夜の食国

 

「御節料理は真面目に作ると金かかるんだよ」
文句しながらに、人修羅が野菜を眺める。
「年に一度の奮発重箱なのに?」
「あんたはいっつも喰い過ぎなんだよ!何が奮発だ…舌ばっか肥えてるクセに」
竹細工の籠から零れる鹿の子柄の風呂敷を、指先ではらはらと広げる。
その慣れた手つきはまるで、柳の下で井戸端会議する婦人方の様だ。
「だからって功刀君、栄養の欠片も無い野菜を僕に喰わすのか君は」
「重箱ぎゅうぎゅうにしときゃ文句無いだろあんた?どれが御節の献立かなんて関係無いだろ」
「君と違って普通の肉体なのだ、動く為に消耗するからねぇ?養分をさぁ」
選別しているその華奢な指に、一瞬怒気が混じったのを確認して哂う。
「フフ、そう怒れるな、僕も手伝ってやろう」
並ぶ野菜籠の中から、てきぱきと秤に乗せる。
「ちょ……っと待て…不恰好なのは良いんだけどな、あんた…」
「何?」
「何か意図でもあるのか?似たような形ばっか狙って取ってないか」
此処で悪乗りしないのが人修羅らしい、というより、知らぬのだろうな。
「管の様に真っ直ぐな胡瓜ばかりでも不気味だろう?」
「俺の居た時代じゃそういうのばっかなんだよ、不気味で悪かったな」
「功刀君はそんなに気に喰わない?」
一呼吸置いて、八百屋の中で声高に問うてやる。

「フフ、右曲がりの胡瓜が」

すぐ外で開かれていた井戸端会議は一時中断。
八百屋のねじり鉢巻の親父も、秤の勘定をやり直し始め。
屋根上で寝ていたアルプがゴロゴロと、吊るされた玉葱に引っかかりつつ落下していった。
「…え、何、だよ」
妙な空気に訝しげな声を上げる人修羅。
無視して微笑を作り、購入を勝手に進める。
「いいや、何でも……親父さん、これ五本頼みますね」
「へ、へい」
どこかしどろもどろになっている店主の親父に、さらりと新聞紙に包んでもらう。
「凍り易いんでお気をつけて」
「はい、有難う御座います……それにしても」
受け取ったそれを人修羅の籠に入れつつ、冬でも薄着の親父に哂いかけた。
「立派な冬胡瓜ですねえ」
「へぇ、馬込半白節成胡瓜っす」
「ねえ、幹も雄雄しくて、良い程度のイボがこれまた、ねぇ?フフッ」
「へ、へぇ…あ、あはは」
「フフフ……美味しそうだ」
唱え、ぺろりと舌なめずりしてみせる。
ちらりと視界の隅に見える御婦人方が、僕を食い入る様に見つめてきている。
冬なのだから、頬の紅潮は温まって良いだろう?
眼の前の親父も、僕が続けて唇を吊り上げクスリと笑めば、まばたきを増やして茹で蛸になった。
「あ、すいません、小松菜とほうれん草も下さい」
「ぁあ!あ、あいよ!」
妙な空気に未だ馴染めない人修羅が、追加でどさりと秤を揺らす。
熱から途端醒めた親父が向き直って勘定を再開した。
ちら、とその様子を見れば、キッと振り返ってくる低い視線。
「これは今夜の飯の分だ」
「はいはい…で、その御代も僕かい?」
「鳴海さんに請求しようと思ったら、もう居なかった」
「花に水を遣り納めでないの?」
「…おい、金、さっさと出してくれって、ライドウ」
「花街に〜京舞を守りぃ“姫始ぇ”」
歌って財布を出す僕の声に、親父がぶっと噴出した。
そんなに違和感も無いだろう?“事始め”も“姫始め”も似たようなモノさ。
僕の改変歌にすらピンと来ない人修羅は、いつも通りのつまらなそうな表情。

冬空の下、帰路に就けば向かいから黒猫。
『どうやら今年の暮れは平和そうだな』
「そうですね、これもゴウト童子、つきましてはヤタガラスの働きあっての平穏に御座いましょう」
『…気持ち悪いわ、十四代目』
「おや、折角今年の納めに、御礼申し奉りまするのに…」
銀楼閣の手前まで来ると、階段の手摺に飛び乗ったゴウト。
はらりと雪が蹴落とされ、音も無く散る。
「どうか翌年も監視の程、宜しく頼みまする」
『フン、お主こそ、遊び過ぎて修羅に喰われぬようにしろよ』
「使役は問題無く…フフッ…喰うのは僕の専売特許に御座いますから」
『餓狐が…』
云い残し、そのまま雪の路を、可愛い畜生の足跡残し去って往く。
背後の人修羅が、溜息を吐き出した。

