雷堂ちゃん〜ラブリー眼帯の秘密〜

 
「はぁっはぁっはぁっはぁっ右眼がぁあ熱いぃい」
ふるふると右眼を押さえ、どこかニヤつく雷堂。
ここ最近こんな事は日常茶飯事で、業斗は華麗にスルーしていた。
『なら仲魔は右に置けよ』
「どうしたものか、こう、身体を蝕む熱がいつもより強いのだ」
『妄想が過ぎるのだろう、少し脳内でも冷やせ』
ぴしゃりと叱咤され、雷堂は管を手に首を傾げた。
「どうしたのだ……致し方無い」
振り翳された光の中、茜色の甲冑に身を包んだ天使が舞う。
『如何なされましたか?雷堂様』
うやうやしいカマエルの態度に、雷堂は謙遜せずに云い放つ。
「右眼がいやに熱くてな、少しばかり治めてくれぬだろうか」
命令された天使が、クスリと笑う。
『雷堂様、それでしたらその眼帯を細工してみては如何かと』
雷堂の右眼を覆う眼帯は、何の変哲も無い綿糸の物だ。
この右眼が何故そんな物に覆われているのかというと…
まあそれこそ、この十四代目の酷い嗜好回路の所為なのだが。
「眼帯で熱を抑える事が可能なのか?」
『ええ、その様な封呪を込めた魔具として、その御身に着けて下さい』
すらり、と取り出されたるは、なにやら硬質な眼帯。
それを指先に掴み、訝しげに睨む雷堂。
険しい表情が、更に深くなる。
「…なにやらよく分からぬ形状をしているな、色も、やや華美では?」
色は濃い桃色である。
その時点で踏み留まらせるものがあるというに、形状が問題である。
『酷く女々しいな、おいカマエル、本当にこれで治まるのか?』
足下の業斗が、雷堂の指先からぶら下がる眼帯を睨む。
『ええ、上に依頼した正規の発注品ですから』
眼前に受け取ったそれを垂らし、着けている綿糸を剥がす雷堂。
「西洋カルタの模様に、似た様なものが有った気がするが…」
云いつつ、その眼帯を右眼に当てる。
と、その途端。
「なっ、なんだ」
その眼帯の紐が、勝手に雷堂の頭を括る。
置いていかれた指先が空に惑い、雷堂は叫ぶ。
「ぅ、あ、身体、がっ」
妖しげな光が雷堂の身体に溢れて、そのMAGともいえぬ色味に混乱する一同。
『雷堂!!おいカマエルッ!!貴様謀ったか!?』
業斗が猫のくせに鬼の形相で、傍の天使の羽に爪で薙ぐ。
数枚はらりと純白の羽を舞わせ、カマエルは首を必死に振った。
『そんな!何かの間違いです!!ら、雷堂様…!!』
一瞬膝を着いた雷堂、しかしそこは流石の葛葉。
額をぐい、と拭って、呼吸を落ち着かせた。
「…いや、とりあえず、治まった…様だ」
アカラナに立つ雷堂、いつもの如く毅然とした面持ちで云う。
「では、熱も治まった事だ…戻ろうか、本殿へ」
外套を肩に捲り、ホルスターの管を指に取ろうとする雷堂。
その姿を見た天使と黒猫が、凍った。
返答の無い彼等に、雷堂が口を開こうとした。
「おい、どうした貴殿等―――…」
台詞の途中で、雷堂の指も止まった。
管の先端の位置が、普段と違う。
ゆっくりと、自らの胸部を見下ろした雷堂。
隠れぬ左眼が見開かれた。
カマエルが叫んだ。
『“ぽちゃぽちゃのぷりんぷりんのぼんぼーん”は貴方様だったのですね!!』
アカラナ回廊に、その歓喜に満ちた悲鳴がこだました。




