『エンジェル、もう少し優しく解してやりなさい』
 同じ高さに目線を合わせ語りかけるが、彼女の意識は横たわる獲物にばかり注がれている。早く雄を直に扱きたくて、疼いているのだろう。履物を有無をいわさず脱がせ、陣の外へと放り捨てた。
『ウリエル様、だって……わたくしも必死ですわ。この眼をしっかりと開いてしまったら、見た瞬間……思わず吸い尽くしてしまいそうで!』
『はは、それは駄目ですね。我々は注ぐという名目で、今こうさせて頂いているのですから』
 嗜めつつ私もちゃっかりと、素足の人修羅の足甲を軽く撫でた。この黒い斑紋は、撫ぞり辿れと云わんばかりに光るから困りものだ。
『ただし……こうして接触する以上、多少吸い込む事は仕方が無いと思いますが。その程度は許して下さいますね?』
 声の向きを定めた訳でも無いが、己に向けられた確認と判断したのか。人修羅が震えながらも、小さく頷いた。
「もう……いいですか……うつ伏せて」
『ええ、構いません。その方が我々も注ぎ易いですからね』
 よろりと肘を使って上体を起こした人修羅が、半身を翻す様にしてうつ伏せた。脚に絡まっている衣や下履きなどを、優しい手付きで私が取り去ってやる。
『しかしヤシロ、エンジェルの云う通りです。力を抜いて下さい、今貴方の中ではマガタマがぶつかりあっている。興奮のあまり暴走させては危険ですよ』
「興奮って……それなら余計なトコに触らないで下さい」
『破壊衝動に繋がらなければ、問題無いのです。羽がさせたでしょう? 貴方を快楽に弱く……』
 うつ伏せた事により、目立つ項の黒きツノ。人修羅にとっての《急所》は、ツノでは無く人間の生殖器官という事だろう。
 己の一部として受け入れられないのか、悪魔へと変質して生え聳えた、その象徴を。それでも肉体は実に正直だ……陳腐な言葉ながらも、やはり納得する。
『苦痛と快感は、紙一重と云われます。ですから、貴方の針を少しばかり操作させて頂くだけです』
 私が根本を柔らかく揉んでやると、鼻から息をふうっと抜かす人修羅。溝に沿って先端まで撫で上げて、再び根本に下ろす。緩急を付けて、時折強く擦る。
「ぁ……は、ぁう……ん」
『前を弄られるよりは、マシですか?』
「う、うぅ……ま……まだ、マシ……で、す」
『そうですか、それにしては先刻と大差無い様にも感じますが』
「んな、筈は」
『同じ様な声、出てますからね』
 くす、と微笑みながら、ツノの先に接吻をする。途端、びくんと身体を震わせた人修羅。しかし私の言葉が効いたのか、声は殺したままだ。
『項から生殖器が生えているも同然ですね……』
 目隠しの下、今どんな顔をしているのだろうか。
「だからそういう事云うのやめ……っ、あ、ぁ」
 接吻に続いて、ちゅぶちゅぶと鋭角な先端をしゃぶる。
 冷たい様な、温かい様な。舐め吸えば、幾らでもマガツヒを滲ませそうなこのツノ。ふやけてしまうのではないか、と、しゃぶる私が心配になるまで面白がって含んでいた。
「ツノ、ツノもう嫌……いや……だ」
 譫言の様に喘ぐ人修羅の声にそろそろかと感じ、唇から抜く。己の唾液に彼のマガツヒが溶け込んでおり、唇を舐めずれば再び味わえるこの美酒。
『ああ……ツノはそういえば膨らみませんでしたか』
 人修羅の前方の急所は酷く張りつめて、それはそれは苦しそうだ。ツノと連結しているのかと錯覚するほど、舌先で愛撫した反応が其処に表れている。
『でも、こうすれば……こちらも大分解れますからね、痛みは軽減されます。さあどの様にして慣らしましょうか』
 問い掛けながら、人修羅の引き締まった小ぶりな臀部に掌を置く。逃げる様な腰の動きで、其処の筋肉がきゅう、と強張った。
「慣らす?」
『排泄器官であり、普段は迎え入れる役割では無いでしょう? それとも治癒が早いので、痛いのは一瞬だけ……ですか?』
「本当に挿すんですか?その……ブツ、を」
