栗の花の薫り



いつもいつも
我を取り囲むのは虚像


温かい、小父様に小母様…
離れていく。
降り立った巣には
豪奢な寝床に大勢の従者…
しかし、我には繰る糸が絡みつく。
その糸で傀儡の如く生きる。

用意されていた全てに違和感が在る
此処にいる我は何なのだ?
一固体の日向明は何処に居る?

何故!?
何故、誰も止めてくれぬのだ…!!!!






「雷堂さん!」

彼の声で、瞼を上げる。
片目を覆う綿糸が、返り血に黒ずんでいた。
「あの、いきなり倒れたと思ったら…寝ていて、驚きました」
その彼の言葉に、自らの立ち位置を初めて知る。
『だから、あれ程寝ておけと云ったろうが、馬鹿が』
横たえられている身体、掛け布団越しに黒猫が乗り、吼える。
此処は…探偵社の自室、だろうか…
『人修羅に運ばせた』
短く我に唱えた業斗が、溜め息混じりに呟いた。
「…そうか、すまぬ…矢代君…」
「いえ」
「我が、寧ろ君を支えてやらねばならなかった…というに」
傍に膝を着いて見下ろしてくる人修羅の
その不安げな眼を見つめた。
唇の端に、まだ血塊がこびり付いている。
我が養父の残滓と思えば、それは哀しい痕だった。
「本当に、君という人は…」
起こした上半身、彼の衿を手繰り寄せる。
その汚れを、舌先で解す。
困った様な君は、だからとて突き放す事も出来ずに
やんわりと我の肩を押し返す。
「あ…か、顔、洗ってきます!」
ばっ、と立ち上がり、脱兎の如く部屋から出て行く。
その後姿、着物は泥汚れの様に血を吸っていた。
『…指で拭え、はしたない』
刺す様な業斗の言葉と視線が、我を現実へと引き戻す。
一瞥くれてから、自身の身体を確認する。
学生服は外套のお陰か、そう汚れていなかった様だ。
重く血液を啜ったその外套は、衣紋掛けに引っ掛けられて壁に在る。
いつもの自分の掛け方と違うそれに、他者の存在を感じる。
彼が、甲斐甲斐しくしてくれた名残が在る。
まるで、養父の温かみがそのまま彼に宿った様だ。
(いや、そもそも彼は従来そう在ったでは無いか)
我が、全てに感じる違和感…
彼からは、感じ無かった。
全く、新しい存在だった…人修羅という…生き物…
彼という…個…

いとおしい

棺に成った彼
我の苦しみを食んだ君
涙と共に嚥下した君

いとおしい

弱い我を救って呉れる
その美しい手

右眼が熱い
君を想うと、最近はもうずっと…
震える指先で、乾いた体液でカサつく眼帯を撫ぜる。
酷く熱いのに、酷く落ち着く
恍惚と踊る瞬間


『おい、雷堂!』
「…」
『聞いていたのか?お前…』
「…ああ、一度本部に戻るのだろう」
すまぬ、本当は、話半分だ、業斗。
『人掃けはある程度済ませてあるからな…各所で異界と繋がらぬ様に…』
要点をまとめ、今後の予定を並べる師の言葉を…表面で吸収する。
不安定な揺らぎが、異界と繋がる。
それを再分断して、修復する…元に戻す…との事。
(そもそも、此処が普通の次元なのか?)
「此処が、異界では無いのか…」
眼を見開く業斗。それを見て、ようやく自身が言葉として
それを発していた事に気付く。
『何を…云っている、雷堂』
ああ、また気がふれたとでも思われたろうか。
だが、我の守護してきた…この帝都が…
現の世な気が、しないのだ。
本当に、舞台の演目では無いのだろうか?

