寄生木の矢
「クリスマスとか、やっていいのかよ」
周りの気が一瞬だけこちらを向いた、聞こえるように云ったから当然。
いっそヒソヒソささやいてくれたら良かったのに、オレの陰口を。
一番近くの爺さんはせっせと姫林檎を配り続けてるし、もしかしたら聴こえていなかったのか、この距離で?
『拘っていたらサマナー続けるの、難しいでしょうよ』
オレの肩を叩いたのは、一瞬誰とは判らないほどケバくなったスクーグスロー。林檎と引き換えに貰った飾りを、背の枝に一旦受け取っているんだ。種類を仕分けておいて、ある程度溜まったら〝別のところ〟に吊るしていた。この庭に立つ、邪魔なくらいでかいモミの木に。
「触んなっ」
『あらゴメン』
突き放すように振り返ると、オーナメント同士がぶつかる薄く甲高い音が響いた。妖樹の顔を窺うと、めちゃくちゃ平然としてて、それはそれでムカっときた。
「悪魔のお前らはいいの? こんなノリで、特定宗教で盛り上がっちゃって」
『嫌ならさっさと別れてる、こんなノリの管理人とね。あんた、色々と一括りにし過ぎ』
「この家とか村がおかしいんじゃねえの? 戦いもしないで、使用人みたいな悪魔ばっか」
『それこそ嫌なら出て行けば? ただし、それを引き留めるのも管理人の自由。皆好きにしたらいいし、私もそうする』
「……浮かれやがって」
たまらなくなり舌打ちすると、爺さんのカゴから姫林檎をひとつ掴んで、モミの木にぶん投げた。
狙いは的中、てっぺんのデカラビアは眼をぎゅうっとつむり、痛い痛いと泣き出した、わざとらしい。
「坊や、さっきから一体どうしたんだ」
ようやく爺さんがカゴをベンチに置いて、オレに向いた。でももう遅い、話してやるかよ。
モミの木のふもとには何人か集まって、女子なんかは分かりやすく「ひどーい」とか云ってるし。でも好都合なくらいだ、ここに居たくないムードはまんべんなく出来上がった。
ベンチのカゴをひったくり、オレは走って庭を抜けた。
そもそも、どうしてここに居るのか、よく分からない。
なんで親父は殺されて、オレはここに連行された。
いやアイツが殺されたのはなんとなく分かる、よく他のサマナー殺してたから、相当恨まれてんだろうし。
だからこそ、厄介な奴のガキなんて一緒に殺しちまえば良いのに。
清廉潔白とでも思われてんのかな、こちとら悪魔の使い方くらい知ってるっていうか、叩き込まれてんだ。
「そこから先、行くと迷うぞ」
聞き覚えの無い声に、冷え切った足を止めた。もう十二月だってのに点々と彼岸花が咲いている、奥にはもっと広がってて薄気味悪い。
振り向けば、やっぱり知らん人。
(いや、すれ違ってたかも?)
庭の生垣を抜けた後、神社の近くで。
(男だったっけ、女だったっけ)
妙な感じだ、あの時も判らなかったけど、今まじまじと見ても判らん。
袴の着方は男っぽいし黒髪短髪、女顔ってほどでも無い、それなのに……オレの勘が男と断定しなかった。
「どちら様」
「その林檎を貰いに来たんだ、そしたら君が持ち去ったから」
でもたった今〝おれ〟って自称したから、男と仮定していいよな。
「お宅でも律儀に飾るんだ、クリスマスのあれこれ」
「俺は興味無いけど、一応形としては」
「オレだって別に林檎好きで持ち逃げしたんじゃねえし、ところで爺さん直々には来ないワケ?」
「俺が追った方が早いし、あの爺さん足を悪くしているだろ」
そうなんだ、年寄りだから動き鈍いのかと思ってた。そんなの来たばかりのオレが詳しいわけ無いだろ、それともソッコーで仲良くなってりゃ知ってて当然?
