帰宅するなり、廊下に躍り出てきた功刀。
眉を顰めて、アタシを見つめた。
「どうしたんです、その格好」
「ちょっと、喧嘩」
「喧嘩って…誰と!?怪我は…?」
「別に〜…無いんじゃないの?」
ブレザーも、制服もボロボロにほつれてる。
こりゃ、学校に着てけないわ。
「どうしてクリーニングに行って喧嘩に発展するんですか…」
「功刀ちゃん、アンタはどうして喧嘩してきたよ」
「え?」
「喧嘩して家出したんでしょ…何が、不満だった…」
愛されてるのに。あんなにも、強く。
「何が嫌で、里を出たの…」
明確な質問と、鮮明な単語。
アタシの脱ぎ捨てたブレザーを、甲斐甲斐しくハンガーに掛ける功刀が、静止した。
「俺は…書置きが、嫌いです」
「どーして」
「書置きだけで、置き去りにされて、待つ事が…怖いから、です」
「怖いの?」
「また、死体で帰ってきそうで」
ソファにゴロ寝して、黙って聞き続けた。死体って単語にツッコミも入れないで。
「たとえ"ごっこ"だろうが…失ったら、後悔、した」
「何、今回また書置きされて、それでキレちゃった訳?」
否定しない=肯定。
「そっか、なる……化け物には化け物の住処と伴侶が似合い、って事か」
「俺、そいつの事、嫌いです…でも、置き去りにされるのは、もっと腹立たしい」
「へえ」
「悪魔も嫌いです…でも」
功刀の視線が、アタシのPCを指し示した。
「やっぱり貴女の事も、心配になりました…」
アタシの書置き見て、重なったのか。
孤独に弱い、と見た。
「へえ、そっか」
何だか、意地張ってるのも、疲れてしまった。
前髪を額から掻き分けて、その隙間から功刀を覗く。
綺麗な横顔と、短い黒髪が、やっぱり涼しかった。
「なんだ、気付いてたんだ?鈍いと思ってたんだけどな、アンタ」
「やっぱり…悪魔…」
折角着火されたのだし、吸いきってしまおうか。
「ある里で、先生に惚れちゃった生徒が居てさ〜…」
甘ったるい煙を吸う。
「大きくなろうが、先生は若いまま…おまけに伴侶も若いまま」
肺という器官に、澱ませて。
「望みも無いまま、恋の焔は燃え上がっちゃってさ〜…心中でも狙ったのかね」
赤い爪先に煙を吹きつけた。
云われるままに、命じられるままにアギを撒き散らしたのはアタシ。
アタシの絶対的な主人は、あの人だったから。
「曼珠沙華にまで燃え移って、炎上、ブフ系持つ悪魔大活躍」
「なんとなく、覚えてます」
「そんなに昔でも無いから、流石に覚えてた?あはは、そりゃ話が早いね」
赤に煙る煙は、あの光景を呼び覚ます…
「追放されたサマナーは、トウキョウに流れ着いて、孤独に暮らしました、と」
「命を取られなかっただけ、マシでは?」
「そのとーりさ…無茶したもんだよ、あの人も」
容赦の無い言葉は、アタシの心を解した。
「だからね、唯一連れてる悪魔のアタシに云ったのさ」
”お母さんと呼んで”
ずっと、子供の居ないという十四代目の伴侶に話す。
アタシと同じ、片親だと語った、この子に。
葛葉ライドウの十四代目と、夫婦ごっこをしているという存在に。
「家族ごっこで幸せなフリして…過去と決別したかったのかな」
「貴女は、母と思ってましたか?」
「アタシ?ん〜…どうだろ…」
悪魔らしく、オッサンから吸い上げたり、通わされた学校にも、一応行ってるし。
どうして擬態してまで、今を生きてる?
