逢魔時-オウマガドキ-
ベルトに下げた懐中時計をちらりと覗き見る。
(酉の刻…)
もうそんなに経過していたのか。
「ドミニオン!サンダルフォン!そろそろ引き上げるぞ」
『御衣』
『同じく』
管に帰って来たのを確認し、ホルスターに納めた。
「やれやれ、急がねば鳴海所長にどやされてしまう」
『少しは時間を気にしろ』
「面目無い」
ピンと張り詰めた尾と、キビキビとした動作で前を行く黒猫。
全く、いけない…
我ながら夢中になる癖はどうにかならぬものかと、頭が痛い。
「呆れないでくれ業斗」
『しょうのない奴め…折角あるのだから、時計を確認しろ』
業斗の云う通りである。
唯でさえ、時空の歪みで変異する回廊だ。
余裕を常に持たねば危険というもの。
鍛錬に適しているとはいえ、簡単に来れる場所でも無い。
『待て!』
鍵盤のような階段を下ろうとした時、前を行く業斗が声を張る。
その声に反射的に前傾姿勢を取り、柄を握る。
『階下から…解るか?』
「ああ、逃げるべきか迷う所だが…どうやら我に用があるみたいだな」
真っ直ぐに殺気がぶつかって来る。
これは、受けて立つしかあるまい。
(帰還は遅くなるな…)
所長がまた愚痴り、家事を押し付けてくる姿が目に浮かぶ。
我から思わず漏れた溜息に、業斗がフッと息を吐く。
『余計な事は頭から棄てろ!』
珍しい業斗の怒声に、神経が波立つ。
(どう来る…?)
殺気だけで、一向に現れぬ相手に少し畏怖する。
試しに威嚇射撃でもするか?と思い、銃を引き抜く。
「へえ、刀と銃と迷うなんて珍しい」
急に発されたその声は、明らかに前方階下からのモノだ。
しかし、下手すれば成人すらしていない男の声。
(新手の悪魔?)
「こちらが見えているのか?」
人語を解するようなので、早速話しかけてみる。
すると、一瞬間を開けてから返事が来た。
「何云ってるんだ?俺、眼は潰されていないぞ」
その言葉とほぼ同時に、暗闇から二つの光が現れた。
金色の、等間隔に並ぶ光。
(人型悪魔か…)
だが、眼だけでは無い。
うっすら、他にも線上に光る薄青。
「調子狂うな、あんたから来ないと…」
苦々しげに吐き出された台詞。
その内容は、まるでこちらを見知ったかの様なもの。
「君が誰かは知らぬが、来るならそちらから来い」
けしかけてみる。
すると、吹出したような相手の息遣いがした。
「どういう冗談だ?面白くないな…それ!」
『避けろ!!』
その悪魔と業斗がほぼ同時に叫んだ。
次の瞬間、螺旋を描いた焔が眼前に広がる。
咄嗟に右に跳び、業斗を拾い抱えながら転がった。
「く…」
背後に業斗を放し、管を急いで引き抜いた。
(とりあえず、後方支援のドミニオンだけでも…!)
その召喚された天使は、この緊迫した空気を読み
挨拶も早々に確認をして来る。
『御指示を』
「ディアオーラを頼む」
これで、一先ず様子を見るか。
(さあ、来い)
刀を構えたまま、階段を見てしばし待つ。
「あんた、趣味変わったのか?」
ぼんやりと立ち上る煙と共に、悪魔が姿を見せた。
人型、まだ少年から青年の体躯。
焔を放った名残か、腕からゆらゆらと煙があがっている。
それをふうっと吐息で霧散させた。
「天使嫌いなんだろう?」
「…何を云っている」
「それとも悪魔の俺に対する嫌がらせか?」
その無表情の眼付きに色が宿る。
少し、笑みを湛えた口が紡ぐ。
「本当に趣味が悪いな、ライドウ」
いや、確かに我は雷堂だ。
だが、何か勘違いをしていないか?
すると、物も云わずにその悪魔は飛び掛ってきた。
刀を大きく振るい、袈裟斬りをする。
この太刀は大降りだが、一撃が大きい。
軽い相手の攻撃なら打ち消せる。
「そんなの持ってたか?」
なにやらぶつぶつ唱えながら、彼は片手で受け止めた。
肉がぶつりと裂け、ゴリ…と骨身に埋まる感触が掌に伝わってくる。
一瞬顔を歪めた悪魔は、すぐに空いた手で刀を挟むように固定し
思い切り脚で蹴り上げてきた。
それも股の間を!