『ええ』
「魔力とかを流し込む、所謂注射器みたいな道具は無いんですか?」
『私は存じませんが……そうですね“生体の差による不都合を失くす”という意味合いで、悪魔と関わりの深い人間なら所有していたかもしれません』
「悪魔と?」
『デビルサマナーとかですね。御存知ですか? ニヒロ機構の総司令官もそうでしょう』
「ニヒロ機構……?」
『ああ、まだ耳にしておりませんでしたか』
 そんな筈は無い、この街をふらりと歩けばすぐ耳に入る名だ。精神が拒絶して、記憶に留まっていないのか……単に興味が無いだけか。
 東京受胎とやらを生き延びた者同士、面識が有る可能性も高い。噂のミロク経典は、その総司令官が読み解いたという話さえ有る。人修羅を欲する可能性が高い。この、死んだ世界を創世させる為の鍵とする為に……
 それは都合が悪い、あの男の理想世界というものは上も下も無い。統治されていると云えば聞こえは良いが、我々のヒエラルキーまで平らにされてしまっては困るのだ。
『さて、そういう事で残念ながら道具は無いのです。一番安全なのは、貴方自身の体液で慣らす事かと思います』
「俺の、って……血とかですか」
『わざわざ傷付けなくとも、すぐに出せそうなモノが有るのでは……?』
「……でも、その……っ」
 何が云いたいのかそれとなく判るが、敢えて此方からは提示しない。己で吐いた言葉は呪いとなり、更に本人を戒める。その唇から紡がれ、直後羞恥に塞ぎ込む姿が見たい。だからこそ、云わせるのだ。
「この身体になってから、そんなモノ……出した事無くて。だから出るかも……分かりません、し」
『ならば試してみましょう、丁度良いではありませんか。これで過去の御自身と同じモノを吐精すれば、本来の貴方の要素は失われていない証明になりますよ』
「丁度良いって、そんな……ぁ、うぅッ」
 まだ話している途中と知りながら、人修羅が云う《急所》を掴んだ。先刻、エンジェルに随分手荒く揉まれていた其処。布越しとはいえ、あれでは刺激が過ぎるだろう。治癒が早いだけで、この少年の身体は鈍感よりも敏感だと云える。
『大丈夫ですよ……皆、貴方の気を楽にさせてあげたいと、そう思い淫蕩を交えるのです』
 基準など知らぬが、握り込んだ其処はきっと標準的な大きさなのだろう。環にした指を、頭の方へと持って行き……くびれで折り返し、また根本にぐりゅ、と下ろす。この単純動作の繰り返しだけで、人修羅の肌からみるみるうちにマガツヒが薫る。
「んー、んぐ、ぁ」
『痛いですか? 強く握らぬ様にしているのですが』
「痛くは、な……ぃ」
『では、何故そんなに眉を顰めて、眦を真っ赤に染めていらっしゃるのです?』
「ぁ、っ……はぁ……はぁっ……見えてない……の、に……」
『隠れていても判りますよ。皆に感情が有り、伴って表情というものがある……顔の有る生体には、ですが』
 ぼんやりとした発光体や、ガスの様な霧状の悪魔。所謂、外道の類にはあまり無い部分だが。
 人間の形をした我々と人修羅は、感情の表れ方が極めて近い。
『貴方は私の顔を見ると、すぐに視線を逸らしましたね。しかし私は、その貴方の横顔をここ最近、ずっと見つめてきた。固く云えば観察です』
「観……察……」
『人修羅ヤシロ、貴方の特徴を見極める為です』
「どうして……俺の事調べて、まさか利用、だとか」
『ほら、今も眉を顰めているでしょう。貴方はいつもいつも、我関せずを決め込む様なポーズを取りますね? 群れる事が好きでは無い……違いますか?』
「悪魔と群れるなんて、反吐が出る!」
『人間とも、でしょう?』
 軽く喚いた人修羅に、落ち着けと諭すかの様に翼で包み込む。
『貴方は他者と率先して関わる生き方をしてこなかった……それは拗らせば拗らせる程に、変える事が難しくなる。拗らせた結果が、その自尊心の高さでしょうか?』
