美術館か博物館か水族館か、よく分からない空間。
巨大な影達はうつろいながらも、じっと此方を見ている。生きているのか、いないのか。見覚えが有るようで、違和感が拭えない、つまり悪魔かもしれない。
幾何学のうねりが平衡感覚を狂わせる、何処かで見た壁の色彩。不穏な、それでいて馴染みの有る。
前を駆ける人型は小さい、子供に見える。これは母の視点か、幼い日を俯瞰しているのかもしれない。そう思った瞬間、子供が何かに駆け寄った。それもまた人型、体格は大人のもの。
子供に縋られ振り返った、そいつの顔は──
海月の骨
ようやく覚醒した……二三まばたきして眼を慣らし、天井に揺れる行燈の影を眺める。海月の様に漂う光は、ついさっき見た光景を思わせた。
産んだ後は決まって変な夢を見る。どうしてライドウが……夜があのポジションなんだ。いくら俺に父親の記憶が無いからって、わざわざ埋めてくれる必要は無いだろ。
以前〝借りてきた子供〟と短期間過ごしたが、多少の名残惜しさは個人に対してであり、二人きりに戻る事に未練は無かった。別に俺は、あいつと家庭を持ちたかった訳じゃない、産んでる理由もはっきりしている。
(俺は、ただ単に夜と──)
駄目だ、さっさと自室に戻ろう、此処に居ると考え過ぎる。
今こうして一人という事は、多分あいつはまだ不在。だって滞在中なら、産後の俺が目覚めるまでは必ず傍らに……
(疲れてるんだ)
本当の生命を産んでいる訳でも無いのに、この消耗っぷり。俺は所詮、紛いものの母で、其処に寝かされてる赤子も紛いものに過ぎない。それだというのに、どうしてこんなに弱るのか、番いの男を求めるのか。
上体を起こし緩く伸びをした、まだ何となく下腹部が引き攣る……様な気がする。見下ろせば白い浴衣越しに黒と碧が透けて見え、そういう柄の生地に見えた。
(擬態してない方が、やっぱ回復速い)
このベッドは特別に作らせてある、仰向けに寝ようが阻害されない敷物が詰められており、籐細工の曲線は視覚にも穏やかだ。そんな上等の寝床から離れ、同じ素材で作られた揺籠に歩み寄る。部屋を出る前に一応見ておこう、いつも通りの流れだ。
揺籠の傍に膝をついて、中身をじっと見下ろす。床板の冷たさを心地好く感じながら、無心で赤子の顔を眺めた。
いつも考える、あいつを産んだ人も、こうして同じ顔を眺めたんだろうかとか。その時から葛葉とかライドウとか、息子の先に見えていたんだろうか、そんな他愛もない事を。
「ぅ」
揺籠に寄り過ぎたろうかと、軽く退く。しかし籠は大して揺れておらず、部屋の何処かが軋んだのかと思い直す。
「ぅ、ぁぅー」
理解出来ず、音の発信源も分からなかった、数分間、いや数時間硬直していた気さえする。
にじり寄り見下ろすと……赤子は微かに指先を動かし、唇をやんわり開いている。
俺は咄嗟に覆った、掌でその口を。
「──っ、は」
呼吸を妨げようと、泣き叫ぶでもなくじわじわと体を揺らすだけ。
やがて目が合った……そう、瞼を開いていた。
「ぁ、はあっ、はぁ」
塞いでいた側なのに、俺が呼吸困難に陥った。
何故生きている、動いているんだ、ただの器の筈だろう。
掌を退け、真正面から相貌を確認した。これまで幾度も見てきた顔だ、夜の面影はしっかりと有る。当然だ、他と通じた事は無い、他の要素が入る筈無い。
普通の子供が産まれたとでもいうのか、要因が見つからない、どうしていきなり。
「ぅ、ぐ……ぅえっ」
吐きそうになるのを、何とか堪えた。理解や憶測を置き去りに、ただひたすらの悪寒に襲われている。
