の直腸に
僕は様子を見て前を寛げた。
その予感にか、人修羅は押し黙る。
「長く愉しみたい?早いのが好き?」
僕の意地の悪い問いに、戦慄きながら吐き棄てる。
「さっさと終わらせろっ!」
「早漏でも無いのだがねえ、印も結ぶし」
「終わったらあんたとは距離を置いて動く!絶対だ!この変態!畜生が!」
怒っているとはいえ、彼にしては随分と言葉が汚い。
相当怖いのだろう…
そう思えば、僕はそれとなく勃ち上がる自身を感じた。
喰らう準備はもう出来ている。
「くす…くすくす…」
僕はこの依頼を受けて、本当に良かったと思っている。
そう…手に入れたから。
ひとまず、手中に収めた。
混沌の悪魔。
その悪魔の彼に…己を突き刺して、中に注ぐのだ。
中身を造り替えてやる。
あの堕天使の駒にするには…勿体無い。
僕が育てよう。
教え込もう、未だ未熟な彼に。
「痛いいぃぃ!!!!」
口を開き、苦悶の表情で泣き叫んだ。
まだ、少ししか入っていないのに。
「ねえ、まだ足りてないだろう?」
「開くッ!傷がああッ」
「開いて裂いているのだから…当然、だろ…っ」
狭い道…を、押し開く。
熱い、灼熱みたく…比喩なんかでは無い。
魔力が絡み合って、僕を焼く様だ…
額に流れるのを感じる。
なんだ、僕は汗を流してるのか…珍しい…
「もうイヤだあッ」
「僕はイイよ…人修羅の…魔力……硬い肉は、微妙だけどね」
指先を噛み潰し、その自身の血を…彼の臍に滴らせた。
「………」
契りを交わして、結ぶ。
呪詛の言挙げは、誓いの印。
彼の魔力が…僕に向かってきている。
同時に…僕のマグが…吸われ始める。
肌を通さずとも、ゆるやかに…水の様に。
(ああ、なんてアツイ魔力の坩堝)
思わず、外套を剥いだ。
学生服の、シャツの胸の釦を外す。
ホルスターを、管を床に投げ捨てる。
額の雫が気になって、帽子を背後に放った。
脚先を躍らせて、靴を靴下を床に擦り付けて外した。
人修羅と繋がったままズボンを脱ぎ捨てた。
下着など、既に一枚の布として解れていた。
(アツイ…とても)
一糸纏わぬ姿で、互いに。
獣みたく、絡み合った。
こんな…悪魔の巣窟で、本当に丸腰で。
馬鹿みたいだが、此処は悪魔の姿を見ない…
仕組まれて、傍観されているなら、それはそれで良い。
見せつけてやれば良い。
涎でも垂らして眺めていろ…
コレを喰らうのは…僕だ。
血に汚れて、綺麗で、強くて、弱い悪魔…
魔力の胎動が、僕を締め上げる…
それが、とても…とても…
「ふ、はは…あはははっ」
「あ、あっああ…イヤだ…こんなのイヤだあああ」
「気持ちイイっ…この魔力…っ最高…だ…人修羅!!」
性交とは、契約とはこんなに気持ちの良いものだったか?
意識が跳びそうなくらい、僕が高揚している。
ああ、これは本当に…融け合っている。
繋がったところから…悪魔と人間で、融解している…
さあ、もう注がなくては。
君の中を僕で満たして、中から汚染してやる。
中から命令してやる。
「功刀君っ…解る?全部入っているよ!?解らない?」
「解りたくない!早く!早く済ませろッ!下種!!」
それが強請るようにも聴こえる僕は、いよいよ跳んでいる。
ぐちぐちと血で抽出されるその器官を、先で引っ掛けて遊んでやる。
それに眉根を顰めて、人修羅は泣き叫ぶのだ。
こんな愉しい封魔はついぞ経験が無い。
「は…っ…功刀君」
僕が息を吐いて、哂って声を掛けた、その時。
今までで一番悲壮めいた、嗚咽混じりの声で人修羅が叫んだ。
「母さん!!お母さあぁん!!助けて!!!!」
一瞬、動きを僕は止めた。
ただの人間に戻った彼を、壊してしまう気がした…
(もう君の母なぞ、居ないのだよ)
だが、僕は引き下がるつもりは無い。
そう、僕が君をこれから…飼うのだから…
せめて優しく、母と云う偶像の声音で呼んであげようか…
哀れで可愛い…人修羅よ…
「ずっと飼ってあげる…矢代」
うっそりと、優しい声音で
その耳から犯した。
それに悲鳴を止めた人修羅に、くちづけた。
「ふっ、んぁ…っ」
そして、僕を強く突き刺す。
深く穿って、その奥に…胎に叩き付けた、吐き出した。
「!!!!」
びくんびくんと、身体を痙攣させる君を抱え込んで
下から…上から…僕の中身を注いだ…
そう、これで契約は完了した。
ぐったりと、意識を失くした人修羅を…まだ抱え込んでいた。
人肌は久々だった…
別に、性交依存という訳でも無いが
ましてや悪魔相手である。
そう、これはれっきとした…交渉であり契約なのだ。
しかし、こんなに気持ちいいとは思わなかった。
どうせ男…される事は有っても、するとは思わなかった。
そんな気は、全く起こらぬと思っていた。
「ねえ矢代…僕を殺して御覧」
どちらが下手に動いても、絞まる首輪は
あのオベリスクの赤い糸を思い出す。
そう、飼い主の僕は…強く引かれたその鎖に脚をとられて
奈落へ行くかも知れなかった。
だが、僕が延々と飼い殺す…というのが、僕の理想である。
そもそも…どちらが途中で野垂れ死んでも、破滅である。
そういう取引だ。
抱きかかえた人修羅の、金色の双眸は瞼で見えない。
それを早く見たくて…叩き起こそうか、目覚めを待とうか思案していた。
とりあえず、今の内に出来る事をしておこう、と思った。
「君の主、紺野夜だ…宜しく、功刀矢代」
眠る君に、自己紹介した。
そう。
僕は…君に視て欲しいのだ。
葛葉ライドウを突き抜けて…その先の
夜の姿を。
ライドウだから飼いたいのでは無い
純粋に…僕自身の欲望が、君を繋ぎたがるのだ、と。
「早くその眼で僕を焼いて」
血が固まった、赤い唇に、そっとくちづけた。
使役印・了
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