僕の悪魔は潔癖症

 
俺は男だから、ソレの存在を否定はしない。
でも、ソレそのものが意識を持って、ましてや徘徊するなんて
考えるだけでもおぞましい。
ライドウに蹴られて、唖然としたまま、眼の前に現れた影は…
口にするのすらはばかられる、あまりに卑猥なモノだった。




魔王マーラは、呻きながら、どろどろと肉を運ぶ。
その、ぱくぱくと開く口からカテーテルでも突っ込めそうだ。
張本人のバフォメットは、既に姿をくらませていた。
『グ…ギギ』
流暢な言葉すら発せぬそれは、文字通りの肉塊だった。
いや、肉棒な訳だが。
しかし、不完全な魔王は固形ですら無い。
「っくく!皮被ってるよ…!ねぇ、功刀君?」
前方に向かって笑いかければ、人修羅はいつの間にか退いていた。
「ふざけるな!!貴方達が召喚したんだろっ」
マネカタ二人を、それぞれの手で掴み上げて怒声を浴びせている。
あの細い腕に吊るされるマネカタは、抵抗の素振りすら無い。
怯えてマガツヒすら舞い散る始末だ。
「だ、だってボクらをバカにするからあぁ」
「ボクらをコケにするからあぁぁ」
その二重奏に、人修羅は眼元を引き攣らせた。
「使役する能力も無いのに召ぶなッ!!無責任!!」
叫んだ人修羅の背後に、迫るものを認知していたが、僕は黙っている。
すると、掴まれたマネカタ達が同時に指を指して人修羅に訴えた。
「「ああ〜ッ!!後ろ後ろ!!」」
ハッとした人修羅が、視線を背後に流す。
『ギザマラアアアアアアァ…!!』
粘着質な奇声と共に吐き出されたのは、白い体液。
いや、説明不要のアレだ。
「ひっ!!」
振り返る人修羅が、両手のマネカタを差し出す様にして盾にした。
水に溺れた時の声みたいな悲鳴は、瞬時に掻き消される。
マネカタは真っ白になり、その弛んだ服に残滓を滴らせる。
「ぅ、ぁ、ぁぁああッ!!」
盾にしたマネカタ二人を床に放って、指をスラックスに撫ぜつける彼。
「汚…っ!汚い汚い汚いいいいいいい!!!!!」
犠牲に白く燃え尽きたマネカタ達を尻目に、人修羅は指をこする。
死んではいない様子だが、動く気配も無い。
『ヨグモ…ゴンナ…ガダチデ…!』
どうやら御機嫌斜めの魔王。
しかし見慣れぬその体躯に、僕は可笑しくてしょうがない。
「ライドウ!お前で何とかしろよ!」
無茶苦茶な事を云って、出口に一直線の人修羅。
その後姿に向かって、僕は問答無用で発砲する。
一発、二発と脚に撃ち込み、よろけた人修羅。
そこに占めたといわんばかりのマーラがブルブルと覇気を飛ばす。
いや、アレなのだが。
「うっ、あ、あああッッ!!来い!!俺を護れええッ!!」
くるりともんどりうって、倒れ込みながら両手で庇う体勢。
その腕が妖しく光り、彼の身体から立ち昇ったマガツヒが形を成す。
瞬間、現れたのはセタンタとオオクニヌシとラファエル。
その召喚行為に、驚愕した。
悪魔を嫌う彼がそれをしたのを見るのは、本当に久々だったからだ。
現れた三体は、物も云わずにその白い波動を得物で薙ぎ払った。
人修羅の様に臆する事無く、毅然とこなす悪魔としての行い。
くるりと踵を返すセタンタが、彼に手を差し伸べた。
『ヤシロ様、お久しぶりです、召んで頂いて嬉しいです』
巻物の上、眼元が綻んでいる悪魔。
その手を一瞬の間の後、取って立ち上がる人修羅。
その姿に酷く苛々する。
(そもそも何故その面子なのだ、功刀)
眉目秀麗な男衆、おまけに一体など天使ではないか。
女性悪魔に囲まれて、可愛がられ、死んだ様に項垂れる君よりも
あの面子に囲まれて、庇護され、受け入れる君を見る方が…
「三体同時召喚とは、僕へのあてつけかい?功刀君」
硝煙を掃いながらホルスターへ戻す銃。
そのまま彼等に接近していく。
セタンタの手をやんわり払った人修羅が此方を睨んだ。
酷く恨めし気で、それでいて微かに口の端が上がっている。
「…思わず召喚したけど、これならあんたの手は借りなくて済むかな…」
脚をトン、と床に打ち付けて、鉛弾をカラリと肉から落とす。
その主人の姿にセタンタはハッとして、傍から問い質す。
『お怪我されているのですか?』
「…まあ」
『あの禍々しい悪魔のとの手合いに向かっても大丈夫ですか?』
「…さっさと倒してきて下さい」
『はい!お任せ下さい!!』
視線を合わせず、素っ気無く返答する人修羅。