「じゃあもういい、さっさと持ってってよこれ」
ずいずいと歩み寄り、カゴを突き出した。相手はまだ受け取らず、じっとオレを見下ろしている。
「君は」
「この流れで一緒に帰ったら、諭されたみたいで恥ずかしいって」
「……もう暗くなってきた、下手にうろつくと花を踏みかねない。此処を崩すと不機嫌になる悪魔が居るから、油売るなら余所にした方が良い」
おいおい、暗くなると危ないって話じゃないのか。よそ者のオレよりも花の心配、身内悪魔の心配か。
目の前の大人(少なくともオレから見れば)から心配もされず、率直にいえば子供心が傷付いた。
「じゃあここを荒らしたら、さすがの爺さんも足引きずって出てくるかな?」
カゴを後ろ手に引っ込めて、数歩後ずさる。
オレの妄想では、爺さんより先にスクーグスローが駆けつけていた……まだ付き合い短いのに。
「どうしてそんなに周りを困らせたい?」
袴の兄ちゃんは、ため息交じりに吐き捨てた。話の悪魔よりも先に、そっちも不機嫌になってるじゃん。
「オレがむかついてんのは別に爺さんだけの話じゃねえよ、悪魔と馴れあってるここのサマナー全部、気持ち悪いんだよ」
「個人差くらい有るだろ。全員が全員、悪魔と仲良い訳じゃない」
「でもあんただって、さっき悪魔の事を気遣ってたじゃんか、それとも祟ってくるようなヤツなの?」
「いや祟るとかはしないけど……多分」
「あのさ、オレはこんな生活望んじゃいなかった。悪魔と人間は根本的に違うんだって、悪魔なんてのは……ロクなもんじゃないし、戦う時だけ出すもんだし」
悪魔は平気でサマナーを殺しにかかってくる、親父も危ない時が何回かあった。
威力の高い得物ほど、手元で暴発したらオシマイ、悪魔も同じ事。
だから仲魔の自由意思はほどほどに、最終的に決定するのはサマナーでなきゃ、スキを見せたら駄目なんだって──
(散々云ってたのに親父)
悪魔の術に踊らされて、ラリった所を仕留められた……赤の他人が使役する悪魔に。
そう、悪魔を使ってたのに、結局悪魔に殺されてんだから、悪魔召喚師なんてしょうもない。
「これだけ〝家族ぐるみの付き合い〟してんだから、もう戦い方なんて忘れてるんじゃないの、ここのサマナー」
「方針の事を俺に云われても困る。それに戦わずに済む暮らしなら、どう考えてもその方が良い」
「でも、ちょっと年食ってる層はまだ戦えそうだよな。ところで兄ちゃんはどうなの、今すぐに戦えって云われたら召喚出来んの?」
「俺は──」
線の細い兄ちゃんは、何か云いよどんだままオレを睨んでいた。
袴に足袋に雪駄、丸腰に見えるけどサマナーなら分からないよな。着物と襦袢の間とか、帯に挟んでるんじゃないの、管なんかを。
「ねえ兄ちゃん、今ここでオレと決闘してよ」
未許可の決闘がご法度な事くらい、知ってる。
それでも悪魔を使わせろ、攻撃させろ、デビルサマナーの武器だって思い出させろ。
オレは上着のフードにしのばせた一本を掴み、アンズーを喚んだ。
学校連中の殆どは身内の悪魔を連れているけど、身一つでここに来た自分に連れは居ない。このアンズーは、里はずれで適当に石投げたら当たったヤツだ。当然ケンカになったけど、互いの鬱憤を察し一時休戦、暴れる機会の為に手を組んだ悪魔。
「真空刃撃って。あの人じゃなくて、そっちの花畑」
『舐メテンノカ小僧、芝刈リ機ジャネエゾ』
「いいからやれって! 直接向かってったって、ぜってえ相手してくんねえよ」
MAGを尾の先に叩き付け〝お前も戦いたいんだろ〟とうながす。
アンズーはまんざらでも無さそうに唸ると、地面をひと蹴り舞い上がった。羽根の端は光を帯びて、準備万端。具合好い位置まで旋回したら、技を放つつもりだ。
(さあ、向こうからは何が飛んで来る?)
弱点狙いで紅蓮属を出してくるか、それとも衝撃耐性を持つ他の悪魔か。確認に振り返ったけど、人影は無い。
(まくられた!?)
飛び退きつつ、空を見上げれば──凶鳥は何かと絡まりながら墜落して、野草と羽根を散らしていた。
焦げ臭い、それと独特なニオイがする、魔力で点いた火のソレだ。
「ボイコットして下さい」
やばい光景、袴の脚でアンズーの首を絞めてら、あの兄ちゃん。
背からマウントとって脇に抱え込んだ翼を、もう片腕の指先でまさぐっている。
「サマナー共々、此処に手を出さないと誓うのなら、小翼羽一枚取るだけで済ませてやります」
『ギ……ィッ……モガレヨウト戦レルゾッ──オイ小僧ッ、聞ク耳持ツナ!』
「それか君、ひとまず管に戻して」
同時に投げかけられ、オレは一瞬足がすくんだ。
早く還した方が良いんだろう、でもアンズーはまだヤる気だし、得体の知れない相手にあっさり降伏姿勢を取るのも、それはそれで怖い。
管を握る指が痺れてきた辺りで、檄が飛ぶ。
「羽ごと消し炭にして構わないのか!」
「待って!」
自重せず自滅するヤツなんて知るか。そう思ってたのに、管を堪らずアンズーに向けた。
さっきの不安と打って変わり、これ以上怒らせた方がよりまずいと、オレの勘がまた囁く。
半ば無理矢理引っ込めたアンズーの翼は、ほんのり炙られ渋くなっていた。
「カゴは何処」
「あっ」
訊かれるなり両手を見る、見なくても分かるだろ、気が動転してんな……管が指から離れない。
周りを見渡せば、草地に転がる編みカゴが目に入った。小さな林檎が二個ほどこぼれていて、いつ放ったかも覚えていない。拾いに走った、逃げてるんじゃない。
「落ちてたやつでいいから、一個欲しい」
袴をはたきながら舌打ちをするその人は、片手間に要求してくる。アンズーの顔を絞めたせいか、暖色の毛が布地に光る。
「……はい」
「どうも」
掌に載せて差し出せば、淡々とした礼と引き換えに消えた林檎。上から掴み取る手は暗く、いやに艶めいている。そこからゆっくり見上げていくと、襟巻も無いはずの首に模様が、その黒を追って頬を通過し、目が合った。
(悪魔だ)
誤解していた、この兄ちゃんサマナーじゃない、人間じゃない。
煌々と見下ろしてくる金眼は、まばたきも許してくれず。
「俺も悪魔は嫌いだけど、此処の連中が嫌いなのかと訊かれたら分からない」
唐突に喋り出すし、どういう事なの、自分が悪魔じゃないの?
