淡雪
この回廊を抜ければ
暫くは平穏が訪れるだろう
我の傍で
君は何を望むだろうか
人間に成るを望むか…?
別に我は良いのに
君が人だろうが…悪魔だろうが
君が只の人と成ったのなら
君は我との接点を消すのだろうか
悪魔を召喚出来ても
君がよべねば
意味も無し
この呪われた身を
其の残された眼で見つめて
浄化して欲しい
この人は、少しおかしい。
「雷堂さん?」
「…」
「どうしました?なんか…具合悪そうな気がして」
「いいや、正常だ」
俺の問いかけに、外套の高襟をぐい、と正す。
その指を包む手袋が、白い背景に融ける様な白だった。
「少し歩くが、寒くは無いか?」
俺に逆に問い掛ける、その息こそ凍りそうに輝いている。
「俺は…悪魔の姿なら、問題無いです」
「悪魔なら?」
「はい…でも、歩ける場所が限定されますけど」
悪魔の姿で居れば、寒さなどは耐え得る。
しかし、この姿で街中を闊歩する程の度胸は無い。
此処はボルテクスでは無いのだから。
「では、これを」
雷堂の声がして、急に肩を覆う其れ。
外気から遮断される肌の感覚。
「雷堂さん!貴方が寒いですよ、それだと…」
「雪の中禊をする事もある、この程度は軽い」
俺を包む外套に、微量の魔力を感じる。
(この外套、少し違うな…)
ライドウの外套は、何の仕掛けも無かった。
魔防を意識した呪いを塗り込める事も無く
あいつは哂ってサラリと云ったっけか…
――この裏地、草木染の正絹、遊郭遊び五夜分の金なり
…そう、あいつはそういう男だった。
気に入った物を傍に置いて生きる男だ。
「雷堂さん…」
「君が半裸で居るのを見ている方が寒い」
「なっ、別に俺好きで半裸ってわけじゃ」
慌てて、思考回路を眼の前のデビルサマナーに戻す。
「ふ、まあ半分は冗談だ…」
「半分ですか」
「そうむくれるで無い、寒そうで…いくら平気と云われても心配なのだ」
俺をそう云って見る眼は、確かにそう語っているのに。
俺を心配してくれているのに。
何を隠しているのだろう。
俺に向ける心が読めそうで、読めない。
確かに、俺は読心術なんか出来ないけれど…
この人は、おかしい。
俺に優しい声を掛けながら
見える片眼は、肉食獣のそれをしている。
「では十四代目、その悪魔は本当に…」
「ああ、誰の使役下にも無い」
「然様で御座いますか…」
黒い装束を見ると、色々思う事があったが
俺は眼を瞑る。
「では、貴方様が使役されるのですか?」
黒装束の声。
傍の業斗童子が鼻で笑った。
「…我は…傍に置く、だけだ」
雷堂の声が、嫌に響く。
「…一度、本殿に戻られましょう?」
装束が、勝手に話を進めている。
先刻の答えに、異論は無いのか。
「ああ、依頼も空ける訳にはいかぬ…すぐ車を出してくれ」
「雑木林の先に着けてあります、どうぞお掛け下さい」
「承知した」
淡々と会話をして、くるりと振り返る。
学生服の首元に、ストールみたいなのを巻いた雷堂
その声は篭っている。
「この神社を出た先に車がある、矢代君は乗り物は大丈夫か?」
「へ、平気ですけど…」
「どうした?」
「車とか、結構…あっちのヤタガラスと違うなあ…とか思いました」
正直に思った事を口にしたのだが
可笑しそうに、雷堂は口元を巻物で更に覆う。
「車なぞ、虚弱か?」
「そんな…俺だって、二輪好きだし」
「二輪?」
「ええ、まあ人間の時の話なので…」
自分で云っておいて、引っ込める。
今は思い出して感傷にしか浸れない。
さくさくと霜に埋もれる石畳を踏み、林を歩く。
業斗童子は、ゴウトと違い尻尾を振らない。
キビキビと傍を歩く。
外套を脱いだ雷堂の、纏う装備…
俺は横目でちらちらと覗き見て、感じていた。
やはり、見目は同じでも…違う。
管は、ライドウより少ない…少数精鋭だろうか。
(あいつは全ての管入れに、管が通っていた)
銃は、形からライドウのものと違う。
(あいつの銃、改造品だから歪なんだよな、形とか)
刀は見ればすぐ判る、その太刀の大きさ。
(背負ったり腰に下げたり、あのホルスターどうなってんだろ…)
「矢代君?」
はっ、と現実に引き戻される。
