狂信者
「君には、熱狂的な信者が大勢居るのだねぇ」
「居ても困る…」
「どうして君みたいな半端者に焦がれるのやら…」
「…知るかよ…」
「馬鹿だね、狂ってる」
『何で俺っちが人間なんざの治療しなきゃなんね〜んだヨ!?』
獣の頭をした悪魔が吼え猛る。
顔に似合わぬ草食動物の如き足で、僕の手首に何かを巻いている。
包帯でも無い、得体の知れぬ何か。
『まあまあまあ、そう云わず!閣下の御命令でしょうが!』
背後のビフロンス伯爵は、なだめつつもヒステリックである。
それはそうだ、僕の治療を望む者など、本来この城に居やしないのだから。
『ま、ヤシロ様の手だから大事に扱わせて頂きますけどぉ〜?』
僕の背後に、大きな黒眼をじろりと撫ぜつけて
治療師ブエルが伯爵を小馬鹿にする。
『そ、そそそうですよ!手首から先は慎重に扱う様に!』
「やれやれ、手酷いですね伯爵」
あまりな注意に、鼻で笑って視線を横に送った。
ちらちらと、伯爵の持つ燭台の焔が石壁に揺れている。
『ほら、終わったからとっとと往けッ』
「どうも」
『手前で斬ったなら手前で付けろよ!全くヨォ!!』
「餅は餅屋と思いましてね」
『はァ!?つ〜かお前妙に臭くね?何かまだ隠し持ってんじゃねぇのか?』
「武器なら預けてありますよ、では失礼」
素っ頓狂な声を上げるブエルを背にして、血の臭いが充満した医務室を出る。
『サマナー!!場所何処か解っているのですか!?』
扉を後ろ手に閉めようとすると、伯爵の声が隙間から飛び抜けてきた。
「承知しておりますよ伯爵、アレの部屋でしょう?」
『アレでは無い!ヤシロ様です!』
「はいはい矢代様ですね」
その剣幕を軽く流して、入り口の両端に立つ甲冑悪魔に目配せする。
『…』
すっ、と無言で差し出される僕の刀と銃。
それを無言で、ひとつずつ受け取り、ホルスターに納める。
特殊鉄の臭いが嫌いだそうで、ブエルがいつもそうさせる。
人修羅も幾度か、此処で治療を受けていたのだが…
傍に付く僕は毎回そうさせられて、はいはいと仕方無く預ける。
刀はともかく、銃も改造品なので対象となるのだ。
いざとなれば管も有る、そう問題では無かったから従う…
まだ何やら話が有る様子の伯爵を置いて、僕は独り歩く。
先刻巻いて貰ったこの腕の布は、何だろうか。
植物の皮のような、生き物の皮の様な。
(まあ、どうせロクでも無い逸品だろうな)
悪魔の治療は、効果重視、精神面は無視。
僕には適した処置だ。
肩から一応下げられた左腕を、外套下で遊ばせる。
腕が折れたのかと思われそうな成りだが、手首の固定だ。
人修羅みたいに、局所的なギプスで済ませて良いと最初思ったが…
僕は、この様に完全固定されていた方が、きっと治りも早い。
『』
『』
話し声。
歩みを止める。
神経を研ぎ澄ませる。
イヌガミが居なくても、この程度なら自身で事足りる。
明らかなる殺意。
重い色の鉛装飾が、灯りの火で影となって躍っている。
その影に、ゆらり、と道先に潜む者の影が雑じっていた。
「僕に用?」
動かず、此方から声を掛ける。
すると、相手方から接近を始めた。
ゆっくりと露わになる姿を見て、廊下の灯りの所為だけで無い事が判った。
マダとダーキニー…の二体。
(面倒な奴が居るな…)
とりあえず、マダに対して刀と銃は封印された。
『デビルサマナー…どうしたの?こんな処にお独りでぇ…?』