「功刀君、此処に在った魔具知らない?」
「MAG?」
「“魔法の装具”だよ……おかしいな、何故無い」
一方の平行世界。
葛葉ライドウと人修羅が、部屋を漁る。
「…あ、そういやこないだ…」
人修羅はそこまで云って、口を噤んだ。
トランクやチェストを開け漁る手を止め、ライドウが問う。
「…何、覚えが有るのなら正直に云い給え」
「悪魔交渉で、この辺の物適当に投げ渡した気がす、いっでえええええ!!!!」
云い終わらぬ内に、ライドウの刀は抜刀され、人修羅の臀部を刺していた。
急いで抜き取り、人修羅はさすりつつ寝台に突っ伏す。
「放置しとくあんたが悪いだろうがっ」
「勝手に悪魔に渡す君の神経が知れぬな」
「普通はしない!どーせあんたのだからと思っ、げはぁっ!!」
またまた云い終わらぬ内に、うつ伏せの人修羅が悲鳴を上げた。
「僕に文句があるのなら、身体に直接聞いてくれ給えよ」
腰に思い切りかかと降ろしを見舞ったライドウが、学帽のつばを掴む。
「しかし、あんな物…需要があるのか怪しいがね」
腰をさすりつつ、人修羅が横を向いた。
目尻に微妙に涙が溜まっている。
「痛ぅ………あ、あんな物、って?」
「魔法少女擬態アイテム」
「はぁ!?」
その異様な響きに、人修羅が眉根を顰める。
「あの、よく分からないハートのが?」
「女悪魔の一部で流行ってたそうだが…いかんせんマニアックでね」
やれやれ、と哂って脚を退け、今度は胎に抉り込む様に蹴るライドウ。
「ぅげぇッ!」
「ま、それだからこそ希少価値がつくというものだったのに…君は」
刀だけでは飽き足らず、その氷の視線を人修羅に刺すライドウ。
更に己を襲うであろう苦痛を思い、人修羅が仰向けに直り、強張る。
「っライドウ!」
擬態を解き、指先に奔った黒い紋様が輝いた。
そんな人修羅に、ニタリと哂いかけて刀を持ち直すライドウ。
と、そんな彼等の間を、一閃していく何かが在った。
「!?」
動かず、息を呑んで止まった人修羅。
「邪魔者は誰だい?」
ライドウは、その一閃の正体を見て眉を顰める。
間を割った物は、純白の羽。
床から寝台にかけて、それが手裏剣かと見紛うばかりに刺さっていた。
二人して見つめるその先には…
「己の使役悪魔だからとて、非道な仕打ちは眼に余るな…ライドウよ」
窓から華麗に侵入(不法)し、揺れるレースカーテンに映り込む影。
その明らかなシルエットに、人修羅は慌てて叫んだ。
「雷堂さんっ、こ、こんな所来たら危険です!!」
傍のライドウをチラチラ見つつ、窓に向かって警告する。
それはそうだ、先日手首やら眼球やらなんやらで、幾波乱かあったのだから。
「よくもそう、ノコノコと姿を現せるな、君は…」
構えた刀を窓に向けるライドウの眼は、標的が増えた事に疼いている。
ひらりとなびいたレースのカーテン、その開かれた隙間に現れしは…
「貴殿の狼藉!其処なる人修羅が赦しても我が赦さぬ!!ライドウよ!」
その声の主のテンションに反して、凍る場。
先刻まで話題に上がっていた物を、眼に纏った者がそこに居た。
「あ、の、雷堂、さん?」
人修羅の途切れ途切れの確認に、雷堂は微笑む。
「待たせたな、矢代君…」
いいや、別に待っていた覚えは無いのだが。と息を呑む人修羅。
それより何より、その雷堂の姿が気になって、会話になりそうも無い。
普段の雄雄しい姿のままに、右眼に着けているのはハート型の眼帯。
おまけに眼にも痛いショッキングピンク。
「…雷堂、それ、何処で手に入れたのだい?」
何故か哂いを無表情にすり替えたライドウが、刀をそのままに聞く。
外套の中で腕組みをし、仁王立ちのまま応える雷堂。
「ふむ、それが我も正直困っている」
『私が身内から預かった物でありまして』
仁王立ちの背後から白い羽を広げたカマエル。
それにフン、と鼻で哂ってライドウは人修羅を見た。
「どうやら上まで廻り廻って、流れたらしいねぇ」
「一応魔具なんだろ、危ないんじゃ…(主にあの姿が)」
心配そうに云う人修羅。
まるで病人を見る眼で雷堂を見つめた。
「心配無用、身体以外に影響は無い」
人修羅に、仏頂面を破壊した笑顔で答える雷堂。
そんな彼に接近して、刀を納めたライドウが手を伸ばした。
「ああ、成る程…その眼帯の擬態効果は本物らしい」
雷堂の外套隙間から入れた指、それは明らかに股間をまさぐっていた。
飛び退く雷堂が吼える。
「口頭で確認せぬか!!」
「男児に在るべきモノが無かった、という事で間違いなく君は女だな」
哂うライドウに、カマエルが妙な高揚でアピールする。
『おまけに“ぽちゃぽちゃのぷりんぷりんのぼんぼーん”であります』
そのやり取りについていけず(いきたくないのか)
人修羅が唖然として雷堂を見つめた。
「お、女?」
「ああ、我は今女体をしている…正直解決の糸口が見つからなくてな」
既に自暴自棄なのか、平然と云って雷堂は眼帯を押さえた。
「あの、それ、外せば済む話なんじゃ…」
ハートに釘付けの人修羅が苦笑いで訴える。
すると苦笑いで返す雷堂。
「外そうとしてみるか?」
す…と、その女々しい眼帯の紐を弛めようとした、その矢先。
電流の如く雷堂を奔る光。
ビクリとした人修羅と、一瞬管に指を伸ばしたライドウ。
その二人の眼の前で絶叫する雷堂。
「ぅぅううああああ右眼が!右眼が熱いいいいいい」
そして立て続けに発される言葉。
「ふはぁああしかし気持ち好いぃいッ!眼だけでは飽き足らぬ!足らぬぅうッ!」
空いた手で身体を掻き毟るまま、恍惚に叫び続けた。
「ぁあああ矢代君!!!!君の身体をもっともっと頂いてしまいたいぃぃいいい!!」
後ずさる人修羅、腰が引けている。
『雷堂様!』
紐に掛かった指をカマエルに外されて、荒い息のまま叫びを止めた雷堂。
どうやら得体の知れない慟哭は形を潜めたようだ…
上気した頬を染めて、何故か自慢げに人修羅に云う。
「ぁ…っ…はぁ…っ…な?…何故か欲求が高められてしまって、怖くて外せぬ」
口元が引き攣っている人修羅に、ライドウは哂う。
「ふむ、そういう副作用有り、か。フフ、良かったよ、自身で試さなくて良かった」
心底思っているらしく、その声音にはどこか安堵すら混じっていた。
荒ぶる魂の叫びをハートの眼帯で抑える雷堂が、辛そうに呟く。
「ふ……これを外すと、罪を犯してしまいそうでな」
「いえいえ、もうその姿とさっきの発言が犯罪ですけど」
思わず突っ込む人修羅の顔は、真剣そのものだった。