「…いや、すまぬ業斗よ、少し気が参っていた様だ」

きっとそう思う様に手回しされた演目か。
この感情すら、偽物か。ああ、そうか。
虚に育まれた我は、虚で構成された操り人形なのだから。

返事を呉れる、君だけが…真実なのだろう、きっと。
自然に微笑む口元、それにつられて、もう一度眼帯を撫ぜた。
嗚呼…いとおしい…



がちゃん



突如、軋んだ不協和音。
傍の音を見れば、窓硝子から風が吹き込んできている。
『何奴だ』
鋭く云い、業斗が割れた窓硝子を、横からすい、と覗き込む。
しかし、沈黙が続くその姿から、外に人影は無いのだろうと推測した。
窓を割り入ってきた、その石を我は見つめた。
呪いの様な力は感じない…
この外の状況で、悪戯に回る幼稚な人間など居るのだろうか。
意図的なものを、感じる…
此処に、意識を集中させたい…?
「矢代君…」
脳裏に彼が過ぎる前に、唇が紡いでいた。
布団を跳ね除けて、自室の扉を開け放つ。
階段を数段飛ばして駆け下りつつ、もどかしげに脱衣所の扉に手を掛ける。
がちゃがちゃと、耳障りな音ばかりが響いて、開かない。
まるで向こう側から、ノブを逆回しにされている様な。
「どうした矢代君!!」
開けてくれぬのか、開けれぬのか。
いずれにせよ、このまま続く様なら、太刀で扉ごと除けるつもりだった。
しかし、それを考えた瞬間。
扉のノブは抵抗を失くして、力の向きは同一と成った。
ギィ、とゆるゆる隙間を増やしていくその扉の向こう
「…心配したぞ」
安堵で、思わず声が上擦った。
隙間から覗く、同じ様にノブを握る手指
その斑紋の通る指に、早く触れたくて指を伸ばした。