「…ッ!!」
間一髪、左脚を曲げて足首で受け止めた。
だがその衝撃に冷や汗が出た。
確実にヒビが入ったなこれは。
「君も、狙う箇所の趣味が良いとは云えないな」
片脚立ちで、支えれる筈も無い。
ギリギリと刀を相手に押し付け、それを支えにする。
「っ、こないだ俺に同じ事した癖に…痴呆症か?」
「馬鹿な、初対面だろう?」
いよいよ雲行きが怪しくなってきた。
記憶の中にいる、もう1人のライドウがチラつく。
「嘘付け!そのものじゃないか!」
片手を離せば食い込む刀を、そのまま咥えこみ
すぅ…と息を付く。
「ディアオーラなんてせせこましい事して時間稼ぎ?」
「ぐ…」
その通りだった。
じわりじわりと脚が安定してきたのは、高められた治癒力で
先程打たれた足首が治ってきている証拠だ。
「それじゃあ殺し合いの感覚が薄れないのか?」
その、悪魔の跳んでいる発言にいささか衝撃を受ける。
「その大きな刀が折れたら、少しはあんたの自信も折れる?」
そう云いながら、彼は挟み込んでいた方の手を
自ら指を回して刃の方へ被せた。
「ぐ、うううっ」
「な、馬鹿か貴様」
指が切断される可能性が高い、その方法を敢えて取るのは
我の目の前で折りたいからか?
痛くない筈無い。
苦痛に顔を歪めつつ、この悪魔は気合だけでこの大太刀をへし折ろうと…
本気で?
「っ…とんだ酔狂だ」
折られては大問題だ。
そういえば、ドミニオンはどうした?
少し背後を気にする素振りを見せた。
「…後ろの彼なら、すくんでる…よ!」
「なんだと?」
どういう事だ?
いぶかしむと、垂れ流した鮮血で血溜まりを作るその悪魔が眼を光らせた。
「俺が、彼より上位だから、じゃないのかっ?」
ミシリ、と軋む音が鼓膜に響く。
まずい…
(こうなれば、ままよ…!)
結構投げやりに彼を、その掴みこまれる太刀ごと押し倒す。
「っく」
すぐに立ち上がろうとした悪魔は、一瞬起きたが
いきなり背面を床に打ち付けた。
何かと思い見れば、どうやら血溜まりで足を滑らせた様子だ。
「くっそ…!!」
『…どうやら勝敗は決したようだな』
業斗の声が白黒はっきりさせてくれた。
我は悪態を付く彼の喉元に、太刀の切っ先をあてがう。
この大太刀なら、切断は容易である。
それが解るのか、悪魔は下手に動かない。
『しかしこんな靴を履いた悪魔とは、珍しいな』
云いつつ寄ってきた業斗に、少し驚いた様子の悪魔。
「ゴウトさんまで、俺をハメているつもりですか?」
この空回りっぷり、実は思い当たる節が有る。
我は業斗と眼で会話をし、確認を取る事が優先と知った。
「君は、ライドウ違いを起こしている」
「…はぁ?云っている事が解らない」
「我の顔をよく見ろ…」
我の最後の発言から、藪睨みをする様に悪魔が金眼を細めて此方を見つめる。
その表情が、ゆっくりと変化していく…
「その、顔の疵…」
「君の知るライドウは、顔に傷痕なぞ残す間抜けだったか?」
その我の台詞が決定的となった。
「本当に…申し訳ありません“雷堂”さん」
深々と頭を下げる姿は、先程の悪鬼羅刹の如き戦いからは想像がつかぬ。
「いいや、勘違いしても仕方無いくらい同一だからな」
気にするな、と云えば
彼は妙な表情で此方を伺う。
「どうした?」
「いえ…ライドウの顔で云われると、何だか…恐い」
そんな感情に彼をさせるのは、あの男の接し方に問題があるのだろう。
「そもそも、いきなり襲い掛かってきたが…君達は主従関係ではないのか?」
「…はい、ライドウが俺を使役する側です」
納得いかぬ口調で、そのように告げる。
「名は?」
「…功刀矢代です」
「そうか、まるで人のような名だ」
その時、拳を固く握り締めていた彼が
搾り出すように発した。
「俺は、人間、です…」
「何…?」
