「こ?」
聞き返してくる嫌味な眼が哂う。続きを待ち望んで揺れるその光。
「こ…紺野」
でも、当然紛らわせる。
「何?」
「俺を、飼うなら…餌を、くれる約束、だ」
いよいよ切ない其処を広げて、泣きそうな自分を叱咤する。
こんなに、純正のMAGが必要だと、思わなかった。
いや…俺の体内を、そっくり入れ替えられてしまったのだろうか。
葛葉ライドウのMAGで構築されているのだろうか、既に。
「契約、だか…ら」
下の着衣を、ライドウの眼の前で…寛げる。
半ばまで、膝辺りまで、ぐいぐいと爪先で押し退ける。
あまりの苦痛と恥に、気が狂いそうで…体の傷よりも、灼熱で。
「そうやって股を開く程…契約内容は君にとって美味しいものだったのかい?…ククッ」
「寒い、早く、しろ」
「悪魔なのに寒い?人間の真似事は疲れるだろう?」
「半分人間だ、それに…」
視線を逸らす、眼は読まれるから、見せたくない。
「あんたが…人間に戻してくれるって、云ったんじゃないか」
塗り替える。塗り替えろ、契約を。
「僕が?」
「あんたが…悪魔召喚皇になる、その手伝いをすれば、そうしてくれると」
真実を捻じ曲げる。白い烏を塗り潰す。
「へえ、君を人間に?」
ライドウが、俺の局部を直に触った。
思わず、瞼を落として眉を顰める。声が、震える…
「そ、そう、だ」
「折角強く育てた君を?人間に還すのかい?この僕が?」
(ライドウを、紺野夜を…塗り潰せば)
堕天使の声が、脳内で反芻される。
禁断の言葉で、塗り潰す。
「俺の事“愛してる”と、云った…」
静寂。
鼓動が煩い、怖くて、薄く瞼を開いていくと。
胸を震わせ、肩をくらくらと上下させるライドウの…哂い声。
「ックク……あ、は、アハハハッ!」
「ヒグゥ――ッ!?」
鋭い痛みが奔って、息が喉元で突っ掛かった。
下肢の雄を、ぎりりと握られ、背筋がしなる。
「僕が愛を語った!?…何?だから犯したと?契約したと?」
「は、っぁ…はぁっ」
「悪魔で、しかも男の君を?それはそれは…滑稽だな」
「…だろ…だって、あんた、イカレてんだもん、な」
俺ですら赦し難い事実を創り上げて、あんたを貶めてやる。
「忘れてて良かったな、俺の云う事…全部、笑い話みたいだろ」
いっそ笑ってくれ。
覆い被さってきたライドウの下肢に、脚を絡ませた。
「そんな低俗なあんたから、教え込まれたんだ…ほら、嗤えよ」
引き攣る頬、可笑しくって、反吐が出そうなのを必死に堪えて、堪えきれずに震えて。
MAGの薫る肢体を、俺より逞しい身体に縋る。
「…愛していたから、君と共闘して、人間に戻す…と?」
要約したその台詞に、俺は微かに頷いた。
「僕にそんな感情、在ったのかい?」
…本当に、本当に僅かに、頷いた。だって、今のあんたは、俺の知るライドウでは無い。
だから、嘘にはならないだろう。
「ふぅん…それはそれは、面白い、ねぇ」
相変わらずの、冷笑…
「だが、僕の想い人だったのなら――…それなりに、優しくすべき、かな?」
でも、指先は緩まって。立てられていた爪先は、その桜貝の背で撫でるだけになった。
「もう、忘れたんだろ」
「フフ、君が望むなら、MAGの受給行為くらいは…昔のままに、してあげよう」
「…痛くなけりゃ良いってだけで、別に…っ――」
求めているのが顕著になって、云い返せば、塞がれた。
熱い舌が、歯列を叩く。
これが正しいのか、違うのか。正常なのか、異常なのか。
分からない。判断基準が無い。
だって、俺は…このデビルサマナーしか、知らない。
「ん、ふ……ぁ」
でも、感じる相違点。
口から流されるMAGと、同時にくる筈の爪が…無い。
