〜復刻版〜功刀矢代


天使のモチーフが愛らしい、鏡台のチェストノブを引く。
アプリコットカラーのリップを納めて、戻す。
動物の天然毛を用いたブラシは、自然にツヤが出るからお気に入り。
ゆるりふわりと撫でつけ、真正面から鏡を見る。
乱れは無い、完璧だ。
食事を挟むから、フレグランスは控えよう。
CHANELのNo.5が定番だけど、好きで。金字塔はいつの時代もハズレが無い。
使用頻度順に陳列してある香水瓶を眺めて、少し物足りないけど席を立つ。
基本的に家人不在なので、施錠は癖になっている。
所謂鍵っ子というもので、とはいえ鍵の形はナンバーとしての記憶だけれど。


「あら、今回は遅れなかったのね」
街路樹の隙間に声を掛ければ、携帯から眼を離した彼がこっちを見た。
珍しい、授業でも無いのに眼鏡をしてる。
インディゴブルーのメタルフレーム。よくよくみれば判る程度の控えめな発色。
「遠くを見る必要でも有るのかしら?映画でもついでに観る?」
「観ない、用事済ませたら帰る」
「あら素っ気無い、別に私は誰と観たい、とか拘らないわよ」
「遠くを見る為に観たい映画を探すのがおかしい」
携帯を畳み、ヒップのポシェットに突っ込んでる。
イヤホンは繋いでなかったけど無音だったのを見ると、テトリス辺りかしら。
隣に並ぶと、相変わらずヒールの関係で私の視点が上になる。
学校の履物でも殆ど並んでいるのは、敢て云わないでおいてあげるけどね。
「でもアレね、しっかり来てくれて助かったわ」
「…どういう意味」
「最近あなた変だから、すっぽかすんじゃないかと思ってたわ」
正直に云えば、憤慨もせずに「そう」と反応した功刀。
この季節にはしっくりくるアースカラーのモッズコートを着てる。
でもこの人、年柄年中そういう色味だから、きっと季節柄なんて意識して無い。
その足のブーツだって、上と合ってるけど…きっと二輪と兼用のレザーブーツね。
「大正のカフェねえ…私あまり日本の昔には詳しくないから、最初困っちゃったわ」
「別に…出す物まで拘らなくても良いと思うけど」
「でしょう?だからあんまし拘らないで、普通にいくわよ」
ショウウィンドウは完全に冬物を並べている。マネキンが愉しそうにボアコートではしゃいで。
ガラスに映りこんだ自分の脚のシルエット、今日もバッチリ決まってて一安心。
すとんとしたムートンブーツも悪くないけど、やっぱり高いヒールのくびれが最高。


