俺は人修羅に生ってから…
ずっと利用されては捨てられてきた。
葛葉ライドウというデビルサマナーも…
利用してきた、だが徹底的に。
その徹底した力に、俺は活路を見出したのに。
憎いこの男なら、共犯者に最適と思ったのに。
中途半端な夫婦の契りは俺を惑わす、他の道へと。
帳下りて破瓜り知れない…
いう事をきかない脚は、お飾りに過ぎ無い。ライドウが俺を見下ろすままに、覆い被さってくる。この光景自体は幾度か覚えが有る、それすら腹立たしいが。
「いつもと変わらぬ眼で結構」
そう云うこの男も、いつもと変わらぬ哂い。両手首が結わえるのは、今度は赤い紐では無い。爪先まで整った、すらりとしたデビルサマナーの指。
稀に、ペン回しの如く指から指へと管を移すライドウ。管はいつも軌道を逸れる事無く、そのままするりとホルスターに納まる。そんな所作ひとつ取っても、この男は決める。流れる動作は違和感が無いのだ。
こんな時に、俺の両手首を布団に押さえつける仕草まで。
「…あんた、いつも女性にこうやってるのか…」
「いいや、もう少しばかり優しいかな」
「云わなくていい」
「訊いておいてそれ?」
眼を合わせるまま、ゆっくり顔を近付けてくる。普段、横に流してあるライドウの前髪が、さらりと崩れた。俺の額にその穂先が揺れて、こそばゆい。
「男の君の一口目も、僕が頂いたから、女の君の一口目もそうしたいまで」
髪に隠れた眼が、雲に隠れる朧月の様に光った。
「形の重要性では無い」
奴の額が、熱を確かめる様に俺の額に当てられた。
「功刀君、君の意識に消えない傷を付けさせてよ…」
ああ、あの時と、同じだ…カルパで契られた、それ…
俺がこの男より何倍も強ければ、頼る事など一切無かったのに。人間のサマナーと共謀する、その為に自分を喰わせる羽目になった。今この瞬間…女性という枷に囚われて、再び喰われようとしているじゃないか。
「嘘…吐き野郎っ」
「何が?」
ライドウが相槌して、その吐息が耳元に移る。それにぞわりとしつつ、言葉でせめて咬みついた。
「ベルゼブブ、追い払った後…っ、あんた、云ってた事と違うッ…」
「あぁ…契約の時に交わるのみだよ、ってアレかい?今更何さ…」
クスクスと哂う、その振動が鼓膜を揺らす。
「だって、面白いから」
そう云って、耳朶を噛んできた。指先が一瞬ピンと伸び、俺は息を呑んだ。
「男だろうが、人修羅の君を、抱くのは、面白かったからね」
「放して…喋れよ…っ!」
微妙に唇に挟んだまま答えるライドウは、確信犯だ。そのまま舌で、神経の薄い筈の其処を舐る。鼓膜にぴちゃぴちゃと水音が響く。決して癒される類の水音では無い。
「煩い…煩いっ!耳元で…っ…や…め」
俺に震えが奔る、手首の締め付けが強くなる。
「では他に移ろうか?」
「!!違…っ」
俺の意見を勝手な解釈で受け取ったライドウは、舌を覗かせたまま
耳から首筋に降りてくる。やはり、流れる動作に違和感は無いのだ。
「あ、っ」
生理的に上がる声、そうだと解っていても、ライドウは哂う、俺は恥じる。
鎖骨の窪みを舌で抉る。着物の衿の端を、歯で噛む…
眼が合って、ライドウが愉しげに眼を細める。見せ付ける様に、そのまま衿を噛み千切らんとばかりに開いた。衣擦れの音が、普段との相違点。
「…本当に、貧しい胸だね」
鼻で笑うライドウに、俺は複雑な怒りが滲む。別に、豊かな胸で在りたい筈は無い、俺はそもそも男だ。だからとはいえ…それを失笑されるのも、馬鹿にされる様で。