セタンタが向かったのをチラリと見送って、息を吐いた。
「そんなに嫌いなのに、とことん利用する君は悪魔だね?」
哂いながら云ってやれば、腕を抱くようにして呟いた。
「あんたには負けるよ」
軽蔑の眼差し、いつも向けられるそれに僕は心地好い平穏を感じる。
『ヌルヌルヌル…ッ』
いかにもな擬音を発しながら、魔王は人修羅の仲魔と戦っていた。
白に汚れようとも、さして気にせず果敢に食ってかかるその衆。
主人とのあまりの差に、少し見入った。
が、その波動が物質的なものから感応性のものに変わる。
勘付いた人修羅が、ビクリとして喉元に指を添えた。
きっとマガタマの在処を確認している。
『…ヌルルルル!!』
魔王の蠢きに、照りが差す。
僕はその揺らぎに、外套を一瞬そよがせた。
感応攻撃は効かぬこの身、誇示する様に傍の人修羅に微笑む。
「良かったねぇ、相変わらず馬鹿の一つ覚えみたいにイヨマンテで」
「…っさいな!」
少し焦った彼は、難を逃れた事に安堵して指を胸へと撫で下ろした。
しかし、それは直ぐに変貌する。
向こう側で応戦していた人修羅のしもべ達が、一斉に此方を振り返る。
その眼はどこか蕩けていて、焦点は揺れつつも主人へと合っている。
『…』
黙りこくって、見つめてくる仲魔達に人修羅は怒鳴る。
「何しているんです!?背中を見せる相手が違う!」
指を指し、少し怒りを滲ませて云う彼…
まさか、気付いていないのか?今の魅了感波に。
それはそれで面白いので、僕は黙って見守る。
マーラの攻撃に対応出来る様、外套中で準備だけは万全に。
人修羅の怒りに笑顔で応える事が出来る様に。
「え…」
魔王を背に、人修羅の元へと一斉に帰還して来る彼等。
その眼の色に、少し後ずさる人修羅。
遅いのだよ…君はいつも。
『魔王様に供物を!!』
三体の誰がまず叫んだのか、定かでは無いが
人修羅の手を真っ先に取ったのはセタンタだった。
先刻と同じ光景だが、そこにあるのは情より熱。
「な、何云ってるんです貴方達…っ」
『その胎に在る魔力を我々は知っている』
オオクニヌシが、薄く骨の浮いた脇腹を篭手の指で掴んだ。
それに眉根を顰め、小さく悲鳴を零した人修羅。
『マーラ様の下にお連れせねば』
ラファエルが、背後から両腕を掴み上げ、羽ばたこうと翼を扇ぐ。
それに眼を見開き、人修羅は愕然とした。
「耐性の無い彼等を恨んでやるなよ?君の失策だよ……無能」
出口を背にして、嘲笑ってやれば、その頬が紅潮する。
暴れる様に脚を閃かせたが、脇に居るオオクニヌシが小刀で制する。
「はっ!…ぅぐ」
降ろされた脚は、その刃に真っ直ぐに突き刺さる。
オオクニヌシの篭手は、留める紐まで朱に染まる。
下手に動かせない人修羅を、彼等は羽交い絞めに連れ出す。
「戻れ…戻れ!俺の中に還れえッ…!」
ああ、馬鹿な功刀…二体なら何とか出来たかもしれぬのに。
そんな浅はかな言動に、毎回ゾクゾクさせられる。
「聴こえていないのかっ!!こ、の…所詮、所詮悪魔だあんた等はッ!!」
それを君が云うのか?
『グブブ…ヌリュ』
嗤う様に唸るマーラの御前に、背面から差し出される人修羅。
その眼はマーラから…必死に背後の気配から、逸らされている。
『イイマガツヒ…タレ…ナガシ!』
ずるずると迫る気配に、混乱した人修羅が、僕を見た。
一瞬叫びそうになったまま、いつもの表情に戻って云った。
「ライドウ…ッ」
「何?」
そうとしか返事しない僕に、君は希望を無くして唇を咬む。
「…あんたも共犯者だ…!」
苦々しげに吐き出した、その眼が、いっそう見開かれた。
「…ぁ」
微かに零れた人修羅の声に、連なるように、
その脚を、どろりと白い何かが伝う…
『トカシテ、クラオウカ、ドロドロト…ドロリ』
何かの呪文みたくマーラが語りつ吐き出した。
その白濁の音が、びゅくびゅくと彼の臀部を穿っている。
「ぁ、ぁあぁあああああ」
ガクガクと身体を戦慄かせ、この世の終りみたいな表情。
そんな人修羅が暴れる度に、その靴までグジュグジュと音を奏でる。
「不潔…ッ!!臭いモン出しやがって!!ぶっ殺す!!ぶっ殺してやる!!!!」
錯乱状態で、魅了状態の仲魔達を振り切れる訳が無い。
凶暴な言葉も、彼が発すれば酷く痛々しい。
「ああああああついっ、あづいいいいいぃッ」
本当に溶解でもされているのだろうか?