〝次〟を試して、今度こそ器が産まれれば一応マシだ、この子供をどうするかはさておき……最悪なのは次もこうなる事、ただの子沢山になってどうする、それでは夜が。
(そもそも赦されるのか)
ライドウの頃から、イレギュラーを嫌うあいつの事だ。万一に備えた思考も準備も、心構えもしているだろうが……これは流石にどうなんだ。
無かった事に出来ないか、これを無かった事に、器ではないこの生命体を──
『へェ、産まれたばかりの旦那ってこんな顔してたんだな』
烏帽子も相俟って、最近見慣れた擬態姿よりも大柄に見える義経。高い位置から揺籠を、角度を変えてはジロジロ見下ろす。
俺が産む日には、甲冑姿で庵の庭に佇んで居る。それを知っていたから、こうして無理矢理引きずってきた。
ネビロスは魂移しの準備、パールヴァティは下里に向かっている頃と思われた。〝古い器の葬送〟を近々執り行うと、一部の人間に伝えるのだ。そう、何事も無ければ淡々と、いつも通り流れるだけなのに。
『で、他の連中には云ったのかよ』
「いや……」
『真珠婦人は慰めてくれそうなモンじゃねえの』
「真っ先にあんた連れて来た理由、少しは考えてくれ」
感情の抑揚も無く呟けば、隣で黒髪がはらはら揺れた。
『始末しろってかい?』
相槌の様に笑った義経は、手甲で揺籠の縁をトンと叩いた。
『いくらお前さんと旦那の子っつっても、まだこんなもんだぜ? それこそ赤子の手っつうか、首ひねれるだろ』
「…………俺が殺せない理由くらい」
『はっは、わぁってるって。すうすう息してりゃ人間みてぇなモンだろうからな……お前さん、人殺しだけは無理なんだろ?』
即答され、耳が熱くなった。続く内容を先読みして、自己嫌悪に震えが走る。
『ま、殺しても解決する事なんざひとつも無ぇがな。死体調べりゃ〝生きてた〟痕跡も残ってるだろうし、殺されたとあらぁ別の大問題だろうし、そんじゃ何処かに隠すってか? 旦那の昔の本職と帝都の居候先考えたら、発見されるのは時間の問題ってだけよ』
「そうだな」
『……これでいいか? 真珠婦人に優しく諭されちゃあ、もっとヘコむの分かってたんだろ』
「あんたに本音晒して、無茶だと笑われた方が……諦めがつくと思ったんだ」
『旦那よか短ぇけど、お前さんともソコソコの付き合いだからな。ちぃとばかし読めるぜ、へへっ』
揺籠から持ち上げた手を、柄頭に移す義経。
『でもな矢代サマ。旦那が不在の今、俺に命令する権限はお前さんに有る。だから始末しろと云われりゃあ、俺は殺してやれるぜ』
「おい……九郎」
『コイツん中に何の魂が宿ってるかって? んなの知らねぇな、勝手に入ってきた方が悪いだろ。ソレがお前さんを苦しめるっつうなら、肉体もろとも魂潰しちまった方が早くねえか』
「ヨシツネ」
義経の横顔を見る、赤子に注ぐ目付は獲物を狙う鋭さを放っていた。
柄頭に添えられた手を上から掴めば、反対を抜刀され。
俺は次の瞬間、何も考えず揺籠に蔽いかぶさった。
「っぐ、ぅ」
ツノ近く右肩辺りだ、鋭い熱がするりと抜けた直後、浴衣がじっとり湿りだす。
「駄目、だ……俺以外の、しかもあんたに殺させるべきじゃない……夜の身体って考えたら、やっぱり駄目だ」
『人修羅……傷を……手当してもらわねえと、着替えも』
急を要する深手ではないと、分かっているだろうに。納刀した義経は、まるで壊れ物を扱う様に肩を支えてきた。俺はそれを雑に引き剥がし、衿をはだける。
「啜れよ」
『はぁッ?』