いや、今の今までが全て現実だが。
「は、はい!」
「乗らぬのか?」
足下から視線を上げれば、雷堂が車の扉を開けて待っていた。
白手袋で黒い扉を開ける、その姿は妙に様になっている。
「い、いいですよそんなっ」
いつまでもそうさせている気になれず
俺は駆け込み乗車する。
黒塗りの、西洋のそれにも近い車体。
その内装は、赤い別珍素材で覆われた重厚な雰囲気。
駆け込んだ脚を、思わずそっと下ろす。
「本殿までで宜しいですか?」
運転席から、俺の傍に乗り込む雷堂へと声が掛けられる。
「ああ、道中何かあれば云う」
「承知致しました」
入るなり巻物を外す雷堂。
細い首元が露わになって、つられて自身の首元に眼を移す。
確かに、俺の姿は寒々しい。
「業斗、先導を頼む」
雷堂は着席するなり、その膝に飛び乗った黒猫を前へと移す。
助手席にそのまま降ろされた業斗は、一声啼く。
『おのれが運転すれば良いだろう』
「人修羅から目を放して運転に集中しろと云うのか?」
軽く流す雷堂は、結構厄介だ。
それらしい事を云って、押し通す。
下を使うのにも慣れているが、上に使われるのも慣れている。
そんな感じだった。
『ちっ、まあ…ヒトには見え難いか』
文句を云いつつ、運転手の膝に飛び乗った。
『脚が濡れておるが、此処からしか見渡せぬのでな』
「いえ、かなり積もっておりますので、視て頂けると助かります」
『雪は面倒だ…』
車体が振動を始め、窓の外の白が微妙に変わっていく。
「この辺、道が見えないですね」
「だから業斗に頼んだ」
「見えるんですか?」
「ああ、視える」
答えながら、雷堂は傍のカーテンを閉めた。
それを見て俺も自分の側のカーテンを閉める。
外の光が遮断されて、俺の肌がぼんやりと光っている。
斑紋からのそれが、着せられた外套の内に篭る。
「雷堂さんって運転出来たんですね」
「…意外か?」
「乗っているだけのイメージでした」
「ふ、正直だな君は…」
その笑う横顔に、少し安堵した。
前方からの光が、ちらりちらりと俺たちの隙間を掻い潜る。
業斗と、運転する従者の掛け合いが遠い。
この時代の車にしては、かなり前方と離れていた。
(お偉方を運ぶ車みたいだ)
さしずめSPは悪魔達、だろうか。天使の形をした…
と、俺は寄り掛かるつもりで背後に違和感を感じた。
そういえば、俺は今悪魔の成りだった。
襟から微妙にはみ出た項の突起が、背凭れを押していた。
少し項垂れると、右側から雷堂が俺の方へと手を伸ばしてきた。
「痛いか?」
「そこまでじゃ無いですけど」
「いや、傷が在る」
そう云われて、初めて気付いた。
指先を項に回せば、少しの滑り。
視線に戻せば、指先は朱色になっている。
「すいません!襟とか背凭れ、汚れてません?」
俺は咄嗟に前のめりになって、少し振り返る。
すると、雷堂は少し黙り…前方との境のカーテンを閉めた。
途端、空間が闇色に包まれる。
俺は、鼓動が早くなる。
暗い空間は、俺の悪魔としての存在を誇張するかの様に光るから。
「そちらを、窓の方を向き給え…」
「はい」
「少し首を此方に、顎を引いてくれ…」
「は、い…」
云われるままに、そうする。
確かに、血の様な臭いがツンと鼻腔をついた。
「付着する程、出血は無い」
「そうですか、…じゃあ放っておいて下さい、勝手に治ります」
まあ、汚したところで弁償を要求されるとは思わなかったが
俺はこんな立場ですら、そういう事を気にする癖がある。
「雷堂さん」
「…」
「大丈夫です、この程度なら…まあ、確かにそこは治りが遅いですけど」
無言の雷堂が、正直怖い。
「…ディアが要るか?」
やがて、肩を掴む雷堂から言葉が発された。
「いえ、本当に治りますから」
俺は何故か慌てて答える。
この空気を、無言で埋める勇気が無い。
「…では、まじないでも塗り込めておこうか?」
その雷堂の、次の言葉に俺は一瞬息を止めた。
「…まじない?」
「ああ…まじないだ」
俺は、怖くなった。
振り向いて、襟を正して、真正面を向いて座り直すつもり、だった。
それなのに。
「少し甘い」