それとも魔物の気性を色めかせる効能でも有るのか?
魔王は吐き出しつつ、その頭をぐりりと擦りつかせ始める。
その光景に、思わずクッ、と笑いが漏れた。
入る訳無いとは解っているのに、彼ならその股から引き裂かれ
あの幹すら肋骨に納めそうな気がして。
「ひ、ひぁああっ」
ぶるぶると脚を震わせて、振り被っていた腕や脚は形を潜めた。
顔を俯かせ、己の脚に纏わり付く白い愛液でも見ているのか。
刺さった小刀からの血が混ざり、桃色も可愛らしい片脚。
やがて、擦れた声で呟き始めた。
「…セ、タンタ…悪かった……俺が悪かったです…」
何の贖罪か知らぬが、まあ察しはつく。
あんなに素っ気無くしていたのだ、仲魔の敬愛を撥ねていた彼。
因果応報といえばそれまでだろう。
「お願いだから…放して…」
無表情のセタンタ、他の二体と共に魔王の云いなり。
人修羅の懇願は淫靡な音に紛れ消えゆく。
「助けて…助けて……お願い、します…お願ぃ…」
その声の終りには、既に嗚咽が混じっていた。
「クッ…ハハ、アハハハハッ!」
あまりに可笑しくて、大笑い。
僕は胎を抱えて、少し身体を折って気が済むまで笑った。
マーラは人修羅の尻から、魔力を白濁に融かすのに夢中だ。
じわじわとマガツヒを搾取されている人修羅は、ふらりとしながら
虚ろな眼で僕を見上げた。
と、その頭が突如、左右のセタンタとオオクニヌシに掴まれた。
わしり、と黒い艶やかな髪が左右から鷲掴みにされている。
ぎょっとした彼は、僕から視線を逸らす羽目となった。
「なにす」
声が途切れる、頭がそのまま上を向かされ、背面へと反らされる。
上体を海老反りにさせられ、マーラの頭と眼が合ったと思われる。
その無理な体勢のまま、彼が叫ぶ。
「やめ――!!!!」
此方からは窺い知れないその表情。
しかし、マーラの先端から、迸る白い魔力に顔面が洗われている。
それはハッキリと解る。
ホースで水を撒く開放感と同じ音が、其処から空間に轟く。
くぐもった悲鳴すら掻き消され、人修羅は身体を痙攣させる。
その震える脚の向こう側に、ぼとぼとと白い滝が現れていた。
『…フゥ…ウマイウマイ…ワルクナイ…』
満足気な溜息のマーラで判断したのか、人修羅の頭は戻される。
どこかうっとりしている彼の仲魔達、あそこまでだとは思わなかった。
本当にマリンカリンを喰らっているだけなのか、少々怪しい。
「大丈夫?功刀君」
心配成分無添加の声で迎えてあげれば、その上がってきた面。
正直…顔射というのが生温い程に、白濁まみれ。
僕と眼が合うと、身体を大きく、ビクンと跳ねさせて口を開いた。
その開いた処から、身体の中味が全て出たのでは無いかという程の液。
「ぐぼっ!げっ、げぇええええええっ」
ばたりばたりと床と、自身の靴を汚す白い奔流。
マガツヒが滲んで、血反吐にも見える。
ひとしきり吐き出しても、未だに嘔吐く君。
「は〜っ…は〜っ…ハァッ…ハ…ハハ」
僕の眼を、しっかり見ている、その白い隙間から。
「アハハハッ、く、さい…にがい、くさいにがいにがいくさいにがい…」
「…」
「ぅっ…げえっ…ぇええッエッ……ふ…っ…え…っえ…」
咽つつ唱えられる恨み言と嗚咽に、いよいよ壊れたか?と感じ始める。
流石に他に壊されるのも癪なので、僕は組んでいた脚を開き立つ。
「功刀君、その陰間衆、ヤっちゃって良いなら助けてあげるよ…?」
僕の吐く嫌味と、その意味すら考えられぬのか
マーラに臀部を磨かれ続ける君は、眼を見開く。
「助けろよっ!ライドウ!!自分の悪魔がこんなされて許せるのかよッ」
金色が輝き、いきなり吼え猛る。先刻までの焦燥を振り払う程“助けてあげる”という単語は強かった様だ。
そんな本来の主人を見てか、周囲の仲魔が僕に警戒心を剥き出しにする。
『ナンダ…オマエ?』
