* あとがき*
-サイエンスフィクション-…SFもどき。人体の中を小さくなって冒険する類の児童向け番組を思い出す。
神の胎内のイメージが、宇宙のひとつひとつの世界にあるので。悪魔蔓延る異界とも、また少し違う。
細胞ひとつの死を己が感じる事も無く、そうして躯が保たれている事が、この世と通ずるものがある。冒頭の文は、ライプニッツの形而上学説「モナド論」から(モナドと云うと、ゼノブレイドを思い出す。ゼノギアスのゾハルシステムも、此処ら辺りな気がした)
タチバナとの馴れ合いを丁寧に綴る程、呆気なく死に絶えた際の焦燥感やライドウへの鬱屈とした感覚が強くなるのだろうけれど、これ以上長くするのもどうかと感じ。SSとは名ばかりで、コンパクトに纏めるのが大変に苦手である。(タチバナの細胞としての役割については、割愛してしまった)
ライドウは、どの道死ぬ細胞のひとつを助ける事よりも、有効活用かつタチバナにとっても死の意味を捉える機会を与えた=単なるアポトーシスから個への昇華をさせてやった、とも思っていそう。そのくらいの気概で居なければライドウとして立ち回れ無さそう。
人修羅は多分、自殺を止めてまで馴れ合ってたライドウに苛々してた。タチバナに同情はするが、絶対心の何処かでライドウの行動に理由が合った事に安堵している。しかし無情にも見えるライドウの振る舞いにも、妙な苦しさを感じている。名を呼ばれる際の魂の疼きを知っているから、今回はやや傷心している。最近の彼は、少々行動がガサツである、ゴウトの云う通り主人に似てきたのかも。
胎から橘の花が溢れるシーンが、個人的にはお気に入り。
《応声虫》
人間の腹の中に棲みつくとしばらく高熱が続いた後、腹の表面に口の形をした腫れ物が出来、人の口真似をしたり、食べ物を要求して宿主を困らせる。このため応声虫という名がついた。虫の嫌がる薬を飲ませると肛門から出てきたという。(「神魔精妖名辞典」様より)
人面瘡だとかオッカルトな雰囲気もあり、回虫という説は非西洋科学でもある感じ。このどっちつかず感が扱い易かった。作中でライドウが発した「胎の蟲が〜」は、勿論この奇怪な蟲と掛けている。
《タチバナ(橘)》
ミカン科ミカン属の常緑小高木。常緑が「永遠」を喩える。酸味が強く生食用には向かないが、マーマレードなどの加工品にされることがある。
ナチュラルに千晶の名字と被ってしまった…それに気付いたのは執筆も終わる頃。「マーマレードボーイ」でマーマレードジャムの存在を知り、「デリシャス!」でスコーンの存在を知った、そういう世代です。
《弟橘媛(オトタチバナヒメ)》
ヤマトタケルノミコトの妻の一人。海神の怒りを鎮める為に入水した。日本で最も古い自殺に関する伝承…らしい。ので、今回はそれに掛けてキャラに命名。自殺の第一人者というタチバナヒメと、永遠の象徴を表す橘をひとつにした。
オトタチバナヒメというと、どうにも諸星大二郎著『暗黒神話』の彼女を連想してしまう。繭の様なタイムカプセルから出て、可憐な姿も呆気無くドロドロに溶解してしまうのだ。
《アポトーシス (apoptosis) 》
、多細胞生物の体を構成する細胞の死に方の一種で、個体をより良い状態に保つために積極的に引き起こされる、管理・調節された細胞の自殺すなわちプログラムされた細胞死(狭義にはその中の、カスパーゼに依存する型)のこと。(此処まで完全にwikiから)
毎日の、代謝だとか、成長に応じて細胞が自殺をする。(壊死とは違う、それが重要)“自殺という行為を人間が勝手に当てはめているだけ”といえばそうなってしまうのだが、自殺する細胞という響きがとても魅力的で記憶していた。
タイトルの「死因、apoptosis」は、本来死から遠ざけてくれるべきアポトーシスに殺されたという矛盾を孕んだ雰囲気を出したく名付けた。