はじめに
本書は「真・女神転生Vノクターン・マニアクスクロニクル」から、著者が勝手に妄想して綴りあげた叢話に御座います。一応ライ修羅。公式からかけ離れたイメェジの薄暗い人物が織り成す、殺伐・陰鬱・淫靡・愛憎が入り乱れた異端な創作物となっております故、読中気分を害された場合は直ちに〈休憩を取る、一先ず忘れる〉等をし、徐々に慣らして頂く事を推奨致します。
共犯
『おお、人修羅よ! 悪魔よ……我が審判の間に足を踏み入れしか』
だがしかし、見据えた先の人修羅の傍、見慣れぬ影が居るではないか、何奴だ? 厭らしい眼で哂うその姿に気を削がれつつも、言葉を唱える。
『我はミロクの予言を法とし……』
「へえ、ミロクとは、ミロク経典ですか?」
人修羅より先に割って入ったその男、図々しいにも程がある。
『ゴ、ホン……控えよ、我は其処なる《人修羅》功刀矢代に問うておるのだ』
「だとさ、功刀君」
我の言葉をそのまま流し、傍の人修羅に哂いかけた男。その黒い外套の隙間からは、強い魔力を感じる……
「……何ですか。俺、この先に用事があるだけで、貴方には無いんですが」
低い位置から見上げてくる人修羅。その金色の眼には、確かにコトワリの指導者が畏れる何かを感じる。
『矢代よ……ここにおまえを弾劾する!』
「勝手に困ります、何ですか貴方」
『……本当に、悪魔なのか……貴様は?』
どうにもしっくりとしない、おかしい。あまりに、排他的というか、こう、奥底から昇る波動が、此の者には無い。
「俺は悪魔じゃないって、散々云ってるじゃないですか!」
すれば、無表情だった相貌をヒクリと歪ませ、眼を強く光らせる人修羅。
「本当、勝手過ぎるんですよあんた方……そもそも此処で議会開いて良いのは人間だけですよ」
『今、この世に人間なぞもう居らぬ、神を降ろした者達は該当せぬ』
云えば、彼の傍で高らかに哂う黒い外套、それが癪であり、思わず帳面を覗く我。此処に足を踏み入れた貴様等の事は、シジマの衆が調査済みである……さあ曝されるが良い。
(な、人間? デビルサマナー?)
【葛葉ライドウ】
人間界のやや昔の頃より来訪。悪魔を駆る悪魔召喚師。人修羅が「ヨル」と呼ぶのを目撃されている、恐らくは別名(綴りで夜)
出自は不明。超國家機関ヤタガラスに所属。此度はある御方からの依頼により調査に来た模様。ボルテクスにて確認されるだけでも千の悪魔を狩っている、その手段は様々。主に斬殺だが、その携えた銃による遠距離からの射殺も多く、その命中率は異常な高さである。使役する悪魔達は皆享楽的であり、此のサマナーの手脚となり他の悪魔を嬲り殺す。
人格破綻が見受けられる、戦闘狂、嗜虐嗜好有。悪魔ともまぐわう淫猥。既に機能停止した自販機を破壊し、煙草を奪取。ギンザの酒場にてロキとの呑み比べに完勝。廃墟の麻雀荘にて賭け麻雀……野良悪魔より金品強奪。女性悪魔(一部男性悪魔からも)の評判は上々、顔の造りは人間界では〈端整〉との評。喰えぬ性格、要注意人物。
召喚師の皇になるのかと、一部界隈にて噂有。
……何だ、この男は。あまりにも我々らしいではないか。いいや寧ろ……この男が悪魔なのでは?
いや、気を取り直し、人修羅に問おう……その、生っ白い、薄い身体の小童に。
『矢代よ、お前は予言の創世を妨げる者か?』
「呼び捨てされる筋合いはありません」
取り付く島もなし、その表情は嫌悪に充ち満ちている。
『で……では、何がしたいのだお前!?』
「何、って」
我を見上げ、鋭い視線で射抜く。身体の斑紋の縁が、妖しく光る。
「人間に戻りたい、それだけです」
もはや問い質す事も無く、開いた口の塞がらぬ我を尻目に……デビルサマナーがくつくつと哂った。
「創世などという能動的思考、これは持ち合わせておりませんよ、ククッ」
その声で、はたと思い立ち、帳面に眼を戻す。
【人修羅】
人間名は功刀矢代(クヌギヤシロ)
東京受胎時、一介の学生であり、突出した能力無し。敢えて挙げるとすれば、人間が生活する上での家事能力全般か(鍛冶では非ず、家事である)
基本嚥下マガタマは心配性なのかイヨマンテなる種。習得技は焔の技ばかり(生物的に優位に立つ為か、安堵の為か)
悪魔を蔑み見下している、その為仲魔は極僅か。人間に還りたい願望からか、非常にエゴイスティック。己の手を汚す事を嫌う。潔癖症、付着する血液を嫌う。性的な冗談も嫌う、接触は以ての外。
あの御方が御寵愛される混沌の悪魔であるが、現在は葛葉ライドウの使役下に在る。
『……は?……使役されている…?』
我の訝しげな声音に、人修羅がいよいよ沸騰したのか、指先に焔を点す。
「そういうの、わざわざ声に出さないで下さい!」
怒れる人修羅の戦闘態勢に、何故か我は安堵し、帳面を尾と脚の隙間に仕舞った。
『おお、やはりお前は創世を』
「そんなの興味無いって云ってるでしょう」
い、いやいや……
おお! やはりその眼! 世界への怒りを宿して……
「それでは困るのだよ、功刀君」
両腕から今まさに焔を放たんとしていた人修羅は、呆気なく議員の席を割り裂いて飛んでいった。見下ろす先には黒外套、あの葛葉ライドウが、長い脚をすらりと下ろす姿が在った。
「君がカグツチを滅し、巻き戻してくれねば、僕の目的が達成出来ぬでないか」
まさか仲間であろう? どうして、何故、蹴り飛ばしたのだ?
「票割れしてるこのボルテクスで、君は席割れ? ククッ、おっかしいの」
嘲笑うデビルサマナー。対し、円形議席に亀裂を奔らせた人修羅が首元をさすりつつ起き上がる。その眼は憎しみに揺らぎ影を見つめた。
「……葛葉ライドウッ!」
おい待て、一体どういう事だ……何故我を差し置いて、この人修羅とデビルサマナーは焔と刀で一戦始めたのだ?
『おい聞け! 聞かぬか! 我はミトラなり、このボルテクスにおいて、人修羅なる悪魔がコトワリを……』
「「煩い」」
混じりあう赤い衝撃が、我が下肢の蛇足を斬り裂き、駆け抜けて往った。
ああ、おかしい、こやつ等は気が狂うとる。ヒトと悪魔と、逆転してはおらぬか?
……いいや、それこそ蛇足なるか。暗転。
-了-