胎が…無意識に、ひくひくと蠢いた。
「契約を…?」
「そう、別に切らずとも、君が今後悪魔と宜しくやっていく分には支障は無いが。契約したサマナーのMAGに慣れきったその身では…ねえ…?」
吊り上がる唇の端、堪らずに顔を背けた。
「契約は同意だった…けど!必要以上に特定のMAGに漬けたのはあんただろ…っ」
「悪魔を狩ってまでMAGを啜りたくないと我侭ばかり云っていたのが誰か、忘れたのかい?」
ぐ、と首筋を撫でつつ押され、後退すれば背中に扉の感触。
「禁断症状に苦しみたくは無いだろう?」
「だから「はいそうですね」つって股開けって云うのか」
「僕にしては珍しく、君を気遣って提案しているのだがね」
頭の中が白になったり赤になったり。
怒りの血潮なのか、呆然の寒気なのか。
絞まった首から、飼い主の手綱が消える開放感か。
考えずとも引かれていた、その身軽さから解放される恐怖感か。
どちらだって、俺の今、吐くべき言葉は…決まっている。
「あんな儀式、嫌だ」
「切りたくないのかい?へえ、随分と惚れ込まれたものだね僕も」
「違う!同じ苦痛なら、突っ込まれるよりも禁断症状の渇きに耐える方が…マシだ」
暫くの沈黙が、思い出した様に雨音を響かせる。
俺の断言が、腹立たしかったのだろうか。
それなら話は早い、さっさと俺を蹴りつけて、このまま喧嘩別れですっきりするだろ。
(喧嘩してない時なんて、有ったか?)
瞬間自分に問い返して、虚しくなった。
「分かったか…ほら、さっさと退けよ。俺は明日の飯の下拵えしなきゃいけないんだ」
明後日のは、一人分少なく。と、先の事を考えて、頬が熱くなる。
俺を捕らえる手を突っ撥ねて、重苦しい黒を退けようとした。
「……ライドウ、いい加減にしやが――」
「僕が切りたいのだよ功刀君」
がた、と、解放どころか、更に扉が軋んだ。
見上げて睨めば、嘘の無い眼。
「直接吸われずとも、重い悪魔との契約は肉体の質を変えるからね…其処は接触して調整すべき所なのだが、独逸はあまりに遠いだろう?」
「御託はどうだっていい、あんたのデメリットになるだとか、そんなの俺の知った事じゃない」
「それなら、君が肉体の儀式を拒む理由だって、僕の知った事では無いね」
前髪を掴まれ、押し返そうとした瞬間には、後頭部を強かに扉に打ちつけられていた。
「ふ、っ…!」
くらりと眩暈がして、擬態が解けそうになるのを我慢する。
そこに集中した所為か、脚を払う事もままならずに、呆気なくライドウの指に捕まる。
肩まで引き剥がされたと思ったら、露わになった項に爪を立てられた。
「成り給え」
「…ぃぎッ」
抑え込んだその箇所に、直接MAGを通される。
自然と仰け反り、天井を仰ぐ形になる。
「はぁ…ぁ、っ」
隆起する喉仏を、熱い舌が撫ぞり落ちていく。熱さの直後には氷点下の様な感触。
ライドウの残す薄っすらとした唾液の痕跡に、俺の肌が勝手に戦慄くのだ。
「ほら、僕しか見ていないのだから…フフ」
猫の喉でも撫でてやるかの様に、容易い指つき。
俺の項に、ライドウの形の良い爪が詰め寄る。
「んん…ッ!」
僅か引っ掛かっていた着物の紋抜きが、生えた突起に押しやられていくのが分かった。
こんな奴のMAGに誘発され、悪魔の証を生やした恥が、耳まで熱くさせる。