腰をくねらせ、髑髏の装飾を煩く鳴らしたダーキニーが云う。
「おや、僕をお待ちで無かったのですか?」
『そういえば、そんな気もするわねぇ』
「つれないですね、折角独りで来たというのに」
『独りになってしまった、の間違いじゃなくて?』
知っている、とでも云わんばかりの舐めずる口調。
傍のマダは焔をいっそう揺らした、恐らく嗤ったのだろう。
と、ダーキニーの視線が僕を強く射抜いた。
外套の下で、右手を柄に動かす。
『アタシ達の魔将を天界に引渡しやがって!!この糞餓鬼があああ!!!!』
突然、声音をおどろおどろしいソレに変えた鬼女。
擦りあわされた刃物が、その両椀から挟み込む様にして振り翳される。
一息に詰められた間を、背後に倒れ込む様にして避ける。
抜いた右手の得物を腰脇から石床の溝に着き立て、それを軸に身体を逸らせる。
ダーキニーの剣が僕の先刻居た空気を切り裂く。
僕はそのまま脚を地に下ろし、抜いた刀をその反動も付随させて
ダーキニーの腰骨に喰い込ませた。
『ちぃッ』
女性にあるまじき舌打ちと同時に、その空を裂いた剣が咬み合わされる。
鬼女の血を吸った刀を構えて、マダの位置を確認して跳ぶ。
マダは、僕に強い波動を発したが、それに構う事無く外套を翻して駆ける。
一瞬動きを止めたマダに、哂って云ってやった。
「効かないですよ、もう酔っているから」
聞いていたのか、咬み合わせた剣を更に鳴らし立てるダーキニーが金切り声を発した。
『ならそのまま酔い潰れて逝っちまいな!!サマナァァアアア!!』
咬み合わされるそこから、鋭くも波紋の様な調べが空気に流れ込む。
背後のマダが急接近する気配を感じる。
(かかった)
抑えきれぬ笑みを隠せない僕は、そのまま後方に跳ぶ。
宙に返る際、下方をマダが走るのを見ながら、それの背後に着地した。
途端、焔が一挙に鎮火される如き異音が廊下に響いた。
それがマダの焔の消える音なのか、マダの悲鳴なのかは判らぬ。
『お、おい!おいっ!!』
慌てる鬼女の声。
僕に飛ばした筈の魔界の調べがマダに向かう羽目になり、きっと狼狽している。
「お先に失礼」
捲って肩にかけた外套の隙間から、回し入れた刀。
すぐに肩から捲ったのを下ろして、そのまま本来の進行方向へと歩む。
『畜生!サマナー!おい貴様ッ…』
ダーキニーの声が遠くなる。
どうやら追っては来ないらしい。
(人修羅が居ないと流石に売られるか)
売られた喧嘩は買うのが礼儀だ。
里の頃からそうして来たから、慣れたものである。
人修羅は無視なり逃げるなりするので、苛々する。
しかし、信者同士で勝手に乱闘すると流石にそうも云ってられないのか
一度…あれの怒り狂う姿を見た…
天井の高い回廊。上から鉄細工のシャンデリアが下がる空間。
響き渡る怒号と金属音、悲鳴。
「…何」
「さあ?」
人修羅が怪訝な表情で、開けた回廊をちらりと覗き見た。
気付かれたのか、その喧騒が一瞬収まり、そして再墳する。
『ヤシロ様!どうか我等に手を差し伸べて下さいまし!!』
『やいふざけるな!貴様等の様な下卑た思想にあの方が賛同される筈も無し!!』
やいのやいのと、飛び交うは人修羅への想い。
僕にしてみれば、こんな中途半端な奴に心酔出来る悪魔達が危うい気がしたが
思えば…その人修羅を雁字搦めに捕らえているのは誰だったか?
