『来るのか?』
「来ますよ」

きっと、遠くない未来に
こうなる事を、場面を思い描いていた。

この、ボルテクスに来て…
悪魔に成った彼を見た時から、そんな…予感が。

メノラーが、揺らめく。
「ほら…」
『…』
「足音が、しますよ…」
破滅への。


第三カルパ



「きっと来ると思っていたよ…」
赤い鼓動の奥から、歩んでくる影が在る。
薄っすらと、光る身体を、ゆらり、ゆらりと揺らして。
その影が近付いてくれば、僕の身体に宿したメノラーが反応する。
マグネタイトを手元に集中させれば、それが形を作り上げて手の内に。
火の灯らぬ筈のそれは、強き魔力に呼応している。
「ねえ、君は此れが欲しい?」
それを、影へと傾けて問い掛ける。
ぼんやりと、光る双眸が僕を射抜く。
「…メノラーを、取り返して欲しいと、頼まれた…」
影がこの場において、初めて言葉を発する。
「誰に?」
「…此処の、多分偉い悪魔に」
「おや?君は悪魔が嫌いなのでは?」
「…でも、必要とされた」
明るみに出る、金色の瞳が…赤色を映し込む。
既に血塗れの彼が、哀しげに笑った。
「俺を必要としてくれたら、それで良いんだ…」

墜ち始めた、加速は止まらずに。
この少年の精神を蝕む、ボルテクス界の砂塵。
それから逃げるかの様に、この安らぎの檻に舞い降りる…

「だから、そのメノラー…寄越せよ、葛葉ライドウ」

その金色に宿るのは、今までとは明らかに違う狂気。
思わず、口の端が吊り上がってしまう。
「僕とて、依頼されたのだからね…そうそう簡単に渡す訳にはいかないね」
「寄越せ」
「嫌」
僕はそのメノラーを指先から解き、マグネタイトとして体内に戻した。
溶け込むそれを感じて、眼の前の彼に哂いかけた。
「奪って御覧?」
足下の黒猫を脚の横で押し退け、抜刀する。
同時に、彼の爪先が刃に絡みつく。
「その身体から、出せ…っ」
「嫌」
「でないと…っ」
空いた腕を振るい、僕の首を掴み上げ絞める。
「く、ふっ…ふふッ」
ニタリと哂いながら僕は柄を回転させる。
絡む彼の指を裂きつつ、首に伸びる腕を斬りつけた。
一瞬食い縛った彼が、腕を離して宙に翻る。
管に指を伸ばすと、彼が叫んだ。
「悪魔に頼ってるばかりじゃないかよ!」
その声に、ぴたりと指を止めた。
『ライドウ!』
背後からゴウトの声がした、焦りと叱咤を含むそれ。
しかし僕が疼くのは、戦いの高揚の所為?
「なら、君こそ召喚する事なく戦ってみせたまえ…!」
分かっている、これが愉しい展開だという事くらい。
「俺は…っ、悪魔が嫌いなんだよっッ!!」
脚を振りぬき、光の刃が降り注ぐ。
裂ける外套の焼ける音を聞きながら、肌が開かれる感触を味わいながら
僕は彼へと銃を向ける。
「なのに従う?」
その光る身体を狙い、発砲を続ける。
硝煙の匂いと血の匂いが芳しい。
「っぐ…!」
びちゃびちゃと、自らの血を踏みながら着地する彼に、僕は迫る。
「っこの野郎!」
「!」 思ったよりも早い立て直しに、少し油断の在ったらしい僕。
彼の拳が、構えを取った刃を掻い潜り肩口に入る。
その瞬間、赤色ばかりの景色が流れていき、止まる。
『おいっ』
視界が暗い。
どうやら、壁に強かに打ちつけられた様だ。
ゴウトの声が、すぐ傍でした。
「ふ…案外痛くない」
姿勢を低くしたまま、すぐさま起き上がり柄を握り直す。
その僕の姿を見る彼は、やや驚愕していた。
「な、んで…」
それなりに、殴ったつもりなのだろう。
なのに、復帰する僕が異様、とでも云いたげな視線。
「葛葉の霊力を以ってすれば…そうそう簡単にはくたばらぬからね」
云いながら僕は落ちた学帽に手を伸ばす。
が、それは僕の指に触れずにその場から消えた。
この瞬間、それが取れる者なぞ…限られている。
見上げれば、僕の学帽を指先で弄ぶ彼が、赤い闇に佇み…云った。