「血……くれてやるから……俺が頼んだ事も、あんたが殺そうとした事も、秘匿しろ」
『や、っやいやい、別に喋らん事にはMAG消耗しねえからよ』
「じゃあ、このまま服に吸わせていいのか」
云い終えるか否か、痺れに声を失った。傷口を冷たい舌に撫でられ、吸われると痛みに筋が引き攣る。
緩く背後を確認しても、烏帽子に遮られ義経の顔は見えない。跪き、無我夢中といった風で舐め啜っている。
『は……はぁッ……っはは……お前さんが、庇うかもって、半分くらい分かっちゃいたんだがな……先刻の俺の言葉、ありゃ本心よ…………でも、こうして傷付けてりゃ、身勝手は誰だって話な』
「お、俺……だろ」
『なんでぇ随分、しおらしい……喰っちまうぞ』
傷口からいつの間にか逸れ、首筋を嬲られていた、舌で、唇で。
払い退けようとして、ようやく抱き竦められていた事に気付く。
「そこまで許可してな──」
『つってな、嘘々! そういう形で旦那に背く事ぁ考えてねえ……怖過ぎるぜ』
俺が強張った瞬間、一気に軽くなった。義経は両腕を解放し、ひらりと立ち上がる。
『おう、立てるかい』
「……ああ」
浴衣の衿をざっくり直し、差し伸べられた手を取る。平然としている様で、眼が煌々と輝いている義経。
口周りを袂で拭ってやると、無地の端が朱に染まる。既に穴開き血塗れだから、どうでもいい。
『悪かったな、余計な気力使わせちまって』
「いや……あんたのお陰で頭冷えた。それに、色々思い出した」
『俺様もよ、体液で貰うなんざ久々過ぎて……〝平気か?〟って途中我に返ったわ。我に返るも何も、コレが本来だろうがよ。まぁしかし擬態してたらもう無理だな、気分的に』
互いに目が合うと逸らした。発露は違えど、口下手同士、気まずい。
与え与えられ、こういうものは双方共に高揚する事を知っている。MAGや触媒に敏感な身……悪魔であれば猶更だ。
『平和呆けした俺が云うのもなんだが、お前さんも大概だぜ、あんま気安く吸わせるもんじゃねえよ。いくら此処が環境良くて、傷の治りが速いつってもだなァ』
「舐めといて小言か」
『……美味ぇから、不味ぃんだよ』
内心どっちだよと詰りつつ、揺籠を見下ろす。
正体不明の赤子は、人の気も知らずにすうすう寝息を立てていた。
ライドウが帰還したのは、それから二日程経った夜更け。
出会い頭に蹴りのひとつでも喰らわせて来るかと、そんな覚悟で迎えたが何も無かった。事前に通信を入れてあった為か、着くまでに冷静になったのか、定かでないが助かった。
「確かに、他の要素は雑じらぬ顔をしている」
「疑ってたのかよ」
「相手をそのまま写し産む、という定義が破られぬ限りはね。此れが君の潔白証明だろう」
「じゃあ、どうして動いてるんだよ、誰が中に入ってるんだよ。もしかして〝写しの抜け殻〟じゃなくて……〝生き写し〟を産むようになったんじゃないか、俺……」
先日の義経と、似た様な位置から揺籠を見下ろすライドウ。赤子に向ける眼は、まだ処遇を決めていない色をしている。答えが出るまでは、ひとまず維持してやろうという事か。
「この数日、何か与えたのかね」
「何かって」
「お乳とかさ、フフッ」
「ば、っか出ねえよ。MAGだけ試しに……軽く落としてる」
「それをこのまま続ければ、痩せ衰える一方だろうね。此れが純粋なヒトの赤子なら」
「…………で、どうするんだよ、この……」
「さて、どうするかね」
おもむろに外套から箱を取り出し、一本抜くと咥えるライドウ。