そう思いなおして、クク、と喉奥に哂いを潜めた。
てっきり、冷めた顔でそれを見過ごすのかと思いきや…
人修羅は狭い入り口を、物も云わず踏み入って往く。
その意外な動きに、僕も潜り、回廊に入った。
信者同士の得物や魔術が、柱を揺らして鳴かせていた。
くらくらと揺れるシャンデリアが、その悪魔達の影を全方位に踊らせる。
その熱砂の舞踏会は、一瞬の圧で閉幕となった。
二分していた信者達が、一斉に地に伏した。
轟く地の揺れに、僕は傍の柱に背を着けて薄く哂った。
『ヤ…シロ様……ッ』
少し亀裂すら奔っている石床に、爪を立てて呻く信者達。
獣で無い悪魔ですら、四つ這いになり頭を垂れていた。
「…俺を崇拝してるなら、何故喧嘩するのですか?」
無表情な声音で、人修羅が信者を見下ろして云う。
『ですが!』
『お言葉ですが!』
すぐさま反応する信者数名、その声が終わらぬかという内に
最早反射的にだろう、人修羅が咆哮する。
「頭を下げろ!!俺をその眼に映して良いと誰が赦したっ!!」
先刻より激しい揺れ、それを耐える為か、畏怖か
信者達は床に額を擦り付ける。
僕は腕を組んで柱に寄りかかっていた。
大きく宙で跳ねていたシャンデリアのひとつが、糸の弾ける様な音を立てて落下する。
それは人修羅のほぼ真上のものだった。
刀の柄に指を一瞬伸ばしかけたが、見極めて止める。
眼で追う事も無く、人修羅は振り翳した腕で弾き飛ばした。
轟音を立てて、その飛ばされたシャンデリアは縦長の窓に衝突し、割れ爆ぜる。
表情は此方から窺い知れないが、肩で息をしている人修羅。
もう言葉を発さないで、ただ床の一部の様に息を潜める信者の群れ。
やがて、搾り出す様に人修羅が口を開いた。
「ぁ…っ…はぁ……あなた達、悪魔、が…嫌い、です…」
平伏す彼等に、なんと痛い労いの言葉だろうか。
この半人半魔、己を棚に上げる事の多さに、僕はいつもほくそ笑む。
面白い、いつも、いつも。
「俺が気に食わなくて、襲い来るのは、勝手ですけど…」
一息の間を挟んで、続ける彼。
「双方俺を慕うなら、それで喧嘩するのは止めて下さい…迷惑極まり無い…」
云い切り、踵を返した。
その表情は、酷く気分が悪そうで…僕は心が躍る。
部屋に戻り、窓辺の椅子にどかりと腰を下ろす彼。
いつもの様に、窓の向こうを見ていた。
堕天使への憎悪でも巡らせているのだろうか?それとも別の思惑?
「珍しいね、功刀君があんなに悪魔的に振舞えるとは思わなかったよ」
そう云いながら、僕は近寄る。
その言葉が気に入らないのか、彼はジロリと僕を睨む。その金の眼で。
その眼には、人修羅を眼に映す僕が映る。
「僕は君を眼に映しても構わないのかな?」
座る彼を覗き込む様に、屈む。
「…嫌だけど…それだと俺も…困る事が有る…不可抗力…」
「フ、成程」
その声のか細さに、確信を持って…僕は彼の前髪を鷲掴みにした。
眉を顰めて、僕を睨む金眼。
「具合悪い?ねえ?功刀君」
「…」
「だろうね、慣らしもせずにあんな術使うから…全く…浅はかな奴だね…」
そのまま、ぐ、と持ち上げる様に引き摺って、窓に押し付ける。
余程消耗したのか、眼の焦点が泳いでいる。
「信者に八つ当たりとは、良い御身分だな…君はっ!」
「あ゛…っぅ」
片手で窓に押し付けたまま、僕は乗り上げて、その頬に膝を入れた。
窓の硝子面までに、乗り上げれる僅かな面積がある…
そこに二人で乗り上げて…正確には強制的に乗り上がらせて、押し付けている。
「げ、ほっ…」
「しかし、あの信者達も…まさか君がたかが人間に嬲られているとは思わぬだろうね」
「…こ、のッ」
前髪を掴んだままの僕の腕を、力を込めて裏拳した人修羅。
だが、MAGを意識的に其処へと集中させていたので、そう痛くも無い。
おまけに彼は、今にも倒れそうなのだ。
「マグネタイトが欲しいなら、あげようか?」
「…放っておけば…回復…」
「なら、このまま犯して良い?」
「…!!」
「クク、弱った君をこの城で犯すのは、なかなか酔狂だろう?」
青ざめた君は、先刻の悪魔然とした風格など消え去っている。
どうして、そんなに面白い?愉しませてくれる?