「未だにゴウトの前では強張るのだね」
厨房に向かって、刀の手入れをしつつ揶揄ってやった。
すると、人修羅は捲った腕を忙しなく動かしつつ、絞りだす。
「…同情めいてるけど、俺を悪魔として認識してるから」
「フ、そりゃあねぇ…あんな形でも機関の上だからね、立場は」
罪人ではあるのだが。
「ボルテクスから通して君を見ている、警戒したくもなるだろうさ」
油塗紙で刀身を磨けば、すらりと冷たく潤う得物。
「星も見えぬあの世界より、此処は居心地が良かろう?ねぇ人修羅?」
刃を傾け、君の後姿を、抜き身の沸の星空に反射させてみた。
一瞬悪魔になった君が映り込む。
「俺は間借りしてるだけだ、ルシファーとあんたをどうにかしたら、さっさと元に戻る」
「元に?」
「…東京受胎の、前に…」
「手が止まってるよ」
ハッとして、作業を再開する人修羅。
きゅう、きゅう、と音がする。
湿った、それでいて圧迫感のする摩擦音。
満足のいく出来に仕上がった刀を鞘に納め、立ち上がる。
「おい、卓上の物退かしておいてくれよライドウ」
その瞬間を見計らった様に声を掛けられた。
「僕を扱き使うのかい?偉くなったものだねぇ」
「喰いたいなら黙って退かせよ、鍋なんだから」
「それが鍋の具材?」
背後まで歩み寄れば、人修羅が指にするのは竹輪…と、胡瓜。
「これは明日の御節の…隙間埋めるブツ」
「ふむ、確かに安あがりだ」
「うっさいないちいち、節約って言葉知ってるか?」
まな板の隅を見れば、竹輪の穴を埋める山葵漬け、梅の練り物…
「その梅の…梅潰しただけなのかい」
「梅と白味噌と味醂と砂糖」
「ふぅん、なら良いかな」
「あんたさ、そんだけ煩いと結婚出来ないだろうな」
きゅうきゅう、と竹輪の穴に、切った胡瓜を詰めている。
きゅうきゅう、胡瓜が啼く。
「…」
「我侭で仕事もソレだし?いくら女性から寄って来てもな、ってそういや男も…」
「…」
「というかな、あんたの本性見たら、悪魔だって引くぞ…」
「……」
「おい、何か云ったらどうだライドウ…嫌味のひとつも無いとか、正直気味悪――」
ようやく僕の視線の先に気付いたのか?僕はニタリと哂ってただ見つめた。
胡瓜の短冊切りが、穴を押し広げている音が、止んだ。
みちり、と、短冊の角が竹輪の内腔を少しだけ裂いた。
「手が止まっているよ?」
促せば、頬を染めて眉を吊り上げた君。斑紋すら迸りそうな憤怒。
「好色…っ」
怒りで無理矢理詰め込まれた竹輪が、窮屈な悲鳴を上げた。
「あ!っ」
「ほら、性急にするから、裂けた」
「っ〜〜〜…!」
震える君をせせら哂い、ぐつぐつと煮えた鍋を掴んで卓に運ぶ。
僕の両手を見て、人修羅は更に怒る。
「油塗紙で鍋を持つな!不衛生だっ」
「中に入れる訳でもあるまい、何、これに染みているのだって油だろう?」

鍋の上、揺らぐ蒸気に遊ぶ箸。
ヨシツネから徴集したやみなでを御供に、ひとつ哂う。
「僕はね、以前も云った通り、結婚は考えてないよ」
「…鳴海さんはどうなんだろうか」
「どうだろうね、この仕事に伴侶を巻き込みたくないのでは?」
経木から豚肉をぺらん、と剥がす君が、それを煮え湯に放る。
「この時代は食材を包む物に無駄が無くて良いな、経木の薫りも肉に優しいし…」
調理の際だけは饒舌な奴め。
鮮やかな小松菜とほうれん草の緑帯に、肉が絡まりぐつぐつ踊る。
「出汁…生姜を使ってる?」
「ああ」
「このポン酢、柑橘類いくつか混ぜたのかい?」
「柚子、酢橘、檸檬」
潜らせた肉を掬って食めば、微妙な顔つきの人修羅が溜息した。
「あんたってさ…煩いけど、分かってくれるよな…何入れてるか、とか」
「毒の種類も判別可能さ、どう?舌肥えてるだろう?ククッ…カラス直伝さ」
知っている、僕がこの手の話をする時…
君が憐れみの様な、怒りの様な、どうして良いのか解らぬといった表情をする事。
「不安なら毒見、悪魔にさせたらどうだ」
「君が料理を殺しの手段に使うとは思わぬからねぇ」
酒を煽って答えれば、向かいで箸が一瞬止まる。
「当然だろ」
どこか満足そうな、しかし憮然とした声。
「君が殺しをするのは、悪魔相手に悪魔の力で」
「決まってるだろ、綺麗な手で料理して、汚い手で汚いのを処理するだけだ」
「悪魔は汚い?」
「好きになれない」
「おやおや…だから自己嫌悪が酷いのかい?」
伸ばした箸が、がちりと何かに捕えられる。
「行儀悪いね、骨でも渡し合うかい?」
「あんたこそが、半分悪魔なんじゃないのか?…自己嫌悪、してみやがれ…っ」
箸と箸の鍔迫り合い。
「僕もマガタマ呑んでみる?ククッ」
「そういう、冗談、本気でムカツクんだ、よっ」
指先に力が露出して、君の箸は見事に折れた。
黒い斑紋にギクリとするや否や、更に得物は折れるわで、君は眉根を顰めて舌打ちする。
「鳴海さん居てくれたら、あんたももう少し大人しいのに…くそっ」
「鍋は大勢が良い?なんなら仲魔でも召喚してあげようか?」
「違う!」
墨色の着物を捲り、煮え立つ鍋を取り仕切る君は…
何処をどう見たって、混沌の悪魔では無い。