マーラの声に、その美男衆が人修羅を放して僕に掛かってくる。
「功刀君、約束通り…ヤってしまうよ?」
胸元の管を引き抜き、自らの下にMAGを放つ。
光の集合体が、僕の視界を上げ広げる。
『召んだかサマナァ!?ホレホレ何処じゃ、孔は何処じゃ!』
唖然とした人修羅の、白い唾液がつう、と顎を伝うのが見えた。
「其処なるマーラよ、これが真なる姿だろう?」
クスクスと哂いつつ、戦車の如きその悪魔から見下して聞く。
『グゥルウウウウウウ!!!!ナゼオマエ!』
「貴方みたいな悪魔、僕が仲魔にしていない訳無いでしょう?」
掛かってきた人修羅の仲魔達を前に、本物のマーラで突き進む。
がっしゃがっしゃと金切り音を立てて、金色の車が男根を運ぶ。
それに脚組み腰掛けて、まるで神輿に乗る祭人の気分だ。
『…マーラ様?』
『どちらが本物?どちらが贋物?解せぬ……』
美しい男悪魔達が、僕の下に居る悪魔へとうわ言の様に呟く。
同じ種類の悪魔でも、強き者を真実と思わせる何かが流れているのか。
しかし、そうして戸惑い立ち止まる彼等に、僕は私情を働かせる。
「マーラ!更に白く塗り潰してやれ」
刀ですい、と指し示せば、僕の脚の下で嗤った。
『もっと濃ゆい白でホワイトアウトぢゃ!!』
ケタケタと快活に笑い上げ、艶…いや、所謂アレを吐き出させる。
一直線に彼等に向かうそれは、まるでショットの様に彼等を押し倒し
床に縫い付けていた。
人修羅が最終的に頼りにした男衆は、この様に白濁に封じられている。
それをマーラの上から見て、何とも云えぬ高揚感。
「フフ…どうかな功刀君?これが本物のスペルマってヤツだよ…」
僕はよくやった、と褒めんばかりに、自身の腰掛ける総身に
脚の側面でグリュグリュといい子いい子をしてあげた。
その脚コキに僕のマーラは歓喜して脈打ちMAGを揮わせる。
床に放られた人修羅が、その眼元を引き攣らせた。
「さ、い、あく…っ…下品野郎…っ…」
白い床に突っ伏して、君は僕を嫌悪する眼で見つめた。
『ニュルルル!ォオノレェエ…!オノレェ!!』
本来の姿が妬ましいのか、人修羅の背後で半端魔王が雄叫びする。
方向指示し、刀を差し向けゴウト不在の挑発をした。
今頃になって、外の猫じゃらし地点で待たしていた事を思い出しつつ。
「煩いよ…仮性包茎」
ニタリと哂って、その皮被りに見たままの感想を述べる。
『カァ!カカカカ…』
「皮被り、この包茎魔王、インポテンツって云ってあげているだろう?」
もはや最後は関係無いが、その羅列に床の人修羅が赤面する。
『カブッテナイワ!!ブルルルル!!』
そのヒダをぶるんと震わせて、放たれたのは魔界のしらべ。
「フフ、屹立した強さを教えてやるぞ、マーラ?」
学帽のつばを指で押さえ、突進させた僕のマーラから飛び降りる。
とばっちりを喰らい、白濁に血を滲ませる人修羅の元へと途中下車。
「げふっ、は、あ…はぁっ…今の…キツい…」
「それはそうだ、イヨマンテの君にはね」
魔力の低い君は、よろりと立ち上がる。
そのアレまみれの姿に、赤いマガツヒが滲んで苺のシェイキみたいだ。
「あんた、マーラの正体知ってて…儀式を止めなかったな…?」
「結構シゴキ上げてあるから、僕の魔王は強い筈だが?」
「そ、そんな問題じゃ無い!」
顔を指先で拭い、その斑紋がようやく見える様になった君。
僕の云い方にか、憤り叫ぶその一方…
『マダイッテナイイイイイィィ!!!!』
酷い断末魔で、どろどろと融けていく包茎魔王が向こうに見えた。
僕のマーラが、触手の様な部分をぐにぐにと躍らせて勝利の咆哮を上げた。
「ほら、ああいうのは本番に弱い」
「…」
「あぁ、すまない、君は童貞だったっけか?功刀君」
そうやって、かああっと頬を染め上げるのは、どうしたら出来る?