「本当は、人間なんです…本当に、本当に!」
突然、堰を切って感情の波が押し寄せてきた。
「そう、云って下さい…」
外套を掴み、懇願してくる。
路頭に迷う童の様な、その表情は確かに悪魔的片鱗は無い。
「お前は人間だよって、俺に云って下さい!!」
彼の手に、手を重ねて離させる。
「矢代君、君は我があの男と同じ声や容貌をしているから其れを望むのか?」
「あ…」
「それは解決になるのか?」
彼等の仲を窺い知る事は出来ぬが、其れが根本の解決に至らぬ事は解る。
「そちらのライドウとて、鬼では無いだろう?」
諭すように、その手を宙で放す。
だらりと、彼の手は力を失って垂れた。
(そういえば、もう指が癒えていた…)
悪魔たる所以である。
「それに悪魔を受け入れたくないのなら、あんな無茶苦茶な戦い方は止すんだ」
「…はい」
「もう互いに傷は癒えたようだし、そろそろ君も主人の元へ戻るんだ」
「いえ、あの…まだライドウがこの回廊に居るので、まだ居るつもりです」
なんだ、あの男も鍛錬に来ていたのか?
水臭い奴だ、少しは此方でもてなすというのに。
「では少し捜そうか?君が良ければ説明がてら…どうだ?」
我の申し出に、二つ返事で頷く彼。
背後の業斗はジッと矢代少年を見つめていたようだった…
「…そうか、それで君は“仲魔になるしか道が残されていなかった”という事か」
「…あれでライドウが優しい人間なら、不平不満を唱えなかった」
でも、違った。
彼は、隣を歩きつつそう続けた。
「あの男は、俺が苦しみ足掻いているのを見るのが…好きなんだ」
「それは冗談が過ぎないか?彼は至って普通に任務をこなしているぞ」
「あのサド野郎、外面だけは良いのか」
外面だけは…か。
確かに、あの異世界のライドウには計算高い所がある。
捉え所の無いような…
(切れ者という奴か)
自分には到底真似出来ぬ。
(同じ顔なのに…)
「同じ顔なのに、何故こんなに違うんだろう」
どうやら、彼が同じ事を考えていたようだ。
投影したかのような台詞を発した。
そして、その眼をこちらに向ける。
恐らく疵を見つめているのだろう。
「いいや、君の思う程の差は無いだろう」
「え…」
「我も、悪魔と人間の違いはあまり感じない」
それはあのライドウも同じ筈。
以前交わした会話で、それは分かった。
(だが、決定的な違いは…有る)
我がそうして考え込むと、彼は突然声をあげて笑い出した。
「あはははっ、もう、可笑しい!!」
「な、どうした唐突に」
そのまま腹を抱えて、すこし俯く。
その姿はまるで、学校で見る学友の様だ。
「俺の質問に真面目に答えてくれてる、それがもう可笑しくって」
「そ、そんなに可笑しいか?」
この普通の問答が可笑しいなら、それはもう彼等が“おかしい”のではないか?
「ご、ごめんなさい…ぁあ、久しぶりに笑った」
目じりを指で掬う、その仕草は人間の其れ。
一体、この少年。
(人間と悪魔、どちらが強いのだろうか)
その不思議な存在感に、珍しく好奇心が疼いた。
「君、ヤタガラスに相談してみてはどうだ…?」
我が良かれと思い、そう云った途端。
『ならぬ!!』
足元からの叱咤。
少年の笑みは驚きに変わり、我は視線を落とし思わず訊ねた。
「なにか問題があるのか業斗よ」
身内でもない者にきつく物言いする業斗は珍しい。
『その悪魔…いや、人修羅だったか。まだまだ未知数だ』
「鍛錬のし甲斐があって羨ましいが、駄目なのか?」
値踏みするかの様に…業斗が機械的な足取りで彼の周囲を回る。
その緑の眼と、金の眼が交差して絡み合う。
『使役してみろ…喰い殺されるぞ?…待つは破滅のみ』
「ヤタガラスでも、彼を救うのは不可能か?」
もしかしたら、人間と悪魔の好きな方を望めるかもしれぬのに?