「ほら…MAGを得て、この場を凌ぐか…求める位なら犯されるかをお選びよ…」
膝を下ろして、彼に跨るまま胎に押し付ける。
呻き声を聞きながら、頤から耳元に舌を這わせた。
ふる、と身体を粟立たせた人修羅は、かすれ声で答える。
「マ…グ…」
「云い方も解らないか?」
「…マグ…くださ…い…お願い…します…」
「そう、ではしっかりと呑むが良いよ」
僕は応えて、唇を彼に合わせた。
毎回、こうだ。
駆け引きでの接吻か、僕の気紛れ。
此処に在るのは、損得勘定と損得感情。
「ぐっ、う…」
頬を紅潮させるこいつは、毎回生娘みたいでやはり面白かった。
なかなかそんな逸材も居ないと思い、その度呆れて僕は哂う。
同時に欲が、サマナーの筈の僕を、彼より悪魔たらしめるのだ。
捕食側に立つ快感は、いくら食んでも足りぬ。
「んぅ、う…ぅ!!うううううッ!?」
ガタガタと、肩を震わせて僕の腕に爪を立てる人修羅。
見開かれた金色が、僕を責める、憎悪で見る。
一気に、溢れる程に流し込んだMAGは、彼の中で循環して溶け込む前に
脳天まで回って突き抜ける…そう、逆貧血みたいなモノだ。
一気に失せるのも不味いが、一気に巡るのも不味いのだ。
解っていて、僕は自身から薄まる程に、それを彼に注いだ。
「ぁ…!あぅ、ぐっ…!!」
止めてくれ、と僕を押し退ける腕は、既に弱い。
薬は過剰摂取すれば毒なのだから当然。
前髪から放した指で、その弱い腕を掴んで、窓に押し付ける。
両腕を捕らえて、冷たい硝子に押し付けながら唇を放す。
「…は…ぁ…っ…っはっ…ぁあ…っ」
高熱を出した病人のそれで、熱い吐息のまま僕を見上げた。
「約束通りあげたろう?」
「ぁ、う…」
「後は、その魔力で退けるなり抵抗するなりしてくれ」
そう云って、彼の股座に膝を軽く入れた。
反射的に背後に退こうとした彼は、窓にいっそう身体を押し付けた。
「や、約束…と…ちが…」
「君と僕の間に約束なんか在ったか?」
嫌悪に満ちたその金色が、心地良い。
「取引は成立だろう?MAGは寄越した…だから後は自己責任だろう?」
「ライ…ドウ…ッ!」
「クク…もっと狡猾になったら?低脳」
ぐり、と強く股を探ってやれば、息を止めて歯を食い縛った。
「った……!!」
「ほら、従えよ、人修羅…!」
項の突起を掴み、その顔面から硝子に向き直らせて、叩き付けた。
割れはしないが、双方共にダメージを喰らったであろう音が軋む。
背後から、その手を僕の手に取り、硝子に磔にする。
「ねえ…この窓…誰かが見ていたら…どうする?」
耳元で囁く脅迫。
その言葉で、君に火がつく。
「やめ…やめろッ!今すぐ!」
赤くなった頬を見せて、僕を睨みまくし立てる人修羅。
「く、ふふッ…誰に命令してる?」
無視して、その着衣を引き剥がす。
露わになった彼の局部が、きっと外から見えるだろう。
こんな位置の窓、見る悪魔など居ないだろうが、そんな問題では無いのだ。
そう、潔癖なこの半人半魔にとっては、この状況が既に極刑に等しい。
「あっ、あ…あぁ…ッ」
額を押し付けて、頬を紅潮させた君が、その硝子に映る。
「はぁ…っ…や、めろ…や…っ…や!いや、だあァッ!!この外道がぁっ」
その映り込みの君が、酷く僕を罵りながら…涙を流して…
「いた、い…ッ…お、お願いだ…もう、ヤ…」
垂らした涎が、下の石を濃く湿らせる。
穿つ度に、硝子と君が鳴く。酷く、淫らに。
「せめて…此処は…ッ…頼む、から…!頼むからああっ!ライドウ!」
「…嫌だ、ね!」
「ひぎっ!」
「きつい…晒されて、興奮、してるっ?」
「こ…殺して…やる…」
「してる、ようでっ、大変…結構!!」
彼の前を指に取って、幹に爪を立ててギリリと絞る。
「ぁぁあぁぁあああああ!!!!」
人修羅の、回廊の時とは違う色の咆哮が部屋に響いた。
ぱたたたっ、と、硝子に雪白が飛んだ。
ソレを見た僕は、学帽のつばをくい、とキレイな方の指で上げた。
「まさか、魔界で窓から雪見が出来るとは思わなかったねぇ…ク、あははっ!」
僕の哂いに、ヒクヒクと君の後孔が怨めしそうに引き攣る。
硝子にしな垂れたままの、人修羅の艶やかな髪を引っ掴み
そのまま下に、窓のリムを無視して引き摺り下ろす。
「がっ、ふっ」
彼の頬骨が凹凸に打たれる感触らしきものが、指先から幾度かした。
荒く息づく人修羅は、鼻腔から少し出血していた。
「ほら、その窓…綺麗にしなよ」
「ほ、ざけ…」
「そのままでも、僕は構わないが?余所様の家を汚した犬の飼い主は僕だからねえ」
「…」
「しっかり、説明しないとね?家主にさ…」
君は冷静では無い。
解るだろう?僕がこうしている事実を、公に自らしない事くらい。
だというに…その、憎悪と諦観に塗れた眼で、暗い先を見つめる。
か弱い、ただの、一学生だった君が、今どうして犯されているのか?