そんな汚れた姿でも、恥らう君が妙だ。
『サマナァ、御褒美が足りぬ!もっと脚をくれぃ!脚脚脚ぃ!!』
ガラガラと此方に舞い戻る僕のマーラ。
その発言に、あからさまに侮蔑の眼差しを送る人修羅。
口元に掌を当て、未だげぇげぇと咽ている。
「マーラ、ところであの包茎魔王の落し物は無いのか?」
『おぉ、そういえばあの辺の吐き溜めに光っておったぞぃ』
くい、と一本動いた触手の方向に視線を沿わせる。
まだ新しく吐かれた白濁の、生臭い海に歩み寄る。
「…確かに、在ったな…フフ…御苦労、マーラ」
目的の物が発見出来、それなりに満足な僕。
マーラの幹を垂れさせ、その亀頭を靴裏でグリグリ踏み躙る。
「ほらほら、どう?」
『ふひゃああああ、堪らんのぅ堪らんのぅ!サマナァの靴底!!』
「また味わいたければ、良い働きを期待している…」
哂いを含ませつつ、その尿道の口をヒールでクリリ、と抉った。
ドクンと脈打ち、その口から悦びが迸ろうというその瞬間。
ヒールを思い切り抉りこませ、栓をする。
『ぐひゅうううう!!』
「まだイって良いと誰が許したんだ…?」
片脚で寸止めさせつつ、僕はニタリと魔王を見下す。
離れた所で、人修羅が呆然と僕を見ていた。
「なんだい功刀君?」
僕の声に、ハッとした君はよろよろと行動再開する。
「悪趣味…」
呟きながら、白に縫いとめられる仲魔へ点々とした。
対象に、少し屈みつつ直接己の中へと帰還させていた。
そんな状態の仲魔を取り込む所為か、その度に君は呻いた。
「き…き、もち悪…っ」
バフォメットのいた辺り、儀式用具一式をがしゃんと払い除けて
近くの壁へと腕をついた人修羅。
「げぇえええっ、ぅうえッ、ぐぶっ」
喉奥に残滓でもこびり付いているのだろうか。
その後ろ姿に、マーラを制しながら…ふと気付く。
(…へぇ、後ろから執拗に攻められていたのが、解らぬでも無い)
項垂れて壁に縋りつく人修羅の臀部が、ぬらぬらと照っていた。
この屋内の薄い明かりに、随分ぴっちりとした、あの尻を包む着衣。
そのラテックスにも見える程に艶めく黒が、辛そうに揺れる。
「マーラ、あの悪魔を勃たせたなら、イかせてやっても良いが…?」
ヒールを、刺激しない様にゆっくりゆっくり引き抜く。
先走りが、そのぽっかり開いた口からやがてつぅ、と垂れた。
『あ、あの小童をか?良いのか!?サマナァの贔屓じゃろうが?』
人修羅が逃げれぬ内に即答、即命令する。
「正し、あれは率先して性戯を行わぬからね…強制的に促せよ?」
振り返ろうとする人修羅に向かって、威嚇と称する発砲をした。
白濁臭に火薬の匂いが混ざる、混沌とする空気を裂いて突っ込む魔王。
『少年の引き締まった尻ぃいいいいいい!!!!』
先刻の氷結弾で身体がキシつく人修羅が、その声に青ざめていった。
「ライドウ手前えぇッ!俺にっ、何の恨みが…!」
僕は横から眺めて、その巨大な男根が彼の尻を嬲るを愉しんでいた。
『プリプリしとって、愛いのう愛いのうぅ!!』
「ひっ、ひいっ!?」
壁に腕をつき、まるで腰を突き出したその体勢。
自然にそうなった瞬間、鉛を喰らった君は実に不幸である。
開いた脚の間に割り入り、その幹を戦車前後で当て擦る魔王。
あまりな素股に、人修羅は壁を掻き毟る。
「あぁ ぁあ あぁあ゛」
あられも無い悲鳴で、指の爪は割れ、壁に跡を残していく。
確かに、普段からあのスラックスは問題有りと思っていた。
(他の輩を誘う一因にも成り得るな…)
淫猥な光景を前に、冷静に分析する。
少年らしい、引き締まってはいるが、だからとてごつく無いその臀部。
今思えば、あそこは撫ぜたい誘惑に駆られる気がする。
『ぅはぁあああああ、こりゃワシが先に昇天しそうじゃわい…!』
その魔王の呻きに、人修羅は首を振る。
「ラ、イドウ…!頼むから、も、もうっ」
そんな彼に歩み寄り、その眼を確認する様に見る。
じろり、と僕を睨む金色を見て、一瞬で判断。
腰のホルスターから再度出して、その脚と腕に連射した。
「ひぎぃいいッ!!」
壁からも離れ、跨るままマーラの幹に背面から倒れこんだ人修羅。
『ふぉおおお!!孔が増えるかと思ったわい!!』
色んな意味合いでビクつく魔王は、人修羅を乗せたまま指示待ちだ。
「功刀君…そろそろ氷結も解けそうだったのだろう?」
「…はっ……はっ……」
浅く息をして、血が迸る君。僕の言葉に視線を逸らした。
「出し抜こうと懇願までしたのに、駄目だねぇ…」
打ち込まれた鉛の冷たい楔に、人修羅は仰向けのまま手脚が動かない。
「本当…下手糞だな…嘘も生き方も戦闘もアレも…ク、ククッ」
「……っく、そ…野郎…」
仰向けで判った事は、先刻の素股で彼の一物もそこそこ立派に主張し始めた事。
そこをうっすら隆起させ、艶やかな黒に包んだ前を突き出す様な体勢。
「ああ…しかし、そういう趣向の見世物には適しているかな?」