「悪魔を憎めた方が気が楽だった……違うのか」
なんだか独り言のように聞こえた、それだけはハッキリ憶えてる。
オレは相槌もできずにポカンと突っ立っていて、気付けば悪魔の兄ちゃんは消えていて。
スクーグスローに肩を揺さぶられていて、空にはこれまた煌々とした月が浮かんでいて。
何の恥も恐れも無く、あの家に帰る事が出来た──
-2-
「紺野先生、オレが幾つか御存知で?」
「二十歳」
「なんだ把握してるじゃないですか、迎えが必要な年齢《トシ》じゃないですよ」
「ついでと云ったろう、君こそポインセチアなぞ抱えて雪原を渡る気だったのかね」
「だるくなったら何かしら喚びます、こんな良いクルマ持ってないけど」
薄い積雪とはいえ、難無く進むオボログルマに〝スタッドレスか〟と脳裏でつっこむ。
そして横目に運転手をチラチラ眺め、時間を感じさせない姿にどこか納得をする。里を離れる頃には、あそこの成り立ちや十四代目の生態もそれとなく知れていて、オレが邂逅した〝あの悪魔〟の正体も分かっていた。
「そうじゃなくて先生、駅に迎え来るって、まさか東京駅の方とは思わなかったんですよ」
「迷惑だったかい」
「まさか。でも正直、並んで歩きたくないです」
「功刀君みたいな事を云うね君」
誰の名前か一瞬分からなかった、というより脳が回避した。
下里の人前でも、十四代目はその名前を出すし、人修羅をそう呼ぶ。
「大抵の男はそうじゃないですか」
「女になっても云うよ」
「あぁ、そう……なんですか?」
思わず声が裏返った。平然と話すものだから、いいのかって。
そういえば、あの時の人修羅はどっちだったのか、いまだに判らない。
「大学は如何」
「割と想像通りで」
「ずっと外で暮らすかね」
「いや、別にいいかな……それが目的で通ってたつもりもなく。戸籍頻繁に確認されるの面倒でしょう、偽装の労力かけてもらうまでも無いです」
「研究は進んだ?」
「全然、今のところ机上の空論。情報も殆どが別世界の要素で、それこそ魔界あたりに現地調査行かないと駄目じゃないですか。何指してるかも分からんワードがどんどこ出てきて、ナル氏に訊いても八割〝知らな~い〟ですから…………そうそう、あの人やばい口《クチ》軽過ぎません?」
隣でくつくつと哂っちゃいるが、どの程度をイメージしてるのだろう。
(あなたの伴侶の話を、結構聴かされたワケですが)
ナルキッソスの云うには〝呪いで猫になった〟とか〝調査に入った山で十四代目と青姦してた〟とか。
後者は少々盛られてる気がする、というかそうであって欲しい。顔見知り同士の性行為なんて、見聞きするだけで背徳感がベタ付く。そして片方が人修羅である以上、どうしても〝どっちだろう〟を想像してしまい、下手なグラビアよりもタチが悪い。
「先生に会いたがってましたよ」
「嫌だね面倒な」
一言であしらわれる悪魔に軽く同情したが、自分が十四代目の立場であれば同じ事を云った。
顔の良い男を見ると暫くそれで盛り上がって、話が進まない。昔話ではウチの爺さんまで褒められていて、どうやら若かりし頃は美形だったらしい。そんな視点で見た事も無かった、身内を。
「ま、そうですね、ナル氏が知人との別れを惜しむつもりなら、会っとくべきは爺さんの方だ」
みなまで云わずとも、十四代目は察してくれた筈。ただナルキッソスも、あれを昔話のつもりで話していないのだろう、つい〝このあいだ〟といった調子に見えた。
「しかし管理人がここまで長生きするとは思わなかったね」
「昔のままの寿命感覚でいません? 高齢化社会って、云うだけありますよ」
「すっかり鳴りを潜めたが、古参では三本指に入るくらい血気盛んなサマナーでね、よく必要以上に暴れていたよ……フフッ」
「何それ初耳」
「足を悪くしたのも老化の過程にあらず、戦いの後遺症というものさ」
なんだよ水臭い、それなら昔のオレが持てあましていた闘争心やらなんやらに、もっと寄り添ってくれたら良かったじゃないか。