脚の爪先から、その突起の先端まで
這い上がる様な、痺れにも近い感覚。
「雷堂さ!」
叫び声は、白い羊毛の手袋に飲み込まれる。
「む、ぐ」
「車の排気音より大きな声は…不味いのでは?矢代君…」
色んな意味で、心臓が張り裂けそうだ。
恥やら、困惑やら、それもそうだが
何より…そこは俺の最大の弱点だったから。
「この器官、何の役割を果している?」
雷堂が、小さな声で、うっそりと呟く。
そして、俺のその突起に這わしている。
「…ぅ、ぅ〜ぅッ!!」
くぐもった、俺の声が腹立たしい。
雷堂の舌に、いちいち上がる喉奥からの咆哮が、抑えれない。
どんな、どんな顔で今、雷堂はこんな行為に及んでいるのだろう。
「矢代君…」
名前を呼び上げるその声音は、酷く甘ったるい。
その舌先が、追従して突起の傷に抉りこんでくる。
「ぁ!」
俺は、痛みの様な痺れの様なそれに、外套の中の腕を泳がす。
すると…がしり、と、外套ごと、空いた腕で背後から掻き抱かれた。
耳元に、粘着質な音が直通。
「此処が、致命的なまでに…弱いのか」
確信犯の舌が、傷口から溝を這い、突起と項の境目を行き交う。
「う、ふぅッ」
思わず、首を振ろうとすれば
口を覆う手袋が唇に割って入り込んでくる。
俺の舌先を挟んで、骨格ごと軌道修正をかけられる。
「はぶっ」
「まだ終わらぬ、安静に…」
怖い。
あくまでも、まじないのつもり、なのか。
それは、貴方の欲をすり替えただけではないのか。
(雷堂さん、おかしい…だろっ)
「っあ…!」
舌先だけなら、まだ耐えられたかもしれないのに。
次第にそれはエスカレートする。
先端の、尖ったところから…生暖かい肉に包まれる。
それに俺が肩を震わせれば、音が発される。
じゅぷ
いかにも、な音に、俺は全身が粟立つ。
そこは、決してその様に使う器官では無いのに。
身体が錯覚を起こす。
俺のそれを口に含んだまま、雷堂は外套の間から掻き抱いていた腕を忍ばせる。
「は…っ」
云わんとする俺の舌が、それより早く手袋の指先に摘ままれる。
そろり、と俺の下を、外套の中でかすめた雷堂の手。
突起をしゃぶりながら…哂った気がする。
俺の下が、反応している事に満足でもしたのだろうか。
そのまま、舌を撫ぞらせて、指が布越しにかすめて離れていく。
「…ぅ!!」
肩が、指先が、がたがたと震える。
息を吐くのに、束縛された舌が邪魔で…
薄く開けた唇から、漏れる声。
「あっ…ふ」
辛くて、こんな雷堂を認めたく無い俺の手が
前方の席との境界線を開こうと、無意識のうちに伸びていく。
が…それは雷堂の腕によって外套の黒へと引き戻された。
「見られたいのか?」
背後から耳をかすめる吐息すら、脳天に響く。
(見られたい筈、無い)
酷く、じわりじわりと、嫌な汗が出る感覚。
汗なのか、何なのか。
「矢代君…弱点、というのはっ…痛痒いのか、っ?」
じゅるじゅると、小さな音だが、俺の髄には残響の如く襲い掛かる。
まるで、あれ、にするみたいに。
俺の突起を、あれ、に見立てているのか。
「っぐ…い…や、だ…」
余計な嬌声が出ない様に、それを掻い潜って訴える。
なのに、雷堂は加速する一方で。
「んむ…っ…今っ…、噛み、千切った、らっ…はあっ…また、生える、のかっ?」
聞きながら、しゃぶられると一層俺の感覚を刺激する。
「く…!!」
頭に、血が上ってきた。
外套から、腕を突き出して背後の身体に掴みかかろうとする。
「ひ!!むぐぅぅぅッ」
その瞬間、俺は身体に電流が奔ったのかと思った。
実際は、雷堂が…酷く咬んだだけ、だった。
幸か不幸か、口を掌で塞がれ悲鳴は喉奥に逆流した。
比較的うるさい時代物の車が、排気音で消す…俺のあられもない雄叫び。
「悪魔も…気持ち良い、のか?」
「ぷ、はっ」
「人の時…と、どちらが敏感…なのか、気になる…な…っ」
「は…ァ、ああっ」
「君の、好い方で、っ…してやりたい」
そこからは、何も出ない。
俺の口からも、答えは出ない。
ただ、雷堂は…俺のそれを、酷く、愛おしそうに咬みしゃぶる。
そんな箇所、ライドウですらそんな事しないのに。
しないのに…!