「はぁ……」
「どうした、疲れているのなら、休もうか?」
「い、いえ、雷堂さんがそうなったのはある意味俺の所為ですし…異界まではお共します」
人修羅は気が気で無かった。
道行く人の視線が、傍を歩く書生の眼に向かうのを、ひしひしと感じる。
「しかし雷堂、君よくもソレを装着する気になったねぇ」
少し離れた所から、ライドウがせせら哂う。
どうやら雷堂の傍を歩きたくない様子だ。
「やや華美な色目だとは思ったが、しかし纏う間熱は収まってくれる」
「それで外すと暴走するなら本末転倒だと思うんですけど…」
ジト眼で呆れる人修羅は、大人しい藍色の着物だ。
突っ込まれているというのに、そんな事はお構いなしに雷堂が微笑む。
「やはり君には藍色が似合うな」
「雷堂さんにピンクは正直キツイです」
傍の人修羅の頬に、そっと伸ばされた指先。
しかし、接近した雷堂の足下に煙が上がる。
ビビる人修羅が一瞬悪魔化しそうになりつつ、振り返る。
銃を構えるライドウが、悠然と哂いかける。
「不純異性交遊だ、その手を退け給え」
さらりと云ってのけるが、普段この男こそ実行しているのが事実である。
おまけに不純同性交遊まで人修羅に強制執行している。
「ま、街中でそんなものぶっ放すな!」
睨む人修羅に、傍の雷堂はけろりとしていた。
「ふ…そう云われてみれば、今しがた我は女人…」
それどころか、何故か笑いだす。
それに人修羅が嫌な予感を廻らせ、やんわりと距離を置く。
「矢代君と何をしようが、あの背徳感は無い、という事だ」
挑戦的に背後のライドウに、首だけ振り返りつつ云い放つ。
銃口の硝煙を吐息で掻き消し、ライドウが返す。
「僕は男女差別というのをせぬのでね、普段の君と同様に…」
ギロリと視線が雷堂を刺す。
「女体の君だって嬲り殺してやれるが?」
空気が殺伐としてくる気配に、人修羅が慌てる。
「ちょ、待てよ…此処はまだ街中だぞ、頼むからドンパチしないでくれ」
云っている傍から、雷堂が飛んだ。
カマエルに身を持たせ、上空へと舞い上がり、家屋の屋根に着地する。
とはいえ、端から見ればカマエル本体は見えていない。
謎の気味悪い眼帯男(おまけに女々しい)が、急に飛んだ様に見える。
騒然とする街路に取り残された人修羅とライドウ。
「ライドウよ、別にこのまま帰らずとも居れるぞ?」
屋根から叫ぶその影に、皆注目してしまっている。
「勝手にこの眼帯を外し、矢代君を攫ってしまおうか…ふふ」
明らかな挑発に、ライドウが乗らない筈が無い。
「それは困るね、大人しく異界開いてやるからさぁ…とっとと帰って…」
管をホルスターから引き抜き、アルラウネを召喚したライドウ。
「新鮮な感覚の女体自慰でもしてればどうだ?雷堂っ!!」
茨蔦を家屋の上に伸ばさせる、人修羅には見えるが、一般人には見えない。
ぐい、と襟首に絡んだ蔦が、雷堂の外套をずるりと剥いでいく。
「ふん!流石の貴殿もこの空間で銃は多様せぬか」
腰に横差ししてある大太刀を抜刀するが、その瞬間には大きく裂けた布地。
『ああっ!雷堂様!!』
大太刀より早く、その絡む蔦を衝撃で裁ったカマエル。
 「なんだあの羽は」
 「何が起こってんの?」
一般人には、翼から落ちた羽だけは見えるらしく
屋根上で独りもがく変態が白い羽で隠れ、微かに見えるのみであった。
羽がぶわりと疾風に舞い、雷堂が見えてくる。
「小癪なりライドウ!貴殿の物云いにはほとほと呆れるわ!!」
そう叫び、街路を見下ろす雷堂の姿。
それは阿鼻叫喚をもたらした。
「雷堂さんッ!!!!今すぐ向こう向いて下さいッ!!!!」
絶叫して、自らも俯き震える人修羅。
『ライドウ、あの子…じゃなくてあの娘、ソックリだけど』
「みなまで云うなアルラウネ」
『貴方ももしかして、その身体』
「だったとしても、あのような格好はしない」
白い羽で変身したかの様なシチュエーションも痛いが
露わになった雷堂の外套下は壮絶であった。
上半身、素肌に直接管のホルスターを巻いただけである。
正真正銘のブラである。
「ライドウ…どうしたのだ?上がって来ぬのか?」
ニヤリとして、一歩踏み出る雷堂。
その反動で、ホルスターに圧迫されている胸がぷるんとした。
あまりな変態の出現に帝都が揺れる。
人修羅が傍のライドウに、小声で訴えた。
「おい、もう戦っても良いからさ、早く名も無き神社行けよ…」
「…日向の奴め、自身の帝都では絶対しないと見たぞ…」
あの目映い肢体に動じない辺りが、流石ライドウといったところか。
周囲から、破廉恥だの眼福だのと様々な声が聞こえてくる。
「っもう…どうしてあんな格好…出来るんだ!?」
赤面したまま人修羅が苦々しげに吐いた。
そう、かなり刺激が強かった。
外套の下、あれだった事を思うと本当に変態である。
「あのお嬢さんの双子さんかね?君」
近付いてきたのは、雷堂の乗る家屋の住民だった。
ライドウに諭す様な声音で語りかける。
「ウチは診療所をしておる、良ければ診てあげるが?」
「…いえ、結構」
無茶苦茶な展開に、ライドウも溜息を吐いた。
その人の良い初老の医者は、家に乗られているというのに
まるで哀れむ様な視線を、上の雷堂に注いでいた。
「なんだったら癲狂院も紹介してあげれるがね?」
「…心配痛み入るが、必要ありませぬ」
いよいよ精神病院まで話が進んでしまった。
内心それでも良いか、と一瞬思ったライドウであったが
この帝都で、同じ顔の人間が其処に居るのは不味い。
医師の申し出を跳ね除けて、人修羅につかつかと接近する。
急に接近してくる影に、怯えつつ面を上げた人修羅。
「良いか功刀君、この後、あの男(?)を強制退散させる…この次元からね」
「…まあ、今回はあんたに従うよ」
「あの魔具の所為か、普段より露骨に欲求が具現化している」
一目瞭然だ、普段の奥ゆかしさが無い、あれこそ抜き身の欲望である。
「絶対、今の雷堂に寄るなよ?」
「…」
「もう片目すら差し出してくるやも知れぬからねぇ…クク」
それを想像してゾッとした人修羅。
するとどうだ、そのもう片目にも入れるべく、懇願の空気を醸し出すのか?
万が一、そのもう片目にも人修羅の眼が入ったとしよう。
するとその上にもあの眼帯を複製して、纏わせるかもしれない。
「両目ハート…」
ぼそりと呟いてしまい、人修羅はそのハートの両目で見てくる雷堂を思い
くらりと眩暈がした。
まあ、人修羅に対して雷堂は、既に両目がハート状態ではあるのだが…
もう再生しているとはいえ、差し出した右眼の側がキリキリと悲鳴を上げる感覚に襲われる人修羅であった。
「では、君は適当に散歩でもしてい給え」
アルラウネの腰に腕を絡ませ、その蔦を屋根に繋ぎ舞い上るライドウ。
いよいよ抜刀して、胸震わせていた(色んな意味で)雷堂へと詰め寄る。
それをチラ、と一瞬だけ確認して、人修羅は雑踏の中を駆けて行った…