「へ…え…所詮、あんたも男なんだな」
俺も負けじと、せせら笑う。
「胸が豊満なら嬉しいのかよ?煩悩の塊だな…」
この身体の俺が云うのだ、説得力が無いとは云わせない。すると、ライドウは少し黙った後、俺の片手を頭の横から腰へと滑らせ自らの膝で、跨られる俺の胴へと一緒くたにして押さえつけた。
「なに…」
その空いた手が、暗闇に翳(かざ)される。白い肌が、人外みたいだ。
「っ」
圧迫感。左の胸に、ぎりぎりと掛かる圧。ライドウが俺の胸を、鷲掴みにしている。
「ぐ…っ」
愛撫とは程遠い、その指先。立てられる爪が、表皮に喰い込む。俺もつられて、胴につけられた腕の指で、布団を握り締める。男の身体なら掴みようの無いその肉塊は、女性の弱点なのだろうか?間違い無く、痛い。不可解なしこりの様な内部が、圧迫されると、まるで弾けそうで。
冷や汗と、初めての苦痛による恐怖が滲み出る。
「こんなに薄いと、間違えて心の臓を握り潰してしまいそうだね?」
解っている、その表情。好い処を解ってるから、その逆も解っている。
そう認識させる、慣れた指遣い。
「ねえ、功刀君?」
「やめ…っ痛うッ!!」
いよいよ中でぶちゅりと爆ぜるかと思った、その瞬間。ライドウの哂いと共に指が弛んでいく。
「あぁ、すまないね…血が出てしまった」
あんなに爪を立てて、その台詞は無いだろうが。深く息を吐いて、俺は痛みが引いていくのを待つ…
「ククッ…綺麗にしてあげようね…」
そう云ったライドウが、顔を俺の胸に埋めた。ビクリと反射で、思わず見た。舌が、じわりと割けた肉を抉っていく。垂れていた赤い糸を手繰り寄せて、啜っていく。
「…にが…綺麗に、だっ…てめ…」
自身の悪態が途切れていく。舌が…ライドウの舌が、傷を行き交うその都度、尖った先をかすめる。
ああ…わざと、だ。段々と、かすめるだけ、から…鮮明に舐められていく様になって。俺は眼を逸らして、唇を噛んだ。
「ククッ、乳首を勃てる君が悪い…」
一瞬放して、そうハッキリ云ったライドウ。瞬間、頭に血が上ってきた俺は、身体を強張らせた。一喝して、せめて上半身だけでも起こして、頭突きしてやろうかと思った。額を割ってやる、その煩悩の詰まった腐った果実を。
「っひ…」
なのに。
「ぁ…っ………」
その芽を奴の口に摘まれ、中でひたすらに舐られた。俺の身体は瞬間、弛緩して音を上げる。
(この、男…ッ)
くちゅくちゅと、身体を伝わる音に恥じらいが最熱して意識を巡らせる、が…
「!」
右胸に感触。見れば、空いた手でそこは揉まれていた。それも、先刻とは違う、掌に転がす様に、指先に滑らせる様に。
「変態…がっ…ぁ」
稀に、指と指の間に挟まれて、俺は…
管を指先で弄ぶこいつを、ぼんやりと思い出していた。
「ふっ…くくく…」
戦慄く俺に、嘲笑うライドウ…指の動きを止める事無く、俺の…そこから、口を離した。一瞬引いた糸が光って、舐られていた事を認識させられる。
「人修羅ってさ、感度良いのかい…?」
「っぐ…誰…が」
「この斑紋、辿って撫ぜれば君は鳴く訳で…」
「ひ…ぁっ」
「…それとも、たった数回の交わりでこんな風になったのかい?」
薄っすら汗ばんだ額の、張りつく髪を指で掃われる。何が、交わり、だ…
「強姦…だろっ…」
「おや?使役悪魔の生殺与奪はサマナーの僕に預けられていると思っていたが」
「俺はっ!あんたの共謀に乗っただけで」
「そうして、僕の悪魔に成った」
「…一時的に、だ!それをあんたがこんなややこしい事にして!」