直後に思い直す、一歩間違えたら火に油を注ぐようなものか。爺さんの中では既に、悪魔が武器でなくなっていたに違いない。そして恐らく、オレに危険な真似をさせたくなかったんだ。
「でも後遺症って……魔法でも回復しきらなかったって事?」
「人間の治癒には限界が有るだろう、高位の術も遅ければ意味が無い」
「同程度の怪我、先生の場合は完治するって?」
「取り替えた方が速い時もあるね」
「あー、はい」
話半分、適当に流しておこう。
十四代目が肉体を更新しているなんて話は、ちらほら聴いて育った。大人達から詳細説明をされた事は無いが、中学生くらいになると〝暗黙の了解〟として逆に触れなくなる。
「さっきの三本指って、もしかして未だに先生も含んでます?」
「ご想像にお任せするよ」
「……この際だから云っときますけど、先生はもう少し家に居た方が良いんじゃないでしょうか」
「おやおや教師に説教かね」
こんな時だけ教師を自称するが、公的資格さえ未所持な事は知っている。でも正直、大学あっさり入れたのはこの人の指導の賜物。戸籍を誤魔化すのはOKで、入試を誤魔化すのはNGらしい、厳しい指導だった。小学校さえロクに行けなかった身としては感謝せざるを得ない、それでも──
「先生って、悪魔やサマナーが荒れてる場所や時期、わざと選んで旅行してる様に見えます」
「ククッ、僕が戦いを求めて漫遊していると」
「だから親父みたいなアウトローと遭遇し易い」
「僕の好奇が禍事を呼び寄せるかの如き口振りだ、君にとっては死神に等しかったかね」
「いや、あれは現地のサマナーに呼ばれたんでしょう、知ってます。先生達が来てなかったら、オレたぶん殺されてましたよ、実の親父にね」
「当時、君が既にいっぱしのサマナーだったとして、果たして親を止める事が出来たかな」
「無理ですよ、物理的に止めたところで自我は戻らなかったんじゃないです? 先生達もそう判断したから殺したんでしょう。此処の出身でも無いのに、とんだご迷惑をお掛けしました」
「堅気にまで迷惑が掛かると僕等もやりづらくなるからね、困った時はお互い様だろう」
この脈絡において全く違和感の無い台詞なのに、十四代目が敢えて云うと含みを感じる。
どちら側に立つかは常に分からぬと、そういう意図で選んだ言葉だろうか、お互い様だなんて。
(何を穿って捉えてるんだ、恩人相手に)
最初にこの人を見た時、実際〝人でなし〟が迎えに来たのだと錯覚した。
影を手繰り寄せそのまま着た様な黒づくめ、弾け飛んだ親父の血肉を跨ぐと、靴音がコーンコーンと甲高く鳴いて、蠱惑の香る微笑みが暗がりに浮かび上がる、そして双眸がギラリと光った。
弱った心を嗅ぎ付け、新たな悪魔が現れたと思った、オレも親父みたく乗っ取られてしまうのかと。
周りに控えるサマナー達や、とっくに召喚されている数多の悪魔を差し置いて、最も悪魔らしかった。
「……ハナシ戻していいですか。オレが止める権利も説得力も無いのは分かってます、でも先生って一応結婚してるんですよね、伴侶に心配かけてまで長旅やら交戦の場に出る必要有るんです?」
「君、上京する前にも近い事を述べていたね、あれは二者面談の時だ」
何ひとつ色を変えない横顔と鋭利なモミアゲが、オレを妙に焦らす。
車窓の白が明瞭にする黒は、いつかの人修羅を思わせた。
「あの時オレ、何か余計な事云いましたか?」
「僕に万一が有った際、残された人修羅は〝人の生〟から取り残されるのか、と訊いた」
聞いた途端に思い出し、軽くぞっとした。それ以上を云ったのかが記憶に無い、そこが一番怖い。
「人の生への回帰、つまり人間に戻る事が可能であるかを──」
「はいっ、先生」
わざとらしく小振りに挙手をした、何としても話を逸らしたい。
「それは……単なる疑問ってやつですよ。勉強教えてくれてる時によく有ったでしょう、オレちょっと気になるとすぐ脱線してしまうから、そういうノリの」
「へえ、そうかい」
隣の色男は、哂いながらもどこか冷たい声。
