啼き始め


「矢代くぅ〜ん」
「…はい?」
そのふ抜けた声に、ぎょっとして思わず声が上擦る。
一応此処の探偵社の所長である男の発した声なのだが。
「あの、何でしょうか」
「君、こんな処に居て良いの?家族とか彼女とかは!?」
いきなり何だ。
家族だの彼女だの、そんな郷愁を誘うような内容を聞かれ
少し胸が苦しくなった。
「彼女は居ないですよ、家も…まあ、行く必要は無いです」
適当にあしらったのだが、鳴海はそれを聞くと
嬉々として何かを持ち出してきた。
「今日は大晦日でしょっ」
「!」
ああ、そうだったのか…
もう人修羅と成ってからは、時間の経過を気にしていなかった。
朝が起きていて、夜は寝るもの。
そんな枠は、この身体が既に破壊していた。
「で、何ですかそれ…」
「何って、麻雀だよ!麻雀!!」
(うわ〜)
何となく予感はしていたが、いよいよ誘われるとは…
実はライドウに云われている。

---鳴海さんとは絶対麻雀するなよ---

どのような意味での忠告かは謎だったが、とりあえず
俺に不利益という事だけは確定している。
「ええ〜っ!してくんないのぉ?」
「すいません…賭け事はしない主義なので」
「賭けは無しにしても?」
「…」
「ライドウ待ちでしょ?暇なんでしょ?」
その眼はとても大人の物とは思えぬ程に、潤つき同情を誘う眼だった。
(この人、悪い人じゃないからなぁ…)
読んでいた本をテーブルに置き、鳴海の方を向く。
「ライドウが帰ったら、すぐに止めますからね」
「ぃやっほ〜い!」
(何歳だこの人)
道楽好きの昼行灯とは聞いていたが、なかなかの童心。
変な感心を抱き、ぼうっと鳴海を見つめる。
鳴海はといえば、牌を混ぜたり点棒を分けたりと
忙しないながらも手馴れた様子で準備を進めていた。
「ルールは分かってる?」
「あの、ドンジャラ程度なんですけど」
「ドンジャラ?」
(あ、まずった)
ドンジャラが通じない。
これはつまり、ルールがそこまで似ていないという事か?
「と、とりあえず自分の手持ち開けなよ」
云いつつ鳴海が、自分の手前の伏せられた持ち牌を起こした。
同じ様に端と端を指で押し掴み、くいっと起こした
つもりだったのだが。
軽快な音と共に、弾け散った。
「…」
「え、これ意外と難しいっ!?」
沈黙する鳴海を前に、散った牌を拾い集める自分が情けない。
両端からの圧にたわんで、弾け散ったのだろう。

「ぶっ、くふふ…」

ハッとして背後を振り返る。
事務所入り口に、黒い外套と黒猫。
「まさかそこで、そんな失態を犯すとは…」
『おい、止めてやれライドウ、鳴海にからまれておるぞあやつ』
ライドウと、ゴウトがいつの間にか立っていた。
「あ、あんた!いつから居たんだよ!?」
「鳴海さん、只今戻りました」
「人の話聞けよ」
こっちを見て、ほくそ笑むその顔がムカつく。
「おっかえりライドウ〜」
「で、僕も入れてくれるのですよね?」
「…えっ」
ライドウのその台詞に、明らかに凍りついた鳴海。
なんだ?ライドウが麻雀強いとかそういう事か?
「い、いや!いきなりプロが入っちゃ矢代君が可哀想でしょおお〜!?」
「別に俺は構いませんけど」
「いやいやいや!!まずは俺と数局やって慣らそうよ!!ね!?」
別に構わないのだが、その必死の形相に
俺は「はい」としか云う気になれなかった。