怒り狂う俺を、冷酷に見下すその薄闇の眼。それに、俺の中の血が、猛りつつ畏怖する。引き裂いて…やりたい。
「ライドウ…ルシファーが黙ってると思うのか?」
昏い心が、俺の思考を、悪魔の世界に引き込む。
「ははっ…あんた、それこそ…失敗だろ…?」
出来るだけ、感情を逆撫でする様に発した。するとライドウは、ゆっくりと無表情を現す。そう、これが本当の貌だ。此処に来て、ようやく向き合ったライドウと俺。
「あの堕天使達にとって、人間の刻なぞ一瞬に過ぎぬよ」
「ライ―」
「フ…この一瞬の蜜月すら、君は赦せないか?」
右胸から、左胸へと、ライドウの掌が跳んだ。
「ねえ、功刀君!」
「ぃだ…あッ!!」
「その、人間の形の心臓から喰らってやろうか!?」
「ぎ、ぁあっ、あ」
鼓動が握り潰される。刀を持たないこの男に、肉体を掌握されていく。
ボルテクスから続いてきた、その暴力的な支配。
俺は頭を振り被って、奥歯をギリリと咬み合わせた。
「…こんな処に、わざわざ人修羅の君を連れて…夫婦の契りを交わす…」
「は…っ」
「滑稽だろう?だがね…烏の雌と番(つが)いにさせられるのだけは、御免だ!」
眉根を顰め、嫌悪感を剥き出しのライドウ。俺の顔を覗きこみ、泥を吐く様に唸る。
「誰が、此処の為に子なぞ残すか…っ」
ああ、解った。
先日この男が目を通していた書類…俺の視界に流れて消えた、女性達の写真…
「お、い…あんた…お見合い中、だったのかよ」
そんなまともな色沙汰に、妙な笑いが込み上げる。へらりと嗤った俺を、ライドウはぴしゃりと掌で薙いだ。頬の熱が鮮明で、胸の痛みが薄らいだ。
叩かれて横を向いたままの俺は、視線だけをライドウに向ける。
俺を好きに嬲るデビルサマナーは…やがてやんわりと唇を撓(たわ)ませる。
「…だからね…実に君は役に立ってくれたよ…人修羅…」
「…」
「君の女体に託(かこつ)けて、公的に奴等を黙らせる事が出来た…」
「俺がこの里に居て…あんた、平気なの、か…?」
あんなに、遠ざけていた過去はどうした?
俺が、他のサマナーの支配下に往くのではないかと…目元を引き攣らせて、凶悪なまでに俺を繋いでいたお前は何処に消えた?いや、そんな俺の感情も…どこか、おかしくないか?
「君は間違い無く、僕の種での子作りを要求されるだろうね」
ライドウの、その言葉が俺を正気に戻す。
「こ、子…っ」
「里は強い遺伝子を求めて、強い者同士を掛け合わせようと躍起(やっき)だ…」
「馬鹿じゃないのか!?俺は男なんだぞ!!」
叫ぶ俺に、ライドウの指先が下を触る。
「この身体でまだ云う?」
指がやんわりと揉むそこは、本来は俺のモノが在った場所。今は、意味不明な肉の入口と化している。
「ここから流れる経血が、産める証拠だろう?」
そのライドウの推測に、俺は全身が凍りつく。
産む?男の、この俺が?
「僕と君の子なら、それはそれは化け物だろうねぇ」
「な…に云ってるんだ、あんた、頭…」
「元からイカレているさ」
しゅるり、と、俺の脚を覆う布を取り掃うその指。露わになる脚は、再生途中の酷いものだった。直視した俺は、自分の脚だというのに、嘔吐(えず)きそうになった。
「なに…心配せずとも良いよ功刀君?挿れる場所が違うだけ…」
「ざけんじゃねえ!!放せ!葛葉あぁッ!!」
神経が繋がりきらないその脚は、だらりと情けなく垂れるのみ。その組織を掴んで、ライドウは俺を見る…
「カルパを思い出すね」
「はぐぅっ…あ…ほざ、け」