項の突起に抉りこむ、爪先や、銃口が無い。
髪を掻き分けた指先が、前髪を鷲掴みにして、そのまま寝台に叩きつけられると思いきや…
するすると耳の傍まで滑り落ち、親指が耳朶をくすぐる。
残る四本で、撫で撫でを、されて…動悸が跳ね上がる。
「ぷ、ぁ…ッ、お、い…俺は別に、さっさとMAGだけくれたらそれで」
放された唇で、即座に否定する。
と、ライドウは…微笑んだ、それも、毒気無く。
あまりなその表情に、俺の声が消えた。
「フフ、君はこの方法を提示したのだから、悪くないという事だろう?」
「ち、違う、俺はこれしか教えられて」
「強大な力を秘めておきながら、何故僕に挑まなかったの?何故使役されていた?」
「あんたの方が、姑息で陰険だから、強い」
咄嗟に漏らした侮蔑に覆い隠した真相。
だって、しくじれば、望みは成就しないから。
最期は…殺し合うから。どちらかが、消えるから…
と、一瞬でも、思った俺が、異常でイカレてる。
「では聞くが…功刀、君は僕の事を、どう捉えていたのだい?」
ゆるゆると、俺の幹をしごくその行為ですら、爆発しそうなのに。
ライドウは嘲笑すら浮かべずに、そんな事を聞いてくる。
「あ…っ…あ、んた、を」
「“ライドウ”は、君を愛していたとの事だが…では君は?人修羅」
高い天井、ランプが微かに揺れる。
いや、俺の視界が揺れてるのか、いまいち判断がつかない。
逆光に光るライドウの…黒曜石が、今は、俺をしっかり見ていた。
この、久しい眼差しに、強い欲が無いのを、歓ぶべきか…それとも…
「俺は、人間に戻ったら、あんたに答えを…云う」
ぽつりと述べたこの、自分の声が他人の声に聴こえた。
「そういう契約だったの?」
「ああ」
「恋人の関係も契約の内?」
「し…知る、か、よ…っ、ひ、あ、あぁ」
なんて事、云ってしまったんだ、俺…
「……フフッ、こうしていれば、記憶が戻るかも知れぬね?」
「ん、んっ」
「ほら、今更、だろう?恥じらいなぞ棄てて…もっとお啼き?」
「んな、あんたと違って俺は、低俗じゃ、な、ッは、あン!!」
ぐちぐちと、摺り寄せられた腰で、熱い幹と束ねられ、指がそれをしごく。
花の反りを直さんと、矯正をさせるその甘い指つき。
俺の反抗を崩さんと、嬌声を吐かすその甘い腰つき。
「MAGは感情で溢るる…悪魔も、人も、ね、っ…」
「へ、んたぃっ、変態っ、変態サマナー…ッ――」
「気持ち、宜しく無いのかい?溢れてる、よ?ふ、ふふっ…ねぇ?功刀?」
己の局部をあまり晒さないこの男が、こんな行為…こんな。
弱点を重ねて、真綿で絞め合う感覚。
水音がし始めれば、股から後ろの方に…つう、と伝っていく水滴。
呼吸している後孔にそれが侵入して、びくりと身体が揺れてしまった。
「注ぐのだろう?“其処”に」
ああ、俺は、酷い。
殺して衝動を抑えたその次の瞬間には…ブチ込まれて、注がれて、胎を充たそうとしている。
悪魔、そう…だ。これは、俺が半分悪魔だから、仕方ない。
チラ、視線で促して、ぐ、と視界を閉ざす。
さっさとしろ、と、己を贄に、下肢を明け渡す。
激しい痛みが電流の如く奔ると思ったが…奔らない。
「は…」
つぷり、と、細いが、節が骨ばった感触。
指で、慣らされていた。
「あ、あ……ぁ…な、にし、て!?」
関節が通ると、声が出る。
互いの先走ったそれで滑る指、緩やかな抽送に腰がふるふると躍ってしまう。
「だって、ねぇ…?僕のでは、裂けるだろう?君の孔は女性のより硬いだろうからねぇ」
そんな、優しい前戯、やめろ。
気持ち悪い、気味が悪い。
その思い遣りが…怖い、ひたすら、怖い!