こんな少年を従えて、どうしてか年さえ越えて。
毒も気にせず食んで。
サマナーの立場を最大限に使って。
戦いの合間につまみ喰い。

「っぁ」
「馬込半白節成胡瓜と同じ位?それ以上?」
「っき、切り刻んで、やろうかっ…その下品な胡瓜…短冊状に……っぁあ、ッ」
ぎちり、と押し込めば、きゅうきゅうと啼く下。
瑞々しい悲鳴。
「今、鳴海さんが帰ったら…フフ、ねえ?どう言い訳するのかな?功刀君?」
手入れしたばかりの刀を、作業の為に包丁を研ぐ君の後ろから…
真一文字に喉笛へとあてがう姿勢。
「正月早々、血の掃除なぞ大変だろう?」
「っは…は、ぁ…事務所で、とか、この、確信犯があ、っ」
ゆるゆると下ろした袴は、水と油の染みた台所床にくしゃりとうずくまっている。
僕は学生服の前を寛げるだけで、君の背後からただ詰めるだけ。
「漬物用に輪切りにするんだろう?ほら、早く続け給えよ」
震えるその手元を見下ろして、項からそっと覗き込む。
「それ、終えたら抜いてあげる」
囁けば、耳まで赤くした君が、ゆるゆると再開する。
さくり、と切れた胡瓜がころんと転がり、まな板に寝そべった。
「見事、八坂の神紋だねぇ…」
「ん、ぐぅ、っ」
胡瓜の輪切りを口にしないそうな、祇園信仰の祭の時期は。
奉る神の紋に似ているから。
「スサノオに喧嘩でも売ってみるかい…フフ…輪切りの神紋でも喰らって」
密着すれば、竹輪のソレより締まりの良い君。
泥抜きせずとも綺麗なソコは、どんな魚より潤っている。
逃げようとする身体の強張りを、構えた刀で抑圧す。
「そういえば、この磨いた刀…越中守正俊の作品に似せてあるそうでね」
「手元、見え、ない」
「八坂神社に奉納した太刀を作った刀工さ…意外な接点だね、面白い」
「面白くな…ぁん、っ」
神紋が、ころころころりと板を転がる。
身を捩った君が、胡瓜に最後の一太刀を入れた瞬間。
その包丁を持つ手が開き、喉に当てた刀身へと掴みかかってきた。
「焼きぃ……っ…入れ直してやろうか…っ…俺の焔、で」
じわりと、発された熱が一瞬で伝わり、僕は反射的にMAGを流して遮断した。
…が、持った柄がじり…と燻って既に煙を上げていた。熔かされる前に放させねば。
「自慢の名刀ならっ…なあ?…ライドウ…っ…は、はっ……はぁ、ぐゥ」
人修羅の指先は、黒い斑紋が光と共に奔っている。
「君の指を輪切りにしたら、何かの神紋に似ているのだろうかね?」
火傷にヒリつく指先で鞘に刀を納め、血の滲んだ君の指先を掴んで。
「先刻の鍋は…毎晩食べても飽きそうにないから常夜鍋と云うそうな…」
「抜け、よっ」
「確かに美味だったねぇ…しつこくなく、それでいて繊細な深さがあって?」
少し、腰を引けば、吸い付いてくる様な、きゅうきゅうと、ね。
「君の薬味はマガタマかな?」
ぎちり、ぐちりと抽挿するが、別に僕のはあんな歪ではない。
管ほど真っ直ぐ否かは、秘密だが。
「味が変わって、愉しめるねえ、色んな君を」
「いい加減…っ…燃す、ぞ、あんた、っ」
「どの管属にも該当するから困らない……多種多様な味は百果蜜みたいだね、癖が酷いが…」
ギリリ、と爪を立ててくる君の指先で、僕の指先の水脹れが破水する。
湿った指先で君と遊んで、哂いながら品評してあげる。
「だから美味しい」
「は、ぶぅっ、ん」
唇からダシを吸って、腰に具詰めて、指先に絡めて。
ねえ、使役も料理も同じだろう。
沁みこませ、挿入して、汁を絡めて…
ん?何かずれたかな?いや、大差ないか。
「悪魔という素材を吟味、調理するのがサマナーさ」
離した唇を伝う蜜は、大学芋のそれより長く尾をひいて。
「だから、君という素材を毎晩調理するのが…僕」
「ばっ、かじゃないのか!あんたなぁっ、そもそもいつまで腰――ッ、ぁ」
よろりと腕をまな板の両側に着き、深く息を吐いた人修羅。
だって、僕が知らぬ筈無いだろう?何処を抉れば一気に種が取れるか、素材の知識を。
「あ、ああ、あっ、ま、て、此処、駄目、だぁぁ駄目っ、駄目ェ」
「吐き出す場所?フフ、ッ…流しの床にはっ、嫌、かい?」
質問と同時に抉り込めば、切羽詰った声音がきゅうきゅうと。
「嫌に決まって、んぁ――」
限界に仰け反った君の腰を、がしりと掴んで…僕が楽な高さへと。
君が気にせず炊事出来る高さへと。台所の作業台に支えさせ、持ち上げた。
「ほらっ、知ってるかい?こうすると、ねぇ!角度が、フフッ」
「あーッあ、あぁあぁッだぁああァぉぉお奥っ」
きゅうきゅう
「一番奥まで抉れるのだよっ」
きゅうきゅう