「人間に、なりたかったのかな、アタシ」
功刀の視線と、絡んだ。
「おかーさん、悪魔に成りそこなって死んだから」
「え…」
絡んだ視線が外れて、あの魔晶を今度は見つめていた、一緒に。
「悪魔に成れば、惚れた男の使役下に入れるから」
あの人の…思いつめた瞳、半壊した肉体、禁忌の術。
焦げた臭いが、アタシの擬態した嗅覚を刺した。
融けた身体の忘れ形見…魔の結晶。
「だから、アタシは悪魔になってんの、嫌なんだ」
失って、哀しかった。
でも、涙は流れない、人間の部分が皆無だから。
独りになったって、意地張って生き延びても、愛を云われても。
アタシの寄る辺は、全ては、あのサマナーだったから。
「ずっと、家族ごっこで良かったのにさ、アタシは」
過去との決別なんて出来なかったんだ、アタシの御主人様は。
葛葉ライドウの十四代目に、小さい頃からもうずっと…精神を魅了されてたんだ。
「どうして…アタシの為に、おかーさんで居てくれなかったんだよ…」
煙草を、握り潰す。擬態してるから、熱い刺激が指を襲う。構わない。
「アタシの絶対はおかーさんだけだったのに」
人間って、脆い。簡単に怪我して、おまけに治癒も遅いんだ。
だからあの人も、ずっと傷を生乾きにさせて、膿んだのか。
「アタシが中途半端だから?人間に成れたら留まらせる事が出来たってのか!?」
魔晶に吐き捨てるアタシの視界から、功刀が消えた。
途端、煙草の感触が消える。
「指、燃えますよ…折角綺麗にしてたのに」
すぐ耳元での、囁き。綺麗な落とし文句にも錯覚する。
眼前を、アタシの煙草を掴んだ指が通過した。
黒い、ラインの通った、指が。
「俺、煙草嫌いですから、特にこの甘いの」
何時の間にか、そんな動作を一瞬で行った功刀を、まじまじと見つめる。
頬に、光を湛えた、黒い紋様が…
(ああ、これが、人修羅)
実際、紺野が云うまで、思いもしなかった。
こんな、繊細そうな奴が…まさか、半人半魔の…化け物だなんて。
上里の悪魔としか接さない、高嶺の花。
「アタシに見せて良かった訳?その姿」
「本当は嫌ですけど、同じ悪魔嫌いだったら、同志ですから」
酷い矛盾をはらんだ言葉に、薄暗い微笑み。
その黒が映える指先で、煙草を灰燼にした。
揺らぎで判る、アタシや…紺野よりも熱い焔だって事。
「さっき…喧嘩したのって、葛葉ライドウですか」
「そ、紺野センセ」
「あいつ…先生とか宣ったんですか?まあ、全く違う訳じゃないですけど…」
頬をひくりと引き攣らせた功刀に、なんか笑ってしまう。
どうしてだろ、仇に見てた十四代目の伴侶なのに、どうして。
「どうせ嗅ぎ付けてくるから…そろそろ行きます」
「あ、そ…」
どうして、寂しい。こんな短時間のなれ合いで。
「これからも、ずっと今みたいに暮らすんですか、あ…と…」
功刀の戸惑う口を見て、アタシは息を吐いて脱力させる。擬態が解けて、羽が伸びた。
「リリム…だったんですか」
「百合って名前はおかーさんから貰ってるよ、人間名」
リリー…
「今更悪魔として生きてく自信無いし」
「百合さんは、自分で働いて稼いだ方が良いです」
「え?」
「搾取してばかりだと、完全に悪魔ですから…俺の出来なかった、卒業とか、就職とか出来ますよ、まだ」
人間の世界から隔離された、そんな生き物が呟く。
「もうリリムじゃなくて、百合さんなんでしょう?使役されてないんだ…」
何処か寂しそうな、それでいて強い言葉。
ぎゅう、とアタシの何かを締め付ける。
「じゃ、さ、功刀ちゃんは今…何者なの」
人修羅?人間と云い張る?悪魔を認めない?
ずっと囲われている、それは使役にも等しい束縛じゃないのか?
里の羨望と畏怖に包まれて、アンタの居場所は何処に在るんだ?
アタシと同じで、そういう何かを求めてはないの?