「ん〜っ…ん、ぁ、は…は、やくしやがれ…ぇ」
これ以上恥をかかせないでくれ。
さっさと、下に注いで、終わらせてくれ、頼むから。
「…欲しい?」
耳に、絶対わざとかけている、掠れた吐息。
でも、いつもとは違う昂ぶりに…熱に弾む、その声は、俺を惑わした。
MAGとは無関係に、まぐわいを興じる、その肉欲。
睦ぐ恋人同士の、それ、なのだろうか。
互いに知る由も無い、そういう関係の、そういう行為…の、擬似体験か?
呼吸を整え、じろりと横目で捉える。
「こ…ここまで、しといて、止めたら…ぶっ殺す、っ」
「我侭だね、君…」
「あんた以外には、っひ!!ぃぁあっ」
一気に引き抜かれた指に、隙をつかれた。
その瞬間、開きの緩くなった坩堝に、あてがわれる楔。
慣らされた門戸は、俺の心の準備はお構いなしに、受け入れる。
「あぁぁあぁぁああァあ」
ずぷずぷと、今までには無い潤滑さで一直線に。
今まで、無理矢理喰い破って、切り裂いて打ち込まれていたのに。
「ぁ、れ?君、さぁ…っ…開発、されてるの?酷く、容易だよ、ねぇっ?」
「あ、ぅグッ…」
「僕と御揃いだねぇ…フフ」
「ぁ――」
勘違いだ、おまけに自虐するな、気色悪い。
そう叫ぼうとして、唇を開いた瞬間。
「ぁっ、ぁ、ぁぁぁぁ」
おかしい、喋れない。
喉の奥から漏れるのは、人語で無い。
痛みの殆ど無い侵食行為は、神経まで喰らい尽くすのか。
ただ、ひたすらに、反応する。
恐れていた正体の輪郭が浮かび上がる、MAGの融けこんだ汗と共に。
「啼けるじゃないか」
打ち付けられる腰、引き寄せる指は、首を絞めていない。
ガクガクと頭を揺らせば、そんな俺の項の背を指で包んで、庇護するライドウ。
全身全霊、痛みを排除したその愛撫が、俺を堕落させる。
「きつい、締め過ぎ、少し力…抜き給え」
「はっ、はぁ、ぁぐ」
「っ、そういうのは、まだ慣れてないのか、フフ」
ありえない、気持ちが、良い…だなんて。
嫌だ、違う、そんな筈は無い。
MAGが胎に来る、その感覚に、予感に戦慄いてるだけだ、それだけだ。
がりがりと、寝台が俺の爪先に抉れる音がする…
でも、それは俺自身の発する声で、微かに聞こえるだけだった。
ずるずると、引き抜かれると、呼吸を思い出す。
弛緩した口の端から零れ落ちる唾液を、ライドウが哂って啜る。
仰け反った俺の喉笛を、そのまま斑紋に沿って…舐め伝う。
「汚、い」
「君の雫が?僕の舌が?」
呟いた俺に、打ちつけた。
必死で奥歯を噛み締めて、感覚を遮断する。
「……ぅ…はぁっ…はーっ……はぁっ」
「力むと痛いだけだよ、僕が知らぬ訳無いだろう?」
居一瞬見せた眼と、その言葉に…本質を知る。
(ああ、やっぱこの男)
俺を覚えていようが、忘れていようが、同じなんだ。
ヤタガラスに蝕まれて、狂ったデビルサマナーの…十四代目。
「ふっ、ふ…ふふ、ねえ、君の知る僕と、同じ動き、出来てるかいっ?」
「ぃ、ぎっ、ひぁ、ぁ」
同じどころか、もっとタチが悪い。
「ねぇ、功刀っ」
鋭いそれではなくて、じっとりとした、侵食。
俺の鼓動に合わせたリズムで反復される、既にMAGを滲ませるソレが美味しくて。
先刻まで俺を苦しめていたのと、また違う衝動が。
「ん、ぅぅううぅッ」
背中を大きく逸らして、腹に頭を垂らすまでおっ勃てて。
そんな浅ましい姿で呻く様になった俺を見て、此方の限界を察したらしい。
それとなく支えられていた脚が、両肩に乗せられる。流れる様な自然な動作で。
いっそう喰い込み、悲鳴を上げた。俺のモノの付け根からもう一本生えてるみたいだ。
でも、普通尻尾は出入りしないし、あんな音立てない。あんな、こんな。
じゅぷり、じゅぽりと、如何して潤う?