「俺、人間を殺すのだけは…無理なんだ」

その指が止まり、口元がしなる。

「でも、簡単に死なないなら…大丈夫って事、だよな?葛葉ライドウ?」

その台詞に、身震いした。
恐怖?いいや、そんな物では無い。
歓喜に。

「ああ、大丈夫だよ」

笑顔で僕は、銃を構える。
その、学帽を弄ぶ指を狙って、引き金を引き続けた。
「ひっ、ぐ、うぅっ」
宙で躍る指が、僕の学帽を手放す。
「だから、君ともっともっと、遊び続ける事が出来るよ」
その帽子を取り返しに、今度は僕が駆ける。
彼の血で赤く輝く学帽を、指先で確認… 掌を胸に抱き、君は呻いた。
その怯んだ瞬間に、彼の頤に指を添えて上向かす。
「人修羅…」
「!離せ…」
血が滴る腕は飛ばぬと思った通り、脚が振られる。
それを足首の関節に喰い込ませ、緩衝させる。
勿論痛みが無い訳では無い。

「君を必要とするのが、僕では駄目?」

そう云えば、君の眼が揺らぐ。
少し見開かれたそれが、僕を映す。
が、次の瞬間には血塗れの両腕で、僕を突き飛ばした。
「誰が信用出来るかっ…」
「おや、あの老人は信用に値する?」
「あの人達は強制してこない!」
「何故メノラー回収を僕にも依頼している?」
僕の投げかけた疑問符に、腕を交差させた彼が止まる。
「…」
「踊らされている事くらい、もう分かってるんじゃないのかい?」
「…だ、ったら…なんだよ」
動き出し、指先に焔が纏われる。
それが燃え上がるにつれ、床を叩く血が勢いを増す。
「俺は“人修羅”なんだろ!?創世を求められるさあっ!」
放たれた言葉と焔に、刀で切り裂き応える。
「ねえ、人修羅の意味、分かっている?」
未だ燻る彼の両腕を、刀を手放して掴みあげた。
からりと鳴り、床に落ちた刀に気を取られた彼を、そのまま押し倒した。
「ぐ…っ、退けっ!」
「人間と悪魔の狭間に揺れる…真に新しい化け物の事を云うのだ…」
「化け物、だと…」
「その力を引き出させる為の舞台が、メノラーを執る魔人達…」
「で、も…それなら無理矢理俺を引き込めば済むんじゃないのか!?」
「君の意志で、その力は真価を発揮するのだよ…功刀君」
触れ合う程に、その眼に眼を近づけた。
引き攣らせ、睨みつけてくる君。
「魔界の王に成るまで、君は何度も何度でも、この世界を巡るのだよ」
「あんた…も、同じ事云うのかよ」
震える腕が燃え上がる。
僕の掴む掌を焦がすそれ。
でも、離す事はせずに続ける。
「誰に?」
「ダンテも、俺が何度も巡っているって…!!」
苦悩が過ぎる表情、彼が悲壮に涙するかの如く、焔が燃え上がる。
僕の学生服の袖口が、じり…と音をあげている。
「君はどう成りたいの?真の悪魔と成りたい?それとも半端なまま巡り続けたい?」
「燃やされたいのかあんた」
「それとも…僕の悪魔に、成る?」
「消し炭になるか?」
「答えるまで、掴んでいてあげるよ…離したりはしない」
そう云えば、羞恥か、一瞬赤くなる彼が指先を震えさせる。
「なら、お望み通りにしてやるよ!」