「君の嫌いなっ、汚らわしい種を取り除いてあげるのだからね!?」
ぎゅうぎゅう
「ほら、しっかり見ててあげるから、ククッ…今年の厄い種を吐き出し給えよ…」
「このっ、変態ッ変態いぃっぁぁああああ」
びゅくびゅく
君の中で、君の外で、種が散らばる。まな板の上にぱたぱたと降る。
「は、ぁ……っ…君は、出す時に締めるね、一番」
男女の様に何も結ばぬ、悪魔の様に融合せぬ。
無意味な調理に分離する味。
掴んだままだった腰をす、と下ろせば、君の爪先が接地した。
くたり、と弛緩しているその搾り取られたかの様な実を、まだ味わいたい。
「アマテラスも、スサノオも、喰らってやろう、か…」
不敵に云ったつもりだったが、思ったより僕も息が弾んでいた。
不埒な場所での行為に、やや倒錯を抱いて高揚していたのかもしれない。
君の神聖な作業場を侵し、君を犯すこの心踊る行為。
「どれか、と聞かれたならツクヨミが好きだからね」
君の種でしとどに濡れた、スサノオの神紋を、指先に摘む。
ぱり…と、子気味良い食感に続いて、青っぽい甘き魔力の味がした。
「悪…食……」
睨み上げてくる金色が、羞恥に燃え立っている。
その怒りと快楽に震える身体を寄せて、嘘は無いよと囁く。
「だって君、抜けと云ったろう?」
「は…」
「中で抜いてあげたではないか、クク」
「…!!」
見開かれた金色に燃される前に、ずちゅりと今度こそ引き抜いた。
一瞬ぽっかりと開いた闇は、すぐに形を潜める。傷跡を残さぬ君の身体らしい。
「ん…くっ……さ、詐欺、だ」
「今年のMAG納めだと思い、有難く呑み給えよ…身体の資本は飲食からだ」
君の漬物をぱりぱりと食みながら哂えば、混じる粘着質な咀嚼音に眉を顰める人修羅。
「そんな不味い献立、出せるかよ」
「そう?美味しいよ?この独特のコクがね…ックク」
「いっそ、スサノオに殺されろ…っ!」
「ではクシナダヒメでも召喚しておこうかな?いや、胡瓜の輪切りを食ませた方が滑稽か」
クク、と胎を押さえて哂えば、頬を紅潮させたままの君がまな板を傾ける。
そのまま流しにぼて、ぼてりと崩れ落ちた君の漬物。
残飯と同格の扱いを受ける憐れな献立に、ひと哂い。
「放っておけば滓(かす)漬けになったかな?」
云った途端、君の焔が一瞬たなびく。
「怒るでないよ、君はまったく…食む意味を理解出来ておらぬねぇ」
その腕の手首を捕え、上から見下ろす。
見えるのは、怯えと、怒りと、嫌悪と……悦楽。
冷めやらぬその頬が、手先の震えが、君にも疼きが有る事を教えてくれる。
抗えぬヒトと悪魔の肉欲が。
「良かったじゃないか、人間の三大欲の欠片でも残っていてね」
食欲の失せた君に、錯覚を与えてあげる、今宵も、翌年も。
その餓えが、君に生きている感覚をもたらして往くのなら。
人間に縋っているエゴイスティックな感情は、僕が置き換えて哂って見逃してあげよう。
「ね、来年も僕に食まれ給えよ」
残飯籠に指を突っ込み、野菜屑にまみれたそれ等をニタリとして、口に放った。
混沌とした味の中、舌を刺してくる甘いソレ。
「…っふ、不衛生…だ…」
「でも君のはすぐ判別出来る…どう?舌肥えてるだろう?ククッ」
ビクリと身動ぎした君の下肢から、ぐずりと僕の種が主張して、垂れた。
「泥の中に居たって、ねえ…舌で掬い上げてやれるよ?」
泥人形の山の中
「君はずっと、何度だって僕にしか味見されないのさ」
泣き濡れた血錆び塗れの背中
「泥の付着した歪な存在の君を、完全調理してあげる…」
他が推し量れなかったであろう程、君を強く美味しく。
堕天使も羨む極上の。
「それ、は、調理…?」
ふらりとしながら、落ちた袴を拾う君。
その指をなんとなく踏みにじりながら、鼻歌まじりに答えた。
「“調教”かもね」
「っ…んの野郎――」
侮蔑の言葉と同時に空いた腕の拳を振るった瞬間、顔を歪ませた君。
「っぐ…ゥ!!」
唇を噛み締め、うずくまる。
「ほら、性急にするから、裂けた」
いくら悪魔の身体とて、新しい傷が癒えぬ内に大きく動くべきでは無いね。
そう嘲笑して、潔癖な君の唇を、残飯塗れのこの僕の唇で奪ってやった。
カラスの意地汚い嘴で――…
相変わらずの美酒を啜る。
「ライド………は、ぁ、ぁぶ、っ」
突き放すのかと思っていたが、意外にも僕の唇を舐めていった。
ゆるゆると食事が終われば、挨拶も一言。
「き、汚い口で喰われるのは、嫌…だ…」
視線を落とし、吐き棄てる。
「他の味に、1%でも掻き消されるのが腹立たしい…っ」
真っ直ぐに僕を見つめる僕の獲物。