「俺は…」
あの、涼しげな項には、黒い角が生えていた。
今にも、突き破って羽化しそうな。
「あいつの呼ぶ真名の通り"功刀矢代"です」
頬から、鎖骨まで、綺麗に流れる黒いライン…
アタシの脚の刻みと同じ、悪魔の印。
「この身体が、どっちの生体だって、奴にとってはもう…意味を成さない」
「元は…どっちだったっけ?人間?悪魔?」
「人間です、今だって戻りたい…戻る為に俺は奴と…」
云い淀む。
「いえ…今は、このままで」
前を過ぎると同時に、黒い紋様は形を潜めた。
一瞬で擬態した功刀の背中に、声掛ける。
「着物は紺野センセが持ってるよ」
「分かりました」
「揚羽蝶みたいで、綺麗だったよ、さっきの姿もさ」
「…嬉しく無い」
と、振り返った表情は、これまた不機嫌だ。
それがやっぱ可笑しくて、鼻で笑った。
視線を逸らした功刀は、そんなアタシを侮蔑でもするのかと思った。
「あの…少し、失礼します」
伸びてきた手が、頬に。
引っ叩くかと強張ったアタシの肩を、そのまま寄せる。
(は?)
唇が、冷たくて瑞々しい其処に触れて、背筋が凍った。
十四代目の熱いのと正反対の、震えるぎこちなさが、背徳を匂わす。
薄く開かれた唇に、数時間前を思い出す。
脳天にガツリとキて、こっちから引き離した。
「ちょ、おま…な、に……初心な顔しといてよ、おいおい」
加減を知らないのか、ぐわりと注がれる熱量がはかり知れない。
自分のエネルギーがどの位強いか、理解してないのか?
「吸いましたよね?あいつから」
「…え?」
少し、その涼しい顔が、血色良く見えたのは気のせい?
「唇から、ハッキリしたから、夜のMAGの薫り」
揺れる世界、ソファベッドにしがみ付いて、アタシはその台詞をしっかりと聞いた。
「不躾にすいません…腹立たしいから、奴の呼気、全部吸いました」
「お、い…おいおい…アタシ、中身が行ったり来たりで、ちょっとコラ…」
体内で、強い性質のエネルギーがちゃんぽんしてる。喧嘩してる。
「くっそ…あの、キス魔が…」
忌々しそうに吐き出して、喧嘩腰で飛び出して行く後姿。
アタシはフラフラの身体で立ち上がると、まだ薄暗い窓にへばりついた。
マンションの出口が見下ろせる此処が、一番視界に入れるには早い。
(馬鹿じゃないのか、本当)
おまけに、どっちがキス魔か分かったもんじゃない。
夫婦揃って、何考えてんだか。
地上で、功刀が飛び出した先…黒い影が既に待ち構えていた。
出くわすなり飛び掛る凶暴な功刀を、軽く往なした紺野が、腹を抱えて笑っている。
本当に愉しそうに。他に向けてた悪魔の哂いを、自然に崩して。
指差された己を見てようやく気付くとか、本当に鈍いというか、抜けてる。
「そりゃアンタ、女子高生の格好じゃ笑われるって」
それしか見てないなら、何も思わないだろうけど…
相手はアンタの伴侶だろ?それはそれは、もう。
(おかーさん、これ、無理な話だよ)
きっと、生きる次元が違う。アタシの唇を通して相手を認知する奴等だよ?…イカレてる。
アタシは濡れた窓を開け放ち、慌てふためく功刀に叫んだ。
「それ、くれてやっから、コスチュームプレイにでも使って!」
ぎょっとしたその顔が、やや怒りを含んでコッチを見上げて吼えた。
「百合さんっ!!」
憮然としつつ、今にも脱ぎ捨てそうな身じろぎが、ツボった。
ああ、なんだ、夫婦ごっこも、ずっとやってりゃ板につくのか。
白んできた空の色に、浮き彫りにならない内に、か。黒いコートを翻す紺野。
アタシを見据えて、何かを放り投げてきた。
武器の類で無い事を目視して、それを受け取る。
軽い感触に掌を見れば、黒い悪魔の絵柄が入った銀色の箱。
「ちょっと、アタシの吸ってるのと微妙に違うんだけど」
小さく不満を口にすれば、聞こえていたのか、背を向けてるのに返答が来た。
「此方の方が絶対美味しいよ」
悪魔の聴力か、人修羅よりよっぽど悪魔な男が押す太鼓判。
「どーも」
シャツブラウス一枚だと、悪魔の身体だろうが肌寒い気がする。
小さくなる喧騒を後目に、冷えた窓を閉めかけて、止まる。
何となく、今すぐ吸いたい気分になったから。
たった今受け取った餞別を開けてみた。
途端に薫る、甘ったるいニオイ。アタシの吸う銘柄の味違い。
「-アギ-」
小さく唱えれば、煙が薄く帯を引いた。
銜えてみると、この舌にさえ判る程の刺激。
「っ……甘」
フィルターから既に甘い、薫るチョコレート。
あの男もやはり、悪魔になってから味覚が薄らいだのだろうか?