縋る様に視線を逃せば、フロントガラス越しに見えた燈火に胸がようやく温まった。
十四代目と村閭《そんりょ》で別れ、オレはポインセチアの鉢を抱えて歩き出す。
彩度の低い青空に、ページの端を破ったような山影、そんな背景の中で冴え冴えとするロウバイ。箒で寄せられた雪落葉の山に、サザンカの桃色が織り交ざる小路。昔より知識が増えた分、鮮やかに見える。
(都内の狭い空より、こっちが性に合ってる)
親父と各地を放浪していた頃、オレに季節感は無かった、移動による変化と錯覚するからだ。
そこから一転、環境整備を担う家に拾われたせいで、良くも悪くも世界が鬱蒼とした。
「よっこらせ」
ポインセチアはとりあえず玄関に置いたまま、廊下に上がりスリッパを履く。
真っ先にコンサヴァトリーへ向かうと、ソファベッドでうつ伏せに寝るスクーグスローを呼んだ。
「ただいま、スー」
『おかえり』
「暗いな、陽射しが薄い」
溶け残った雪で、天井ガラスに白いヴェールがかかっている。
『問題無い、冬の陽射しが一番良い』
「数年ぶりの帰宅だろ、リアクションも薄くない?」
『さっきジュボッコが教えてくれた、あっちのガラス越しに』
「なんだ向こうから見えてたの、気付いてないと思って声掛けんかったし」
『数年経ったのに全く変わってない、だって』
「たった四、五年で変わってたまるかって。ところで今年はまだ配ってないの、林檎とかリースとか」
『管理人が体調崩してから、全快しないままイブになっちゃったね。訪問してくれた各々には、私から手渡してある』
ゆっくりと起き上がるスクーグスロー、ソファベッドに掛け直し、ボサついた髪を手櫛で梳いている。爺さんが具合悪い時は、いつもこうして休眠している、無駄にMAGを引き寄せない為か……確認した事は無い。
「まだ来ると思う?」
『常連の何人かは来てないね』
「爺さんは」
『寝てる、気配は安定してる』
「オレが代わりに今晩まで立つから、もし爺さん起きて来たら〝寝とけ〟って追い返して」
スクーグスローの双肩を手で押さえ、お前は立たなくて良いと示す。
「二人して寒空の下ずっと突っ立ってみろ、良くなるわけがない」
『林檎抱えて逃亡しないでよ』
「いつの話してんだか」
わずかに口角を上げた悪魔、それを見て昔の事を許された気になった。
(そんなのとっくに)
あの日、スクーグスローと一緒に帰宅して、普通に晩飯が用意されていたし、部屋はガンガンに暖められていて、何も怒られなかったし、決闘もバレてなかった。
手荷物を自室に置いてからアウターを替え、カゴを片手に庭に出た。
薄手のニット帽を耳まで下げ、軽いダウンジャケットとストールを巻けば充分な防寒になる。
両手をポケットに突っ込みながら、モミの木をぐるりと周回した。吊るされた飾りで大体見当は付く、例えばそこの靴下は蜘蛛女達がここぞとばかりに織ったもの。イベント好きな連中だからこういった事は欠かさないし、告知せずとも勝手に(それもバラバラのタイミングで)押し掛ける光景が目に浮かぶ。
それとゆったりMAGを零し続けるのはキャンドルならぬ管、合金製なら中年以上のサマナーが飾ったやつだ、昔学校で配られていたと聞く。薄いし劣化もしてるからイイ年した大人は使わなくなる、かといって捨てるのも憚られる為、こういう場面で再利用される。結局は里を循環するだけ、なんなら誰のものか判らぬ管が手元に増えたりする。
飾りのひとつひとつを確かめ、脳内の常連リストにチェックを入れてゆく。あの家が来てる、あの家が来てない、あの人が来てる、あの人が来てない、あの悪魔が来てる、あの悪魔が──
「あっ」
想い描いた拍子に、庭門をくぐる人影。既にこっちを見てる、声が出てたかもしれない。
小ぶりな風呂敷包みを片手に提げ、今日は着物だ。モノトーンの大柄紬に、臙脂というより深紅のショール。
「お久しぶりです」
脱いだニット帽をポケットに突っ込み、挨拶と共に近付くにつれ怪訝な表情が鮮明になる、もしかして誰か判っていない?