「悪魔の君を寵愛したらしい僕の…ククッ、久しいだろう?呑み干し給えよ」
変えられた角度に、脚の指を折り曲げた。
「あっ、イ――…」
甘過ぎる受給行為のトドメまで、違ったのなら俺は…
それは、それだけは赦せない。
「…ぃ……お、ぃ…っ、待、て」
息も絶え絶えに、自らの雄を握り締め、根元から留めた。
それでも指先に滴る溢れそうな涙が、羞恥の海を創りそうで。
「何?まだ達したくなぃ…?名残惜しい?クク」
「ち、が」
「僕とてこのまま維持するのは厳しいのだが?」
悩ましげな声で揺さ振りをかけてくる、鼓膜の傍で唱えてくるこの男に…
「け…契約の刻と、同じ、様に」
そうだ、あの瞬間も、向かい合って繋がってた。
もう、最近はずっと背後から…だったのに、何だって、こんな状況で。
俺を忘れたあんたが、あの時と同じ様な視線で。
「いつもっ…みたく、し、して」
胸糞酷い、爛れた台詞になってしまったと、云ってから死にたくなる。
本当に、記憶を飛ばしたあんたにしか、吐けなかったと思う。
「いつも…っ?」
聞き返してくるライドウ。
そう…あれからずっと揺るぎ無かった事がある。
どんなに暴力的でも、それだけは。ボルテクスからずっと。
互いに確認した訳でも無いが。
「教えてくれなきゃ、分からぬよ…?」
ライドウの、少し荒い呼吸での問い質し。
脅迫でも無いそれに、俺は…俺は…墜とされて逝く。
(ああ、塗り潰されていくのは、どっちだ?)
下から上から涙を滲ませ、懇願に喘いだ。
「た、のむから…頼むから」
どうかトドメを挿す前に。いつもみたく。今までみたく。
「イく時は名前で呼んでくれよ!夜!」
ああ、どうして暴力混じりに、降り注ぐ行為を受け入れていたか。
どうしてあんたもそうするのが常か、察した気がする。
「俺の、名前を…名前、をォ」
吐き出す言葉の途中、指先が下肢の戒めを解いてきた。
そのまま圧し折る事すらしない、捻り上げる事すらしない。
愛おしいという動きの、指先の遊戯。
恐怖か、快感か、認識すらままならない内に。
叩きつけられる熱い血肉。
眼で結んできたライドウ、あの瞬間と同じ様に。
同じ本質が、同じ動きをさせるのか、同じ歯車で。
一瞬で引きずり出されていった記憶達、痛みと傷みと―――
悪魔の囁きが。
「矢代」
項の突起の先端まで、震えて奔るソレは、シナプスから直通で。
久々の餌を胎に直接注がれた俺は、涎を垂らしてだらしなく。
“いつも”以上に異常に。
「ぁぁあぃぃゃだぁあああ゛ぁ」
ドクドクと注がれる傍から、自分の腹上にびゅくびゅくと漏らして。
喰った傍から吐き出すかの様な俺が可笑しいだろ。
「矢代、美味し、い?」
MAGという精を注ぎつつ、伺ってくるライドウに。
半狂乱で、もう形振り構わず、頷いた。
どうせ俺を知らないあんただ、名前だけで繋がってるんだ。
堕落し切るには、都合良かったんだ。
「ぁ、ぁあよ、る…夜!」
「これも契約内?」
「ぁ――」
違う。
これだけは、多分。
真名で呼び合うこれは、これだけは…
俺を、名前で呼ぶ時のあんたの眼だけは、確かに俺の魂を捉えていたから。
「…っ」
ふるふると、先刻まで縦だった頷きを、横に振る。
「そう」
俺の否定を見たライドウは、抜く事もしないで。
そのまま抱き抱えてきた。
ぐじゅ、と、結合部と合わさった胎から、いかがわしい音がする。
いたたまれなくて視線を逸らした俺。
その発生源が俺の吐き出したモノと思えば、下は自然と萎れた。
「…僕はね、君が怖いよ」
が、ライドウの、そのとんでもない台詞に思わず顔を上げ、見つめ直す。