「矢代…「ライドウッ」」
何故。
今俺の嬌声にライドウの名が混じった?
背後のサマナーが呼ぶ、自らの人の時の名前を退けて
憎い男の名を叫んだ。
違う意味の震えが奔った…
逆上せた身体に、冷えた脳内。
「…っ、そう、か」
一瞬動きを止めていた雷堂が、一言発する。
「す、いません」
謝る、何に謝るんだ、俺は。
同じ名前なのに、瞬時に気付いた雷堂が、怖いから?
渦に呑まれていくかの様な、泥沼感。
謝罪の度に、俺は雷堂に妙な高揚を…与えてしまってはいないか?
でも、謝らずには居られない。
「まだ、まだ繋がるのはっ、早いか」
まさか、そんな技に長けているとは思えない雷堂の舌が俺を追い立てる。
この人の一心不乱さが、悪魔の俺の…そこの敏感さが、相乗している悲劇。
「…っは…その、胎に溜まっている中にも…っ…マグが、残留、しているかっ?」
「んっ、んうっ、い、無いっ、無いですっ」
「彼のマグ、がっ」
「ゆる、して」
首を振りたくても振れない。
小さく囁き合っているのに、浴室みたいに響く。
指を押し退け舌を突き出して、だらしなく俺は唾液を零し喘ぐ。
雷堂の舌が、あまりにも、飴玉をねぶり融かす子供の様に。
融かす、融かされる…!
突起の先から、じゅぷじゅぷと俺の思考回路が!
怯えが!
熱が…!
「好い、ココだけで吐き出せる君が、凄く…っ」
同じ声で囁かないでくれ!!!!
「ふ…ッぁアァ……んッ」
馬鹿だ。
馬鹿だ馬鹿だ。
悪魔の角で、達する、このおぞましさ。
おまけに…とどめは、何だった?
脳で誰と認識していた?
あの囁きの先に、誰を連想していた?