「此処のせがれです」
「……ああ、そういえば最近見なかったな」
「管理人は寝てます、具合が芳しくないそうで」
なんだよ爺さんも先生も、そういうの一言も話題に挙げなかったのかよ。いいや冷静になれ、ご近所さんならともかく、ガキの上京なんてわざわざ〈人修羅様〉に話す内容じゃない。
それでも〝最近見なかった〟と云ってもらえた。個人と認識されていたみたいで……安堵した。
「お大事にと伝えて、それと此れ」
以前と変わらぬトーンで淡々と、風呂敷から差し出される紙袋。オレはそれを丁重に受け取り、一枚分だけ取り出した。クリアな個包装に飾り紐が通されたジンジャーブレッドマン、これだから屋外でも二晩程度飾っておける。
「ありがとうございます。食える飾りくれるの、相変わらず貴方の家だけみたいですよ」
「毎回いちいち何用意するか考えずに済むだけだ」
「オレ、東京居るあいだクリスマスにケーキ食べても何か物足りなくて、いや多分これだったなって」
振り返ってから渡す相手の居ない事にハッとして、そのままふらふらとモミの木に向かう。
「スーの奴にも休んでもらってるんで」
「仲魔に影響するほど弱ってるのか、あの爺さん」
「ご心配頂くほどでは……高齢者らしい体力になった、それだけですよ」
そう、普通の事、普通の流れ、人間は有限だから、これが普通。
帰宅してからの不安を打ち消すべく、いつも通りの動きで過ごす。
いつものイベント、いつもの景色、いつもの──
「もうそんな場所まで届くのか」
声の近さにぎょっとして、腕を上げたまま真横を見た。
云われてみれば目の高さが昔と違う、人修羅の方が低い……オレがここ数年で伸びたんだ。
「時代の平均考えたら、十四代目なんかは大きい方ですよね」
「……云っとくけど、俺はほぼ平成育ちだからな」
「あっ、そうだったんすか」
ここで〝すいません〟と続けるか否か、ジンジャーブレッドマンを置き去る枝葉に悩むフリでやり過ごす。じゃあ本来すげえ歳の差カップルなんですね、と下世話な事まで追加で浮かぶ。一体どういうタイミングで出逢ったんだ。問いかけが次から次へと渦巻き、苦し紛れに無難なものをはじき出した。
「衿首に巻いてるの、珍しいですね」
「えっ」
「寒いですか、今日」
悪魔の身でも。
「いや、俺自身はそんなに……でもあんまり首を見せたら寒々しいと思って、雪も積もってるし」
人目への配慮みたいな返答だけど、オレの勘が違うと云った。
(先生の匂いがする)
お香くさいショール、どうりで趣味じゃなさそうな色してると思った。
これは防寒じゃなくて防虫の為に掛けられたんだ、白檀って実際そうだし。
「あの、お時間有りますか」
「は?」
「オレまた東京戻るんです、正月には居ないと思うんで、その……管理人の事とか色々有るし、少し相談させてくれませんか」
「そういうのはライドウが適役じゃないか」
「……相談事の中に、貴方への問いが有るので」
ジンジャーブレッドマンが枝で揺れ、零れた雪がオレの前髪を濡らす。
真横に向き直れば案の定、少し強張った表情の人修羅が棒立ちしていた。
「それと、家の者に聴かれるのも恥ずかしく──」
「俺は外で構わない」
「ありがとうございます」
応答が早い、さっさと済ませてしまいたいのだろう。
抑揚の無い声音に察するものが有り、それはオレの浮かれ心をひやりと落ち着かせた。
「どうぞ、こっちに」
モミの木と小径を挟んだ向かい、外灯と並ぶベンチに誘導する。
薄い白絨毯をささっと掃い、自分の首から引っ剥がしたストールを敷いた。ここまでされては腰掛ける人間が殆どだろう、拒否すればストールの乱れが無為になる、これは罪悪感と潔癖の利用だ。
「立ち話で良かったのに」
風呂敷を胸元に仕舞いつつ腰を下ろす人修羅に、内心ガッツポーズした。この位置ならコンサヴァトリーからも見えないし、弱っているスーには聴き取りづらい。
「人修羅様、いつぞやの非礼を、まずはお詫びしたく思います」
正面に立ち頭を下げると、直る前に声が掛かった。
「今更、何を畏まってるんだよ……そういうのは息苦しい、ライドウと同じように呼べばいい」
「はい」
「これ、広げても良いか? 君だってケツ濡らしたくないだろ」
浅く立ち、ベンチに敷かれたオレのストールを横に開く人修羅。荒々しい一面が灼きついているせいか、ちょっとした仕草さえ繊細に見える。
「隣、失礼します」
「で、相談って?」
オレはまだ腰も下ろしていないのに、なんてせっかちなんだ。
これはかなりウザがられてるな、思った途端に身震いが奔る。
「風邪ひいても俺のせいにするなよ」
「まさか」
「君が倒れたら管理人に心労がかかる、更に弱ったら不味いだろ」