「云っておくけど、俺、今舌の調子悪いから」
向かいに着席した功刀が、いつも通りの抑揚も無く云った。
でも珍しい、そこに関して弱音を吐くのは初めて聞いたかもしれない。
「何、まだ風邪こじらせてるの?家に誰も居ない?おばさまは?」
「…出張してる」
「あらまあ、でも多忙なのは悪い事じゃないわ、恋しいだろうけど我慢して自分で粥でも作るのね」
「そこまで頼り切って無い!」
母親の話になると流石にムッとするのも相変わらずね。
だったら、どこに違和感が有るのかしら?私も新田君も、何か感じてるこの…
「お嬢様」
「ああ、有難うね、全部置いちゃって大丈夫だから」
「セッティングは…」
「気にしないで、試食なの。お茶も淹れなくて良い、水で結構よ」
ノーブルなエプロンスタイルの店員が、テーブルにてきぱきと置いてくケーキ。
癒着じゃないわよ?学園祭の場を使って、事前調査するだけなのだから。
学園祭で利益を上げたい訳じゃないんだから、本当よ。
「…多くないか」
「あらそう?まあ、微妙なのは切り捨てて良いつもりで作ったから」
ウチ系列の菓子店、この時期の新作はこの人に試させるのが一番確実。
功刀はそういう事には興味有るから、そこそこ喰い付きが良い。
選定させた菓子は万人向けにヒットする。何に関しても平均値、彼は。
一見妙な取り合わせでも、功刀が推した物は売れる。
本当、ウチの系列に就職したら楽なんじゃないの?とよく思う。
今までの恩もあるし、少しくらい口利きしてあげるのにね。
「うぅん……商品開発が良いかしら、それとも現場で生地こねてる方が好き?接客は…無いわね」
「え?」
「ああ、ごめんなさい、こっちの話よ」
フォークでケーキを分解する功刀をぼうっと見ながら、思わず零れてたみたい。
数名の店員がカウンターの向こうで妙な笑顔を浮かべている。何を勘違いしてるのかしら。
ほら、去年もこの用件で来たでしょ。知ってる社員は知らない人に教えてよ。
別にそういう関係じゃないのよ。
それどころか…
「橘さん」
呼ばれて思考停止させれば、功刀が六個全てを崩し終わっていた。
「この林檎以外、全部大丈夫」
「林檎の?これ結構私は好きなんだけど」
「シナモンと林檎であまりにもありきたりだと思う」
「あら、定番って金字塔として愛されるわよ?」
「…林檎なら、生の瑞々しいのを冬の終わりに使えばどう」
「ふーん…ま、私がとやかく云うより、あなたに任せるわ、ありがとね」
妙に林檎に突っかかるわね。嫌いだったかしら?そんな記憶は無いのだけれど。
「これで学園祭で出して、更に絞り込みかけて、トップだったのを店頭に置く…完璧ね」
「学校で市場調査…とか、せこい」
「なによ、文句ある?原価の更に半分で提供すんのよ?割れまくってるわよ?」
「最終収益に比べたらの話」
「ま、そこは眼を瞑って頂戴、しっかり私も当日は働きますので宜しく」
他の学年のテーマは戦国時代とバブル経済期。
最近しっとりと流行の大正が自分の学年にきてくれて、正直助かった。
「悪いけど、全部食べれない」
分解にしろ、綺麗にしてあるケーキ達の皿を少し端に除けた功刀。
それも珍しい。食が細いのは知ってるけど、このケーキも試食用のサイズよ?
「大丈夫?本当に具合悪かったなら悪かったわ」
こっちに置かれたフォークで、残りをつついた。
別に、人のお残しが食べれない程潔癖じゃないわ。食べ物に関してなら、功刀も同じ筈。
「ねえ、先生今度退院ですって」
「そうか」
「新田君に詳しい日時は教えない方が良いわね、勝手に暴走するから」
「俺は関わりたく無い」