まあ、その前に、何故半人半魔となったのか、が在るだろうが。
とにもかくにも、その理不尽達に君は毒されている。
じゅっ…くちゅっ…ず…っ
本当に、犬みたいに、人修羅の筈の君は、硝子の白濁を舐め啜る。
「フフ…馬鹿な犬程、可愛いとは良く云ったものだね」
その、淫猥な窓掃除をする人修羅から、僕は雄を抜き去る。
別に、こんなものは遊戯だ、求めてした、訳ですら無い。
「馬鹿な信者達…どんなに待ち焦がれても…崇めても…」
泣きながら舌を這わせる人修羅の髪を、ゆるりと梳いて…
ごく、自然に囁いた。
「人修羅は、僕のものなのに…」
ビクリ、と人修羅が、僕の言葉に舌を止めた。
寄りかかる様にして、硝子を背にして、ガクガクと震えながら上半身を起こした。
ぐぷぐぷ、と、その脚の間から湿った音がしたが、それすら気にしていない様だった。
「何か?」
哂って、聞く僕に、人修羅は…
「誰が…あんたの、もの、だって…?」
喘ぎ過ぎて、かすれた声でぼそりと呟いた。
それに僕は、軽く返す。
「人修羅、功刀矢代の、力と未来とついでに身体」
バシッ
と、僕は相当気を抜いていたのだろうか。
弛んだ腕を、懸命に振り絞ったと思われる、そのビンタを思いっきり喰らった。
「…絶対…」
僕の報復すら畏れず、この期に及んで噛み付いてきたのだ。
余程…異議でも有ったのだろう。
「…絶対…心だけは…喰わせるかよ…っ」
そう云って
震える、その僕の頬を叩いた…左手の拳を握り締めた人修羅。
泣いていた。
僕は、一層哂いを深めて…
その後、窓に血飛沫を散らした。
何故泣く?痛いから?悔しいから?憎いから?
血濡れの君が、小さな唇から発する…
「」
あの時、何を云ったのだっけね、君は。
「 」
この窓辺から崩れ落ちて、裸身の君は赤く斑紋を染めて。
「して…」
そう、この左手で、今度は額を覆ったのだったか。
「どうして…」
そして、呻いた。
「どうして……夜」
「どうしても何も」
辿り着いた部屋、君は居ない。
その空虚な椅子に座って、煙草を噴かす。
紫煙と共に、吐き出した。
「お前の信者は僕だけで良いからだよ…矢代…」
僕を叩いた、左手の外布を外してみた。
綺麗に繋がった手首に、うっとりする。
僕の指より些か幼稚な指も、斑紋のお陰ですらりと見える。
その掌を、右頬に寄り添わせた。
あの時の痛みが甦った気がして、独りほくそ笑んだ。
狂信者・了
↓↓↓あとがき↓↓↓
すいません、必要無いエピソードです。
あまりに最近ライドウと人修羅の接触が無かったので…
回想でさせちゃうという強引っぷりです、バカス。
出来心です、誠に申し訳御座いません。
最近ライドウがドSに書けない…スランプ?
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