「はぁ? 赤ん坊の前で喫煙とか、信じられない事平気でするな」
「ガワは僕だし、中身は居候だろう? 此処のルールに従ってもらうべきさ」
なんだか義経と似た様な事云ってるな、と口には出さず、俺は溜め息で着火した。
何処の煙草だろうか、比較的上品なヤニ臭さと、馴染みの白檀が混じり合って……不安は払拭できないのに、意識だけは鎮まる、魚の寝静まった水面の様に。
「恐らく、実を結んだ後に……入ったのだろう」
呟いた後、ゆっくり吸い込み吐き出し、煙草を指に逃すライドウ。
「身籠ってから君、妙なものと接触しなかったかね」
「何も無いぞ俺……そもそも此処に部外者、殆ど出入りしないだろ。産まれたこの器に、何かが入り込んだとかじゃないのか?」
「此の屋敷から出してないのであれば、魂だけで此処へ侵入を試みるのは難しい筈だがね」
「俺が胎に抱えてた時期に、入られたって?」
「君の事だ、其れが〝いつもの散歩路〟であれば用心を怠る」
「人を注意力散漫みたいに云うなよ」
「ボルテクスに居た頃が一番マシだった」
「あのなあ」
「下りなかったのかね〝下〟に」
「何度か下りたけど、片手ほども無い。誰かと長々話した憶えも無いし、悪魔なら工場の連中と対面した程度だ、全員顔見知りだろ」
「住民の増減が有った気がするね、電信に見た」
「ああ……そういや有ったな。あんたの返事通り、俺は関わって無い」
「確か妊婦の死亡報告、鍛冶屋の家」
「だから遺体には近付いてないって云ったろ、火葬も今回ばかりは下の人達に任せたって」
ライドウの不在時、どれだけの勝手が通用するのか分からない為、たまにメールをしている。履歴を見ればいつ頃だったか、俺が書き洩らした事は無いか、確認出来る筈だ。
「ところで功刀君、墓参りには行ったのかね」
「えっ? ああ……一応。工場の裏手だろ、着物取りに行ったついでに──」
残る痺れに、堪らず蹲った。項を手刀で叩かれたのだ、いくら隠そうが弱点には違いない。
「……っ、くぅッ……何か文句有るのかよ!」
「僕も今から行こうかね、墓参り」
「はぁ?」
煙草片手に踵を返し、ライドウは部屋から出てゆく。俺は慌てて立ち上がり、紫煙を追った。
唐突に、そして淡々と動き始めるライドウは怖い。長年の付き合いから、そういう風向きにだけは敏感になった。
星の明るい空、麓の里は深海みたいな暗闇。こんな時間に農家の納屋を漁るものだから、流石に見張りの悪魔が飛んできた。雑木林に紛れ、田畑を監視するジュボッコだ。
『誰かと思うたら十四代目、それに奥方まで、こりゃあ一体』
「暫く日の目を見ておらぬ物は無いかね…………この鍬だとか」
納屋の片隅にぽつんと立て掛けられた鍬は、柄もだいぶ色褪せている。手前に並べられた農具と比較して、引っ張り出すのが面倒な位置だ。
「一週間借りる、畑主に宜しく」
鍬を担いだライドウは納屋を抜けると、ジュボッコを素通りして闇に姿を晦ます。
『耕すにしたって、ちと暗くないかの』
内心〝畑仕事な訳無いだろ〟と突っ込みつつ、では何の為に鍬なんかを……と数秒困惑した後、あっと声が出た。
『人修羅殿も、一本持ってくかね?』
「いえ、結構です」
雑な返事をしながら、思い当たる方へと駆けた。
蜘蛛女共の工場を横目に、樒の丘を登る。ざくざくと詰まれた粗い石垣の手前で、不揃いな石碑の影が波打つ。此処は旧墓の群れ。都合か時機の関係で、移設出来ていない墓が集う。古いとはいえ、ライドウが十四代目を襲名した頃、土葬は殆ど無かったらしい。なんでも鮮度の良い死体を掘り起こし、屍鬼と使役するサマナーが居たらしく……