「俺は毒でも酒でも無いっ!契約者だ!喰らうならそのままで喰らえよっ!」

襟首を掴んで吼える僕の使役悪魔。
「余計な味で俺を汚してみろっ、ぶっ飛ばしてやる…そんな…料理人」
僕は、そんな君のギラつく眼に、また食欲が疼く。
嗚呼、やはり食べる事は、全ての根源。
「では、夜の食国に参ろうか?矢代」
崩れた着物をぐい、と乱暴に寄せ掴めば、金色が鋭く突き刺さる。
「…こ、此処で、っていうのが、嫌なだけで、って云うか俺は別に赦してなんか!」
「僕の政に文句でも?」
金色に、僕の暗い眼が映りこんだ。
MAGとマガツヒでしか混ざり合わぬ素材。
主従という関係でしか認め合えぬ生き物の肉。
どちらが調理しどちらが喰らっている?
最初に喰い終えるのはどちら?

「君は…悪魔でも人間でも無い…」
足蹴にして、寝台に引きずり込みながら。
煮え滾った欲の鍋にぶち込みながら…君の肉が美味しくなる呪文をかける。
「人修羅だ…功刀矢代だ……だから、喰らうのだよ…解る?」
「…黙れ…よ」
今度はきゅうきゅう、と啼かずに、すんなりと迎え入れられた。
すべて埋めた時の狂おしげな君の吐息に、もうひと匙。
「ほら、君は何が食べたい?注文しなくては出せぬよ」
脅迫めいた伺いと共に、ずるりと腰を引き抜けば…
シーツのまな板で僕に裁かれる、欲塗れの君が啼く。
「もう、いらな、ぃ」
「鳴海さんが帰らなかったなら、このまま君を啜っていようか」
「んな、の、ただの…せ、性行為」
「お施痴料理かな」
背後から、絶対的な支配の位置から…羽交い絞め、胸の芽を摘む。
「芽を摘まねば、毒が有ってはならぬだろう?」
爪先でかりりと引っ掻けば、背中が海老に反る。
「んッ…は」
「長寿祈願に海老も入るか、律儀だねぇ…君は不老…ひいては不死に等しいのに」
袴に絡んでいた角帯を、襷がけの様に潜らせ、締め上げる。
乾瓢で巻かれる君を連想しつつ、関節も気にせずひねり上げ結ぶ。
流石に四肢の自由が奪われるは不味いと思ったか、首が振り返り牽制する。
「昆布巻き、まあ具が貧相な…クク」
「俺はっ、MAGさえ貰ったらそれで済ませた――」
ギリリと帯の先を引けば、君の台詞が途切れた。
「悪いね、首にもさり気無くひと巻き通したから、昆布だよ昆布」
「はぁ、ぐぅっ」
「鼓舞巻きじゃあなくてだね、功刀君」
「げふっ、ぐ、はぁ、はぁ」
「蓮根は、アマラの覗き穴で散々見てるから要らぬだろう?」
献立を確認しつつ、君の臀部を引っ叩いた。
「ひぎっ」
「だからさぁ…何が欲しいか注文しろと云っているではないか」
引き攣った肩を押し転がし、仰向けにしてやる。
先端だけで引っかかっていた僕のがくちゅりと抜けた。
小さく呻いた君が、ぎゅう、と瞑っていた瞼をキッと押し上げる。
途端、鋭い金が露になる。暗い僕の調理場、僕を見るまな板の鯉の眼。
角をシーツに埋める事を嫌がって、首を傾げたその姿。
「注文だよ、注文…喧嘩売ってるのかい人修羅」
「ぐ、ぁっ、い…」
「折角今年の働きを思い労ってやろうと聞いてるのに、ねぇ…?」
「い、きが」
くいくい、と帯を引けば、酸素を求めて喘ぐ唇。
ぱくぱくと必死な様が、不適合な世界に放られた魚みたいで。
「人修羅なのに、酸素は要るのか」
シーツを掻き毟るその指先、斑紋がじっとりと焦りの色に。
「汚い世界の空気は不味かろう?それでも吸っていたいのかい?」
MAGさえあれば呼吸出来るだろう?人間を棄てきれぬ君の自業自得だ。
「新しい年を迎えたいの?死んでみたくはないの?」
眉を顰める君。矛盾の塊。
「生きたいの?達きたいの?ほら、云って御覧よ」
と、此処でふと思いつく。
汚らしい老烏達に昔遣られた遊戯を、君にもしてやろうか。
鬱屈とした欲望が、胸中にふつりと湧く…
君を横目に哂いながら、寝台横の引き出しを開け放つ。
鈍く光る小型銃が顔を見せたが、その奥の方に追いやられている包みを指先に掴み寄せた。
「悪鬼羅刹を屠りし秘薬…フフ…君にはどう出るかな?」
薬包紙のひとつを金色の双眸に映し込ませる。
「な、んだ、ソレ…」
「屠蘇散だ……キキョウ・ボウフウ・サンショウ・ニッケイ・ビャクジュツ…」
「か、漢方…か?」
「…トリカブト」
最後を云った途端、くわりとその眼が見開かれた。
「それ…有毒だろ」
「強心作用、鎮痛作用がある、割と判り易い味だ」