「本当、祐子先生苦手なのね。あんな話し易い先生珍しいじゃない」
「それは橘さんの勝手な解釈だ」
「ま、それはそうかもね」
チョコのシフォンをつついてる最中も、功刀の視線はちらりと窓の外。
誰か捜してる?行き交う通行人の観察なんて、あなた趣味じゃないでしょうに。
薄い日光の反射で、眼鏡のレンズの向こうに消えて、やがて視線が読めなくなった。
「この林檎の、私だけレシピ聞いておこうかしら」
呟いて、その却下されたケーキにフォークを刺す。
…と、林檎以外に漂う香りに鼻腔がくすぐられる。
私は今回何も纏ってないのに、勿論此処の店員も、当然そんなの着けてない。
周囲の席は丁度空いてる、という事は…
「ねえ、あなた、香水とか…まさかね」
「え…」
「ミドル?もうラストノート?だとしたらエゴイストっぽい」
「…何の話?誰がエゴイストだって?」
「あなたから白檀っぽい香りするのよ、何、やっぱ憶えない訳?」
CHANELのEGOISTE、メンズ物で白檀を初めて取り入れた……だったかしらね。
「待ってる間、近くに着けてた人でも居た?電車とか、そういう事じゃないかしらね――」
「そんな奴知らない!」
突然大きな声を上げた功刀に、思わずフォークが止まった。
視線を彼に上げれば、やや紅潮した頬で…怒っている?どうしてよ。
「……いや、悪い…」
静まり返った店内にハッとしたのか、今度は突然謝罪してるし。
私が呆然としてると、肝心の当人は椅子に掛けたコートを掴んで、立ち上がった。
「気持ち悪い、外出てる」
「何、待ちなさいよ!ちょっと功刀君!」
水を一口急いで飲むと、出入口を必要最低限だけ開いて、足早に出て行った功刀。
「…もう!」
テーブルに視線を戻せば、紙ナプキンにつらつらとメモが残っていた。
このケーキには酸味が足りないだの、酒入れろだの、見目がシンプルというより味気無いだとか。
何、結局突き詰めれば文句多いじゃないの。
口に出さないのは、事勿れ主義の彼らしいと云えばらしいけど…
恐らくこれ等の要点は無視しても大丈夫、と踏んでいるのだと思う。
でも気になったのは、その箇条書きの文末。
“多分”
全てにこの単語が付いている。料理に対してはプライドの有るあの男が…
やっぱりおかしい。身体をどこか悪くしてるのかしら、風邪とかそういうのじゃなく。
味覚に影響が出る程?そういえば、保健室に逃げ込む率も最近高いわね。
「ごめんなさい、これ片付けて下さい」
ひとまず、きっちりと平らげてから、ケーキ皿の回収を店員に依頼した。
「お茶淹れますか?」
「頼んで良いかしら?ツケとか好きじゃないから、しっかり払わせて下さいな」
「あの、そのメモチーフに見せて良いでしょうか」
「どうぞ、参考にして下さい」
ナプキンのメモをひらりと渡し、オレンジペコを頼んだ。呑み易くて好き。
それにしても視線が刺さる。だから、喧嘩したんじゃないんだってば。
というより、そういう関係じゃないのよ。
(あのお見舞いの日からね)
功刀矢代の様子が、微妙におかしいのは。
あの黒服の、それこそ大正の書生みたいな人…彼とも妙な雰囲気だった。
新田にも云って無いのだけど、何処かで会った気がする…というのは、本当にドッペルゲンガーかもしれない。
だって、見たもの。待ってる間、窓ガラスの向こうで黒い外套…功刀は同行して居なかった。
つまり、あの黒服と別の黒服が、病院に既に居た、という事よ…
(しかし、こんな話したら私、あのオカルト雑誌笑えなくなっちゃうわ)
エンゼルプリントのティーカップに口付ければ、アプリコットのキスマークが写った。