「いいよ“雷堂”さん」
業斗からの視線を一身に受けながら、矢代が遮る。
「…半分くらい、当たっている…から…」
(当たっている?)
その真意を確かめようと、した。
だがそれは叶わなかった。
「そうさ“雷堂”…君には過ぎた玩具なんだよ」
背から、嫌な音がした。
柄に手を伸ばすと、反動があった。
「そういえば、背に帯刀しているのだったっけか?」
我の発した覚えの無い、自身の声音。
ゴリ…と背負った刀の鞘に、押し当てられているのは刀か。
「ライドォォオ!!!!」
目の前の少年が、悪魔に変わる。
叫びながら跳躍し、宙で身体を翻す。
その脚先から、迸った光の雨が我に向かって降り注ぐ。
「…!!」
当たる!と思ったが、それはこの身を避けるようにして背面へと向かっていた。
「彼ごとやってしまえば僕に当たったろうに」
轟音の後に、そんな呟きが聞こえてきた。
鏡写しの如きその姿。
異世界の葛葉ライドウ。
すらりと振るわれる刀身は、控えめながら冷たい煌きを放っている。
「相変わらず君は物騒な得物を帯刀しているな、おかげで背面は望めないようだ」
初めて見る、彼の殺気立つ姿。
それは悪魔と交戦している際の其れではなく…
酷く、感情的。
「ライドウッ!!この人には関係無いだろう!何してるんだあんた!」
矢代が駆け出し、刀を避けつつ空を薙ぐ。
一方のライドウは、笑みさえ浮かべてそれを受け流していた。
「遊びの最中に勝手に消えて、何処で油を売っているかと思えば…」
ライドウの、その声音は愉快では無さそうだ。
「功刀君、君が飼い主すら判別出来ない犬とは思わなかった!」
悪魔の彼は、切っ先をかわした筈だったが
何故か赤い光を撒き散らして此方へと飛ばされてきた。
「っぁあ!!」
「矢代君!」
受け止めきれず、彼を正面から受け止めた状態で背を床に打つ。
すぐに視線を前方へと移す。
ライドウの刀は緑の光を帯び、槍状の物へと形を変えていた。
いきなり形状を変えるとは…
念頭に置いて戦っていなければ、避けれぬ。
「雷堂、君も君だ」
迫る姿は、姿見では無い。
「そちらのヤタガラスに引き込んで、どうするつもりだった?」
あんなに情念に駆られた自身を、見た事も感じた事も無い…
「う…」
腕の中で、矢代が意識を取り戻す。
光で貫かれた肩口から、赤い光とも血ともつかぬ物が溢れていた。
(このままでは、総倒れだ)
「待て!ライドウ、落ち着け」
そう云いつつも、背の柄を持つ我は情けない男だ。
丸腰で対峙出来る自信の有る者が居るなら、お目にかかりたい。
ライドウの手元からギュ、と柄の握り直しが聞こえてきた。
殺る気か…!?
「同じ顔だからとて、ソレを所有して良いと誰が赦したっ!!」
ライドウの怒声と共に、振り下ろされる刀身が見える。
(せめて腕の一本程度で…!)