「んな事、聞いてない…!」
「初めて口にした日は、吐き戻してしまってねぇ…舌の先が痺れて、呼吸が喉を」
「煩い…!」
ほら、やはり。嫌がっている。
僕の生き方を非難する、糾弾する。
「毒は、食い物じゃ、ない…味なんて、知る必要無い、だろうが」
のに…君は汚い烏にどうして眼を注ぐのだ、この手を取ったのだ。
「フフ、しかしコレはしっかりとした御屠蘇の素さ…毒がやや強いが、ね」
「ヤタガラスお手製か、汚い…毒喰ってんのか、あの衆」
「毒が強いのは、僕に合わせて調合されてるからさ」
引き攣る頬、嫌悪に滲む…苦しそうな顔は、呼吸困難の所為?
「少し早いが、新たな年を迎える為に、準備してあげよう」
すらりと脚を組み、寛げたスラックスを蹴り脱いだ。
爪先に引っかかるそれを完全に掃い、寝台の下に棄てる。
「ねえ、君は独りで往くのかい?そんな勇気あるの?」
哂いながら、引き寄せれば、呻いて僕の胸になだれ込む君。
「噛み給え」
差し出す手首に戸惑った表情を見せた人修羅。
「どうした?怖い?」
鼻で哂ってやれば、ひくりと眼下が歪んで、僕の手首に噛みついた。
がりり、と血管の千切れる音がする。
ずきり、と管無く契れる君が与える。
どくり、と下らない僕の生命維持の液体が、腕を伝う…
それを組んだ下肢に垂らし、ぽた、ぽたぽたと雨粒の様に。
みるみる内に器となった其処に、溜まってゆく。
「本当は清酒に溶かすのだがね…」
唇を僕の血で濡らした人修羅が、呆然とそれを見る。
上気した肌が艶かしい、きっと、血の気に中てられ始めている。
「ほら、御屠蘇」
僕の股座の三角州に、赤い沼。
さらさらと薬包紙から零した粉が、どろりと溶け込んだ毒の沼。
水面から顔を出した御木に眼が行ったのか、君は耳まで赤くなった。
本当に、馬鹿らしい程、未だに初心。僕とてこれが急所なのに。
「…っう、うう、っ…はぁっ…はぁっ…おかしい、あん…た」
「フフ…結構な失血に見えるが、問題は無い…MAGで薄まっているから」
「そのまま、失神でもしてくれ…っ」
「残念だったね功刀君、僕はこの程度では貧血すら起こさぬよ」
純正のMAGが薫る、しかし君にとっては毒となる粉が溶け込む。
「どちらの君をも苛むだろうねえ」
「血の、臭い……さい、あく」
「人間では毒草に苛まれ、悪魔では退魔に苛まれ」
「下種な…趣向、だ」
「契約の杯としようか?ククッ」
首の帯は決して引かず、君に命ずる。
しんと冷える部屋に、たった二人だけで行う新年の支度。
「僕と同じ毒を喰らい給えよ」
眼を伏せる君。
「これが君の望んでいた注文だろう?」
視線の先には赤い酒。
「それとも…毒が入ってるから無理?」
瞬間、僕の唇が吊り上がる、君の眼が吊り上がる。
がっつく、犬みたく、屈み込んで這いつくばって。
人修羅が僕の股座に顔を埋めて。眉を顰めつつ、鼻先まで血に濡らして。
「ハァ…ハァッ……ン……フ」
じゅ じゅうっ ずちゅう
赤い沼が消えゆく。君の小さな口に呑まれ。
湿った海草がその唇に張り付いたのに眉を顰め、思わず傍の幹に擦りつけ取り払っている。
無意識の淫靡な動作に失笑してしまった。
「んくっ……ぁ、ぁふ」
呑み干し、その強い度数にふらりと面を上げ…僕を力無く睨む。
赤く濡れた唇を舌で拭って、ぼそりと零した。
「あんたの、血の方が、毒、だ」
「不味かったかい?」
上から見下ろしつつ問えば、君は酷く不満そうに、嫌悪の顔で…
「……もう、最近…食物の味が、薄いんだよ…」
口の端にこびりついたまま、吐き出す。
「あんたの血の味……MAGの味しか…っ……鮮明に知覚出来ない…」
その泣きそうな声と顔に、酷く…感じた。
「ふむ宜しい、僕の悪魔として立派に堕落してくれてるね」
「どうしてくれんだ…この……鬼畜」
「毒を喰らわば皿まで、だろう?」
君の斑紋の輝きだけがこの狭い世界を照らしていた。
帯を解いて、戒めを無くした放し飼いの君に声かける。
「皿に自ら飛び込む贄は誰かな?」
「違う」
「喰らってみ給えよ、喰われるその前にさぁ…」
「好きでこんな事…っ」
僕は脚を解き、後ろへと倒れ込む。
己の背をシーツに寝かせて、君を仰ぎ見れば
予定調和みたく飛び掛ってきた君が僕に跨り、わなわなと震える。
今にも殴りそうな衝動を堪えているのか。
その揺れる天秤に、吐息で揺らしてやる。あの瞬間と同じ声で。