「いらっしゃいませ〜」
「大正浪漫溢るる喫茶で休憩は如何でしょうかぁ」
海老茶の袴に編み上げブーツ。いつもの学生服から解放された女子達が、妙に張り切って給仕をしている。
この日の為に借りたとかいうアンティークの椅子が並ぶ教室は、確かに時代錯誤だ。
ガレ調のランプが教室の四方を囲む。少し薄暗いのは、眼には助かる。
「お前さ、最近ずっと眼鏡だよな、授業中以外も」
女子と適当に戯れていた新田が、裏で機械的に働く俺に問いかけてくる。
「悪いか?」
「善悪関係ねーだろって、いやさ、眼ぇ悪くなったのかとか」
「悪いどころか…」
人修羅になって、良くなった、嫌なくらいに。
「へ?」
「いや、それよりお前働けよ…注文表を優先順に並べるとか、その位出来るだろ」
「だって矢代さん!コスプレっすよぉ〜?こんな機会滅多に無いんだからさあ」
こいつ、絶対高尾先生が居ればすんなり動く癖に。役立たず。
「新、田、くぅ〜ん?」
と、袴で仁王立ちの橘が、新田の背後から妙な猫撫で声で呼び止める。
それに凍った新田が、振り返りもせずに頷いた。
「功刀君と交代なさい、功刀君はもう休憩で良いわよ、残り適当に休んで」
「ええ〜っ!橘女王!俺まだ全棟回ってないし!給仕さんとの戯れが足りないんですけど!」
「知らないわよ、そんなに戯れたかったらこの辺のメイド喫茶にでも、独りで行きなさい」
「そんな勇気無ぇよ〜そんなん有ったらもっと俺飛躍してるっての!」
その応酬を、エプロンを脱いでアルコール除菌しながら聞き流す。
休憩と云っても、俺が見に行きたいクラス展だとか、そういうものは無い。
しかし、此処に居ても駆り出される可能性が高いのでそれは避けたい。
「功刀君、売れ行き良いわ、有難う。一番推してたヤツ、流石の一番売れ」
教室を出ようとした際、掛けられた声。
しっかり髪を結い上げている橘。飲食を取り扱う上でのその姿勢に、少し俺は安堵しつつ相槌した。
(一応、大丈夫だったのか)
味覚の弱まった舌でどれだけの判断が出来るか不安だったが…
ほんの少しの感覚を頼りに、とりあえず何とかなったらしい。
昔取った杵柄…と云うのも、腹立たしい。人間の頃の経験?馬鹿だろ…
今だって、半分は人間なんだ、俺は。
(学園祭…)
去年はずっと裏方で働いて暇を潰していたが、こうして歩くのは初めてだった。
このフロアは、大正一色だ…廊下に出される看板も、綴られる字が反対から。
ブリキらしさを滲ませた装飾、セルロイドの人形、誰が提供したんだか…
『お祭りなのかなあ?』
『いつもよりニンゲン多いね〜』
すぐ傍を飛んですれ違った妖精達に、絶対視線がついていかない様に、意識を集中させる。
最近気付いたのは、学校内にはデカブツは闊歩していない、という事だ。
界隈だとか有るのか?下手に人間に関与しない悪魔が多いのか…
いや、きっと人間を殺す時は、もっと影でやっているんだ。
見える人は、きっと他にも居る筈だ。そう、サイバースの氷川だって見える筈。
宗教人が絡めば、それこそ使役された奴等は堂々と動けないだろうと思う。
だから、普段よく起こるのは、きっとバイト先でされた悪戯程度だろう。
(だったら、あのエンプーサは?)
何の為に、あんな人の多い所で殺した?人間を困らせたいだけ?
「…胸糞悪い」
やはり悪魔は、最悪だ。
この胸の鬱屈とした感覚のまま歩き続けるのも嫌だったので、とりあえず休憩地点を探す。
一般客、他校の生徒、様々に入り乱れているが、俺の学年の一部生徒は古めかしい姿で闊歩している。
学ランに外套、学帽なんて…背筋の凍るスタイルで大勢居ると、俺の身が持たない。
精神的にヤられそうだ、皆が一同にその外套下から、管やら銃やら刀を取り出しそうで…
(違う階に行こう、せめて)
こんなライドウフロア、アマラ深界の呪いのフロアより息苦しい。
一番近い階段を探して、其処に一直線に向かう。
すれ違う見知らぬセーラー服やブレザーに紛れながら、踊り場まで下る…予定だった。
「ひ」
呼吸が上擦る。
踊り場に蠢くコレに、誰も気付いてない…のか。
平らなその踊り場で、袋を振るう三日月の形。窓から注ぐ陽射しを反射もせず、影も作らず。
傍を過ぎた生徒の一人が、其処に差し掛かった瞬間、首を傾げてふらりとする。
「……ねむ」
ぼそりと呟いて、そのまま踊り場を通過する…が。
気になりその先を、柵から身を乗り出して覗き込む。下階に下りる途中で、既に倒れそうな生徒。
落ちても大した段数では無いが、打ち所が悪ければ怪我をするだろう。見れば判るくらいにドルミナーの効果が発露している。
(何の為だ)
踊り場で砂を撒くザントマンを、横目にちらりと確認した。
どうやら止める様子も無い。しかし相手にするつもりは、俺には無かった。
他の階段から下るか…と、仕方無く案内の用紙を学ランのポケットから出して広げる。
が、現在地を確認して、動悸が早まった。
この下の…部活展示だろうか…《オカルト研究会のヒールスポット》という物である。