 唐突に始まった私の推察に、唖然としている人修羅。だが、萎えさせてしまうつもりも無いので、私の指は息衝かせようとゆったり蠢くままだ。
『ヤシロ、それは自尊心とは少し違いますよ……それは意地というものです』
「何が云いたいんですか」
『悪魔にされてしまった貴方は、確かに不幸と云えるでしょう。しかし、その理由で悪魔全てを恨むのはお門違いというものですね』
 引き結ばれた唇は、喘ぎを零さぬ為か……反論を呑み込む為か……マガタマを嘔吐しない為か……
 いずれにせよ沈黙という反応は、彼に自覚が有ったという回答になる。
『悪魔は悪魔として、ただ存在しているだけ。マガツヒを蓄えた者は、餌に見えて当然なのです。貴方は人間や思念体……あるいはマネカタ等を喰らう悪魔が、異常だと云うのですか?』
「……今まで普通の人間として生きた俺には、異常に見えます」
『悪魔にとっては、人間を貶め喰らう事は至って普通。人間が家畜を喰らう理由は何ですか? 憎いから?』
薄く浮き出た肋骨を、翼の先端でつうっと撫ぞる。
「ひっ……ん」
『食料……餌だからでしょう?』
 目配せで、控えていたパワー達を引き寄せた。
 人修羅の上腕を掴み、ぐい、と起こさせる。四肢を四体で固定する様な状態だ。私以外の感触が急激に増え、人修羅の身体に緊張が奔った。
『貴方は家畜に欲情するのですか? 人間は昔から酪農で乳を搾ってきたでしょう、その様な光景に背徳感を覚える?』
「家畜、って」
『ですから、今こうして貴方から精を搾ろうとする行為も、同じ様なものだとお考え下さい』


 唖然としているのか、反応はすぐに返ってこない。その隙を見て、脇をしっかり固めるパワーとアークエンジェル。
「俺が家畜って云うんですか!?」
『いえいえ、一例として挙げたまでです。異常性など微塵も無いのだと、これは恥では無いのだと貴方に伝えたかったのですよ』
「でもっ、手が……ぁ」
 私の追い立てる指に加えて、人修羅の四肢を掴む天使達の指も遊び始める。いい加減喉が渇いたのか、捕えている側である天使の方が喘ぎそうに呼吸を乱している。
『ほら、しっかり此処に色々溜まって、膨らんできているでしょう。我々は意識しないとこの器官を利用出来ませんが、貴方は嫌々と云いながらも、こんなに固く出来るではないですか』
「う、うーっ、ん……あ、ぁ……ぐ……」
『人間の雄の反応という事ですよ、おめでとう御座います』
 当初よりはだいぶ育った、その股座の急所。足掻いていた四肢も、これまでと違った震えを始めた。
 触れていれば判る、潤った魔力が中を循環している事が。植物の茎には管が通っていて、摘めば水の流れを塞き止める。人間の構造も、ほぼ同じ事。根本から先端に誘い込む様に搾り、ぷっくりした頭の先に爪を置く。湿り気を帯びた其処を、傷付けない程度に抓む。
 同時に、それまで食い殺していた悲鳴を、精より一足早く吐き出す人修羅。
「ひィ――っ!」
 激しく腰を揺らし、脚を捩った瞬間に私の指が融けそうな程熱くなる。透明とは云い難い体液を放った人修羅は、背を反らせたまま痙攣していた。
『お疲れ様です、コレを使って慣らしましょうね』
「は……っ……ァ……」
 痙攣の後、ぐったりと脱力する人修羅。天使達に支えられているかの様に見える程、吐精後の肉体は弛緩していた。
 放たれた体液は、マガツヒを凝縮させた様な匂いで。マガツヒとは別の生体エネルギーも含むのか、本当に腹をも充たしそうな濃厚さだ。
『私の指に喰いつかないで下さいね』
 人修羅の脚を掴むパワーに忠告すると、慌てて目を逸らされる。半分くらい図星だったのだろう。
『確かに、酔わせる匂いですね。しかし残念ですが用途は決まっているので』
『ウリエル殿、我々は一体いつ頂けるのでしょうかね』
『頂ける、では語弊が有りませんかパワー。我々は注ぐのですよ?』
『そ、そうでしたな』