「生えたねぇ功刀君、フフ…君、此処だけは立派なのだから…もっとこの姿に自信を持ち給えよ」
「ざけんな、っ…俺はこんな気持ち悪い姿っ………ぅ」
俺の角の溝を、ライドウの爪先がかりりと甘く引っ掻いている。
弱点と知っている動きだ、これは…愛撫じゃない。
「そうやって己の可能性を無下にしているから弱いままなのさ」
「あんたがそうやってっ…いつもいつも嫌味だから…っ、ひ、ぁ」
「僕が使役せねば、本来の姿すら忘却しようとするだろう?その虚像のまま生きたければ、それでも僕は構わぬが、ね…」
「……俺、は……ッ…あっ、く」
襦袢ごと剥がされていたのか、胸元を擽る舌。
斑紋の黒に紛れてはいたが、つつかれて尖り始めた芽と眼が合ってしまった。
身体の反応があまりに俺の意志と逆を往っていて、頭にかあっ、と血が昇ってくる。
「ライドウ、っ、勝手に進めてんじゃねえよ手前ッ!」
 「矢代君?」
反射してきた声の方向がおかしい、俺の背後からだ。
コンコン、とノックされた振動が俺の背中に響く。
 「何、まぁた喧嘩でもしてるの?」
扉越しの鳴海の声に、思わず息が止まった。
「何用でしょうか、鳴海所長」
舌舐めずりして、哂うライドウが少し声を張り上げる。
 「ちゃんと話し合いになってるか確認しに来たんだよ、殴り合いになってない?」
「心配御無用ですよ…フフ…しっかりと別れのけじめをつけております」
何て野郎だ。思わず反論の唇が開く。
「こんな…!けじめじゃ無――」
が、開いた所を塞がれる。
先刻まで俺の肌を辿っていた舌が、硬直したままの俺の舌を弄ぶ。
 「ちょっと、大丈夫なのかライドウ…矢代君、なあ、俺もお前達が喧嘩ばっかだけど仲良いのは知ってるから」
くぐもる声を押し殺す、苦しげな呻きを上げれば怪しまれる。
 「今生の別れでも無いんだからさ、ほら、独逸なら船もまあまあ出てるし、年に数回は会えるだろ?」
しゅるしゅると袴の帯が解かれる音に、背筋が凍る。
息遣いのひとつでさえ、誤解を招きそうで恐ろしい。
いや、誤解も何も…たった今、俺は何をされている?
「鳴海さん、ライドウでなくなった者にこいつは興味を示しませんよ」
 「何云って…お前、仕事以外にもしょっちゅう付き合ってもらってたろ?今回だって一緒に歌劇観に行ったりさあ」
「ライドウとして貰った招待でしょう」
 「…違うよ、お前に、あれは渡されたんだ」
ぐい、と股を開かされる。
「…ライドウ…っ……やめ…」
小さく吠えて、刃向かう様に閉じようとしたが、ガタンと音を立てて扉に再度押さえつけられた。
その音に反応してか、鳴海の訝しむ溜息が聞こえた気がして、俺の鼓動が跳ねる。
 「殴り合ってない?」
「まさか、腫れた顔で渡独したくないですからね」
 「あーお前は蹴りの方が多いよなライドウ……ってそうじゃない。一方的じゃないかって事だよ!」
コンコン、とまたもやノックされる扉に、俺は縫い止められている。
下手に身動きが取れない…のに、ライドウの指は容赦無く俺の下肢を…
 「矢代君、今回確かに急だったけど、それを理由に怒ってライドウに当たっちゃ駄目だよ?」
「…は、い」
上へと擦りそうな声を、必死に落ち着かせて返答した。