流れていく持ち牌。
なかなか揃わぬ並びに、困惑する。
(揃いやしない…)
おまけに、鳴海の上がりの早い事。
慣れる前に勝負がついてしまう。
「う〜ん…どうなってんだろ…」
昔、新田と適当にやっただけだしな。
おまけに「お前は絶対賭け麻雀だけはするな」と豪語された。
どうやら無茶苦茶弱いらしい。
「…功刀君、少し耳をお貸し」
後ろで俺の放った本を読んでいた筈のライドウが
すっと横に座った。
「な、んだよ許可してないぞ」
そんな俺の意見は毎度の如く無視され
耳元に囁かれる。
「麻雀牌がいくつ在るかはご存知?」
(えっ?)
「い、いや…」
「種類毎に4つずつ、136在る」
「…で?何が云いたいんだあんたは」
「鳴海さんの次の上がり、良く見てな」
(…まさか)
まさかのまさかである。
云われるがままに、その後
ツモった鳴海の開示された持ち牌を見る。
だが、俺が見ただけでは分からない。
と、そこにライドウが盆にカップを乗せて来る。
「鳴海さん、珈琲淹れましたが」
「お!気が利くぅライドウ!」
なんとも気味の悪い画である。
あのライドウが甲斐甲斐しく働くのは、未だに見ていて寒気がする。
「あ、鳴海さん」
「ん?」
「其処の本、そちらの本棚に移して頂けます?」
「ああ、これね」
先刻読んでいた本を指し、鳴海に頼むライドウ。
(あいつ、あの本わざわざあそこに配置したな…)
その用意周到さに寧ろげんなりする。
その鳴海が背を向け、本棚に向かっている数秒の間に
ライドウは牌山からひとつ、迷い無くかすめ取った。
(?何取ったんだあいつ)
「お待たせ〜」
戻るなり、置かれた珈琲をすする鳴海。
だが、一拍置いてから
「ぶっ」
いきなり噴出し、カップをソーサーに置いた。
「え、何か入れた?角砂糖溶けてない?」
「さあ?ご確認して頂ければと…」
咽ながら、カップを覗き込む鳴海。
その鳴海を傍で見るライドウの眼が
間違いなく哂っている。
(げっ!あの眼、俺を嬲ってる時と同じ類…)
恐る恐る鳴海を見ていると。
鳴海も固まっていた。
「あの…ライドウ、さん?」
「はい」
「これって食べ物じゃないよね?」
「ええ、雀卓に置かれる物ですよね」
ぎょっとして、俺も覗き込む。
鳥の絵が入った牌が、カップの底に沈んでいた。
(ライドウ底意地悪っっ!!!!っていうか…え!?これって)
視線を、鳴海の先刻の上がり牌に移す。
その中には、鳥の絵の刻まれた牌が4つ在る。
「鳴海さん!おかしくないですか?」
「あ」
「この牌、あの山からライドウが抜いたんですけど!」
「い」
「全部でこれだと5個在りますよね!?」
「うえお」
「真面目に答えて下さいっ!」
こんな応酬をしていると、ライドウがカップを下げた。
「ソーズの1をやけに確保するから、今回はそれかと思って…山を作る前から目を付けていましたよ」
そのライドウの台詞に引っ掛かる。
(“今回”は!?)
つまりアレなのか。
鳴海はイカサマをしょっちゅうしている…という事か。
「君も少し警戒しておきなよ功刀君、本当に警戒が薄いないつも」
「それは戦ってる時だけだろ!」
(あー助言でさえ腹が立つ)
そのまま席を立とうとすると、ライドウに肩を押し込められる。
「何?何か?」
ムッとして睨む。
鳴海が居なければぶん殴っていたところだ。
「僕が入って、八百長無しの愉しい麻雀をしようか」
(うっわ!!!!)
なんなんだ、この吐き気をもよおすレベルに明るい笑顔。
しかし、眼元に滲む感情は隠しきれていない様だ。
絶対“自分にとって”愉しい麻雀をする気だ、この男。
「ねえ?鳴海さん?」
「う、うん…」
覇気の無い鳴海の返答が、先行きに暗雲を呼んでいた。