(どうして雷堂さん、あんなに暴走してんだ)
静かな木々の中、人修羅は境内をうろうろと散歩していた。
帝都に居ては、今日は何処も彼処も変態の噂で持ちきりだった。
夕飯の買い物すらする気になれず、探偵社へも戻らなかった。
名も無き神社をこうしてぶらつく。
此処に最終的に彼等が来る事も分かっていたので、丁度良い。
雷堂を兄の様に慕いたい自分を尊重して、せめて見送りだけでもしたかったのだ。
「どうなんでしょうかね、お狐様」
左右に鎮座する狐の像に、愚痴を零す人修羅。
「あの眼帯、取れれば良いんですけど」
項垂れて、像が挟む階段に腰掛けていると、そんな彼に舞い降りた希望。
「功刀さぁ〜ん!」
正真正銘、本物の、女の子の声である。
見上げた人修羅が、嬉しさ(というか安堵)をその表情に滲ませる。
巻き毛の西洋人形の如き少女が、手を振って駆けて来る。
「凪さん!」
「各地の名も無き神社を、今廻っているプロセスです!」
その十八代目ゲイリンの突然の出現は、どれだけ人修羅の心を潤したろうか。
他愛も無い話をしながら、汚れの無い空気を吸って、午後の散歩。
ああ、これこそ俺の求めている形だ。と感動しつつ、人修羅は微笑んだ。
「鈴緒を引けば使者の方を呼んでしまうので、お賽銭だけのセオリーです」
悪戯っぽく笑った凪が、小銭をからりと賽銭箱に投げ入れた。
「あっ、俺も…」
デジャヴ、であった。
また小銭すら持っていない己を呪う人修羅。
それに気付いた凪が、愛らしいちりめん素材のがま口を開いた。
「はい、これ、功刀さんの分です!」
女の子に小銭を貰うという事実に恥じらいつつも、彼女の心が温かい。
「ぁ…りがとうございます…ってかすいません…はぁ」
人修羅は真っ直ぐ視線が合わせれないままに、小さく呟いた。
掌に受け取ろうとした、その触れ合いの瞬間。