下には擦られる俺の逸物が、必死にライドウの指に甘えて育ち始めていた。
 「不安な声音だなぁ…ねえねえ、鳴海お兄さん入っちゃ駄目?」
「だ、駄目ぇ…っ…!」
ライドウの眼が哂って俺を見ている。
怒りと怯えに震えた俺が、その暗い眼に映りこむかと思っていたが。
明らかに違う興奮に眼を光らせた俺が、見えた。
 「だって矢代君、泣きそうな声してるじゃない」
「確かに啼いてますね」
 「ええっ、ライドウお前そう思うなら気遣ってやりなよ!また意地悪い事云って怒らせてんだろ?」
ぐっしょりと先走って濡れた下着が、袴ごと膝まで抜かれる。
ここで一発蹴りでも入れたら良かったろうか。
いや、そんな事したら、ライドウが鳴海を態と部屋に入れるかもしれない。
この男自身は、別に行為を見られても何とも思わないだろうから。
「クク、実際…普段より大泣きですね、しとどに濡れてる」
鳴海に言い聞かせる様にして、俺の下肢を見るライドウ。
 「おいおい…ホラ矢代君、最後までやられっ放しでいいの?何か云い返してやりなって!」
「良いのですよ鳴海さん、こいつは最後まで僕に犯られっ放しで」
背中がずるずると扉を伝って、下方に落ちていく。
俺の脚を抱え込んだライドウが、臀部をするりと撫であげて唇の端を吊り上げた。
 「あーもうやっぱそういう……おいライドウ!俺、入るからな!?」
「…クク…それでは僕もそろそろ入るとしましょうか」
扉のノブが下げられる、俺の腰が上げられる。
「や、嫌だぁあぁッ!!」
咄嗟にノブを掴んで、向こうからの動きに逆らう。
 「あ、押さえてるでしょ二人のどっちか」
「はぁ……はぁっ」
 「分かった、矢代君?」
鳴海の侵入は阻止した、が。
ライドウの滾ったアレが…俺の下を貫通している。
ぐい、と肩に脚を乗せられて、ギチギチと挿入が深まる。
縋る様にノブを強く握り締めて、歯を食い縛った。
 「そんなに嫌だった?ご、ごめん…入らないから。その、俺さ、最後まで…いつもみたいに喧嘩で別れて欲しくなくてさ」
鳴海の言葉を、俺は何処まで噛み砕いていただろうか。
下から呑まされる熱で、もういっぱいで、脳内がぼうっとしていた。
 「兎にも角にも!ライドウは、矢代君にしっかり御礼云えよ…?」
「…理由は?」
答えつつ、ゆっくりと入ってくるライドウ。
一番引っ掛かる箇所が入口を通過して、胎内にぐぷんと響く。
「ひっ」
小さく悲鳴した。多分、嗚咽だと勘違いしてくれる…
頼むから、してくれ。
 「随分と、矢代君のお陰でお前…人間っぽくなったからね」
「こいつが僕を人間にしてくれた、と?」
 「ライドウっていう人形じゃなくて、本来のお前が付き合ってた様に、俺は見えたよ…」
「へえ、それは御礼を云わなくては……フ、フフフッ」
滑稽なんだろ、あんた。もう、その哂う眼が云っている。
俺の耳を甘く噛んで、鳴海に聞こえない程度の囁きをしてきた。
「人間ごっこは出来ていたみたいだねえ、僕等」
ごっこ…
 「今のお前なら、きっと先方とも馴染めるよ…ライドウ」
そんな訳無いだろ、鳴海さん。
この男は、結局こういう奴なんだ。
親族と思わしき人達の所に行ったって…きっと孤立する……
 「デビルサマナーの前線から外れたら、きっと本来のお前がもっと見えてくるだろうな…」