薄く再生される皮下組織に指を喰いこませ、じゅっと滲み出る血を愉しむ姿。
熟しすぎた果実を、押して搾るかの様。未だ突き出る骨は、不要と判断されてぐいぐい肉に追い出されている。ライドウは、うっとりとした眼で、その白い骨を舐める。
「常に…再生されて…君は、本当…きれいだよね」
その紡がれる言の葉に、俺の脳内が掻き乱される。膝は折り曲げられ、その眼前にそびえる骨を、夢中でしゃぶるライドウ。異常な行為…異常な感覚。
「幾度駄目にされようが、こうして純白の骨を作る…」
じゅっ ず…じゅるっ
「ライドウ…っ」
「幾度食んでも、僕の胎を喰い破って君の眼は睨んでくる…」
「やめ、ろ…んな所、やめ…」
「男と女、両面から君を喰らえば、完全に支配出来る?」
「ん…な訳…無い…っ!」
ああ、おかしい、異常だ。この男は、狂っている。
「君は、悪魔だろう?悠久の内の暇(いとま)だと思えば、こんなのすぐだろ」
「人間の感覚が在るんだ!そう思える筈無いだろっ!拷問だっ…こんな…蜜月」
ライドウが、俺の人体模型みたいな脚を担ぎ上げた。奴は着物を乱さず、その双肩に、担いだ俺の脚を下ろさせる。俺が、縋る様に脚を絡ませている…そんな構図。
そのままぐい、と布団に接地する背面が圧迫された。脚の痛みと、体勢の圧迫感で震える俺に…ライドウが耳元から囁く。
「知ってる?この体位」
「…死ね…好色サマナー」
「まんぐり返―…」
奴が云い終わらぬ内に、俺はその整った相貌に唾を吐き掛けてやった。
先刻打たれた所為か、赤いそれはライドウの頬に返り血の様に滴った。
「フッ…ククク…莫迦(ばか)だね、本当に君はいじらしい」
なお哂うライドウ、きっとこういう空気が愉しいのだろう。
恐怖に、恥に中(あ)てられそうな俺が、可笑しくてしょうがないのだろう。
「男と違って良い点は…油が無くても滑りが良い事かな…」
晒される、おれの秘部。俺だってそんな視点で見た事の無いそこを、不躾にライドウは観察する。
「本当に生娘だね、処女功刀…クク」
かあっと、耳が熱くなる。ただでさえ恥らう単語で、俺の尊厳が犯されていく。
「ふはっ!?」
そして、前触れも無しに、その入口にライドウの指が入っていく。
「さすがに湿っているね…」
浅く、潜り込むそれ。…酷い吐き気。
「気持ち悪い…気持ち、悪いっ…!」
「入口の纏わりつくヒダが、正直新鮮だよ」
せせら哂って、ライドウは一旦抜き、入口の外部を軽く擦った。途端、下半身に嫌な電流が奔る。その反応に目敏く気付くライドウは、ニタリとした。
「女性の神経は鋭敏だからね…君には強過ぎるかな?功刀君」
更に、入口のヒダと芽が嬲られる。それも、俺に今まで与えられた事の無い、優しい指つき。だが…それが、毒なのだ。
「ぁ…ぁあぅっ」
声が、俺の意思に反して、喉奥から迸る。ぞわりぞわりと、いけない感覚。
絶対許されない、排泄感。
「やめっ、やめろお前!!おい!ライドウ!!」
「何が?」
「だからっ!で…で、そぅ」
「何が?」
鸚鵡(おうむ)返しのライドウは、答えを解っている事が大半だ。
「で、でる…っ、や、ば」
冷や汗が噴き出す、歯がカチカチと鳴る。人前で失禁なぞ、本当に死んだほうがマシな気がする。だが、俺の胎はお構い無しに引き攣った。
「や、め、ライドウまじで、お願いだから、ラ、ライドウ!ライドウッ!!」
「フフッ……だから、漏らせば?」
俺の肉芽の先端を、新芽を摘む様に唇で啄ばんだライドウ。
この…確信犯め!!