「何処まで、君という、人修羅という存在に固執していたのやら、ねぇ?」
少しまだ弾む吐息の所為だけでは無い、その、やや切羽詰まった…
狂おしい矜持の唱。
「日誌も道具も、何もかも、僕の周りには…君の影が落ちている」
鼓動が、伝わってしまう。
怖れを伴った、それが。
「記憶を失って良かった気がするな、フフ…」
少し引き離され、真っ直ぐ向かい合って視線を絡ませた。
黒曜石の輝きが、俺の金色を映していた。
「特別な想いを抱く存在は、いずれ足枷となる…野望の、ね」
「……」
「君という存在は、きっと今の僕が感じる程度で、丁度良い」
急速に冷えていく胎。
冷えてきた空気の所為でも、俺の精でも無い。
「ククッ、だが、MAGで充たす行為は甘やかだったろう?そんなに漏らし」
そこまで云ったライドウの横っ面を、拳の甲で薙いだ。
しっとりとした黒髪が揺れて乱れ、その隙間から俺を薄暗く見つめる眼。
「ねぇ、思ったよりも君って、可愛い声で啼くのだね?」
繋がれたまま、高笑い。
ああ、何故。
これまでの様な酷い甚振りも、血も見なかった…マグの分かち合いなのに。
優しげな愛撫から始まって、ドロドロに爛れた…マグワリなのに。
肉は寄ったのに、魂が遠い。
胎は充たされたのに、どうして、如何して、なぜ、何故…
「フフ…このままでは冷えてしまうよ?」
呆然としているままの俺は、抱き抱えられ、傍の常備品である脱脂綿で腹を拭われていた。
後始末までされているのに。優しいのに。
「どうしたのだい…矢代?何か違う?」
肩に掛けられた外套を、跳ね除けたくなった。
でも、それが出来ない。
縋る接点が、此処にしか、今は無い。
(塗り替えられてるのは、誰、だ)
ライドウが空間から出て行ったのを確認して、よろりと寝台から起き上がる。
脚を流れ伝うMAGに指を伸ばし、掬った。
ぴちゃぴちゃとその指先を舐めれば、俺の魔力のえげつない強みがあった。
外套一枚で、冷気舞う床を、斑紋の光る脚で捌く。
あの散らかした空間を、片付けなくては…ドクターヴィクトルに申し訳無い。
まだフラつくのは、MAGの枯渇ではない。
胎だけ膨れた今、それは言い訳に出来ないから。
その、重い扉を開けば…血の様な腐臭。
正気になった今、それは酷い責め苦となって俺を苛む。
「ゥ、グ……ッ」
胸元を抑え吐き気を逸らす、視線を逸らす、罪から意識を逸らす。
ロクに見ないで、腕に点した焔を放つ。
マグマアクシスを火葬に使う、それだけ一瞬で無に帰したかった事実。
(え…)
焦げ臭い揺らめきを、そっと見た。
一声の、嘶き。まさか…
焔の中、まだ息の在った出来損ないが蠢いていた。
それは、真っ白なヤタガラス。
アルビノだろうか、眼が…赤い。
嘴を開く瞬間、反射的に腕を振り翳した俺。
相手に大した事が出来ないのを解っていて、瞬殺した。
赤い眼球は見事破裂して、血の涙を流す。
〈白い、烏)
ぞわり、と、連想する、今のライドウ。
綺麗な純白の色は、優しいと同時に、眼に痛い。
ああ、黒に、染めたい。
「…夜」
灰の中、絶叫した。
白い烏〈中編〉・了
↓↓↓あとがき↓↓↓
ひえええええ恋人とか、とんでもない嘘。
そして既に後悔してるとか、早。
ドロドロ…タイトルに反して…
エロばかりになったので、やはり三部構成に。
優しいライドウは怖いです、いくら本来のライドウでは無いとしても。
当社比数割増しで人修羅はえっちです(お)自棄とも云う。
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