ばんっ

彼の掌に落ちてきたのは、銭では無かった。
固まる凪と人修羅。
人修羅の差し出した掌には、お札が数枚。
「はぁ…はぁっ…はぁ…これ、を、入れると、良い」
凪と人修羅を割るようにして、ゆらりと影が叩き付けてきた。
「ライドウは五萬と…っ、以前君から伺ったので、なっ…」
息も荒いまま、桃色眼帯が肩を上下にぜえはあと、更にお札を追加した。
ばしっ、と人修羅の掌ごと握って、ニタリとする雷堂。
「倍だ、十萬……っ」
前のめりの雷堂、そのホルスターの中でたゆん、と揺れた胸。
それを見て、凪が困った様に笑う。
「あ、の…???功刀さん、この方は…」
「知りません」
反射的に返事した人修羅に、ショックを隠しきれない雷堂。
よく見れば、激闘の末なのか、身体中に傷を作っていた。
「矢代君!知らぬとはどういう事だ!?」
がしりと両肩を掴まれ、思わずヒイッ、と悲鳴を上げる人修羅。
慌てた凪が、ボロボロ外套の変態を背後から制する。
「ストップ!どの様な間柄かは分かりませんが、落ち着いて下さいっ!」
「君が話に聞く凪君か!?そうかそうか君が!!」
人修羅からがばりと向き直り、凪をジッと見つめる雷堂。
「ふむ、確かに我にも解る……矢代君が好感を持つのが」
まるで姑の様に、凪を上から下まで食い入る様に見る変態。
「あの、その眼帯、可愛らしいですね」
「ん?これか?」
「はい!プリティです!とても良くお似合いです!」
「そ、そうか?フ…云われると悪い気はしないな」
悪気の無い凪の感想に、加速する雷堂が怖ろしい。
人修羅は握らされた十萬をちゃっかり懐にしまって、声をかけた。
「雷堂さん!いい加減にして下さい!俺またこの手斬られちゃいますから!!」
握られた手をわきわきとして、それなりの剣幕で雷堂に突っ掛かる人修羅。
あの記憶が甦り、ヒヤリとしている様子。
「案ずるな、すれば次回こそは我の手を着けようぞ?」
満面の笑みで怖ろしい事を云う辺り、眼帯の魔に魅入られている証だろうか。
あまりに正直な意見で、人修羅が強張る。
もう、雷堂が発狂しても仕方ない、と自分を赦した。
「すいません雷堂さん…っ!その気味悪い眼帯取って、一度ぶっ倒れて下さい」
着物の衿が角でくい、と押し退けられた。
項も露わな、悪魔体と成った人修羅に、雷堂が笑って云う。
「女体は頂けぬが、これが我の真意と知るのだ…矢代君!」
「違うッ!雷堂さんはもっと葛藤してるっ!」
人修羅の放ったアイアンクロウを舞い避ける雷堂。
その華麗な動きに、賽銭箱に隠れつつ見る凪が感嘆の意を漏らす。
「素晴らしいステップ!まるでライドウ先輩の様です!」
どっちの味方なんですか、と少し哀しくなった人修羅が
続けて第二撃を放つ。
初撃で捲れ上がった石畳が、その二撃目で粉砕される。
散っていくその影に紛れて、人修羅の金眼が光った。
その視線はハートの端、紐に注がれている。
「雷堂さんっ!目を醒まして下さいっ!」
至高の魔弾が、眼帯を外さんと光の帯を一筋紡いでいった。
粉塵の中、己に向かって来た光を認識した雷堂。
咄嗟に大太刀を振り上げる、その反動で身体の上体を反らせた。
「うまいですっ!」
凪の声と同時に、眼帯に当たる事の無かった魔弾が遠くの木々を折っていった。
鳥たちのさえずりがその遠方から流れこんでくる。
「くっ」
外して唇を噛む人修羅に、体勢を戻して大太刀を構えたライドウ。
「矢代君…煙に乗じたのは中々だったが、しか」
しかし、まで云い切らぬ雷堂に、鮮血が撥ねた。
台詞を止める雷堂、眼の前で血溜まりに倒れこむ人修羅。
凪が悲鳴を上げる。