「それなんですけどオレ、管理業務を正式に継ごうと思っていて」
「ああ、そういう挨拶のつもりで?」
「東京の……喫茶シルバーチャイムのナルキッソス、分かりますか」
「頭が花畑のナヨい野郎」
一瞬、自分が口を滑らせたのかと思い焦った。そうだ、意外と口が悪いんだ、十四代目との会話に聞き耳立てると分かる。
「この数年、あそこに居候して同業の伝手を作りました。大学と行き来しながら研究も進めてて、此処により貢献出来ると思います」
「だったら今後、あの花屋に注文する際は君を通しても?」
「勿論、都合が合えばオレが直接お持ちします、今日もポインセチア持ち帰ったし」
「電話だと必ず喧嘩になるから面倒で……よくあんな奴と一緒に暮らせたな君」
「着せ替え人形にされそうな時はやばかったです」
「妙な恰好で接客させられたりとかは」
「や、そこまでコスプレっぽいのじゃなく、お節介で自分好みの私服着せてくる程度で──」
レザーのキャットスーツ、マジで着せられた事あるんすか。
喉まで来ていた言葉を必死に押し戻し、それがさぁ~と上擦った声で続けようとする記憶のナル氏も叩き戻す。
「あんな調子だけど、私蔵品見ると色んな意味で本物ですよ。まず国内で遭遇しない素材、魔界に咲くヤツなんかも有って、毒じゃなくて呪いを浸透させるタネだったり、珍しいのばっか」
「はあ」
「ガキの頃、結構各地を巡ったつもりなんですけど、名前しか聞いたことの無いブツなんてザラで……そういうのを持ってるんですよ、あの悪魔のヒト」
「ライドウが通ってたくらいだから、デビルサマナーにとっては有用性高い商人なんだろうな。その辺の素材、俺には縁無いけど」
「そうですかね、マガタマって植物に近い性質だと思ってますよ、オレ」
隣でじっと呼吸を殺し始めた人修羅、特定のワードを出した瞬間だ。
「ヤドリギ御存知ですか、あれみたいなもんです、半寄生状態」
「……俺への問いってのは、マガタマに関する事か」
「今からする話、他言無用に願えますか、特に十四代目には」
「厄介事を目論んでいる自白に聞こえる……それに今、此処で聞かされた俺にも責任が生じるんじゃないか」
「この機会にお話しておこうと思って」
「もう勝手に話してくれ」
両拳を膝上に揃え置く人修羅は、横目に見ると男性的だ。
そこから視線で撫ぞり上げ、袖から肩、ショールに阻まれ耳元に、目許を見た瞬間、はっとこちらに顔を向けた、息は微かに白い。人間と同じくらいの体温なんだろうか、直接触れた事も無いし、分からない。
「マガタマとの共生状態を解除出来るんじゃないかと思って、研究してるんですオレ。だから大学で〝一般的〟な生物も学んで、ドクターヴィクトルの著書も大体読んで、十四代目が悪魔で製造した薬酒も再現してみたり──」
「君に何の関係があって」
「半寄生し合わないと生存出来ない状態から切り離し、人間に戻る。その選択肢が増えた瞬間、貴方は此処に縛られず〝強制的な共生状態〟から脱する事が可能になるんです」
いよいよ空の暗さが増し、ゆったりと風も出てきた。ツリーの管が蛍光色の雪を降らし、ランダム点灯のイルミネーションみたいだ。
「悪魔が嫌いだと口にしましたよね、昔オレが馬鹿やった時に」
「今更人間に戻されても、正直困る」
「十四代目が先に消えてしまった時、悪魔で居る必要は失せるんじゃないですか」
「消えるってどういう意味だよ」
「絶対なんて無い、過去に殺してきたなら分かりませんか、悪魔も消失するんです。あれだけ好戦的な十四代目見てたら不安になりません? あの方には、オレの親父に近いものを感じます」
「ライドウは既に何回か死んでいて、俺がいつも蘇らせている……としたら?」
「存じております人修羅様、さすがに仕組みの細部は知りませんが」
「その名前で呼びながら、俺が悪魔で居る事を許したくないっていうのは、矛盾してるだろ」
「オレが許すも許さないも無い事です、だから〝貴方への問いが有る〟と云った」
問い掛けかよ、只の懇願のくせに。
「悪魔で居る必要が無くなったその時に、オレを頼ってはくれませんか」
返事は無い、話が進まないから勝手に続けるしかない。
「此処で優しい人達に、悪魔達に囲まれてオレは間違いなく幸福です、それなのにどうしても悪魔が憎い瞬間が有る。悪魔を殺しに散々使った挙句、制御出来なかった親父の因果応報でしょう、それでも──親父がデビルサマナーでさえなければ、悪魔と関わりさえなければ、根無し草で放浪する事も無かった、もっと早くから他人と分かち合える思い出が出来た、何より悪魔の事をもっと純粋な目で見れた、筈なのに」
喉が詰まる、此処に来るまでの思い出は血腥い、でもその中にしか親父は居ない。