…馴染まれたら、困る。孤立してくれなきゃ、困る。
どうして、こんな奴が……極悪非道の悪魔が如き男が。
俺を差し置いて、人間の幸福を得る?
本来人間の筈の俺が、悪魔になって、母を手にかけてしまったこの運命は…
誰にぶつけてしまえば良い?誰が理解してくれる?
 「じゃ、とりあえず今晩はおやすみ、ライドウ、矢代君」
扉から気配が離れていく。
きっと、本当に心配してくれていたのだと思う。
鳴海は、俺とライドウが一緒に居る時、笑顔でこっちを見ていた。
俺の作った飯を、美味しい、と、また笑って。
「…鳴海所長には、そこそこ感謝しているがね、放任主義だし」
不器用な子供に、まるで率先して団欒を教えている様な人だった。
嫌いじゃない。きっと、ライドウも…嫌いじゃないのだと、思う。
「緊張…それと羞恥かな?君の締まりも潤いも普段より良くなってる」
「……ぅ…」
「フフ、これは本当に感謝しなくてはねぇ…実に愉しいタイミングに来てくれたよあの人」
「ぁ、あぁ……う…糞野郎…」
ノブに掛けた手が、そのままの形で外れた。力が抜けずに、まだ震えていて。
その手をライドウに握られ、指先を解される。
「カルパで契約を交わした際も、扉の向こうにゴウト童子が居たねぇ…」
「…」
「ねえ、もう今はその背の扉越しに、誰も居らぬよ…声くらい出せば如何?」
扉に押し付けられたまま、中途半端に刺さっているライドウの棘。
彷徨う熱が、俺の斑紋の縁を薄く光らせている。
「最後くらい、本腰入れてあげようか?功刀君?」
悪魔の誘い。
馬鹿馬鹿しい…この流れで、契約解除の儀式を行うんだろ?俺の都合もお構いナシに。
「どうせ行うなら、痛くない方が良いだろう?」
「もう、痛い」
「その割には、前がヒクヒクとお辞儀している訳だが」
ああ、半ばでぐずつく棘のむず痒い事。
「…さっさと…ドイツでも何処でも、行けよ……」
ゆるゆると扱かれる、連動してライドウを締め上げる。
「そうすれば、もう…こん、な……野郎に抱かれるふざけた儀式とか、縁切れる…っ……」
「行けと云う癖に、締め付けてるね」
痛い場所を知っている指先は、好い場所も当然知っている。
「んっ、あ、あふ……」
「ほら、もっと喰らい付いて引き止めてみせて御覧よ?」
散々俺で遊んできたライドウにとっては、容易いのだ。
笛がどの指運びで一番よく鳴くか知っている、そう…口づけ、息を吹き込む持ち主の如く。
「君が主従関係を云い訳にして性欲を解消出来る、唯一の手段だったのにねえ?」
「あっ、あっあ、ぁ――」
付け根から雁首を往き来していたライドウの指が、直前で止まる。
びくびくと痙攣する俺は、一際強くライドウを締めたまま、達する事も出来ずに。
「君もいきたい…?」
「はぁ……はぁ……っ…何処、に…」
情けない声、震え上がる快感に負けそうで、嗚咽混じり。
「独逸?それとも眼の前の欲望?…どちらか選び給えよ」
…行ったところで、あんたみたく居場所が用意されてる訳でもない。
惨めになる、普通に人間らしく暮らすあんたの傍に居たら。
「…いきたい」
ライドウの学生服の腕を掴む。
「床じゃなくて、ベッド…っ」
弱々しく吐き捨てられた俺の言葉に、ニタリと哂う男。