“合成ハーブの香りで安眠出来る休憩所”…有料だ。
(まさか)
ザントマンを見る、しかし、周囲にサマナーらしい人間は見当たらず。
でも、この配置…明らかに上からの人間を嵌める為としか思えない。
現に、下からの人間には、あの魔法の粉の様な物を撒き散らしていない…つまり。
(オカルト研に悪魔を使役している奴が居るのか)
心臓が速く駆ける、脳内で警鐘が鳴る、学校にそういう存在が居る事を鮮明にさせたこの事象。
つまり、悪魔が見えているのに、平然と学校生活を送っている人間が居るのだ。
(こんなに堂々と使役して…つまりこのザントマンの主人以外、校内にサマナーは居ないのか)
この不正行為は、他のサマナーにすぐバレる。そもそもサマナーだと認識されるのは、都合が悪いのではないか?
まさかこんな、腹立たしい事に使いやがって…おまけに人間がさせてるという事実が…
「おい」
悪魔を私利私欲に使うそいつも、きっと悪魔の様な奴だ。
「…おい、君」
「あ、っ」
苛々して階段で思考停止してしまっていた。背後からの声に気付いたのは、きっと数回目の呼び掛けだ。
振り返れば、此処の制服では無い…男子学生。
「どうした、下りないのか、こんな中央に突っ立って…一体何かと、気分でも悪いか?」
「え、あ、ああ…」
「…?兎に角、端に居た方が良い、突き飛ばされては怪我するぞ」
それだけ云うと、俺を通り過ぎ、踊り場へ…
「待って!!」
反射的にその黒い袖を掴んだ。黒地に黒いラインの、少し変わった学ランだった。
黒いクロームメッキの様な光沢の釦が、陽射しを反射する。
「どうした」
「あの、此処は…」
馬鹿だ、ああ、何をしているんだ俺は。関わりたくないのに、こんな見ず知らずの人放っておけば…
でも、心配してくれただろ、それを眼の前の悪魔の、格好の餌にさせるなんて…
見えているのに、助けないのは…道理に反する、から。
あのエンプーサに嗤われている気がして、頬が熱い。
「通らない方が良い…です」
それしか云えなかった。
「通らぬべき?何故だ」
「その…あまり、良くないです、その…今日は」
「……君が通らなかったのは、態とか?」
眼を見て話すと何かを悟られそうで、視線は逸らして答える。
「はい、すいません、その、其処何か気分悪い、中てられる感じがして」
適当に、霊感でも有るかの様な口ぶりで誤魔化す。
ペテンは苦手だったが、もう振りでもするしか無いだろ。悪魔が見えるなんて、云ってそもそも信用されない。
「…此処の生徒が述べているんだ、信じようか」
その声音に、嘲りや怒りが混じっていない事に、肩から力が抜けた。
低めのトーンだったが、威圧感が消えていた。きっと気遣ってくれている。
「すいませんでした、いきなり」
「いや、道を替える、気にしないでくれ」
と、改めてその顔を見て、思わずじろりと顔面を見てしまう。
俺のその眼の動きを読んだのか、少し溜息気味にその人は微笑んだ。
「喧嘩の類では無いから、怖がらないでくれ」
「あ、す…すいません、ジロジロと俺」
「…ふ、謝ってばかりだな君、おかしい」
掴んだままだった腕を、逆に掴み返されて、ぎくりとした。
「あ!すいません掴んだままだった、俺」
「…ふ、ふっ、だから、重ね重ね謝りすぎだと」
少し横を向いて笑いを堪え切れてない、その様子に俺は妙に恥ずかしくなってきた。
「階段をとりあえず戻ろうか、少し訊ねたい事もある。他校の事は其処の生徒に聞くが一番だ」
ぐい、とそのまま学ラン袖を掴まれ、上に引き戻される。
この後踊り場を通る生徒は、悪いが俺にはもうどうしようもない。
いっそ枕でも大量に置いておけば、ヒールスポットとやらに甘い汁を吸わせずに済んだろうか。
まあ、休憩所が満杯になれば、あのザントマンにも撤収命令が下されるだろう…
(その際に尾行するべきだったか?)
いや…石橋の確認すら、しないべきかもしれない。
相手の程度が分からないのに、下手に動くべきじゃ、ない…多分。
結局大正のフロアから抜けれず、行きずりの他校生徒に引っ張られているこの現状。
何が起こるか、本当に分からない。俺自体の動きは僅かだったってのに…
「すまんが、武徳館に通ずる渡り廊下に行きたくてな」
少し歩いて、俺の袖を放した。
この人は…顔に傷が奔っている、それも、結構な範囲に亘って。
「武徳館…部活の関係ですか」
「ああ、合同稽古をするにあたり、下見をする必要が有ってな」
「…部長とか?」
「一応な、剣道だ」
「は、主将…!立派ですね」
その横顔を見て、何かぞわぞわと、俺の中で妙な感覚が躍る。
精悍な眼元だが、睫は黒々と艶めかしい。厳しそうな視線だが、冷たさは無い。
それならどうして、こんなにも蔭りを感じる?どうして…どこか、怖い?
「云っておくが、この傷は部活でやったモノでも無いからな?」
廊下の道中、先に云われて、心を読まれた気がした。
「す…いません」
「だから君…」
何かを云われ続けたが、その折…俺の目先に留まったのは、廊下のランプだった。
呼吸が少し乱れ、意識が強張る。