親父を殺したのは悪魔だけど、それまで親父を活かしていたのも悪魔だった。
事実は知らないし知りたくも無いが、オレが生まれたのも悪魔かサマナー絡みだろう、あの人の興味関心は悪魔にしか無かった、オレの命綱は悪魔だった。
「だからあの時、貴方の中に拠り所を感じたんです。オレの過去と貴方の過去を、同一視だとか失礼な事はしません、でも落ち着けたんです、悪魔嫌いでも此処に居て許されるのかもしれないって、オレ……行事ごとに貴方を見れるの楽しみでした。祓いの儀式とか、住人の結婚式、故人の身内でも無いのに火処行ったり……年末年始はこの家に来る、だから東京に居るあいだのクリスマス勿体無くて、今年は無理矢理帰ってきたんです」
もう何を喋っているのか、最終的に何を伝えたいのか、自分でも分からなくなってきた。
背を丸め、白い地面に懺悔を吐き出す。
「好きなんです貴方の事が! 貴方の役に立ちたいんです! 悪魔が憎いと云いながら、貴方の両面に惹かれました、あの時のオレをしっかり見ようとしてくれた気がして、だから──」
親父と同じ道に行きそうなのは自分じゃないか。
「里と関係無く、お慕い申し上げております」
「……それで全部か」
「はい」
「話してくれて有難う。マガタマはともかく、俺とあいつの契約は研究結果で切れる様なものじゃないと思うし……今のところ切る気も無い」
淡々とした声が、今は優しく沁みた。
激昂されても嬉々とされても、何かが狂いそうだったから。
「ところで林檎は」
訊かれて思わず〝あっ〟と声が出た。
カゴを何処で手放したか思い出せず、立ち上がり二三歩よろけた、緊張で腰が抜けてやがる。
「おい、大丈夫か」
「大丈夫、大丈夫ですから……少し待っててください」
震えが鎮まるのを待ちながら、ちらちらと光るモミの木を見据えた。ああ、ジンジャーブレッドマン吊るす前に、鉢置き台の空きに置いたんだ、貰った紙袋と揃いで。
オレは木陰まで力無く前進し、雪化粧した姫林檎に手を伸ばす。リースもまだ余ってる事だし、これ一つといわず押し付けてしまおうか。人修羅は物々交換に訪れただけだと、こうした交流もほぼ義務的なものであると、暗黙の了解を示さなければ、気まずい聖夜を贈りたかった訳じゃないのに。
(林檎は禁断の果実、赤いオーナメントはキリストの血)
片掌に載せたそれが嫌に小さく見えた、オレの手があの頃より大きくなったんだ。
しかし、また恐る恐る渡すハメになるとは。冴え冴えとした赤が目に痛い、早く手放してしまいたい、記憶の中の血の色すべて。
「それ一個でいい」
突如、淡々とした声と引き換えに消えた林檎。横から掴み取る手は暗闇の中で輝き、艶めいている。そこからゆっくり見上げていくと、またもや深紅のショールに阻まれて。
(悪魔だ)
畏怖と恍惚が一挙に押し寄せ、目の前が金色に明滅している。
懐かしい輝きに感嘆の声が漏れ、それを唇ごと吸われた。
人修羅の手は冬の空気と同化しながらも、雪よりは温かい。
「……クッ、後で鏡見たらいい、林檎の代わりに飾れそうだ」
オレの顎から添えた指を放し、おもむろに微笑う悪魔。
「分かっただろ、悪魔なんて自分から関わるもんじゃない」
もはや相槌も出来ず喘いだ、そもそも何て答えたら良いか見当もつかない。
仏頂面のほどけた先に、恐怖感も背徳感も塗り潰される、そうなると美しさと歓びしか残らない。
「今の内緒だからな……メリークリスマス良いお年を」
ひとまとめに囁くと、微塵の未練も見せず離れる人修羅。
その姿が庭門の向こうに消えるまで、オレには時間の感覚も無かった。
気付けばスクーグスローに肩を揺さぶられていて、ベンチの上ではストールが凍っていて──
その晩、数年振りに親父の夢を見た。
絵本のひとつも読んでくれなかった男が生前、長々と語ってくれたヤドリギの逸話だ。
転々と放浪していたにも拘わらず、あの植物だけが自分達をあちこちで迎えてくれた気がした。
幼いオレは、根無し草の同胞を見かけるたびに指差した。もしかしたら親父に通じていたのかもしれないし、ひょっとしたら親父も同じ感慨を抱いていたのかもしれない。
〝四大の契約に縛られぬヤドリギだけが、無敵のバルドルを射殺した〟
寄生しなければ顕在できないのに、何者にも忠誠を誓わぬという、矛盾の塊。
マガタマは果たしてヤドリギなんだろうか、持論が揺らぎ始めていた。
寄生されながら緩やかに融合し、征服側に立った寄主こそが人修羅ではないのか。
彼こそが真のヤドリギなのではないか、神々に縛られぬ永遠の非成人というやつだ。
モミの木にポインセチアまで用意しても、やっぱりヤドリギは飾れないな、と改めて思った。
だってオレの心に、実体も無く既に──