「僕も」

触れ合った指先、視線を這わせる。

「逢いたかったよ」

黒い斑紋はそのままに
黒い外套が揺れている

「雷堂…!!」

同じ顔で、口の端を吊り上げて哂う彼が居た。

反射的に引っ込めようとした指を、そのまま掴まれる。
丸腰の自身に冷や汗が噴き出す。
「ぐっ」
扉を押して、隙間をぎりぎりと狭めようとする。
ライドウが、その隙間に革靴を差し込む。
それを弾き出す様に蹴れば、指を掴んでいた彼の指が
今度は我の首元にがっついてきた。
「ぎ…っ」
「綺麗な手だろう?」
我の首を絞め上げるその手は…何故人修羅の、それなのだ?
有り得ない光景に、絞められ白む視界が被さる。
『雷堂!』
背後からの鳴きと同時に、我々の脚を掻い潜る黒猫の影。
業斗は、ライドウの伸ばした左腕に飛びついた。
「ちっ」
静電気みたく弾かれた我とライドウ。
視線で追えば、その斑紋の左で管を掴み、右で銃を抜いていた。
業斗が飛び退く。
退いた床に穴が開く。
管が光って、廻る魔力に召喚されたイッポンダタラ。
『装備を取りに戻れ!!』
我に叫ぶ業斗、しかし置いていくのか?このまま?
「業斗!」
抱きかかえて逃れようと、その室内に身を入れようとした。
するとライドウは器用に、我と業斗の間に、鉛弾で境界線を引く。
「ダタラ、猫用の小屋を施工してくれ給え」
発砲し、哂いながら命を下す彼。
『ぅおおおぃ!リッフォオ〜ムのご注文はぁ!?』
「出られぬ猫小屋ひとつ頼むよ」
その主人の台詞が終わるや否や
イッポンダタラが壁にハンマーを叩き付け始める。
壊す為で無く、封する為のそれ。
『馬鹿が!早くしろ!』
叫ぶ業斗と、引き離されていく。
乱射される銃弾は、的確に業斗を動かしている。
ライドウが、こちらに跳んだ。
「!!」
イッポンダタラと業斗を残して、ライドウが部屋から出てこようとしている。
(業斗を内から閉じ込める気か!)
ヒヤリとしたが、ライドウと業斗二人きりの組み合わせより幾許かマシか。
そう納得させて、階段を駆け上がる。
数段飛ばしで、今度は一気に上へと戻り往く。
ガタン、と音を立てて閉ざされた音が背後からする。
同時に殺気が階段を這い上がってくる。
「雷堂、何処に行くのだい?」
パン パン
二発程の銃声。両肩に喰い込んでくる熱い鉛。
しかしそれは、急激に痛さを運ぶ冷たさに変わる。
手足の感覚が、軋む様に失せてくる。
「な…っ…!?」
傾れ込む様に入った部屋、管の挿してあるホルスターが布団横に。
それを、崩れ落ちる身体…伸ばした指先に掴む。
「駄目」
「ぐぁッ!」
が、その指先を、土足で踏み躙られた。
空いた脚で、ライドウがホルスターを蹴り飛ばした。
部屋の隅に飛ばされていくそれを見て、鼓動が慌しくなる。
「矢代君は…っ!?」
軋む身体より先に、まず確認したかった。
我の手を踏んだままで、見下しながらライドウが云う。
「業斗童子より先にそこを心配するのか?薄情だね…」
「何処に!?」
「さあ?知っているけど…」
その口が歪む、愉しげに。
そして、ころりと憤怒に変わる。
「誰が教えるか!」
指に置かれていた靴が、我の胎にえぐり込む。
「うぐぁッ」
掬い上げられる様に引っくり返り、我はもんどりうった。
天井が見える、どうやら仰向けに横たわっている。
(何故…動かぬ…)
軋む手足が、我の動きを封じる…
「君とて使用した事はあるだろう?」
その言葉と共に、眼前に垂らされたライドウのホルスターベルト。
じゃらり、と腰に沿って並ぶその箇所。
冷たく冷気を放つ弾丸が列を成していた。
「氷結の…鉛っ…」
「そう、これ、人間に撃つのは初めてだったのだがね…」
そのベルトを床に放って、哂う彼。
「思った通りに効いてくれて、気分が良い」
あまりな台詞に、我は背筋が凍った。
実際凍っているのだろうが、それを上回る。
「雷堂…この手、どうだ?」
餌の様に、口元に下げられる彼の左手。
その斑紋は、あの癒しの手の筈なのに…
何故、宿主を替えた瞬間から、凶器に変貌するのだろうか。
「君が握ってあげていた…最初のアレの手だよ?」
ひらひらと、その指先を振る。
「着けた…のか、自らにっ…!?」
「ハッ、眼を嵌めた君が…驚愕する筋合いが有るのか?」