(腰掛けてるのは、まさかピクシーか?)
自分のクラスにも飾られていた、ガレ調のランプ。でもそれは、花弁の笠に妖精が腰掛けている。
にっこりと、こっちを見たまま、動かない。
気付いてるのか…どうなんだ、アレの傍を通って平気なのか?
「どうした、あのランプが気になるのか?」
「え、ああ、その…上の妖精」
「…云っておくが、動かんからな。眼鏡の度数は合っているのか?」
「えっ!別に俺そんなメルヘンな頭して無いです!」
咄嗟に否定して傷の人を見れば、口元に手を当てて胎を震わせていた。
「ほぉ、図星か?別に馬鹿にしてないから、云ってみたらどうだ」
もう、色々指摘され過ぎて、認めた方が早い気がした。
「……すいません、急に怒鳴って」
ぼそりと俺が返せば、吹き出している。
「だから、謝り過ぎだと…ふ、ふふっ、いや堪らんな君…」
俺がもう堪らない、と、冷や汗が出そうだった。
立ち止まっている背中を、笑いを堪えつつ傷の人が手で押してきた。
「大丈夫だ、あのランプは自分の家のものだから」
その言葉の意味が解らず、反応に困っていると、続けられた。
「この階の骨董は家が貸し出している、どれが何かは把握している」
「えっ?貸し出しって、博物館に住んでるんですか?」
「博物館…!!いや違…君…っふ」
またツボったのか、もう俺はこの人と一緒に居ると身が持たないかもしれない。
案外ライドウより強敵かもしれなかった。
「自分の家がそういう物を多く所持しているので、この学校の伝手から頼まれたらしくてな」
「へえ…お金持ちなんですか」
「ただの旧家だ、苔の生した」
一瞬、その返答が、妙に冷たい声に感じた。何処かで聞き覚えのある…ひんやりとした…
(とりあえず、ただの彫刻で良かった)
悪魔に気付かれたのかと思って、焦った。たとえ妖精だろうが、何に発展するか分からない。
「貸し出したランプは復刻版ばかりだが、本物なら家にある。復刻版はやはり偽者でしかない…見目はほぼ完璧だが」
「え、本物って…」
「エミール・ガレとか」
流石に知っている。母親がそれっぽい作りの輸入品を、カタログで見ていた。
ガレの陶器でテーブルコーディネートしたらどれだけ華やぐだろう、とか…そんな発言を憶えてる。
料理の彩が負けるんじゃないのか、とか俺も返した気がする。
「貴方も興味あるんですか」
「ああ、好きだ…骨董品が趣味と云うと、爺むさいと笑われるが」
「…ガレ、悪い趣味じゃないと思いますけど」
「団栗文ランプなんて綺麗だぞ、多色も良いが、あのべっ甲飴の様な色が落ち着く…蜻蛉の様な翅が囲うアシッドカメオの球がな…」
妖精の腰掛けるランプを通過した。
廊下の女子生徒が、自校も他校も関係無く、じろじろ傍のこの人を見ていた。
傷が目立つのか、その容姿が目立つのか…まあ、身長も高い方だし、仕方無いだろう。
「学校、そういえば何処なんですか」
棟の端まで来て、ようやく階段に差し掛かる。少し疑問だったそれを聞く。
「弓月」
「ゆみづき…」
聞いたことが有る様な、無い様な…
「正確には、弓月の君、だ」
「俺、この学校にすぐ決めちゃったんで、他はよく知らなくて」
「まあ、そうだな…本当に自由に将来を決めたいなら、通うべきでは無い」
「どういう意味ですか」
「一種のステイタスだからだ、此処を卒業するという事が」
何となく把握した。
「良い大学に行け、とか云われるんですか」
「自分は家を継ぐのでな、そこで終業だ」
「継ぎたくないんですか」
「どうだろうな、継ぎたくもあったが、既に継いでいる気もする」
意味がよく解らないのに、俺は小さく相槌だけした。
「君は将来の事、もう見えているのか?」
「え、俺ですか?俺は……」
どう答えれば良いんだ、そんなの。お先真っ暗だ、正直なところ。
当面の目的は、悪魔に悟られず、擬態の為の呼吸を覚える事か…
ボルテクスの時の感覚を、未だ取り戻せていない。
「まだ考えあぐねているのか?」
「ええ、まあ、もう二年も終わっちゃいますけどね、呑気なもんでしょう?」
「変に焦る事は無い、定められた道に無い方が幸せだ」
焦っては無い、悪魔は不老不死だろ?気にする事じゃ無いんだ…そんな、人間らしい悩み。
「俺、もう就職も進学もする理由無くなったんで、どうして良いか分からないんですよね」
「理由?」
「母親の為だったんですけどね、それも叶わなくなったんで」
投げやりにつらつらと吐き出してしまった。追求されたらどう答える?
失踪したとでも答えるか?馬鹿みたいだ、自分で殺しておいて。
「そうか、母親か……好きだったのか?」
「す、好きって……まあ、ずっと苦労かけてきましたし」
駄目だ、これ以上云わせられたら、俺が苦しい、傷口が開く。
「優しく、厳しかったのか?」
「人並みに面倒看てくれたと思いますよ、いや、多分それ以上…か」
「親が好きなら、既に人生の数割は幸福な時間で埋められている。君が羨ましい」
引っ掛かった。羨ましい?つまり、この人は、親と仲が悪い?