「矢代」

静まり返ったその瞬間、酷いタイミングで境内に踏み入れた人影。
「おい………」
赤い海に突っ伏す使役悪魔に駆け寄り、身体を揺すった。
「何寝てるんだ君…低血圧にも程があるぞ…」
そして、返り血に染まる雷堂を見上げた。
その眼で射られては恐怖を感じ無い程の、鋭い視線。
「雷堂…お前、どうやら本気で手に入れたかった様だな」
「…おい、ライドウよ」
「だがね、これの魂までは渡してやらぬよ…さあ、管を抜け…十四代目!!」
立ち上がり、数本まとめて指に挟むライドウ。
「待て!我は一太刀も浴びせておらぬぞ!」
そう弁解する雷堂が、前方への構えを解いた。
すると、ライドウの眼の前で豊かな、それでいて形の良い胸がほろりと零れた。
「………」
その胸を見て、ライドウは一瞬にして、今まで抱き寄せてきた遊女達の
その誰よりも手触りが良さそうだとかを思ったが、あえて公言せず。
「ぅ…ぅう」
下からの呻き声に、チラリと視線を落としたライドウ。
胎に足先を入れ、ぐい、と人修羅を仰向けに蹴り転がす。
「く、功刀さん、出血多量では」
凪の声は、何故そんなに出血する?と疑問めいていた。
それもその筈、出血の出処は鼻腔であったのだから。
あの、逸れた魔弾は、雷堂のホルスターベルトを貫いていた。
その為、人修羅は真正面からぷりんぷりんの胸を見た訳で。
そして男児らしく墳血したのであった。
「ぅ…ラ…ライドウ?よ…夜…っ」
「…」
「は、はは…なんだろ…あんたの声に起こされた気が げはぁあッ!!」
意識を戻した人修羅に向かって、脳天に蹴りを喰らわしたライドウ。
「………永遠に寝て給え、愚図め」
どこかバツが悪そうなその態度。
どうやら一瞬でも動揺した自身に非常に腹が立っている様だ。
再度うつ伏せに突っ伏した人修羅を見て、既に上半身裸の雷堂が叫ぶ。
「どうして貴殿は毎回毎回、彼に辛く当たるのだ!?」
説得力に欠けるその姿。
「なのに、どうして貴殿についていくのだ!?彼は……っ」
しかし、その眼に溢るる涙は、真実のものである。
「くそ…っ、魔具の力を借りても、何も伝わっていないではないかッ!」
ブチリ、と自ら外した眼帯の桃色が、雷堂の掌で輝く。
「ぅあ、ああああああああ!!!!」
もがき喘ぐと、身体の唐突な変化と共に雷堂の意識を暗雲が覆った。
どさりと崩れ落ちた雷堂を見る凪が、口元を押さえて声を震わせる。
「ど、どうされたのでしょうか」
「馬鹿な奴、欲求を糧に擬態していたというに…眼帯に意識を持ってかれたか」
フン、と鼻で笑ってライドウが雷堂に歩み寄った。
「そんなまでして、人修羅を得たかったのか…?明め」
雷堂の掌で光る妖しい桃色が、ライドウを哂わせた。
「そんな物に頼らねば発露すら出来ぬのかい?お前は」

リン…

ハッと、鈴の音に振り返るライドウ。
其処に立つ黒い影。
「十四代目…そこに倒れる者…貴方の影、ですね?」
「…ええ…だとすれば、何でしょうか?」
いつもの暗い笑みで、使者に返すライドウ。
凪は人修羅に駆け寄り、様子を見ている。
「平行世界の帝都を崩す訳にはいきません」





「良いか、絶対、挿入させるなよ」
「…承知している、元より、そのつもりは無い」
「…どうだか」
待合茶屋の一室、眼帯を右眼に輝かせる雷堂が、そこには居た。
「僕とて、お前にみすみすアレを撫ぜさせるつもりは毛頭無いのだがね」
酷く苛々した声音のライドウが、雷堂を静かに恫喝する。
桃色の魔具に魂魄を剥がされぬ為には
少しでも沈んだ欲求を叶えるのが方法との事であった…
「くそ、使者め…何故あの場に丁度来るか」
烏が云う、平行世界の十四代目が身動き出来ぬのは問題であると。
あの馬鹿馬鹿しい魔具でさえ、魂魄を剥がす程の呪いを持つ。
平行世界が乱れれば、此方の均衡が危ういと、そう提唱するのであった。
再び装着された眼帯は、雷堂の魂を呼び戻した…
だが、外しても抜け殻にならぬ様、付入られる隙を埋めなければならない。
そう、欲求解消で。
「お陰で僕まで叱られた、最悪だ」
切れた唇の端を舌で拭って、吐き捨てるライドウ。
いざなれば、雷堂を殺さんとするその姿勢を“厳重注意”されたのだった。
「その欲求から解消された瞬間、すぐ人修羅から離れ給え」
「…」
「更に更にと望む様なら、諦めてその身体のままで居給え、それで帝都守護が出来ぬとは云わせない」
「…貴殿の烏が…結合を容認してもか?」
暗く笑った雷堂に、ライドウが掴みかかる。
擦り切れた襟首を掴み、廊下の壁に押し付けた。
「…してみろ……人修羅と重なって死ぬ事になるぞ、僕の刀で、ね」
「ふ、ふっ…それは本望、だ」
「汚い手垢つけて満足したなら、さっさと眼帯を置いて帰り給え!」
ライドウが、閉ざされた障子を開け放ち、雷堂を部屋に放った。