嘲笑う、我の情愛の証を。
「僕はね、必要に応じて着けただけだよ…」
その指が、我の頬に添う…
「お前みたく!気持ち悪い理由な訳有るか!」
そのまま、横っ面を強かに引っ叩かれる、人修羅の手で。
なす術も無い我は、そのまま打ちひしがれていた。
「気持ち…悪い?」
「ああ、気持ち悪い、虫唾が奔る!『Psychopathia Sexualis』!」
「…?」
「R・フォン・クラフトエビングでも読んでろ!」
首を掴まれ、引き起こされる。
「あの著書…面白いと感じていたのだがね…同じ顔がいざすると別だ」
「どういう…意味だ」
「同じ顔で人修羅を…舐め回すな、この犬がっ!」
割れた窓の下、その壁に投げ飛ばされる。
破片が身体の下で擦れて、繊維のほつれる感触がした。
壁にぶつかると、軋む身体が、悲鳴をあげる。
「ぅ…っ……舐め回した、覚えは無いっ…」
「同じ顔で、馬鹿みたく引っ付いて…僕に恥をかかせたいのかお前は」
ぱり、と靴が破片を砕く。
歩み寄ってくる彼の表情は、外の仄暗さにぼんやりとみえる。
この暗い部屋で、その眼だけが…光っている様に見える。
「人修羅と、結んだのか?」
肩を掴まれ、被弾した穴に指を抉りこまされる。
激痛に歯を食い縛って、睨んだ。
「貴殿と違い…強制的には…結ばぬ…!」
そう答えてやった。
どこか誇らしげですらあったのか、その我の口調…
明らかに、彼の機嫌を損ねた。
「あ、そう…」
その素っ気無い反応が、怖ろしい。
以前と同じ…眼が、笑っておらぬその気配。
ゆっくりと、そのまま壁に寄りかかる様に、押し付けられた。
「…」
沈黙のままじっと見つめてくるその双眸。
我の隠れている片眼と、絡み合わぬ双方。
「…そんな悠長なのは、全て用意されているからか?」
やがて、ぼそりとライドウが呟く。
その意味が解らず、我はただ、息を吐いた。
「親も寝床も天使も用意されているからか?」
「なに…を」
「クク…そうか、陽の君には、解らぬか」
一人で完結させて、彼は哂った。
「僕はね…人修羅を…好いていたよ」
立ち上がって、その左手を自らの頬に寄せたライドウ。
「使役悪魔としてね」
強く云い放ち、外套の留め具を外した。
「雷堂…君には解り得ぬのだよ」
続けて、それを投げ捨てた。
我の布団の上に、彼の乾いた外套が被さった。
「情愛を湛える関係が至上の幸福と思っている?」
学生服の詰襟を、その斑紋の指で割り開く。
「そんな軽いものに、負ける気はしないね…」
眼の前で、その服を開くライドウ。
何をするのか、悪寒が奔る…
あの、拝殿内の悪夢を思い出す…
(我に陰の気でも流し込む気か?)
もう、それだけなら諦めがついていた。
痛み分け、とでも思えば良い。
そもそも、我の身体は…既に血に染まっているのだから。
その類の穢れとて、もう怖くは無い。
「僕は、人修羅を…」
ライドウが哂って口を開く。
「…」
しかし、その先が発される事は無かった。
発言の気が失せたのだろうか…
彼は、そのまま腰を下ろし、我に眼を向ける。
「雷堂…この悪魔の手が…そんなにも愛おしかったのかい?」
その眼に、狂喜が奔る。
「この手も欲しいのだろう?眼では足りぬだろう?」
云いながら…
ライドウは、人修羅の手を、自身の項に這わせる。
その指先が、するすると鎖骨の窪みを流れる。
じわり、と、嫌な予感がする頭を振り、しゃんとさせる。
「貴殿…何がしたい…」
我の声に、哂い返すライドウ。
そのまま、斑紋の指を、赤い舌で舐る様に嘗め上げた。
その淫靡な光景に、得体の知れない感覚が背筋を駆けた。
「ねえ雷堂…功刀は君と致した時、どんな反応をしていたのだい?」
その唾液に濡れそぼる人修羅の指先を…
胸の突起に撫ぜる如く押し付けている。
「我はしていないっ!」
叫んで、気を紛らわせる。
が、ライドウはその指を止めない。
「フ、フフ…ッ…雷堂…」
乳首を執拗にこねくり回して、薄い輪に沿って円を唾液で描く。
薄い光しか射し込まぬ部屋でも、てらてらと艶めく胸。
「お前の愛でたこの手に、僕を愛させてやるよ…」
ぞわぞわする…体中が…!
「ライドウ!!そんな行為に彼の手を使うで無いッ!!」
おぞましい、その光景。