「結局入口まで案内して貰って、申し訳無い、しかし助かった」
「いえ、俺も別に…暇でしたから」
渡り廊下の先、武徳館の道場めいた造りは、学校の設備にしては様になっている。
改装してそう年数が経過していないこの学校は、何処も彼処も綺麗だった。
志望動機の半分は、実は其処にあったのだ。汚い校舎に通いたくない。
「さてどうしようか、自分の用件はこれで済んでしまった」
そう云い、腕を組む傷の人。そんなさり気無い仕草もすらりと決まる。
「あの、甘い物とか苦手じゃなければうちのクラス展とか…来たらどうですか」
「クラス展?二年の、大正の階か」
「ええ、まあ、出す物は別に大正めいちゃいないんですけど」
連れが居れば、喫茶で充分休憩出来るだろう。まさか裏方に呼び戻されるとは思わない。
いっそこの人の時間の許す限り、適当な話し相手をしてくれたら助かる。
初対面なのに、疲れない。笑いのツボにさえ入らなければ。


「お待たせ致しました、数種木の実のタルト・紅茶セット、と……水、です」
接客用の口調で、テーブルにケーキを置く橘。
水しか頼まなかった俺に、何か云いたげにしながら、眼の前に並べていく。
「有難う」
「いいえ、どうぞごゆっくり…」
と、離れていく手前一瞬、俺の耳元でこそりと囁いた橘。柔らかい零れた髪が耳をくすぐった。
「最近どうした訳?妙に女性受け良さそうな人とばっか」
それに反応する前に、既に次のテーブルへと注文を受けに袴を翻していた。
(不可抗力だ…特にライドウは)
溜息して向かいを見れば、意外な事に黙々とフォークを刺していた傷の人。
アーモンドと胡桃の隙間を潜って、金属が割って入る。さくりとタルト生地が啼く。
「甘いの、好きなんですか」
問い掛けると、嚥下したのが喉仏の隆起で判る。
「どちらかと云えば和菓子だが、こういうのも好きだ」
良かった。多分一番売れると思ったヤツだったから、そういう意味でも安堵した。
「君は水で良かったのか?案内の礼として奢らせてくれて良かったのに」
「いえ、俺食欲無いんで…」
「そうか、確かに気分が優れぬと云っていたな…そんなところにすまなかった、御馳走様」
「え、早いですね…食べるの」
紙ナプキンで口元を拭うその人が「そうか?」と首を傾げる。
背後から微かに黄色い声が上がった。ああ、見てるのか、女子。
「しかし恩を返さぬのは気が引けるな……どれ、その君の紙ナプキン、貸してくれ」
水しか飲まない俺には多いそれを、視線で指す傷の人。要求のままにそれを手渡した。
ケーキ皿を横にずらし、テーブルの隙間でその白い紙を広げていた。
一度正方形にされ、その後爪先でくっきりと折れ目を入れられるナプキン。
(まさか折り紙でも作ってくれるのか?)
それを折る指先も、白い。剣道をやっている割に、細い。節くれ立って無い。
するすると形を成したそれは、人の様な形に姿を変える。
「今日は人の出入りも多い、気が乱され易いだろう」
その小さな紙の人形を、す、と差し出して…俺の胸元に。
「おまじないだ」
「ぅ」
胸ポケットに入れられた時、その布下の金属に擦れて思わず声が漏れる。
変な感触に気付かれたのではないかと、それを払拭する為にも早急に反応してみせた。
「お、おまじない、ですか…随分とまた…」
「病は気から、だ、意識して忍ばせておけば少しは気が紛れよう」
「忘れてこのままクリーニング出したらすいません」
「ふ…!まずそこを気にするのか?本当君は…」
また胎を抱えてるし、この人のツボは妙だろ。
「しかしな、せめて今日だけでも入れておくと良い」
笑いを静めての口調に、少し背筋が伸びた。
「神事が関係無くとも、祭に邪な気は付き物だからな…」
穏やかな笑顔に、何か滲む時が有る。その瞬間、俺は誰かを思い出す。
冷たく脳裏を浸す声音に変換されると、あの男を思い出す。
「今日は有難う、そういえば名くらい聞いておくべきだったな」
「ああ、く…」
そうだ、帽子の無い、あいつの顔をしている。
「…や、矢代、です」
「やしろ?」
「弓矢の矢に、ダイって読むあの代…」
“矢代”なんて字、実際名字が殆どだ。そのまま勘違いしてくれ。
「そうか、今度稽古で来た際に、また会ったら挨拶する、矢代君」
「はい…俺、剣道は無関係ですが」
どうして名前を呼ばせたかった。
他人の空似だろ、この人はあの男と違う。性格も、傷だって…有る。
「名乗らせて名乗らぬは失礼だったな」
会計を済ませ、お札しか入って無かった薄いがま口を、制服の内ポケットに仕舞うこの人。
俺に振り返って、少し恥ずかしそうに云った。
「ライドウだ」
水を飲んだばかりなのに、喉が張り付く。
「“かみなり”に、講堂のドウだ…古めかしいだろう?名跡の様なものだ、個人名など無い」
どうして名前まで。
「周りにも、そう呼ばれてるんですか」
「ああ、失笑気味にな。もう慣れた」
「そうですか…」
ライドウ…と、同じ字なのか?別なのか?
(もしかしたら、子孫…とか?)
いや、そんな訳無い。あの男が子供を残すイメージが出来ない。
(葛葉は世襲制?それすら俺は知らないし)
雷堂と別れ、呆然と…ただただ廊下に突っ立つ俺は…このフロアの黒い外套の海に呑まれて。
クズノハライドウという幻覚に悩まされるまま、ふらりと当ても無く歩き始めた。
行き交う人間が…悪魔かそうでないか、の判断。
ライドウも、こうして生きてきたんだろう。
人間の皮を被った悪魔は、人間の振りをして生きれるが、道楽だろう。
人間として生まれた者は、見えない振りをして生きなければいけない。
見えない事が“普通”なのだとしたら、生きる為に振りをしなければいけないんだ。
普通の人間だった頃の俺に、俺は戻れている気が…しない。