 いつまで遊んでいるつもりだ、と、辟易されたかもしれない。
 順序は、それこそヒエラルキーで決まる。この場においては、私に一口目が来る事となるのだ。
 此処まで拐かしてきたのも私なので、皆恐らく文句は無い筈。有ったとしても云い出せぬ、それがヒエラルキーに縛られる我々の在り方だ。ただし、私は「縛りを受けているという自覚」が有った訳だが。
『それにしても、程好くリラックス出来たのでは? 此処の緊張がだいぶ解けている様子で、何よりです』
 薄い臀部を濡れていない手で撫でると、それでもヒクヒクと引き攣っていた。
『腰を上げさせて、股は少し開かせなさい』
『はい』
 脚側の天使達に命じつつ、私も腰帯を緩め、法衣の垂を脇に除けた。
 衣擦れの音を敏感になった聴覚で拾ったのか、人修羅の肌からじわじわと再び滲むマガツヒ。
『大丈夫ですよ、まずはこの……貴方の体液塗れの指で、ゆっくり拡げていきますから』
 無言の人修羅、その震えるばかりの狭間に、私は指を滑り込ませた。
やわやわと種袋を揉んでねちりと上に……開かせても窮屈な溝を辿る指は、ぬるりと体液で潤滑する。
「本当、に……」
『はい? 何でしょうか』
「今、脱いだの……貴方ですか」
『ええ、私の指とモノで慣らされるのがご不満でしたら、他の者にさせますが。順序の変動だけで、いずれお邪魔する事になりますけれど』
「ウリエル……貴方は……俺の事、最初から……こうやって……する、つもりで?」
『そうですね、この方法は貴方にとって抵抗が有るとは予測しておりましたが、救済になればと思いまして』
 蕾の様な窄まりを指先に感じ、生体の開花時期を無視して抉る。
「っ……ぁ、ぐぅっ……っは、ぁ……き、気持ち悪い」
『慣れていないだけです。もう少し奥に、確か人間の雄が善がる箇所が有りますので……暫しの辛抱ですよ』
 掌に受けた露を再び内部の管に流し込む様にして、ねっとりと狭間に沿わせ垂らす。滑らかな双丘に奔る斑紋が濡れ、磨いた革製品の様な光沢を帯びる。爪先をぎゅぶ、と沈める度に、呻いて更に圧迫してくる壁。窮屈で、それでいて甘く湿っている。花弁を裂いた時の芳香に近い、少し青臭く瑞々しい匂い。
「何も、良くない……こんな……け、ケツの穴弄られて……っ」
『目的は其処ではありませんから、その憤りは諦めて下さい。此処は通過点であり、胎内に注ぐ事が重要なのですから』
「はあっ……ぁ……さっきまで俺の事、あんな優しく接してて……っ……保護者みたいな、手で撫でてきたのに貴方、気恥ずかしさ、とか無いんですかっ」
『恥ずかしい事なのですか? 先程も説明しましたよね。肉欲を伴わない行為に、背徳は無いのです』
「俺は、嫌だ……っ!」
 頭をイヤイヤと振り被って、掠れた声で喚く人修羅。私は半ばまで挿れた指を止めて、頼り無い背中に覆い被さった。しっとりと香るこめかみに接吻して、軽くマガツヒを舐めて問う。
『理想の天使像から外れておりましたか?』
「……これで救われて、人間になれても……同じ目で、見れません」
『いいえヤシロ、貴方はどの様な手段で救われようとも、人間へと戻れた瞬間から、異質な存在である我々を遠ざける。そうでしょう……?』
「恩を仇では返しません」
『人間も悪魔も、そして我々も……同族内で差別をし、異種を労わりません。貴方はその姿でかつての友人の前に出る事に、恐怖を覚えた筈ですよ? それは何故です? 貴方が人間ではないからです。姿形が変わっただけ? いいえ、人間は其処を特に気にするではありませんか。貴方はそれをよく理解している……だからこそ、怖れた』
 穏やかな口調でたたみ掛ければ、首を捻って私の方を向いた人修羅。唇が触れ合いそうな程に近く、吐息が互いを擽る。
「俺の事……本当に助けるつもりなんですか」
『疑っているのですか?』
「……せめて、他の天使に……俺、貴方を……信頼、してて」