(人間から…悪魔に…)
どの様な術を使ったのか、アタシは知らない。
里の一部は知ってるんだろうけど、十四代目の、身体の秘密。
いや、方法というよりか…どうして、人間を辞めたのか。
悠久を生きるなんて、そんなの…元人間にはきっついだろ。
抜いた煙草の隙間から、何かが覗く。
紙切れという確認をしてから、引っ張り出したそれを広げる。
メモの切れ端かと思ったら、多分あのファミレスのペーパーナプキン。
(もしかしてあの男、戻って休憩し直した?)
勝手な想像に呆れて、その面に視線を泳がせる。
黒いインクがつらつらと踊っている、綺麗な、フォントの様に揃った字体。
“蛇に欺かれ 禁断の果実 食むイヴ”
“悔恨の涙が 百合に成つた 聖なる華かな”
神話か……この辺は正直敬遠してた、存在否定になりそうで。
(涙が百合に)
どうしてだろう。
たったそれだけの文章が、何かを赦した。
“手先が器用なら、訪ねるが宜しい”
簡潔な言葉と、銀座の住所が最後に在った。
「失礼…依頼したいのだが」
声に来客を判断して、作業の手を止める。
第一施錠を向こうが勝手に開ければ、コッチで覗いて判断する。
「予約入れてある?」
「名義は八咫烏」
あ、と思い、帳面を捲れば、すぐに見つかった。
かなり興味深い件だから、記憶してた。
「はい、有ったよ、いらっしゃいお客さん」
第二を解錠、小さな小窓から、依頼者の胸元が覗く。
引っ張り出した依頼書を持って、その格子に寄る。
此処はただでさえ宝石だらけなのだ、簡単に入られては困る。
「ダイアモンドの加工だよね」
「これを使ってくれ給え」
す、と綺麗な袋から零れ出した、眩い輝きの石。
凄く純度の高そうなそれは、磨く必要が無いと見た。
「へぇ、凄いのじゃん、おまけに魔力も相当湛えてる…」
感嘆の声を上げれば、クスリと哂い声。
「数年間、吟味して精製した石だからね」
「血で洗った?でもなきゃこんなに強くないよね、呪力」
僅かに見える、口元。綺麗な唇が、三日月の如く吊り上がる。
「ラグの弟子は随分詮索好きだね」
「悪かったな、こんなブツ持ってくるアンタの所為だから」
伸ばす指先に光る、アタシのしているリングの石がランプを反射する。
「その指の石も、綺麗だね」
「…そう、ありがと」
アタシ自ら加工した、形見の魔晶。
深呼吸して、羽が蠢くのを抑えた。
「きっとこんな姿になっても、褒められるのは嬉しいだろーからさ…」
「フフ、そうかい」
軽く哂う、その声を忘れる筈も無い。
「何周年よ?」
「さあ…とりあえず八十年近くは経ったかな」
「そんで今更結婚指輪?」
「あっという間で、忘れていた」
「の割にはこの石の為に随分労力割いてそうだね、紺野センセ」
結婚指輪…情愛の証。
「しかしあの子がしっかり嵌めてくれるの?」
「させるよ…左の薬指に、ね」
ああ、だったらシンプルにしよう、家事が出来る様に。
あの黒い斑紋の邪魔をしない程度の存在感に。
そうだ、石のカッティングを、凹凸の無い華の様にしよう。
「あのさ、完成したら…引取りに来なくて良いよ」
窓を、押し上げる。露わになった互いの眼が絡んだ。
「功刀の顔が見たいんだ、アタシがそっちに届けても良いかな」
何も変わっていない、互いに。
「ああ…良いよ、僕が許可しよう」
その相槌に、よっしゃ、と拳を握った。
あの赤い曼珠沙華、今ならきっと焔に見えない。
きっと、綺麗なモチーフにしか見えない。
「でも、アンタも非道だよね」
「何故?給与の三ヵ月分以上の価値の指輪を贈るつもりだが?」