愛しい君の手が…
自慰行為に使役される…

我の剣幕なぞ気にせず、ライドウはもう止まる様子が無い。
膝立ちで、肩からずり落ちる学生服と白いシャツ。
それが引っ掛かり、留まる事が背徳的ですらある。
「…っふ……」
厳かな息遣い。
まるで憑き物が入ったかの様に、ライドウは胸から胎を撫ぜる。
その手に何かを見出す様に…うっとりと見つめている。
「ぁ…っ」
開いた唇から、乱れた呼吸と赤い舌がちろちろ見え隠れする。
普段の彼からは見えぬ、酷く妖艶なその姿。
震える魔力に微かに汗の薫り。
「っ…ふ、ふふ」
ライドウは、着衣のまま、布越しに局部を擦る。
我は、眼を逸らしたいのに…逸らせない。
「ま、さか…御上以外に…見せるなんて…ね…っ…」
浅い息遣いで、少し上擦って呟く彼。
「雷堂…高いよ?…見てろよ…しっかりさぁ…」
「く、狂っている…!」
「眼を盗ったお前が云えた台詞かい…?」
嫌悪を滲ませて、彼はその擦る指で下の着衣を開く。
既に形を成した一物がそそり立っている。
それを見て、思わず我は頬を熱くした。
そんな我を見てか、せせら哂ってライドウは指をしゃぶる。
じゅぷじゅぷと、音を立てるのはわざと…と思う。
しとどに濡れた、その人修羅の指で…
雄の幹、根元から絡ませる。
我とて、やり方を知らぬ筈は無い、その自身の悦ばせ方。
ゆっくりと、しかし強く上に滑り上げる。
「ん…」
じゅっ じゅっ
音はどうして鳴る?唾液か?先走った汁か?
「はぁっ…は…っ…」
流石にこんな時は、彼とて眉根を顰めるのか。
先刻よりも天を扇ぐそれを、いっそう握る姿。
斑紋が、濡れて目立つ。
その人修羅の気配に、我々はさざめくのだ。
「っくく…雷堂…君、少し、勃ってるだろう…」
彼が苦しげに吐くが、それすら云われて初めて認知した。
(何故、人修羅の手が…彼を歓ばせる…)
薄暗い嫉妬と欲求。
相反する、眼の前の光景に戦慄き反応する、身体。
なんと、おぞましいのだ…我は…
「同じ背格好なのだ…それは…興奮、しない訳、無いだろうねぇ?」
しごき上げる速度は変えず、上気した表情で我を責める彼。
学帽がぱたりと下に落ちた。
それすら厭わず、狂った様に己の雄を虐めるその姿。
と、前のめりになった彼が、ふと視線を合わせてくる。
一瞬の暇の後、ニタリと哂って、我に手を伸ばした。
「痛ッ…」
肩から流れる血を、右手の指に掬い取った彼。
それを、額から斜めに、顔面に引き下ろした。
そして、同じ様に…瞼から頬へ。
「なんのつもりだ貴殿ッ…我を、馬鹿にしているのか?」
それはまさしく、鏡写しの我だ。
血で描かれた顔の傷は、ライドウを雷堂に仕立て上げている…
その姿に、汗が…嫌な汗がどっと噴き出る。
「どうだい?君に見えるか?雷堂…っ」
「…」
「ほら、今眼の前で…人修羅の手で歓ぶのは、誰だ…っ?」
「…それは、ライドウ…紺野夜、貴殿だ!」
「赦せぬくせに…フフッ…脳内で自身に勝手に変換しろよ…」
じわじわ
嫌な汗、嫌な熱。
眼の前で、雄をしごき上げる…書生は誰だ?
「この手、達する時に絶対しがみ付いてくる…っ」
ライドウが、吐き出す上擦った喘ぎ。
「馬鹿だよ、本当っ、この手っ」
鼓動が加速する、人修羅の手が、彼に纏わりつく光景…なのに
我は、何を夢想して見つめている?
呼吸を乱している?
(いけない、こんな熱は、感情は)
「ふっ…ふぁ…っ…あ…っは、ははっ…!はぁ〜っ…はぁあっ…」
眼が薄っすら潤んでいる、ライドウ。
既に遠くを見つめている。

「お前が縋りつくのは僕だッ!僕だけだッ…!!」

浮かされた熱病者の様に、叫ぶ口から唾液を垂らして
ライドウが先端を、斑紋に沿わせてぐりりと潰す様に揉みしだいた。

「矢代…ッ!!矢代ぉっ…ぁっ!あぁッ、ああああああ……」

あられも無い悲鳴を上げて、泣きそうな顔をしたライドウ。
その瞬間、ライドウの姿に
我を重ねた。

ライドウの左手…人修羅の指に、ぐっしょりと濡れる白濁。
肩で息をするのは…彼だけで無く、我も、だった…
布団に突っ伏して、面をこちらに向けたライドウ。
我を見て…唾液で光る唇を吊り上げた。

きっと、気付かれている…

あの瞬間
人修羅の手が、眼の前で慰めている相手は…
葛葉雷堂だ、と
そう思い込んだ。
血で描かれた傷が、その思考を助長させた。
ライドウが達する瞬間
我は何を考えていた?



“ああ、気持ち好い、凄く好い、矢代君!”



罪悪感と羞恥に震えが奔る…
酷い、なんという男だ…我は…
浅ましい、低俗で、裏切り者だ…


下半身が、湿る感触。
生温かいそれが、腿を伝う。
下着が萎えていく雄に張りついていく。
まだ、脚が…痙攣している。


唾液を舐めずり、ライドウが我を哂った。

「変態…」

鏡の中の自分に…云われた。



栗の花の薫り・了


↓↓↓あとがき↓↓↓
変態兄弟ですね。
結局ライドウもフェティッシュという…
そして公開自慰ですよライドウ…
おまけに雷堂なんか触っても無いのにw酷いwww
性的倒錯をメインテーマに。
というかタイトルも酷い。
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