『はは、嘘仰いな。悪魔でないから頼った、それだけでしょう? 別に私共はそれを責めません、そしてそれは元々人間である以上、可笑しな事では無いのです。貴方が無宗教者であろうとも、天使はヒトを救う……そういったイメージが有るのでしょう? それを利用する事は、悪ではありません』
「嘘に聴こえるんですか」
『ヒトは不完全な生き物と、我々は承知しておりますから』
「ぁう、ぅ……ぐッ」
 止めていた指を思い出した様に進めて、返事を潰した。人修羅の悲痛な声に、まだ魅了が足りぬかと感じエンジェルを呼ぶ。わさりと翼をはためかせ示せば察したのか、セキレイの羽をもう一本取り出す。
『指一本でこんなに苦しんで……尻の穴の小さい男なのね、貴方』
 くすくすと笑うエンジェルが、雁字搦めの肢体を掻い潜りセキレイの羽を潜り込ませる。その羽先がくりゅくりゅと、人修羅の雄の部分を虐めて濡れる。
「はぁ、い、嫌だソレ……さっきの、羽また……っ」
『本当に嫌? 身体に従ってしまった方が丸く収まるって、御存知かしら? ほら……ふふっ、また元気になってきましたわよ』
「その道具のせい……っ、あ、あふっ」
 最早、半強制的ではあるが、私の領下の呻きに艶が出てくるのを感じた。指への強固な締め付けは次第に和らいで、ゆっくりと関節で曲げ伸ばしを繰り返せば、湿った音が聴こえた気がする。
 そろそろ入っても問題無いか、と思い、自身の腰を押し当てる。
『では、もう一本指を入れてみましょうか』
「……は……ぁ」
『それで具合が宜しい様でしたら、コレを使って注ぎますからね……』
 腰を軽く揺らせば、意識して主張させた、私の男性体としてのシンボルが人修羅の溝に沿う。
「た……勃って、る」
『ええ、ある程度強度が必要でしょう? 挿入するには』
 黒髪の隙間から覗く耳が、かあっと赤く染まる。人修羅は今……何を考えているのだろうか。
「俺は、そんな事務的に、出来ないんです……っ! お願いですから……他の、他の天使にさせて下さい」
『私の事、お嫌いに?』
「……事務的に見れないから、貴方とこういう事……出来ないんです」
『私情が混じる、と? そういう事でしょうか』
 喘ぐ喉を、空いた手指で優しく撫でる。苦しげな呼吸が私の身に響く、その吐息に滲むマガツヒが頭を蕩けさせてくる。
『ならば、この様な形でも欲されて、寧ろ嬉しいのではないですか?』
 ああ、今、黒革の内で眼を見開いたのだろうか。人外たる私にとってほんの一瞬の期間……観察対象として見ていただけなのに。こんなにも熱心に頼られた所為だろうか、久々に何か、別のものを感じている。
 家畜だろうか、ヒトという名の畜生だろうか。憐れな子羊……だろうか。
『貴方を抱擁した者など、この世界に訪れてから私だけだったのでしょう?』
 肩を震わせている人修羅、掴まれた腕の黒い花も揺れて。快楽とも違いそうで、確認をしたくなる。
 今、どの様な顔をしているのだろうか。
『この世界で人間に戻ったのなら、貴方は真の捕食対象となりますよ。その危険な結果を知りつつ、貴方を止めなかった。何故だと思います?』
 二本目の指を既に挿入してあるというのに、私の言葉にただ臀部を引き攣らせるだけで。喘ぎも出ない程、私の声に聴き入っているのか。
『頼ってくる貴方が、我々にとっては都合好く……この手段を取れば、享楽と共に味わえる……そして人間に戻せた場合にも、更にマガツヒが搾取出来る』
 ぎゅうっ、と締め付けられた。私の指を折るのではないか、と錯覚する程に。それをずるると無理矢理抜き、私の器官を窄む其処に押し当てる。
『さあ、憎んで頂いて結構ですよ? うまく運べば本当に人間へと戻れるかもしれませんし、ね』
「う、ぁ……ウリエ、ル」


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