(なんだこの面子)
真剣な表情の鳴海が、ある意味恐かった。
もうイカサマ出来ないから、いよいよ本気という事か?
しかし、先刻から相変わらず揃わぬ牌に
俺はじわじわ苛立ちがつのっていた。
「チーロン」
ライドウが右から指を伸ばし、俺の棄てた牌を拾った。
「えっ」
俺はその意味も分からず、何故俺の棄てた牌を拾えるのか疑問だった。
「サンショクドーコー」
ライドウが唱え、ぱちりと開示した。
「う〜わ〜」
鳴海が頭を抱えている。
そんなショックなのか?
「ちょっと待て」
俺の制止に、ライドウがこっち側を見る。
「どうした?」
「いや、何であんた俺の棄てた牌拾えるの?」
「は?」
「いや、意味が分からない」
「は?」
「いや、本当に分からないんだって!」
初めて事の重大さに気付いたのか、ライドウが呆れたように云う。
「あのね、他人の棄て牌は拾えるんだよ」
「あっそう」
「ポンは誰からでも、チーは左側の人から」
「へえ」
俺の流す様な返答に、いぶかしげに見つめてくるライドウ。
ぐいっと腕を卓に付き、こちらを覗き込んで来た。
「君、一体何作るつもりで待ってるの?」
「ちょ、見んなよ人の作戦」
「…1、9、字牌…まさか国士無双狙ってる?」
「いや、それも分からん」
「…この集め方は誰に教わった?」
「俺のクラスの賭博黙示録新田勇」
「は?」
「いや、そう呼ばれてた、新田が」
もう云うだけ無駄と悟ったのか
ライドウは卓に付属していたと思わしき説明書を寄越した。
「これ見て出来そうなのから狙いなよ…全く」
「へえ、親切じゃん」
「遊戯はまともにやるのが身上でね」
「へえ」
流石に説明書が有れば、俺もまともに参戦出来そうだな。
そう思い、初めて意欲が湧いてきたのだった。


「リーチ」
「鳴海さん、早いじゃないですか」
「…」
「あ、ツモ」
「はあ!?」
「ダイサンゲン」
「あ〜もう!!」
鳴海さんが席を立った。
俺は省かれているが、彼等の内で
上がれなかった方が、珈琲を淹れてくるという罰が架せられている。
しかし先程から淹れて来るのは、所長である鳴海ばかりだ。
まるで、ライドウがイカサマしているのではないかという位強い。
(でもイヌガミの気配は無いんだよなあ)
多分実力なのだ。
俺はといえば、何となく集まっては上がられたり流局したり…
結局1度も上がれていない。
チャッチャッ
また牌をいじる音だけが響く。
(病んでるなあ…この人達)
見ている方が疲れる。
「あ、ライドウ」
「はい」
「さっき珈琲豆切れた」
「…金王屋だったら営業してますよ」
そうなのか、大晦日なのに立派だなあ…と感心していると
ライドウが牌からふと眼を逸らした。
「あ〜…お酒が飲みたい」
普通に云ってのけるので忘れていたが、すぐ気付く。
「あんた未成年だろ!!」
「まあね」
素っ気無く返答して、牌を棄てる。
「鳴海さん!何とか云ってやって下さいよ!」
「あ、ライドウ俺より強いんだよ」
「そんな事聞いてません!」
俺が1人で憤っていると、ライドウは手元で何か探った。
牌ではなさそうだが…
すると、いきなり雀卓横に蛍光緑の光が氾濫した。

『おっし!敵は何処だライドウ!?』
あまりに場にそぐわぬ、鎧武者。
『って!屋内かよ!麻雀かよ!』
抜刀した双剣を速攻で納め、ライドウに向き直るヨシツネ。
ライドウは、ヨシツネを見る事すらせずに云い放った。
「金王屋で“ごうりき”と“やみなで”、2本ずつ」
おいおいそれって。
(パシリだろ)
「ライドウ〜どんな悪魔かは知らないけど、パシリは可哀想だよ」
見えていない鳴海が、一応声を掛けたが。
「では次、鳴海さんが行きますか?」
そのライドウの一言で、黙ってしまった。
『おい、金は?』
訊ねるヨシツネにライドウは哂って返す。
「お前が酒の為に金をくすねている事位知っているよ」
『えっ!』
「その手持ちで買えるだろう」
『…いやぁ、その』
「分かったらさっさと買って来い」
『悪かった!すぐ戻る!』
「5分以内」
丁寧に、暴露から時間指定までして見送るライドウ。
悪魔を顎で使う悪魔召喚師。
本当にこの男が悪魔ではないかと思う。