犠牲を覚悟し、空いた腕で頭を覆う。
『止めい!!紺野!!』
…痛みは、無い。
業斗の声で、ハッと我に返る。
目の前では、業斗が佇んでいる。
威嚇でも無く、至って平常通りに。
しかし、異様なのはその猫の頭上で停止する刀だ。
『それで召喚皇を志すのか?笑わせるで無い…』
業斗の声は、もう張られておらず
寧ろ低い静けさが重い。
「…業斗殿」
『いい加減納めろ』
「はい」
あの殺気と共に、ライドウは鞘にすっと刀身を納めた。
笑ってはいないものの、普段の冷静な彼に戻っていったようだ。
『そんなにまで気に入っているのなら、首輪でもつけておけ』
「…非礼を、詫びます」
そう云い、彼は学帽を取り頭を下げた。
その事実に、驚かされる。
我でさえ人前で取るのを拒むのに。
「雷堂、すまなかった…先刻は、見たら思わず」
此方を見るなり再度頭を下げる彼に、何故か焦る。
「い、いや、とりあえず矢代君を介抱してやれ」
我はそう云い、抱きかかえた矢代をライドウの肩に預けた。
なんとなく、急いで引き渡さねば
また暴れだしそうな気がしていた。
「紺野夜」
「何?」
「僕の真名、紺野夜だ」
そういえば、先程業斗が叫んだ名が紺野…だった気はする。
「いきなりどうした?」
「…コレに説明するのが面倒だから」
彼がクイ、と肩に担いだ悪魔を指した。
半分覚醒しているのか、反応は無いが薄っすらと眼を開けている。
その顔はとても少年らしい。
「では…我も名乗ろう」
思い起こせば、真名を語るなど初めてかもしれぬ。
「我は14代目葛葉雷堂の日向明だ、明け方の明」
「ひゅうが、あき…か」
我の名乗りを聞き、途端口元が反る彼。
「どうした、何か可笑しい名か?基準が分からん」
「いや…夜と明なんて、対照的だと思ってね」
くすりと笑い、彼は管に指を掛けた。
「昼夜の境目…先程の事は“逢魔時”とでも思ってくれ」
そう云い、イヌガミを召喚した。
あれは確か彼のお気に入りだ。
逢った際に、よく連れ歩くのを見た。
「…でも雷堂、コレが欲しくなったなら…その時は容赦しない」
「コレ?…矢代君の事か?」
「折角、真名をやり取りしたのだから呪いに使えぬ手も無いな…」
フフ…と哂い、そのまま回廊の奥へと
葛葉ライドウは消えていった。
あの悪魔を抱えて…
(身体が軋む)
鍛錬の徒労でも無く、傷でも無い。
極度の緊張から…か?
「…ふぅ、ようやく帰れそうだ」
出口の薄い明かりが、足取りを軽くさせてくれた。
今日ほど背の大太刀が重く感じた事は無い。
『紺野夜…平行世界の葛葉ライドウ』
業斗の声に、そういえば…と思い聞く。
「何故業斗は真名を知っていた?」
彼がそれまでの対峙で、名乗った事は無かったというのに。
『ヤタガラスの間で平行世界の情報が皆無…とは、まさか思うておらぬだろう?』
「彼は名が知れているのか?」
『…並外れて、強大な力量を持つ葛葉四天王の1人…平行世界に置いてもずば抜けている』
知らなかった自身を呪う。
そんなサマナーに、真名という弱みを握られてしまったのか。
おまけに、我が彼の真名を知っていたところで有利には成り得ない。
『奴は悪魔召喚皇になるべく、強大な悪魔を従えた…との話だった』
「…それが、あの少年なのか?確かに強いが…」
業斗は、眼に強い光を湛えて立ちはだかった。
足を止め、息を呑む。
今聞かなければ後悔しそうであったから。
『良いか?あの悪魔はな…ライドウを最後には喰い殺す、必ずな』
「…使役する側がやられる…というのか?」
『だが、あのライドウも危険視されておる、理由は分かるか?』
そんな事…解ってしまったら、その因子が我にも有るのではないかと思うが。
『奴は、ヤタガラスに謀反を働くのでは無いかと…目を付けられておる』
「な、なんだと」
『悪魔召喚皇になり、壊滅させんとな』
おかしい…
ヤタガラスは帝都を、しいては日本全土を護っているのだぞ。
その結界を崩壊させようとしているなど…
(気でも振れているのか!?)
召喚皇と云うより、悪魔そのものではないか。
『…信じる信じないもお前の勝手だ、雷堂…だがひとつ、俺から云わせてもらおうか』
業斗が、動転する我に冷水を浴びせるような発言をした…
『アレはな、あの悪魔に魅入られておる…』
<功刀君、君が飼い主すら判別出来ない犬とは思わなかった!>
『違うな、逆だ』
“飼われているのだよ、ライドウは”
あの悪魔の先刻握った大太刀が背で
音を立てて、崩れていった。
逢魔時・了
↓↓↓あとがき↓↓↓
咬ませ犬みたいで、雷堂本当にごめん。
アカラナ回廊にもう行きたくないだろうに。
人修羅を取られた上に、笑顔まで雷堂に見せていて
ブチってきたのでしょう…(自分勝手)
まあ勘違いだった訳ですが。
このサイトで一番格好良いのは雷堂の業斗です。
部分的に先の展開のネタバレ…か
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