花葬
(※徒花「雷堂END」のネタバレです)


「ぁ…ああ」
君が崩れ落ちるその姿を見て、視線の先を辿る。
白かったであろう灰羽に塗れて、巣から落ち絶えた雛鳥の如く。
「あ、き…さん…っ」
人修羅が、抱き締めている…
我の、過去の身体を。
すれば、半壊したそれは、表皮がずるりと削げ、君の腕に纏わり付いたのだ。
「…おい、その汚い塵を放し給え、功刀君」
そう云えば、鋭く光る金色が、我を射抜く。
ただし、月の様に潤んで。
「汚…い?」
「ああ、君のかいなを汚すだけだろう?そんな抜け殻、抱き締めてどうする」
歪む眼に、郷愁すら感じながら、苛む。
「どうせ抱くなら、魂が残る内にしてやれば“雷堂”も好かったろうよ」
嗚呼、自然と出るこの哂いは…妬ましかった影の、零していたそれと同じ。
「天使達にも廃棄処分されたのだ…その肉には、既に価値は無い」
ヤタガラスの麓…この身体になってから、雷堂の抜け殻を放った処。
折り重なる肢体を、我の死体を、此処に棄てたのだ、今までと共に。
人修羅の屠った天使達の煤けた羽根が、腐敗しかけたソレを着飾っていた。
「ねえ功刀君、死んでいる事も確認出来た事だ、さっさと退くよ…烏の衆もそろそろ此処に気付く」
違う、本当は我が確認したかったのだ、自分の亡骸を。
「それとも、持ち帰って弔うのか?」
カツ、カツ、と、やや高い靴のヒールが小気味良く鳴る。人修羅に寄れば、我の足下からだ。
そんな違いすら意識せずには居られない。
「この、羽根の様に…」
指に掬えば、それはほどける…
「白い灰燼に還しておやりよ…君の手で、焔でさぁ…」
白いそれをさらさらと。その紗の隙間から君の戦慄く相貌が見えた。
「な、なに云って…俺、が?」
「そう、君お得意の焔でさ、弔っておやり?」
嗚呼、この為だったのか。
哂って、その過去の遺物を抱える人修羅に告げた。
「此処で烏に死骸を啄ばませる?君一人で先に戻っておいて?」
逃がしたのは己だろうが、それを解っていて、君を詰る。
なあ、どうなのだ、君よ。
「せめてもの餞に、その煉獄で魂を咲かせておやり…罪人、矢代…!」
その雷堂という肉の首元からロザリオを掴み取れば、ぐじゅぐじゅと断たれる脆い首筋。
「あ!ああああ!」
慌てて人修羅はソレの頭を支えたが、ごろりと眼下に躍ったその頭蓋。
指先から逃げていった雷堂の顔を見た君の眼が、三日月から満月に見開かれた。
「ぁ、ぁ あ あ゛ぁ あああ!!」
悲鳴、続いて流れる様に、その斑紋の指先から紅い雫が迸る。
嗚呼…雷堂の、我であった身体は、鮮やかな花に包まれて。
この薄暗がりの闇に、狂い咲いた。
腐敗した肉の焼ける臭いに、しかし君は口元を押さえもせずに、胃液を零して泣いていた。
ただただ、嗚咽して、焔の花びらを撒き散らして。
腕の中で曼珠沙華みたく萌え咲ける…我の残滓を抱き締めて、膝から崩れ落ちた人修羅…
その泣き濡れた顔を、真正面から見つめた。
嗚呼…なんて…
こんな素晴らしい宝石を独り占めしていた夜よ
生まれるには、母胎が痛みを伴う訳だが…生まれ変わりならば、それは己に伴う。
しかし、それすら超越する、この甘美な…
「功刀君、十字架を背負った君の事を、ずっと使役してあげよう?」
我を見上げる瞳は、夜に向けられているが
「僕の悪魔…」
その魂に刺さるは、日向明への罪悪だろう?
君の焔は花の如し。
愛し君に花葬された我は、弟の身体で歓びに打ち震えた。

「…俺…は…っ…明、さん…ご、ごめん…本当に…本当は…」

嗚咽する夢うつつな金色が、あまりに悲哀に満ちて美しかった。
その欠けた月に相変わらず恋慕していると確信した俺は
その日の晩…

初めて君を犯した。


-了-

L'Arc〜en〜Ciel 『花葬』より。

焔は花の如し。
己の燃やされる姿に歓喜せよ。
煉獄の焔に焼かれよ我が霊。
一人称の“俺”が出るともう…

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