「しかし、功刀君、鳴かないね君」
「何云いだすんだ、あんた」
急なライドウの台詞に俺はカチンと来て、右を睨む。
「何で麻雀で俺が啼く必要が在るんだよ」
「えっ?」
「そういやあんたの変態発言で思ったんだが、今日何処寄って来たんだ?」
ライドウを睨みつけ、牌を動かす。
「何処って、何故?」
牌を棄てる。
「あんたから石鹸の香りがプンプンするんだよ!!遊郭か?年の終わりに!」
そう云ってやると、一瞬の間の後ライドウが鼻で笑う。
「そこまで四六時中臨戦態勢では無いよ」
「じゃあ何だよ」
「仕事納めに銭湯行ってから帰っただけだよ」
(銭湯!?まあ、確かに…)
確かに、香の匂いとか煙草の匂いが無い…気もする。
「それに、今日はヤタガラスのお上連中との任務だったんだ、そんな後に1発する気にはなれないね」
「な、この破廉恥野郎!」
あまりな発言に辟易していると、鳴海が口を挟む。
「いや〜でも矢代君、疲れている後ってのは実はねぇ…」
「?」
「絶倫なんだなこれが」
にんまりと、汚い大人の代表みたいな笑みで鳴海が対面している。
絶倫とか云ったよなこの人、今…
「ああ、知ってますそれ」
それに対して相槌を打つライドウ。
牌を吟味しているのか、指先でさくさく入れ替え棄てている。
「何でも極度の疲労状態を死に近いと認識して、生体が子孫存続の為に精力を最大限に発揮させるそうで」
「いい!!そんな知識いらないから!黙ってくれよッ!」
こいつら…人がそういった話が苦手なの…分かっているくせに…っ!!
頬が思わず火照る。
「あっは!可愛いなあ〜青少年は!」
鳴海の反応に、ライドウが突っ込む。
「すいませんね、青少年とは云い難い書生で」
「いいやいいや!ライドウも立派に青少年だよ〜」
「ツモ、リャンペーコー」
「やっぱ青少年じゃねえええええ!!」
鳴海の絶叫と同時に事務所の扉が開いた。
『おっす…行かせて頂きましたライドウの旦那』
風呂敷に酒瓶を包んだヨシツネが、少し上からこちらを見下ろす。
「6分」
『…タイヘンモウシワケアリマセン』
ライドウの抜け目の無さが正直恐ろしい。
もうこの麻雀始めてから、恐怖ばかり見ている気がする。
「お前、僕の向かいに入れ」
『ええっ!俺が!?』
「銘酒ごうりき飲んで良いから」
『…へいへい』
今度はヨシツネまで無理矢理参加させて、牌が配置されていく。
ライドウは銘酒やみなでをあおっている。
鳴海は葉巻をふかして、額に手をつき項垂れている。
(うわああ酷い空気だな)
今依頼が来たら、自分が代わりに行ってやるしか無いだろう。
その位荒んでいる空気。
(…!これはっ)
と、自分の持ち牌を見れば
あとひとつで役が揃う状態ではないか!
「リーチっ!」
しかし
嬉々として唱える俺に、冷たい鉄槌が下される。
「あ、君リーチ出来ないよ」
「…え」
「点棒無いでしょ」
ライドウに云われるまま、傍の箱を見る。
空っぽだった。
「1000点棒無いと出来ないから、ハコテンしてるよ君」
「…」
おいおい、俺がこれ以上続ける理由があるのかこれは。
「流して最初からやろうか?」
煙を吐いた鳴海が俺に救済措置を取らせようと、提案する。
少し考え、ライドウが頷いた。
「そうですね、持ち点直して」
それが可決された事が分かると、ヨシツネがショックを受けていた。
どうやら良い持ち牌だったらしい。

「ただし、次の局からは賭けましょう」

このライドウの一言に、場が凍る。
「う〜ん、あといくらあったけ…」
財布を取り出し、経済状況を確認する鳴海。
『おい!俺は個人で金持ち合わせて無ぇんだけど』
「ヨシツネはマグネタイトで払え」
『げええ!』
そうなると、必然的に俺も何かを差し出す事になるが…

「あ、功刀君は脱衣ね」

「…は?」
「脱衣麻雀」
「俺、男なんだけど」
「君そういうの潔癖だから、させたら面白いと思ってね」
(さ…最悪)
「俺…降りる」
身の危険を感じ、席を立とうとしたが
ライドウの眼光が俺を鋭く射抜いた。
「拒否権無し」
「嫌だ」
「ここで拒否したら…」
「…」
「チーポンじゃない方で啼かせてあげようか?」
そのライドウの台詞にも冷や汗が出たが
内容からするに、どうやらチーとかポンいうのは
“鳴く”というらしい。
どうも脳内で“さえずる”と同義のイメージを持った
“啼く”という漢字に変換される。
ライドウに啼かされる自分を想像して、ぐらりと眩暈がした。
「…分かったよ、やりゃ良いんだろ」
(負けないようにすれば回避出来るんだ)
まだ希望が持てるぞ、と自分に云い聞かせて座る。