金色の眼が煌いて、僕の指先から、段々と焔を宿させていく。
マグネタイトを其処にあてがっても、流石に痛いくらいに焼ける。
「いい加減、離せばどうなんだよ…っ」
「何を恐れているの?」
「腕が焼け落ちるぞあんた」
「燃やす毎に、君の表情に影が射すのは何故?」
「知るか!おい…っ」
「孤独が恐い?」
「離せ、離せよ!!離して!離してくれえっ!!」
その燃える腕を滑らせて、彼の首に腕を回す。
びくりとした人修羅をそのまま抱きしめた。
「ふ、あっ…」
打ち震えて、鎮火する彼の耳元で囁く。
「君の孤独なら、理解してやれるよ…?」
燻る僕の腕が、彼の背を焦がす。
「ねえ、おいでよ…僕の下に」
久々に与えられたぬくもりに慄いているのか
人修羅は、戦いにのめされるよりも、明らかに動揺していた。
「や、やめ…」
「それとも、あの老人達の下に居た方が良いかな?」
「わあああっ!嫌だ!嫌だイヤだあああっ!!」
その、おかしい狂乱ぶりに少し違和感を感じる。
眼に、明らかな恐怖が混じっている。
抱擁に恐怖するなぞ、本来異様な事である。
初心でもこんな反応はしない。
「ふふ、そんなにイヤだった?」
少し離せば、冗談かと思ったが泣いていた。
震えて歯を鳴らすその姿に、なんとなく察しがついた。
「ああ…もしかして、こないだの?」
「っ…」
「ターミナルの男に、無理矢理抱かれた?」
「っ…ふ、ああ、あっ、あ…」
「ねえ、実際の所どうだったの?」
事実確認しながら、僕は何故だか興奮していた。
無理矢理、身体を懐柔したその男とは逆に
無理矢理、精神を懐柔する感覚に、盛っていた。
「人修羅だから、されそうになった?」
「嫌だぁっ!」
「でも相手が人間だから殺しきれない?」
「もうイヤだ!早く醒めて!醒めてくれよおおっ」
暴れて喚くその姿は、普段のどこか諦観に満ちた姿と重ならない。
「どうだった?マガツヒはどこから一番流れたの?やはり下の」
「されてないっ!俺はまだ汚れてないっ!!」
大きい声で否定する彼は、首を振り僕を涙眼で睨んだ。
「あ、そう…では何も無かった訳?」
「ない、無いよ!夢だあんなの!!な、無いから離せ!」
自身に云い聞かせるように叫ぶ彼を見て、半々かな、と思った。
でなければ、此処まで恐怖しない。
「まあ、実際身体を繋げれば力の交流は容易だし?純粋なまま流れるからね…」
そう自分で云いながら…とても面白い事を考えた。
「ねえ、君はそんなにメノラーが欲しいのなら、僕を殺せば良いと思っている?」
急な話の展開に、彼の身体が強張る。
「なん…だ」
「生憎、マグネタイトで溶かして身体に流しているからね…死と同時に消すよ、僕は」
特殊な方法だが、でなければ普段の持ち運びも不便だ。
しかし…それが好都合な事になった。
「そんなに欲しいならくれてやろうか?功刀君…」
見下ろす僕の哂いに、果たして肉欲が混じっていたのだろうか?
予感が既に在るのか、絶望に眼を見開く人修羅の表情が…ぞくりとさせる。