鎖骨を舐められ、更に、と、促すようにこめかみに接吻される。
甘い仕草に感じるのは錯覚だろうか。
雨の音なのか下肢の音なのか、判らなくなる。
「暇潰しと云われて、その風前の灯の様な自尊心が煽られた?」
「あ、ぁう……ぬ、抜いてから、移れ、よ」
「余計に揺れたくなければ、しっかり首に腕を回し給え」
繋がれた状態で、ライドウに抱き縋るみたいな姿勢。
立ち上がったものだから、重力に逆らえない俺が落ちる。
「ん…っ」
堪らず脚を腰に絡めて、それ以上落ちない様に、ぎゅうと抱き締める。
「締め過ぎて堅いのも、如何かと思うがね」
鼻で笑ったライドウが、強張った俺の臀部を撫で上げる。
薄い肉と、行為の度に失笑されるその部分を、執拗に。
それにビクビクと背がしなって、更に締め上げてしまう。
「あふッ!!」
パァン、と、緩かった掌が突如打ち付けてくる。
反抗の声より先に、悲鳴を垂れ流す俺の喉の奥は、酷く渇いている。
「締め過ぎだよ」
冷たくも、その奥に熱がこぞんでいる事が、分かる…この男の声。
いつだって冷静だ、と、警戒を解かないと、ゴウトも云っていた。
でも、俺は知っている…
「遊郭で遊ぶより、君で遊ぶ方が興奮すると云ったなら、怒らなかったのかい?」
自分勝手、気儘、欲望のままに弄ぶ瞬間こそが、この男の冷静さを欠いている瞬間だという事。
…俺を手篭めにしている、どうしようもないこの瞬間だ。
「こんなの、遊びじゃ、ない」
「へえ、じゃあ、何さ…っ」
今度は背後に寝台のシーツ。
扉よりも軟いそれは、波打って、俺が溺れている事を嫌という程に知らしめる。
「あんたの…っ…独り善がり…っ」
「善がってるのは、君だろう」
「支配欲、充たしたいだけの癖に、ッ、あぁ、んっ」
しっとり濡れた額の髪を、指で掻き分けて覗き込んでくるライドウ。
慈しみとは程遠い、戦っている時の眼にも似ていて。
「支配する側と、される側で、何か間違いでも?」
「っう、ぁ、はぁ……はぁ…遊女とも、情抜きでやるのか」
「君は悪魔との交渉で、情に重みを置くの?」
まだ、四分の三。
「ああ、御免ね、性交渉の話だったかな?…フ…ククッ…」
折り曲げられ、腰を高みに持ち上げ抱え込まれる。
馬鹿みたいにヒクついた自分の雄が見えて、それに萎縮するかと思えば何故か更に高揚してしまう。
「随分慣れたよねぇ…君も」
「慣れたんじゃない、慣らされた…だ!」
引き絞られる、波が向こうへと引き潮になる、熱が冷める様に遠のく。
二分の一まで抜けた所で、思わず口走る。
「待てよ」
息を吐く、ライドウを見る、胎を暴くかの様に。
「ど…どうせ、切ってくなら…」
中途半端に刺されているなら。
「寄越しやがれ……餞別」
恐る恐る、股を開いた…
いっそ、深く刺して、もう見えない所まで沈めてくれたら、惑わないのに。
あんたみたいな野郎の力なんて借りなくても、きっとやっていけると。
棘を誇らしげに抜き取る事が、出来るだろうに。
「は……可愛気の欠片も無いね、それが君の“御強請り”?」
「悪魔じゃなくたって、使うだろうが…!」
先刻からの接吻で溢るる唾液を、MAGの香味と共に、プッと吐きつけてやった。
乱れたライドウの黒髪が、垂れる淫靡な艶で光る。