「ぁああぁあひぃいッ!!」
あられもない声と同時に、噴射された液体。射精と同じで、途中制御など利く訳が無い。俺は真っ青になって、股の間のライドウを震えつつ見た。ライドウは、濡れた前髪を、首を振って払う。
「フフ…残念、小水では無いよ功刀君」
ガクガクと、羞恥に震える俺に、哂いながら云う。奴の額から鼻筋を流れる、俺の漏らした何かが、見ていて痛い。
「…え…」
「潮だよ、鯨みたいに…ああいや失礼、女みたいに」
ああ、もう、嫌だ…
「まあしかし、医学的になんともあやふやだから、もしかしたら小水かもね?」
くたりと脱力しきった俺を、見下ろすその眼に…今まで幾度犯されたのだろうか。身体が、では無くて…俺の…まともな精神が。
「ようやく君は《貫通》を覚えたという事になるかな?」
「…ぁ」
「おめでとう、功刀君」
脚を伝う…赤。経血とは違う、それ。
「ぁ、っああっ、あ、あだ、イヤだぁああ」
ずるるる、と抜かれる楔はライドウの雄で。俺はそれを胎に埋め込まれる肉の坩堝(るつぼ)で。押さえつけられるこの身体は女性だった。
ライドウが抜かれる折に、内部に引っ掛かる。まるで逃がすまいと、縋る様な俺の肉。ぐぼっぐぼっ、と…血が溢れる。傷口に管を捻じ込まれた、マントラでの出逢いを彷彿とさせた。
「所詮っ、処女膜なぞ単なるヒダ、飾りだっ」
腰を、俺に抉るように打ち付けるライドウが、哂いながら云う。
「どうして、君の初夜を買ったかっ、解って、いるっ?」
「知るかっ!あッ!!そこ、やめ…ろ!ぁああッ」
引っ掛けて、まるで血を掻き出すかの様に。俺の中身を穿って、吸って、膨らんで。
「君を最初に壊すのはっ、僕じゃないと気が済まないっ!」
視界が歪む。汗が、瞼を通り越して、眼球に広がった。その歪曲した光景の中で、脚と視線が絡んで融けあっている。
「君の童貞も!処女も!人間も!悪魔も!僕が好きにしてあげるからさぁ!」
哂う狐。俺の主人。
「ぁはあッ、た、のむ!頼むからっ!ソコに挿れないでくれえッ!!」
おかしくなる
「はぁっはぁあっ」
ライドウが俺の中で、暴れる。それが酷く鮮明で、気が狂いそうだった。
「うし、ろ!後ろで良いからあッ!!いつもみたく後ろにぃっ!!」
もう、こうして要求するくらいしか逃げ道は無かった。情けない、羞恥が蝕むこんな台詞すら、今なら吐き出せる。それほどに…雄に合致する雌の孔で受け入れている、この瞬間が赦せなかった。俺は、女性な筈無いんだ…
「後ろ、って!何!?云ってみ給え!」
急かす腰つきと脅迫に、俺は唾液を垂らして喘ぎ散らす。
「尻の孔にくれって云ってっだろ!下衆野郎ぉッ!!」
汚い言葉で汚い場所を指定する俺。恥を捨てて尊厳を護る矛盾。
「そんなっ、いつもの孔が良いのかっ?フフ、淫猥悪魔っ…淫魔にでもなったら?」
「ふ、あぁッ、だ、から!!やめ、て…」
「MAGも一緒に、やるから、遠慮するなよ…ク、クククッ」
ライドウの眼差しが、刀を振るう瞬間と重なる。
獲物を喰らって、支配欲の糧にしている、その恍惚としたそれに…
いつも、いつも、俺は、喰われつつ…
「んあっ…は、あんっ…」
喰われる身体が在る事に、安堵していた。俺を求めてくる熱に呑まれて、そいつの息の根を止めてやりたくて。それなのに、その熱に浮かされて。
「男の時と、どちらが気持ち好い…?」
ライドウの声なのか、俺の喘ぎなのか、結合部からの音なのか。薄っすらとしか認識出来ない程に、もう喰われている。
「僕はね、高揚から云えば、普段の君を犯す瞬間が上だが…」
ぐ、と前にのめって来るライドウが、俺の耳に流し込む。
「今、とても気持ち好いよ…矢代」
低く囁かれて、戦慄する。胎にずきりとそれが落ちて、ライドウをぎゅうっと締め上げた。それに哂ったライドウ。
(ち、がう!今のは違う!!)