「メノラー、下から流してあげようか?」

ああ、その表情が…
たまらない。

もうこれは、人修羅だから、とかは関係無く…
所謂、興奮する場面、であった。
「ねえ、メノラーをあの老人達の元に戻してやりたいのだろう?」
「こ…殺してやる」
「そうしたら手に入らないよ?」
「…っ、う、ううっ、う」
もう心が擦り切れて、考えすらまとまらぬのか。
呼吸が乱れて、彼は項垂れた。
「どうなの?僕の性格…いい加減馬鹿な君でも分かってきた頃だろう?」
哂うなというのが無理だ。
もうこの少年からは、ヒトが奪われ、自由が奪われ、心は砕かれて飛散している。
その飛散した上で、素足で踏み入れてあげよう。
これ以上、奪うものなんて、これ位だろう?
「分かったのなら、脱ぎたまえ」
別に、此処で切れて暴れ出しても何もおかしくない。
僕は銃にいつでも手をかけれる様にしていたし
置いた刀も範囲に入れて考えていた。
「…」
見上げてくる眼が、暗い。
僕を、心の底から憎む…憎悪にまみれたその視線が…心地好い。
「クク…それとも、そういう雰囲気にしないと無理か?」
「なっ」
彼が肯定も否定もせぬ内に、彼の唇を吸った。
初めてでは無いのに、何故か初めての様な感覚。
この少年が下手過ぎるからか?
そんな馬鹿みたいな事を考えながら、舌を噛んでやる。
「んぅっ、ううううっ!!」
ふるふると、睫が震える。
もう、自身を供物とする位に…彼はすがっていた、この世界に。
あの老人達の正体なぞ、きっとどうでも良いのだろう。
唇を離して、哂いかける。
「今のではメノラー流れてないから、そのつもりで」
「…っ…はぁ…っ」
床に横たわり、視線を逸らして上気するその姿。
すでに受け入れる、支配される態勢だと気付いているのだろうか?
「ねえ、君はどうしてそこまで人間にこだわる?」
立ち上がった僕は、靴底で彼の頬を擦る。
「ぐっ、う…」
「そんなに人間というものは、良かった?素晴らしい日々だった?」
「…」
ただただ、睨みつけてくる。
その手が出そうなのを、必死に抑えているのだろう。
これはしっかりメノラーを明け渡さなければ、本当に殺されるな。
そう思い、何故か笑えた。
「僕はサマナーとしても思うが、悪魔もヒトも変わらぬよ」
そう云い、靴で彼の口元を塞いだ。
「舐めて」
「…」
「さあ」
床を掻き毟る勢いで、彼の指が爪を立てている。
その爪が剥がれんばかりに…
「っあ…ぁ…はふ…ぁ」
見られるのも、光景を見たくないもあってか
眼を閉じたまま人修羅は舌をやんわり差し出した。
そして、僕の靴を、舐める。
「ふ、ふふ…」
ああ、なんだこの感覚。
綺麗な女性が奉仕するより、強い悪魔を服従させるより。
そんなものより更に高みに在る快感が、身体を巡った。
この、己の可能性に気付かぬ化け物を…
潔癖な少年に、舌で靴を洗わせる。
そんなちぐはぐな、倒錯した状況が、僕を非現実へと誘う。
「まあまあ、かな…よく出来ました」
そう云って、その額を靴底でひと蹴りしてやれば
彼は眼を見開いて、歯を食い縛った。
「ふ、あはは…そう怒れるな…」
「下種…」
「知っているよ、高潔な人種でない事くらい」
「そうやって…悪魔なんか…とか、思っているんだろ」
「先刻云った通り、悪魔がヒトより下とは思わないが?」
その胎に脚を打ち下ろす。
「ひぐうぅっ!!」
「それとも、痛い方が好き?」
「げふっ」
「治癒が早いから、好都合だろうねぇ?どうなのだい?」
「がっ、があっ!!」
三度目位で、僕の脚を避けて転げる人修羅。
胎を抱えて、痙攣している。
流石に痛覚は変わらぬ所為か、眼を白黒させている。
「じゃあ本題に入る?君が脱がなければ始まらないけれどね」
そう云えば、彼がよろめきつつ、膝立ちになる。
まるで地を四つん這いで這うようなそれに、哂ってしまった。
「君が完き悪魔と成ったら、四足歩行になるのかな?」
「だ、まれよ…!」
「早く済ませたいなら、さっさと脱ぎな」