「…矢代君」
人修羅が、その声にゆるゆると瞼を上げる。
やがて周囲の様子に、声を張り上げた。
「…あの…俺、何、なんです、此処…!?」
「少しばかり、こちらの烏に迷惑をかけるぞ」
がばりと起き上がった人修羅、しかし布団の上で手脚を括るは赤い布。
よく見なくても判るのか、それをチラリと見て、笑った。
「ライドウ、あの野郎…俺を売りやがったのか、く、あはっ…傑作ですね」
人修羅を封じる術に長けているのは、人修羅のサマナーであるライドウだ。
つまりそのライドウに、烏は緊縛術を施させたという事である。
「矢代君、我の身勝手な装着がさせた、大変申し訳無いと思っている」
横たわる人修羅の頭を挟む様に、両手を布団に着く雷堂。
横を向いたままの人修羅は、雷堂を見ようとしない。
「すこし君の肌の温もりを、分けてはくれまいか?」
「…」
「そうしたら、この眼帯も剥がれよう…」
そっと抱き締めると、雷堂の胸が当たって押し潰された。
管が抜かれているホルスター、その千切れたベルト箇所は結んであった。
流石にその膨らみに、人修羅が口を開く。
「胸、当たってますけど」
「当てている」
「破廉恥ですね」
「良くないか?どうすれば良い?矢代君」
抱き締めたまま問う、人修羅の鼓動が、肉厚な壁を越えて伝わる。
その動悸に、雷堂が確認をした。
「矢代君、何故緊張している?」
「だっ、て!…その……」
「女性は初めてか?」
そう問えば、人修羅が頬を紅潮させて唇をぎゅう、と咬んだ。
そんな反応に、どこか嬉しげな雷堂は、人修羅の下をやんわり触る。
「こんな状況に見舞った事、君にとっては忌々しい事この上無いと思うが」
「ん、っ」
「このふざけた眼帯に、たった今ひととき、感謝している」
するすると、細い指で撫ぜ上げられると、人修羅が脚を捩る。
「安心してくれ、君を中には入れぬし、君の中を穿つ真似もせぬ」
クスリと笑って、動けない人修羅の着物を開いていく。
悪魔のままの肌の、その美しい全体にうっとりしていた。
ずっと見ていたなら、それだけで勝手に満足してしまいそうな感覚である。
「俺なんか触って、何が楽しいんだか…」
呟く人修羅に、雷堂はとんでもない、と返す。
「悪魔でも人でも、どちらでも好い…」
曝け出させた下半身の、人修羅の雄はやんわりと張っていて
雷堂はそれに覆いかぶさる様にして胸を当てた。
その異様な動きに、人修羅が慌て始める。
「ちょ、っと待って、待って下さい」
雷堂は返答する前に、胸の谷間にそれを通した。
ホルスターの結び目と、それが寄せ上げた胸の谷間に挟まれるアレ。
「なっ、に、変態じみた事してんですかっ、貴方はッ」
「孔が使えぬなら、擬似的に君を良くしてやらねばと思い立っての事だ」
前後に揺さ振られると、人修羅の声にいつしか艶が出る様になった。
谷間を滑るのは、汗なのか先走った液なのか。
ぎゅぷ、と音がし始めて、雷堂が口を開いた。
「矢代君」
「ふぇ、へ、変態と聞く口はっ、無いですっ、ぁ」
「そうか、ふ……ならそのまま戯言を聞いていてくれ」
「ぁ、っあぅあッ」
「こうしてはいるがな…結局は虚でしか無いのだ」
腕を胸に寄せて、更に締め上げた雷堂、どこか悔しげに。
それに伴い、ぐにゅりと胸で圧迫された人修羅が喘ぐ。
「君は望んでおらぬ…我とて、この姿は偽りの己で…」
「ぃ、ぁ、あっ」
「眼帯に頼らなければ、こうして満足に触れる許しすら得れなかった」
ぬぷり、と隙間から解放して、雷堂はすっかり張り詰めた其処を見る。
「どうか?男では無理と思い、致したが」
「っ、だ、駄目、ですっ…い、まのッ」
泣きそうに顔を歪めて、人修羅が上擦った声で白状する。
「正直、危なかった、です…」
「別に、出して構わぬのだが」
「お、俺一応プライドってのが、まだ残ってんですが……」
乱れた着物で云う台詞では無い。
「女人なら、先刻見たサマナーの少女が近しい間柄とは思うが…」
「ぁ、ちょっと!ッ」
舌先で、ぺろり、と舐めた。
雷堂は、その口内に咥える事無く、舌でべろりと包み上げる様にする。
「君の、事だ…っ、はっ、はぶ、っ」
「もうそこヤ…ッ」
「人の女性と触れ合うなぞ…っ、考えて、おらぬの、だろうっ?」
「!!……っああッあ」
一度舌を離した雷堂が、流れる汗を拭う為に帽子を脱いだ。
黒髪を縫って結ばれた眼帯の紐が、彼(彼女?)を捕らえたままである。
「咥えても良いが、それなら我も歯を折るつもりだ」
笑って云えば、息も絶え絶えの人修羅が左右に首を振った。
角でその動きは制限されていたものの、必死に振っている。
「ふ…冗談だ、だがな…この期が都合良いので、云っておこう」
少し哀しげな表情で、人修羅の耳元に唇を寄せた雷堂。
金色の眼を、その眼帯の下に共鳴させ、告白する。
「歯の無い君の口、酷く気持ち良かった」
目を瞑る人修羅、追い打つ様に、雷堂が続ける。
「今、我は女人ぞ…この触れ合いに、後ろめたい事は、何も無い」
汗に濡れた人修羅の額を、そっと指で梳いた雷堂。
台詞と裏腹に、眉根を顰める。
「だろう?矢代君…!そういう事に…しておいて、くれ」
「雷堂さ、何云って、ん、ぅ」
唇を塞いだが、しかし舌は入らない。
彼の中に、自身の一部が入ってはならぬのだ、と雷堂は必死に言い聞かせる。
決して、それが舌の先だろうが。
「ぷ、はっ…ら…雷堂…さん」
比較的早く退いた唇に、人修羅から言葉で咎める。
「俺、確かに…っ…男と寝るなんざ…御免です」
「…ああ」
「でも、云われたみたいに、女性と関係を持つのは、もっと無理です」
苦悶の表情ばかりだった人修羅が、ようやく微かに微笑む。
「こんな化け物と関係したら、可哀想、でしょう…?幸せにしてやれない」
その言い分に、雷堂が眼を見つめた。
「だから、女性の身体と触れ合うなんて…多分最初で最後です、からね」
「…そう、か」
「でも、身体が問題じゃ、無い…雷堂さんが…」
人修羅は一瞬云い澱んで、そして吐き出した。
「そんな間抜けな眼帯着けてまで、俺を求めて女体化したのかと思ったら…」
「…」
あまりな人修羅の言葉に、伸ばされていた指も止まる。
ハッとした人修羅が、慌てて言葉を繋げた。
「…あ、すいません、いや、だから雷堂さんの、その!感情的にですね!?」
「くっ…ははははッ、いや、いやいや大いに結構…!」
似たようなタイミングで、互いに云い合う。
「そう、か、あい分かった…矢代君」
ひとしきり笑い終えて、雷堂がくすっと悪戯っぽく笑う。
「ではこの変態からの、せめてもの餞別だ」
ぎゅむっ、と胸の谷間から人修羅の雄を覗かせて
口元にきたそれの頭を舌でペロリとし始める。
ぎょっとした人修羅の腰が引けるが、逃がさまいとその腰骨を抱く雷堂。
上に上がる腕に、自然と胸が寄り、人修羅をぎゅうぎゅうとする。
「ぁ あ゛ぁあ〜ッ!!やっぱおかしいッ!!この変態ぃッ!!!!」
叫ぶ人修羅に、雷堂は苦笑しながら女体を存分に揮った。
先端を、くりゅ、と舌先で軽く抉れば、人修羅の断末魔。
雷堂は放たれた白い蜜を、人修羅の胎を舐めて啜った。
どこか満足気に、焦燥しつつも、感じていた。
(そう、か、女体だから赦した訳でも無く、我の真意は知っての事か)
ぷつり、と、眼帯の紐が切れた。