混乱に泣きそうになり、否定の為に首を振る。そんな俺に、トドメの言葉。
「孕んでみせてよ矢代、僕の種で」
考える暇も与えられず、代わりに与えられたのは熱い奔流。後ろよりもハッキリと、内臓に伝わってくるその脈動。血管の一本一本に、MAGが奔って噴出されたのかと思うくらいの。
「あぁあああぁぁいやだぁあぁ」
がくがくと、動かぬ脚先まで、痙攣する。奥に叩きつけられる魔力に、身体が歓喜した。
「夜うぅッ!!」
制止の為の叫びなのに、何故俺はまた漏らしている?葛葉ライドウを通り越して、叫んだ名前に、罪を擦り付けて…
ビクンビクンと、恐怖の先の絶頂に到達した。そこから眺める絶景は、奴の眼の様な深淵だった。弛緩する身体を諦めて、乾いていく汗と精に底冷えする。
完全に、犯されたのだ…俺は。まだ繋がれたままのそこから、ぬるりとした感触。
「嘘…だろ…」
白いそれが何か、知らない筈無い。鍵と鍵穴で開かれた先の答えは、絶望のみで。
「ライドウ!何したか解って…っ」
「あぁ勿論」
そう消耗してすらいない声音で、軽くあしらうこの男。
「や…だ」
絶頂とは違う、震えが、脳まで揺らす。
「やだ、やだやだやだやだああああああああああ!!」
発狂しそうだ。
「馬鹿じゃないのかあんた!!俺は人修羅だぞ!?マトモじゃ無いんだぞ!?」
普段云われたなら嫌悪する事柄を、自ら並べ立て頭を振り被る。これが現実だなんて信じたくない。
「身篭って良い筈無い!男なのにっ!悪魔なのにいっ!」
赦される筈の無い罪だ。こんな俺の中に、憎いこの男の因子を持つ命が宿るなんて。
胎を、ぶち抜きたい…!!
怖い、こわいこわいこわいこわいコワイコワイ。俺が支配されて、姦されて、いけない関係を結んだ証拠が生まれてしまう。元の俺の欠片すら、打ち砕かれる…!!
「っ…くくくッ…あっははははは」
脳震盪みたく項垂れていた俺の頭上から、哂い声がした。さも可笑しそうに、少し顔を逸らして、ライドウが大笑いしていた。それを見て怒りが込み上げても、身体は弛みきって跨がれるままだ。そんな俺にライドウは、呼吸を落ち着けてから呟いた。
「だから、今出したんじゃないか…」
「…は?…なん…の…」
「云ったろう?僕は此処の為に子など生さぬ、とね…まさか、もう忘れていた?」
馬鹿にした様に、俺を冷たく見下す。
「だから、経血を垂れ流す、君の穢れた孔に注いでやったのだよ」
「は…ぁっ…はぁ……」
「解る?つまり、君の畏(おそ)れる妊娠は、起こり得ないという事だ、功刀君」
ぐちり、と抜かれた楔(くさび)は、それでもまだ凶器めいていて。俺の股に湿った痕を残す。
「僕がこの巣を潰すまで、君は偽りの花嫁を演じていれば良い、それだけだ」
そんな、馬鹿な。
「それまで、男に戻らせる訳にはいかないな…フフフ…ねぇ?」
男でも無い、女にされて娶られたと思えば…
「それまで、夫婦という使役関係、宜しくね、功刀矢代」
それすら偽り?
「ふ…っぅ…」
絶望が嗚咽に変わる前に、瞼を下ろして外界と遮断させた。
悔しい…憎い…どこまで、利用されるんだ、人修羅の俺は…
「そういえば、君、後ろにも欲しいとか云っていたね?」
「!?」
狂気と熱に、闇色の眼が燃え、俺の金色は喰い潰される。
俺の眼に帳が下りる。
「ひぎぃいいいいっッ!!」
「ああ、やはりこちらは落ち着くね、君の悲鳴が」
「あがああああころすっ、絶対殺すぅうぁあああ!!」
「ずっと僕にだけ聞かしておくれ…」
こんなの…狂ってる…
一瞬でも、俺を掻き抱いたお前が、俺を買ったお前が…
俺と真に永遠を求めていたのかと錯覚したんだ。
そんな狂った思考回路の俺も、くびり殺したかった。
はかりしれない憎悪と吐き気
ハカリシレナイ…
ハカリシレナイ…
帳下りて破瓜り知れない…・了
↓↓↓あとがき↓↓↓
初夜がこれとか、酷い酷い…
「月経中に中で出されても妊娠しない」なんてのは確率の話であります
信じぬ様…
ライドウに愛は無いのか?と云えば…秘密。
ラブラブな初夜なんて、このサイトに起こり得る筈が無かった…
次回からややサイコ
そして人修羅が本当に酷い事に…(もう酷いだろうが)
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