「あんた、みたいな…悪趣味野郎の集う…?」
「ふ、まあ僕は対象が君だから愉しいのだが」
「反吐が、出る…っ…き、たない、汚いっ…!もう、嫌だ…」
「マガタマを回収したら、泉に行って洗って良いよ?」
僕のその台詞に、ほんの少しの光明を見出したのか
ぼそぼそと呟いていた侮蔑を止めた君。だが、その眼は歓びでは無い…
流石に学習したのか、そういった許しの前には壁がある事を。
「マーラ、此処にその悪魔を降ろしてくれ」
つかつかと白い沼地を避けつつ、僕はその地点へと魔王を先導した。
ガラガラと来るその戦車は、市場へ連れて行かれる奴隷を運ぶそれに見える。
どさり、と降ろされた人修羅は小さく呻いて転がった。
「御苦労」
僕は降ろしたまま頭を垂れたマーラの、綱渡りを靴先で撫ぜていく。
それに痙攣したところで、口にヒールでくりゅ、とひと抉り。
『ぉぉおおおお!!!!ライドウ様ぁああ!!!!』
絶頂の咆哮を上げ、口をばくりと開いた魔王。
当然浴びたくないので、即行で脚を退避させる。
ビュルビュルと迸った我慢の証が床を散らかす。
「うあ、やっ、この変態悪魔!!」
近くに降ろされていた人は身を捩って飛沫から逃げようと必死だ。
くたりとした魔王に僕は哂って賞賛する。
「また長期間管に放置してやるから、せめて精一杯溜めておくんだね」
外套を翻し、その餞別の言葉と共に管に戻す。
「さてと…功刀君…」
残された人修羅を見て、にっこり微笑んでやった…





こっちを見て、愉しそうに哂うライドウ。
俺は既に咽返る臭いに、呼吸すら半分止めていた。
でないと、吸った空気以上に吐き戻してしまいそうで。
「功刀君、マガタマを拾いたまえ、その辺に在ったから」
くい、と顎で示すのは、俺の傍の水溜り。
先刻、この男の変態悪魔が吐き出したばかりのもので拡大した池。
「…は…どういう…意味…」
「だから、その中から探せと云っているだろう?」
触れるのだって嫌なのに、そもそも腕脚はこいつの所為で動かない。
「何云ってんだあんた…俺はあんたの所為で動けな」
「這えぬ訳?」
そう云って、外套の隙間から銀色に光る得物を抜き出した。
「!!」
間一髪で、ごろりと身を捩る。
すれすれ、その刃先が俺の首筋に触れるか触れないかの位置。
「ほら、這えるし…泣き言ばかり云うその口も有るだろう?」
首筋の刀がゆっくり戻されていく間、その台詞に身体が粟立っていた。
口…まさか…
「ほら、舌で在処を突き止め給え」
腕組みし、俺を哂って見下すデビルサマナー…
「ざ、けんなよ……動けるあんたが、やれ…っ」
睨みつけ、そう吐き出せば、胎にどかりと靴の甲が入る。
「ゲェッ」
溜まっていた中が口へと込み上げた。
「げふっ…はぁ…はあっ」
「僕に断り無く召喚したよね…君」
「…はぁっ……はっ…仕方…ないだろっ…!」
「おまけに、あの面子…何?君はそういう趣味だったのか?」
苛立ちが滲む靴の感触。
「…おい、甲に君の所為で白いのが付着した、舐め取れよ」
底なら良いのか、と、どうでも良い事を思いながらその靴を見た。
俺から動く事は無い、いつもそうだ…そう、いつも。
「はっ…靴の艶出しになって…丁度良いんじゃないのか…」
蔑む様に、云ってやれば…ライドウは強制的に俺にさせてくる。
「ほら人修羅…」
「んっ、んぶううううっ」
靴の甲を唇に押し付けられ、刀が背面にとすりと刺さる。
その痛みに反射的に唇が開く。
「はぐ、ぐううぅううぶぐっ!!」
開いた口に、ぐずぐずと先端ごと突っ込まれて掃除させられる。
色んな苦みと屈辱に、頭がくらくらする。
抜かれた後、立て続けに後頭部の髪を掴まれ、白濁にべちゃりと叩き伏せられた。
撥ねたその残滓まで、酷く粘着質だ。おまけに温かい。
鼻腔を刺激する青い臭いに、吐き気が最熱する。
「ぶぇっ、ぇぇぇッ」
「ほら…早く探せよ…!犬みたく魔力でも嗅いでさぁ!」
「ぐぶっ!うげぇええええっ」
「吐くなよ、探すのが大変になるだけだぞ?解っている?馬鹿だな君は」
俺の吐き戻したものは、赤いマガツヒがふわりと纏わりついている。
其処には無いという事は判る。恐らく在るのは…魔力を微かに感じるあの辺。
俺は早く泉に行く事だけを考えて、マガタマを回収する道具になろうと思った。
もう吐き過ぎて、喉も痛いし、嗅覚だっていかれてしまっただろう。
(汚くない、汚くない、臭くない、臭くない)
自身を洗脳する、使役され始めてから身につけた逃避行為。
舌をつい、と、あのライドウのマーラが吐いた其処に潜らせる。
「!?」
まったく違う、あのしょぼくれた半端な魔王の白いのと。
思わず顔を背けて、咽た。
「う…ぷっ……む、りだこんな…っ」
(汚くない、臭くない)
ライドウの眼が俺を射る。
弱りきった俺は、本能的にそれを回避しようと…舌を突き出す。
べちゃりと舌の先に、ツンと刺す様に臭気と熱。
(な、なんだよコレ!)