「ヤタガラスにこき使われてる割に、尻の穴小さいんだなあんた」

忌み嫌う類の嫌味を、追い討ちで吐きつける。
ああ、流石に…今のは、障ったらしい。拭いもせずに、埋め込んできた。
「……フフ……功刀君…」
「あ、ああっ…ぁッ」
ずぐずぐと、きっと嫌われる容赦の無さを、俺に叩きつけている。
「ほら…望み給えよ…でなければ、僕だけでいってしまうからね?」
舞い戻り、四分の三。
見ても無いのに凡そ分かる、だって当たり前だ、この男ので慣らされたから。
「俺、も」
腿を掴むライドウの手が、俺の手首をぎりりと押さえつける。
溺死させんと、上から押さえ込んで、俺の懇願を待ち望む眼を光らせて。
「い…いきたい」
「何処に?」
「…」
「フン、ならばそのまま情けなく涎でも垂らしてい給え」
根元まで一気に。
「ん、あ、ぁ゛ーッ!あ、ぁあッ!!」
強情な俺に、刃を立てるのが好きなんだ、ライドウは。
(違う、そうして欲しい訳、無い)
真下に鳴海が居ても、もう、どうでも良かった。
扉の前で必死に耐えていた先刻の自分が滑稽になる程に、叫んだ。
抜けそうな位置まで引かれ、首で引っ掛かると再び奥まで挿し込まれ。
抜けそうな快感まで惹かれ、首で一旦止められて、寸前で吐き出せず。
(俺は、何がしたかった?)
いきたい?何処に?何を?
ドイツに行きたいのか、誰奴にイかされたいのか。
真っ白になる、ライドウの部屋の筈なのに、天井を仰げば天使の螺旋すら見えそうな。
激しい腰と雨音で、意識が遠くに飛びそうになる。
白檀と…雨の匂いと、少し、青臭い…
春はまだ遠いのに…何だろう…この、脳髄を蕩かせるような、異界みたいな空気。
「ほら…ッ、功刀君」
「あぅ、あ、イヤ、いやらぁ、ぐ、ぅうッ」
「吐き出し給えッ」
張り詰めた俺を指が攫う。
覆い被さるライドウのアレが、完全に入った。
なんて、気持ち悪い――
のに、ぎっちりと俺の壁が、無意識に憶えているのか咥え込む。

「君なぞ、置いてイってやるよ…矢代!」

一際強く穿ち、ふるりと痙攣したライドウは、腹立たしい程綺麗だ…
ああ、やっぱりこの男は、高圧的に支配している瞬間、凄く到達している。
生粋の、支配者なのか。
「はぁ……っ…はぁッはぁ、う…ゥ」
這い上がる、背筋を駆け巡る、夜の気配。内部から、胎を巡る毒の血潮。
あの瞬間の様でいて、違う儀式。MAGが、ぐるぐると渦巻く感覚。
ライドウだけで、先立った、俺を置いて。
「……違ぁ、ぅく…ッ」
「だから…締め過ぎだと云っているだろう?」
「ひぎィッ!!」
バチン、と叩かれた臀部が雄に直に伝わって、ジンと先端が痺れる感じ。
どくどくと、脈打ってライドウの黒を汚す。
既に指は離れていたのに…どうして、こんな…
後ろで達する、これだってあんたに躾られた事なのに。
そう、だから俺の性癖じゃない。
「は…っ………君を…連れたって…いく必要は無い、からねぇ……?」
「も、もう切れた…のか…契約…」
俺のかすれた声、嗚咽に聴こえてたら、ひたすら腹立たしい。
「まだ実感が無い?フフ…餞別が消える頃には感じるだろうさ」
「なら、さっさと、抜きやがれ」
「この馬鹿の様な締め付けが弛んでから、そうさせて頂くよ」
後追いの俺は、頭上の双眸に哂われて、耐え難い羞恥に眼を瞑った。
「僕は往くからね、独逸」
胎が、熱い。打ち込まれたままの胎が。
痙攣している訳でも無いのに、ライドウを離さない。

「……何だい?その憮然とした顔は…“人修羅”」

あんたといきたかったのは、これじゃなかったのに。

「勝手に、ドイツでも何処でもいきやがれ…っ…腐れサマナーが!!」

置いていかないで欲しいなんて、俺は思ってない。
だから、云える訳が無かった。
きっと…そうなんだ…

そう納得させて、白濁まみれの招待券を破り捨てた。


止まれ、お前はとても美しい《前編》・了

↓↓↓あとがき↓↓↓


タイトルが出オチ。
「俺も行きたい」と云わせたかったライドウ。
「独逸?それとも眼の前の欲望?…どちらか選び給えよ」という招待券に対して「ドイツ」と答えれば一緒に行けたのかと云うと、そうでもない(えっ)
後編の為の前編。ライ修羅だと思って、書いています、これは一応。