「本当…に、出すとは」
俺の、生温い下半身を雷堂は握り締めていた。
いつの間にか、前が寛がれていて
白い手袋で、俺の白いのが受け止められていた。
それを見て、意識が吹っ飛びそうになる。
「ふ…心配せずとも良い…零れてはいまい」
背後からの声音は、俺の失態に怒るでも無く
いつもの様な調子で、とんでもない事を云っている。
「っひ…どい、で、す」
かすれた声で、唾液すら垂らしながら俺は呟いた。
すると、すぐさま返る言葉。
「どちらがだ?」
その雷堂の、無感情な声に俺は萎縮する。
そして、するりと口を抜けて出る台詞。
「…俺、です」
「…」
聞こえている筈の雷堂は、無言のまま濡れた手を離す。
その白くどろりと濁った手袋の指が、頬の傍を通過する。
「甘い」
舐めている、音が厳かにする。
「そんな筈、無いです」
「いいや、甘い」
「嘘です」
「“あわ雪”みたいだ…と思う」
その喩えに、思わず頬が熱くなる。
よりによって、俺の好きな菓子。
もう、食べる気がしない。
「その手袋…どうすんですか……」
くたり、と俺は背凭れに横にしな垂れた。
「ま、さか…そのまま、はめてるんですか…」
息を落ち着かせて、俺は背後を見ないで聞いた。
見たくないから。
もし、辛そうな顔をしていたら、また謝ってしまいそうだ。
「しかし、置き場も無いのでな」
ぎちぎち、と粘膜をこねくり回す様な音が背後からする。
俺は、顔を見ない様に、首を俯かせて自らの身体の隙間から背後を覗く。
「…え」
雷堂は、白く残滓に濡れそぼるその手袋を
一本一本、指をひっくり返していた。
裁縫の、縫い終わってひっくり返すあの工程みたいな。
ああ、そうか、ああやって濡れた面を内側にして、何処かにしまうのか。
とか、俺はぼんやりと、未だ揺れる脳で考えていた。
が、それは一気に覚醒へと導かれた。
「止めて下さい…そ、れ」
「何故?」
俺は、振り返って雷堂の手を掴む。
握り締めた手が、ぐじゅりと云った。
「何故だ?…暖かいではないか」
辛そうでも怒りでも無く。
雷堂は微笑んでいる。
濡れた内部に手指を突っ込んで。
「汚い…汚い!!」
俺が、羞恥にその手袋ごと握り締める。
その度に、卑猥な音がする。
まるで、突っ込まれているような錯覚すら起こすそれ。
「両面使用出来る物だ」
「そんな問題じゃ…!」
「何故君が怒るのだ?」
「っ、こんな、所で…おかしい、おかしいです」
視線を逸らして、外套に身体を包む俺を、雷堂は優しい口調で諭す。
「矢代君…君はおかしい、と我を糾弾す…」
その手袋を、空いた手で撫で擦る彼。
「しかし、我は嫌に鮮明だ…この感覚」
「…」
「君の眼に、背中を押される気すら在る」
「俺の眼の所為にしないでくれ…っ」
「君を、無理矢理繋がぬ様に…しよう、矢代君」
その声の、酷く優しい事。
「無理に繋ぐより、君から繋いで欲しいと云うまで…我はただ傍に居よう」
「…」
「我の影に、彼が見えぬ様に成るその日まで…狂っていても、これが真実なのだろう」
「…そんなに、独りは…嫌、ですか」
俺の問いに、雷堂はライドウと同じ声で答えた。
「人修羅である君と、孤独を共有したい…のに、人へ還してやりたくも在る…」
俺は、静かになった空間から、停車したのを感じ取った。
「もどかしい君を、自分の影に独り占めされるのは…胸、が…苦しいのだ」
雷堂は、手袋と手首の隙間から垂れた白い雫を
赤い舌先で掬い取る。
「使役せずとも、構わない」
同じ声で、真逆を云った。
「君の謝罪の言葉が、我を心地よく縛り上げるのだから…」
(ああ、天使ってのは、悪魔を飼い殺すんだ、きっと)
この人は、酷く純粋だから、笑顔で俺を殺し続けるんだ。
それはきっと、真摯な想い…なのだろう。
俺が悪魔だろうがなかろうが、今となってはどうでも良いのだろう。
(人に還るのを赦してくれる…のか)
その赦しという甘い真綿で、俺は首を吊ろうと…従属し始めている。
俺は、馬鹿だ。
俺は…おかしい。
前方、遮断カーテンの向こうから、猫の溜息が聞こえた。
傍の遮光カーテンの隙間から、白い淡雪がしんしんと降る音がした。
淡雪・了
↓↓↓あとがき↓↓↓
車内プレイですか雷堂さん。
勢いは増すばかりですね…ライドウなんかフラグやばいのに(笑)
アレを舐めしゃぶる雷堂が書きたくて。
車内プレイに何故かなって。
アレ濡れの手袋に指を突っ込むという…(わざわざひっくり返して)
雷堂は純粋純情だったからド変態になったのか?
蜉蝣の『恍惚地獄』って曲が、微妙にモチーフです。
人修羅にピッタリ…です。
―潔癖掲げてた
―恍惚に溺れるまでは 煩悩に侵されるまでは
―盲目的な阿修羅の様に
―狂信的なカタワの様に
…
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