舌から這い上がってくる、極小の何かが、ビチビチと。
「はぁっ、あぁあっ、んだよコレ!!おかしい!おかしいだろ!!」
吐き出して叫んだ。そんな俺を見てライドウがほくそ笑む。
「ぁあ…それ?子種が元気なのは大変宜しい事と思うが?」
「嫌だ!!もう嫌だこんなの無理だあぁッ!!何で俺がこんな目にっ」
「オタマジャクシの踊り食いなんて、実に健康的だね、功刀君」
仕方が無い、といった風で、ライドウは俺の髪を再度掴んだ。
ジュッジュッ、と嫌な音を立てて、強制的に床掃除。
酷い屈辱だが、俺自身でこんな事、まさか出来る筈も無い。
終りが近いのだと、そう思い込んで精神を壊す。
「ふっ、ううう!!」
舌先に、それが当たった瞬間に身体が反応した。
斑紋が息づいて、其処にいる禍魂を拾えと啼く。
ビチビチと跳ねる子種数匹と一緒に、その魔力の蟲を掬い上げた。
ライドウに見せ付ける様にして、舌を差し出す。
「おや…もう見つかったのか…ふん、つまらないな」
もう充分過ぎるだろうと怒りが滲むが、今戦うのは無理に等しい。
「ねえ功刀君、回収記念に喰らってみなよ、そのマガタマ」
「…嫌、だ」
「…」
「もう回収…したんだ…良い、だろ…」
俺の拒絶に、また刀か鉛が来るのかと思った。
しかし目的達成したライドウが、まあまあ引きが良いのを俺は知っている。
(終われ…それかいっそ失神しろ俺…)
この気持ち悪い、おぞましい空間から早く出たい。
あのマネカタ達に蹴りを入れてやりたい気もするが、無理だ。
盾にした俺にも嫌悪していた。潔癖と昔から馬鹿にされてきた俺。
(何が…悪いんだよ…!無理だろ!こんな…こんなの…!)
ディスコで尻を触ってきた鬼も嗤っていた。
周囲も、何を云っているんだ?と。
そう、ライドウだって俺の喧嘩を愉しんだ…だけだ…
(俺が潔癖なのを嗤う奴等…憎い…)
思考がぐるぐると脳内を廻っていると、やがてライドウが云った。
「なら、呑ませてあげようか」
その意味に脳内がクリアになった。
這う俺の髪を引っ張り、ぐい、と寄せて。
ライドウの唇が俺に喰らいついてくる。
「おいっ!ライド…ゥ………ん、んふっ、ふぅうう…」
俺の口内に居る種と蟲を、ライドウの舌がかき混ぜる。
苦味だけだったのが、その熱い舌から流れる魔力で味を変える。
唾液で溢れて、唇の端からだらだら垂れる。汚い混合液。
身体を蝕んでいた氷結の楔は、熱で既に解けているのに…
まるで蜘蛛に囚われた様に、喰われるままの俺が虚しい。
ごくり、と喉を嚥下していく塊。胎から逆昇ってくる、イヨマンテ。
「んぅ!んっ、ん〜〜〜ッ!!」
眉を顰め、首を振ってそれを訴えたが、ライドウの眼は哂うだけで。
喉を通過したイヨマンテが、俺の舌上へと姿を現す。
それを、ライドウの舌が掠め取り、攫っていった。
途端、その唇は離れて、舌なめずりをした。
解放された俺は、唾液を更にだだ漏れさせて、見上げた。
ニィ…と冷たく哂って、舌を出したライドウ。
その先には、胎内に留め過ぎて見慣れないマガタマが在った。
「ぅ……」
朦朧としながら俺は、それを睨んだ。
残滓まみれの新たなマガタマが、身体に馴染もうと中で深呼吸している。
「美味しい?」
ライドウの質問に、はっきりと首を振る。
(あんたこそ…俺の口内の種とか、苦くなかったのかよ…キチ○イ野郎)
信じられないその行動に、やはり異常な人間なのだと再認識させられる。
「それにしても、正直後味が宜しく無いな…」
口元を指でつい、と拭って、呟くライドウ。
俺の腰を急に掴んで、引寄せた。
流石にぼうっとしていた俺も、それには血の気が引いた。
「おい!」
「君、まだ微かに熱を孕んでいるだろう?ココ…」
先刻、靴の汚れを理由に舐めさせたお前は何処へ行った?