「ツモ、ツーイーソー」

ライドウが上がった。
皆が点棒をライドウに預ける。
「後でレート計算してまとめて払わせて頂きますぅ…」
沈んで云う鳴海。
『一気に吸われたらマジで死ぬから、マグは分割払いで…』
頼み込むヨシツネ。
「で、功刀君は?」
ライドウの言葉で、他の2名がこちらを注目する。
「…別に、男の裸なんか見ても…」
云いながら、自宅から持ち出して着ていたパーカーのジップを下げた。
「待て!!」
まるで犬に云うみたいに、そう下された命令。
反射的に止まる。
戦闘時の癖で、思わず…というやつだ。
「…何」
その命を下したライドウを、じろりと睨みつける。
「僕の眼を見ながらして」
その言葉に、全身を悪寒が駆け抜ける。
「ライドウ!それはセクハラだろ〜!」
『酔ってんのか?ええ!?酔ってんんのぉかあぁ!?』
面白がってからかう鳴海と、明らかに本人が酔っているヨシツネ。
(くっそ、皆して面白がって…!!)
耳が熱い気がする。
ライドウの眼を、殺す勢いで睨みつける。
「良いじゃないかその眼」
満足気に哂い返してくるライドウが憎い。
(なんだよ、まだパーカーだけだから、全然…)
「あ!」
「何それ、抵抗してるつもり?」
(よっしゃ、これはツイてる…)
どうせ戦うのだからと、最近適当に着ているのだが
脱いだパーカーの中は…長袖と半袖のレイヤード。
「これは2回分で数えて良いんだよな?」
「しょうがないね」

「ポン、ホンロートー」

「ツモ、イーペーコー」

…おい、どういう事だ?
あっという間に、上半身を晒す事になってしまった。
心なしか、ライドウがあれから速攻で責めてきた気がする。
「ではその素肌、晒してもらおうか」
「この変態」
「まあ、肌なんかいつも見てるけどね」
そのライドウの台詞が、周囲に反響を巻き起こす。
「ええっ!お2人はど〜ゆ〜関係なの?ねえねえ!?」
『バ〜ロ!!俺様だって見飽きてるっつうの!!』
鳴海が喰いついてくるのが、困る。
ヨシツネはもう無視して済ませているが。
腕を上げ、服を捲り上げる。
外気に晒された肌が、いくら屋内とはいえ寒い。
(悪魔化して無い、人間のナリでこれは正直拷問だ…)
もういっそ、鳴海の前でも人修羅でいたかった。
むしろ、力を行使してこの雀卓を消し炭にしたかった。
「寒い?」
聞いてくるライドウに
(お前の所為だよ)
と悪態を内心つきながら返事をする。
「まあ、12月も終わりという事らしいから当然だろ」
今は力を制御して、人とそう変わらないし…
「乳首立ってるよ」
そのとんでもなく卑猥な言葉に、咄嗟に胸を脱いだパーカーで隠す。
「ば…っ」
俺が云いよどんでいると、クク…と哂うライドウ。
「嘘」
「なっ」
(こ、こいつ…!!)
絶対1日に1年分の嘘を吐いて生きているな。
とんでもない男だ。

しかし、あと1回で…
下着姿。
ある種全裸より恥ずかしい。
そうなったら、本当に人修羅として破壊活動してしまおうか…
牌をいじりつつ、傍らの珈琲に口をつける。
何か、喉越しが…おかしい。
カップを見れば、それはカップではなく。
切子硝子のグラス。
「…これ、お酒だ…っ」
飲んでしまった自身を呪う。
どうやら酔ったヨシツネが置き場を間違えていたらしい。
「う…」
「ちょっと、大丈夫…矢代君?」
鳴海が心配そうな声を出す。
演技でもなく、恐らく本当に心配してくれている。
身体が熱くなってきた。
牌の図柄が、少しぼやけて見える…
(まともに出来ないじゃないかよ!!)
「ちょっと…熱い」
なんか、身体が熱い、かなりアツイ。
纏わり付く布が全て暑苦しい。
頭がぐわんぐわんする。
「ああ!」
突然奇声を発した俺に、一同びくりとする。
立ち上がり、おぼつかない脚を交差させて窓際へと歩み寄った。
「や、矢代君?」
鳴海が振り返り、こちらを見つめてくるのが肌に感じれた。
「すいません…ちょっと頭、冷やしてきます」
云うなり窓を開け放ち、白い地面に飛び降りた。


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