「おいで、矢代」

揺れる、揺れる、君の中で背徳が。
戸惑いながら滑り込む、赤く滑る僕が君に呑まれる。
きゅうきゅうと締め付ける、僕に跨りながら。
「味のしない世界なんて、まるで悪魔じゃないか、俺」
浅く囁いて、怒った様に続ける人修羅。
「だからっ、味のする方に流れるのは、食べたいのは、仕方無い…不可抗力なん…あっ、ぁあ」
ぐずりと蕩ける其処、下から少し抉ってやれば歪むその眼。
「僕はMAGを湛えた匙を差し出すだけ……さぁ、ほら、赤子でもなかろう?」
人修羅としては赤子の君、僕の肉しか知らぬ君。
知っている、赤子同然なのだと……だから愉しいのだ、僕が。
赤子の君は、僕に縋るしか無かったのだろう?
「後ろで味が分かるのか、随分と淫靡な口だ」
「ぁ…はぁっ…はぁ、あ、あんたが、この口しか赦さなかったくせ、に」
揺れる、揺れる、君の中で僕が。
僕は何も動いてないのを、君は解っている?またもや無意識?
「あ、ああ、っく、くそっ、ふざけてる、嫌だ!汚いっ!あんたの、あんたの所為だっ全部!」
揺れる金色の月が、細くたなびいて潤むのを…ただ息を呑んで見つめた。
滑稽な契約者よ、毒がまわってきたのかい?
稚拙な腰つきがあまりに倒錯していて、そこだけは素直な動きで。
君が卑しき者を抹殺する時の、冷たい業火の影は無い。
「違っ…ひ、あぁっあ、っんん〜ん!!!!」
ぐちり、適当な動きでもってひくひくと達する君。
焦点は彷徨い、爪先は痙攣して、だらしなく唇から零れる雫。
これが混沌の悪魔なのか?本当…可笑しいったらない。
既に先刻ので薄まったのか、その下肢からは透明な樹液がたらたらと。
上り詰めた挙句、ソレよりも羞恥の方が頭をもたげたらしい君。
「ぁ……はぁっ…はっ………な、ん、だ…見る、な、ジロジロと…」
頬の赤は消えぬままに僕を侮蔑する、そんな痴態でよくもまあ。
「足りてるのかい?頭」
「あ、のなぁあんた!」
「…と、MAG」
「え…」
「おかわりは?僕まだ注いでやれるのだけど?」
だから滲ませただけ、たったひと匙分を与えただけ。
上の口で充たしたら、今度は下からも充たしたいだろう?
君の悪魔に訴え掛ける、魔的な誘い。
「無防備な僕を、絞めるも啜るも、御自由に?」
どちらを選ぶが利口かは、誰だって解る。
それなのに、君は本当に浅はかだ。
「ぁ…ぁあっ、だか、ら、違う、違うんだこん、な」
「何が違う?」
人間として味覚を感知したいと云いつつ、君は何を啜っている?
悪魔召喚師が、悪魔に与える餌だぞ?君の織り成す人間の料理ですら無い。
ただ、その一瞬の人間の感覚を得る為に、悪魔として毒を喰らうのか。
「フフ…流石にもう辛い?乗馬なぞ未経験だろうから、ねぇ」
ニタリと微笑んで、ゆっくり揺れ始めた金色を射抜く。
「料理の感想というものを、作り手は聞きたがるものではないのかい?」
いよいよふるふると痙攣する身体が倒れ込み、僕の耳元に癖の強い黒髪がくすぐった。
君の水飴みたいな、汗なのか不可思議なそれがしっとり薫る。
「ぃ…しい」
鼓膜を蝕むかすれた声。

