「その身体、お大事に」
担任教師の見舞いに渋々向かう道中、交差点で黒い外套の男とすれ違う。
自分を知るかの様なその言葉に、違和感を覚えつつも目的地へと足を進めるが…
その後、新宿衛生病院の屋上で東京受胎を迎えた世界は、悪魔の蔓延る荒野のボルテクス界へと変貌する。
目立たぬ様に生きてきた高校生の[功刀 矢代]は、この日より半人半魔の中途半端な存在、人修羅として生まれ変わるのだった。
“前回の人修羅の願い”を成就させる為、殺しにかかってくるデビルハンターのダンテ。(SS『地獄篇』参照)
“悪魔召喚皇”に成るべく、人修羅の己を欲するデビルサマナーの葛葉ライドウ。
その両方に襲われ護られを繰り返す度、憎しみと相反する不可思議な依存が矢代に芽生えてくる。
やがて、生き延びた人間達すら信じられなくなった矢代は、車椅子の老人の正体をライドウに暴露される。このままでは、人間に戻る事も出来ずに延々とボルテクスを繰り返すだけだ、と。
その頚木から逃れる算段をライドウに持ち掛けられ、心身虚弱の矢代はとうとうそれに乗ってしまう…
それは、ヒエラルキーに属さぬライドウの使役悪魔となり、ルシファーの首を狙うという無謀な賭けであった。
ひたすら強い契約を刻む為、ライドウは肉体を通じて精神を犯した。彼の契約名を〔紺野 夜〕という。
優しいダンテと違い、人修羅を「手駒だ」と云い放つ十四代目葛葉ライドウの夜。酷く嬲る事に快楽さえ見出す戦闘狂の悪魔召喚師。だが、そんな彼も、心をヤタガラスに縛られ、それに抗うべくたった独りで生きてきた中途半端な“人間”であった。
(SS『生死滲出』他参照)
ライドウの「人修羅を強い悪魔として育て上げる」という話を笑って受け入れた堕天使は、半分遊びで許可をした。それは、大正の帝都で悪友としてライドウと戯れた日々の感情も入り混じる猥雑なものである。ライドウの野望“悪魔召喚皇”というものは、かつての悪友への復讐を誓うライドウの暗い感情も含んでいる。
ルシファーはたかが人間、と虚仮にしていたライドウこと夜を、永い記憶の中に強く憶していた…
父なる神が創りし人間が、強くても弱くても、堕天使にとって腹立たしいからである。白と黒の中間「混沌」を求める夜と共感を得ていた時代を想いつつ、ルシファーはいよいよ形として成就しそうな人修羅をライドウに任せるのであった。
(SS『汚点』参照)
嬲る度、縋る度、どこかで強く惹かれ合う中途半端な矢代と夜は、そのまま出逢ったあの日に還る。東京受胎の日…出逢った交差点で投げられた言葉。
「起こり得ないと思っていた?」
ルシファーの手駒として、人間界に放し飼いされる日々が始まった…