そんな昔話と、目の前の男が重なった。ライドウは鍬で耕していた、墓石のふもとを。
「馬鹿っ、何やってんだ!」
外套の肩に掴みかかったが、ネックボタンを外されたのか、ずるりと脱げた。
「確かこの墓だろう」
「家族にっ、旦那さんに確認取ってからやれよっ」
「拒否されようと同じさ、血盆経でも唱えて掘るかね、フフ」
「それにしたって順序ってもんが──」
咎める口先に煙草の吸い口を突っ込まれ、思わず閉じて咥え込む。ライドウのMAGが舌先に一瞬触れ、甘さを塗り潰す様に苦みが追う。咽ながら指先に逃し、発火で炭にした。
「ほら御覧、見えてきた」
土の隙間に淡い色が目立つ。容器に詰めず、骨をそのまま埋葬する墓か。掘り返された土を避け、ライドウの背後から恐る恐る覗き込む。
「祟りを畏れるのかね、散々神仏を砕いて来た癖に」
「そんなんじゃない、だってこれ一家庭の墓だろ。勝手に発くのが失礼っていうか……いや普通に犯罪だし」
俺の意見はお構いなしに、胸元をさぐるライドウ。煙草の火を要求されるかと構えたが、爪が弾いたのは管。久々に見たヒトコトヌシが、向こうの樒をさわさわと揺らした。
「上だけ掃ってくれ給え、この様子なら骨は飛ぶまい」
ライドウが命じれば、風の軌道を空中に描き出す葉。波が帰ってゆく様な音、残されたのは貝殻色した骨。
膝を抱える姿勢で、横向きで其処に居た。全ての骨をさらえているとは思わないが、丁寧に〈人〉が埋葬されていると判る。でも何かがおかしい、胎の辺りから小骨が連なり、鎖みたいに伸びていた。
「やはり……死してなお産もうとしたか。此の〝臍の緒〟伝いに、外に出したのだろう」
ヒトコトヌシを管に戻し、ライドウは片手で鍬を担ぎ直す。
「成仏してないって事か? 燃して埋めて、一ヶ月半は経ってる筈だぞ」
「死因環境様々影響するが、総じて云えば個人差さ。僕の見立てでは、産んだつもりの魂はとうに離れている。さて、産まれた魂は何処に行ったと思うかね?」
下腹部が捻じれるような痛みを持った、ぎゅうぎゅうと示唆するな。
「肉衣の記憶に従い、近い器に入り込む。君が宿す赤子は魂無しなのだから、象嵌が如く納まるだろうよ」
「俺の所為じゃないだろ、そんな。墓参りに来た人間に憑くとか、迷惑……」
口にするほど寒気がした、産めずに抱えたまま死ぬというのは、どれだけ無念だろうかと。死んだ後、念だけの己を制御出来るか問われると、自信が無い。
「なあ、あの赤ん坊どうすりゃいいんだよ、そのまま育てるのか?」
返事の代わりに風切り音、反射的に身構えたが、痛みは無い。
鍬の刃が、骨の鎖を分断していた。
「誰が育てるというのかね、遺族か。君の肉を通過し、僕の姿に成る者を、他人が?」
「……上里の悪魔にでも任せるとか」
地に突き立てた鍬をそのままに、振り向くライドウ。俺の衿を掴み寄せ、耳元に囁いて来た。
「何も解かって無いね君」
その声音には嘲りも可笑しみも滲まず、こうなると俺には反応しようが無い。
ライドウは俺の手から外套を剥がし、ばさりと纏う。そうだ、掴んでいた事さえ忘れていた。
「此方で始末をつける、鍬には最低七日間は触れぬ様」
やけに声を張ると思えば、後方に数名、ぽつりぽつりと人影が居た。納屋を漁り悪魔と話し、挙句召喚からの口論。夜鷹のサマナーであれば、様子見にも来るだろう。
ライドウが通る路を開け、深々と礼をするサマナー達。俺は発かれた墓を一瞥し、悪心と戦いながら黒い影を追った。