「美味しぃ……夜が…美味いんだ……どうして…どうして」

狂おしげに述べられたその品評に、思わず君の中で息づく。
呼吸に震える肩を押しやり、繋がったまま逆転させる。
角を打ち付けた君が小さく呻いても、そんな事は関係無い。
「い、苦し、ぃいッ…は、あ、や、め、やめろっ」
返事せず、両肩に君の細い脚を乗せ、折り曲げれば深く沈む。
答えている暇があったら、少しでも多く今は傷付けてやりたい気分だった。
「は――っ……胎、が、ぁぐ」
君のシーツを掻き毟るその両手首に、爪を立てる。
どちらの苦しみで、どちらかが紛れるのだろうか。
でも、赦さない、全てに僕を認識しなければ、気が済まない。
「関係ないっ、それMAGと関係ないだろ、っ、俺に恥残す為だ、んなっ、下種!糞野郎っ…ぁ、ふ」
不健康な色の肌、斑紋の隙間に咲かせる、早咲きの梅。
胸の蕾を舌で愛で、そこから昇って鎖骨の曲線を甘く噛む。
道中の黒い枝影に、絢爛豪華に乱れ咲き。
首筋に接近すれば、自然に君の身体を折る訳で。
薄いその筋肉も無さそうな腹に、ひくひくと泣いている君のソレが頭を擦っている。
「こん、な…契約…外…だ」
シーツから標的を僕の手の甲に変え、爪を立て返してくる。
血のにじむ指が絡まりあって解けない。
「気持ち悪…い…こんなの、も、こんな身体も」
解けない感覚は不快だと、その理念は一致しているのに。
喰らおうとすればする程、雁字搦めに動けなくなる。
深追いは危険だと、里で散々云われてきたろうに。
「胎、いっぱい、だ……も…ぅ…や」
啄ばんだ痕が赤く咲き乱れた肢体に、金色の蝶。
深川の花街よりも、煌びやか。
陰徳に溺死寸前の君も絢爛豪華。
殺意を持って舞う君も絢爛業火。
繋いだ指先に、赤い糸がするすると、緊縛するかの如く伝ってゆく。
君が噛んだ僕の手首から流れるそれ。自らを捕縛する赤に、また舌を伸ばす君。
毒が回ってきたろうか、酔いが回ってきたろうか。
契約の名の下に言い訳して、浅ましく舐め啜る人修羅。
見下ろす情景に大変満足な僕は、高揚したままに歌い上げた。

「花街みて…夜の金雀枝の前にたつ…」

金の眼が揺れて僕が受粉する。
金の芽が萌えて喰らい始める。
聖母すら敵に売った花に見え、やはり悪魔なのだと、滑稽に感ずる。
実を結ばぬ結合でも、重ねる度に確実に何かを孕んでいる…
喰らい喰らわれ躍動する世界、不純な感情が支配する世界。

夜の食国を其処に見た。


夜の食国・了
* あとがき*
2011年度賀正配布物でした、加筆修正は無し。
食後にエッチする話、身も蓋も無い。

【適当解説】

《馬込半白節成胡瓜》
きゅうり。大正9年頃『大農園』という採種組合が作り、品種の保存と均一化に努めた。
下半分が白い、皮は硬め。

《花街に京舞を守り事始め》
俳句データベース様より引用。
迎春の準備に入る節目の行事「事始め」と、云わずもがな「姫(秘め)始め」をかけました。

《沸の星》
「刃縁を離れて地中に施された玉状の焼刃が、玉あるいは日、月と呼ばれるのと同様に星と称されることがある。また、沸の粒子を夜空の星のきらめきと想定して表現することもある。」〜刀剣用語解説集より引用〜
抜き身の沸の星空に…という一文に、刃を見て星の無いボルテクスを想うライドウ…を書きたかった。

《常夜鍋》
豚肉、ホウレンソウ(または小松菜)を具の中心にした鍋料理。 毎晩食べても飽きない。ポン酢は柑橘類をブレンドすると深みがあって良いです。
鍋の出汁は生姜で、清酒をだばだば入れてどうぞ。

《八坂の神紋》
作中でライドウが云う通り、胡瓜の輪切りが神紋に見えるので…
紋の正式名称「五瓜に唐花」

《夜の食国》
月読命-ツクヨミ-が治めている国「ヨルノヲスクニ」
喰らうもののサイクル、それが流転する事象が政(まつりごと)では…
という解釈で、やたらと飲食めいた話に。

《滓漬け》
「粕漬け」が正しい表記。食材を酒粕またはみりん粕に漬ける手法。
ライドウの脳内変換では一瞬で“滓”にされた。白い残滓から連想。

《屠蘇散》
屠蘇(とそ)は、一年間の邪気を払い長寿祈願し正月に呑む薬酒。
数種の薬草を組み合わせた屠蘇散を日本酒に溶かして呑む。

《三角州》
河口付近で見られる地形の事ですが…此処ではライドウの股座。
其処に飲料(酒)を注ぎ呑む事を「わかめ酒」と云ふのであり…名前の由来は「陰毛がゆらゆら揺れてわかめのように見える」からだそうです、芸者の性戯のひとつ。

《花街みて夜の金雀枝の前にたつ》
俳句データベース様より引用。
金雀枝(エニシダ)は黄色い蝶の形の花弁。
軽く触れてやるだけで花弁が開き、雄しべが蜂に巻き付いて蜂を花粉まみれにする。
逃げるマリアがこの花の擦れる音で見つかりそうになった、らしい。