「矢代」

俺の名を呼ぶ奴は、極僅か。
誰か判らない。でも、その声音は聞き覚えが…脳髄に、魂に刻まれていた。
胎内の蟲が蠢いた気さえする。
「化粧はどうしたのかな…折角の美しい紋が見えないのは残念だ」
振り返るのが怖くて、生徒を掻き分け駆け出した。廊下を走るなんて初めてだ。
追いつかれたら、どうなる?
いいや、元々、逃げられる筈も無い。
多目的講堂の渡り廊下に流れ着いて、更に草木の茂る講堂の裏手に回り込む。
隠れて居るのか自分を追い詰めているのか、既に分からない。
水分を失った紅葉が上から降る。
息を潜めて、蹲った。恐ろしかった。一度牙を剥いた事実は消せない。
でも、その時の威勢は、今の俺には無いんだ…だから、赦して、お願いだ。
「あまり歩かせないでおくれ、飛んだ方が本当は楽なんだよ」
俺は走った筈なのに、あっという間だった。
「腕を外して、顔を上げなさい」
震えている腕を、云われるまま足下の室内履きまで下ろす。
上げなければ、半殺しにでもされるのだろうか。その恐怖に突き動かされて、見上げた。
日陰なのに、金色が眩しい。蒼い眼が俺を刺す。人間の姿でも、判る。
「なかなか城に来ないから、見に来てしまったよ…焦らすなんていけない子だ」
する、と眼鏡を外される。
「確かに、これなら視線を読まれ難いか…少しは考える様になったのか、偉い」
「は、っ…ひィ、ッ」
脳髄を砕かれる感覚が襲うと思ったが、されたのは“なでなで”だった。
まるで、あのイヌガミがされていたような。犬にするソレ。
「その姿では金色の眼も見えない…フフ…まあ、わたしはいつでも見れるか、そういえば」
喉元に撫でた手を運ぶ。見上げた先の指に光る、金色の宝飾。
ズキリ、と、眼が痛くなった錯覚。
「リハビリテーションさせてあげよう、矢代」
俺の眼鏡をつい、と装着した金髪の青年が云う。
「眼の前で大勢死ぬのは、流石に君も心が痛いだろう…?“ヒト”の」
かすれた声で、俺は弱々しく吐き出した。
「か…閣下…!」
「さあ、来なさい」
腕を引かれた。先刻の雷堂に引かれたそれと違って…
そのまま地獄にでも連れて行かれる心地だった。
「ライドウは意外と我慢強いな、早く見たいだろうに」
上品な黒いスーツ、作り物みたいな相貌、流暢な日本語…いや、きっと何でも話せるんだろう。
「お前の暴れる晴れ姿をね、矢代」
「あぅ、ッ!?」
引かれるまま、その腕が千切れそうになった。
助走も無しの軽い跳躍で、何故か講堂の二階に舞い降りていた。
外部の申し訳程度に出っ張った遊びに腰掛け、俺を抱えたままの堕天使。
俺は落ちやしないかという恐怖に負けて、恐怖の源に縋りついていた。
「ぅ、うう、ぅ…」
「おや可愛いね、怖いかな?」
返事も出来ず、ただその蒼い眼を見た。俺の眼鏡のレンズ越し。
ゆったりとした微笑は、物云わせぬ威圧感が有った。
「矢代、お前がまず何を棄てるのか、それが見てみたい」
黒い尖った爪先で、講堂の内部に向かって虚空に円を描くルシファー。
分厚い硝子戸が隔てた内部に、召喚の陣が浮き上がる。きっと、誰も見えてない。
其処から悪魔が召喚されても、虐殺が始まっても、誰も理解出来ないんだ。

「ヒトを見棄てる?ヒトを棄てる?」

俺を横抱きにしたまま、嗤う堕天使の胸元に…
俺は馬鹿みたく、縋り付いて見ぬ振りをしていた…
あの罠に引っ掛かって、大人しくヒールスポットで寝ていれば良かった、と…
現実逃避に無我夢中だった。


〜復刻版〜功刀矢代・了


* あとがき*
一気にメインを二人出してしまいました。人間の振りをして生きる学校生活。橘千晶は美意識が高いが、自分の拘りを他者に強制しない……今は、ですが。まるで一瞬デートっぽいですが、功刀との関係は真逆をいっております。今は書けませんが。
そして次回ようやく戦闘が書けそうです。

《雷堂》
は徒花シリーズの雷堂なのか?と疑問符が浮かんでいるかもしれませんが、別人です(徒花がパラレルと考えて下さい)…ですが、片鱗は出ていると思われます。親と仲が悪い、という辺に少し引っ掛かるかもしれませんが。そして今後変態化するか否かは……反響で考えます、度合いを(ええっ…)
徒花の様に愛憎ドロリとはしない予定(未定)です。徒花の雷堂が抱く感情とは、少し違いますので。 何故この次元に雷堂?という謎は、今後明らかになります。

《閣下》
ですが、ノーブルな黒スーツにオールバックのあのイメージで。ライドウと口調が被るのが厄介なのですが、閣下の方が保護者口調じみております。
しかし閣下、ライドウはまず階段から突き落として試してましたが、果たして我慢強いのか?

《踊り場》
「死んでる場合じゃねぇえ!」(CV:山寺宏一)

《ザントマン》
せっせとお仕事してましたが、本当は老人の姿らしいですね。しかし自分はあの妙な光沢の三日月スタイルが好きです。

《EGOISTE》
“利己主義者”という名のCHANELの香水。トップ(マンダリン・コリアンダー)⇒ミドル(オリエンタルローズ)⇒ラスト(バニラ・サンダルウッド・アンブレットシード)の順に香る。 メンズ物の香水で初めて白檀を取り入れたらしいですが、本当に先駆者なのかは謎。スパイスの中に官能が薫るらしい…です。 功刀に纏わり付いてた理由は、まあ御想像にお任せします。本当に待ってる間に付いたのかもしれませんし、外出前に紺野さんに胸倉掴まれたのかもしれません。香水の名前の通り、ライドウと人修羅にはしっくりきます。

《シャルル・マルタン・エミール・ガレ》
フランスの硝子工芸家。日本人が大好きなガレの作品……実際、植物や虫のモチーフも、色も大変美しいです。アンティークらしさの為に作中に取り入れましたが…表題の〜復刻版〜は「人間だった頃の功刀矢代の真似をして作り上げた存在」という嫌味で付けました。今の功刀矢代は“人間時代の復刻版”という事です。雷堂が「本物とは違う」って云っちゃっており、これまた辛い。しかしこれが後々雷堂にブーメランする。