「君を得る為の、変身願望は棄て去ろう…矢代…」

ぽつりと呟いた雷堂は、男の身体でぎゅ、と一度だけ、人修羅を抱き締める。
そして着物の合わせを正してやると、意識薄弱の人修羅に一礼して立つ。
ピンクの眼帯を掌に握り締め、溜息と共に部屋を出た。

もう、この帝都に雷堂ちゃんが現れる事は無いだろうと、そう願って…




『あのラブリー眼帯、実は私の発注ミスでした』
『素胸にホルスターは私の提案です、学生服が窮屈との事でしたから(にやり)』
『しっかしそれが揺れるのなんのってぷりんぷりん!』
『何がイイって!あの仏頂面にピンクの眼帯のアンバランス!』
『そして乙女の恥じらいを一切棄て去った漢の動き!口調!』
『そして悲恋!!これは是非推したい(きりっ)』
『はぁ、はぁ、ラブリー眼帯雷堂ちゃん萌えぇえええ!!!!』
後日、カマエルが仲魔にそう語っている場面を業斗に目撃され
解雇勧告を受けたのは云うまでも無い。


雷堂ちゃん〜ラブリー眼帯の秘密〜・了
* あとがき*

酷いなこれ。元ネタは『十兵衛ちゃん〜ラブリー眼帯の秘密〜』です。
ちなみに…おまけで、部屋を出た雷堂のその後があります。
ライ×雷(女体)でエロエロです、本当にすいません。
おまけにこっちは暗いです。それでも良いかたはどうぞ⇒「桃色眼帯っ装☆着!」