そう問い質したい程に、大胆に俺を掴み寄せ膝に跨らせるライドウ。
外套の黒に、俺の身体が汚れを残していく。
向かい合ってこの体勢なのが、既に許せない。
「そんなの生理現象だ…俺は…別にあんたのマーラみたいに変態じゃない」
真正面から睨んで、吐き捨てれば、ライドウはクスリと哂った。
いや、冷笑だった。
「それで構わない」
「…」
「ココから搾り出される魔力は、僕が全部啜ってあげるからね…」
低い呟きと笑みに、身体がぞわりとした。
その指が、俺の着衣の上から、下を撫ぜ摩る。
「ひっ…」
駄目だ、身体が脱力する。
ファスナーを下げられる音がする、でも仰け反る俺の視界では判らない。
「口直しさせてくれよ…矢代」
俺の所為、とでもいわんばかりの口調で、俺のそれが喰われた。
「ひいいいっ」
脚の指先まで、ピンと張り詰める。
これで動けないという言い訳は、もう出来なくなった。
いや、ライドウの事だ…そんなのはお見通しだったのか?
脚を肩に担がれ、中心を舐る俺の主人。
そんな倒錯的な光景が、酷い臭気の中で繰り広げられる、これが現実。
勝手に出る嬌声が、神経を侵蝕していく。
「あっ、あぁっんッ、あっ、嫌だ!汚い!汚いいぃっ!!」
昇り詰めるいけない感覚に支配される、こんな俺は…汚い。
(潔癖を謳う癖に…酷く、汚いんだ、俺は…俺は…!!)
もう、その嫌悪に泣きそうになり、腕で眼元を覆った。
俺の先端まで吸い上げたライドウが、口を離す感触。
脚を掴む指が、強く喰いこんだ。

「こんなにぐちゃぐちゃにされても、凄く綺麗だよ…君は」

自身の腕の陰で、眼を見開いた。
同時に、先端を接吻の様にかじられた。
いけない、そんな熱、汚い、汚いのに…
綺麗な筈、無いのに。
「や、め、出る、うぅううッ…ぁぁあああああ!!!!」
ビクンビクンと痙攣する身体、放つそれを飲むライドウ。
じゅ…と、最後まで搾り取られて、俺の魔力は枯渇した。
脚を肩から下ろされ、ライドウが耳の傍まで唇を寄せてきたのだろう
近い囁きに、そう認識する。
「これからもそのままでいておくれよ?僕の潔癖悪魔」
クスクスと、耳障りな声。
腕を退かした俺は、その綺麗な相貌に向かって唾を吐いた。
丁度ライドウの眉間に付着した唾液は、流れて唇に落ちていく。
それを舌で舐め取って、ニタリと哂うこの男…
別に、あんたの為に…潔癖なんじゃ…ない…

「フフ、人間と同じでしょっぱい」

腕を除けた下、俺の涙に濡れた金眼を舐めたライドウが呟いた。
そうだよ、あんたの云う通り…
俺は潔癖で、半分しか人間じゃないんだ。
そう…

潔癖を赦してくれて…半分を人間と認めてくれる…
そんなあんたが、やっぱり嫌いだ。


僕の悪魔は潔癖症・了
* あとがき*

SS「Good luck」の一応続きなのですが…これは一体…
予想以上に変態な内容になってしまいました。
とりあえず、ライドウはドSの自覚無いのがおかしいです。
ライドウのマーラ、書いてて愉しかったです。
ドMはライドウと組ますと最高のコンビですね。
って人修羅…良いのか、最後あまりにほだされている気が…あ〜依存依存…
ライドウも、人修羅の召喚した人選に妬いてますね、明らかに…
もう駄目だこのサイトの人修羅とライドウ。
ムスペルのマガタマはもう呑みたくないだろうと思います。