「…メノラー…俺に宿らなかったら…殺してやる」
「宿っても殺したいくせに」
「あんた、人間じゃ…無い」
「ふふ、どうも」
腕組みして、見下ろせば…
いよいよ観念したのか…人修羅がその着衣に指を掛ける。
しかし…そこから先に進まない。
震えるまま、床を見つめている。
それに酷く焦れて、僕は突っかかる。
「一人で着替えも出来ないのか?人修羅は」
「っ…無理…だ、俺が、自分でなんて、そんなふざけた真似」
その葛藤に苛まれる姿が愉しい。
「そんな無理なら、おねだりしてみなよ…」
「は…っ!?」
「妖精とか、小動物みたいな悪魔みたく…おねだりだよ、おねだり」
ただし、内容は低俗だが。
「僕に脱がせてって…ね」
クスクス、と自身の笑い声が鼓膜を揺らす。
きっと彼には、煩くさざめいて聴こえるのだろう。
「こ、ろしてやる…絶対、絶対!」
すっくと立ち上がり、僕を睨む金色が…歪む。
「頼む態度?」
銃を引き抜き、咄嗟に身構えた彼の脚を撃つ。
「ぐうっ!」
「ほら、もう一度」
「…ぉ…お願いだから」
もう一発脚に。
「あがぁっ!」
「適当過ぎ、もう少し歓ばせようとか、しない訳…?」
よろめく人修羅は、荒い呼吸を落ち着かせて
殺意の篭ったままの眼で…云う。
「お、願いします…脱がせて、下さい」
「…このままだと交渉決裂かな」
「な…っ」
「ほら、少しは身振りも入れてみなよ…本当に、弱いな…」
学帽に指をトントン、と当てて云ってやれば
顔を赤らめて震える彼、唇を噛み締めて僕に歩み寄る。
そのままアイアンクロウでも飛びそうだったが
違うものがきた。
「変わりに…俺のマガツヒ、吸って、下、さい」
震えて小さな声だったが、はっきりと聞こえた。
そして次の瞬間には、小さい口が合わせられた。
なるほど、しっかり代償は寄越すのか
まあ果たして等価なのか怪しかったが。
僕はその口を、遠慮なく蹂躙させてもらった。
腕を回して、項の突起を指で撫ぜれば、びくりと大きく身体をしならせた。
「はぁ…は」
舌で薄い唇を舐めあげて、その指は止めない。
「ひぃっ」
「悪魔にも性感帯が在るのだねぇ?」
「ちが…!」
「多分急所だね、此処…」
「ひぎゃあああっ!!」
思い切り爪を立てれば、悲鳴を撒き散らす。
思わず、だろうが…僕にもたれて息を荒げていた。
恨めしげに見上げてきた、その口の端には唾液が伝っている。
余程痛かったのか、まだ指先が痙攣して僕の肩にすがっている。
僕は、その突起にもう一度爪をやんわりと立てて微笑む。
「さあ、もう一度」
「ひっ…!」
「何をして欲しいのか云え」
「お、俺の服を…脱がして、は、裸にして下さい」
爪を立てる。
また怯える。
また云う。
パブロフのなんとやら。
「脱いだ後まで具体的に説明頂けないと、その依頼は受けれないね」
「はぁ…っ…ぅあ…っ」
もう突起で達したのでは無いかという位、彼はのたうって汗を流していた。
垂れる唾液すら拭えず、立てられる爪に怯えて…
すでにメノラーを、何の為に欲しているのかすら憶えていないのではないか…?
そう嘲笑して見下す。
「ねえ、功刀君…?君が僕にする依頼は?」
虚ろな眼をして、君が云う。
身体を淡く赤い光で湛えた君が云う。
潔癖な筈の、血塗れの君が云う。

「ライドウ…俺の穴に、メノラーを注いで下さい…」

「……」

「お…尻の穴、からっ!」

「く、くくくっ…あっははははっ!!!!」

傑作としか評価出来ない。
人修羅が、何をデビルサマナーに懇願しているのだ。
こんな狂った関係、お目にかかれぬだろう。
いっそ、自分で脱げば早かったものを。

「馬鹿だな、君は本当に…」

そのスラックスに指を掛ける。

「だから…もう何度もボルテクスを駆け巡る羽目になるのだよ」

被検体マウスの、回し車の如く…
延々と…永遠と…
丸い世界でずっと…

「僕が助けてあげようか?」

耳元で囁いて、それを引き摺り降ろす…


第三カルパ・了