違うよ、其処じゃない…って、解って云ってんのか、コイツ。
「功刀を人間に戻してやる気、無いだろ」
問えば、周囲の宝石達に負けない位、この闇の中で。
「だって、戻ってしまわれては、僕が困るからねぇ…」
金の瞳が主張する。
「“adamas”…支配され得ぬ石の指輪で、繋ぐのさ」
ダイヤモンドは、このじゅえりーRAGでも希少な石。
品質にもよるが、扱いも難しい。持ち合わせる言葉は…
《永遠の絆と純潔》
「功刀はともかく、ペアだったら…紺野センセが純潔ってどうなの?」
「おや?僕は婚姻を結んで以来、接吻以上は他と断っているが」
「何…せめてもの、ってヤツ?」
「僕の遊戯について来れる者が、彼しかおらぬのでね…悪魔となった今は特に」
「“彼”…ぁあ…そういやそーゆー身体だっけ」
そうそう、男性の姿をした功刀を見てみたい、って願望もあったなあ、アタシ。
だって、キスして内心ドキリとしたのって、功刀だった訳で。
「ま、就職先を見繕ってくれた恩もありますしね〜センセ、マジで綺麗に作るよ」
「良い指導者だろう?」
「チョコレート味は頂けないけどね」
吐き捨てれば、綺麗な顔の男は哂った。
ああ、悪魔だな。その妖しい微笑でいつの時代も魅了してきたんだろ。
天性の素質…人間を僅か残した、悪魔召喚皇。
「僕等を支配するのは、互いだけなのさ」
その呟きの先に、真の幸福があるのか…破滅があるのか…
そんな終りの事なんて、きっとどうでも良いんだろうな、コイツ等にとって。
「今日は書置きで済ませて無いだろーね?紺野センセ?」
「フフ、大丈夫さ…他の悪魔にも言伝してある」
「まぁた家出されたら、今度はアタシが率先して拾って手懐けてやるから覚悟しな」
「女性体でも?」
「っせーな、功刀は功刀なんだよ」
「百合だね」
いい加減、揶揄するカラスを追っ払って、アタシは作業に戻った。
狭い空間、煌びやかな宝石達、変わり者だけど頼りになるラグのおやっさん。
(あー居心地、悪くない)
もう、誰からも搾取してない。羽をのばして創作の日々。
指先には、白い百合のアート。
「どーよ…卒業して就職ったぜぇ?功刀ちゃん?」
生体エネルギーは、ほんの微量で、もう生きていける身体になった。
肉では無く、腕で生きてる。
ねえ、こんなアタシを、褒めてくれよ。
子供がいないアンタに要求したい、人修羅…でなくって、功刀矢代。
ねえ、おかーさんみたく、いつかの様に。
(鮮明に覚えてる)
ぐ、とのびをして、作業台から離れる。
味の薄いスポーツ飲料缶を掴み上げ、唇から注いだ。
あの涼しげな仏頂面を思い出して、尻尾をひらひらさせ、なんだか笑ってしまった。
「今度は“ただいま”っつーからさ」
魂の、帰還。
燃した里に揺れる華が、郷愁に濡れる様に感じれたら。
安堵出来る気がするから。
里に着いたら“おかえりなさい”と云って欲しい。
百合の夢・了
↓↓↓あとがき↓↓↓
ダイヤモンドは永遠の証。
百合…リリー…リリム…
百合の夢…リリーの夢…リリム
女性体同士…百合
帳の二人を廻る永い刻の、一瞬の出来事。
女子高生の格好でプレイしたのかどうかは、ご想像にお任せします。
書こうか迷いましたが、入れるタイミングも無く、気力も…ゴフッ
この話、結構彷徨いつつ執筆していたので…
【BLACK DEVIL】という煙草、本当にあります。
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